第九章・Ⅲ贈り物2(二)
翌日の日曜日は、久しぶりのオフで天気も良かった。目が覚めると、昼を過ぎている。シャワーを浴びながら、恐らく今日は海にでも行っているだろうと考え、また何となく黙ってプレゼントを置いて来たという照れもあり、秀也には連絡せずにいた。
-久しぶりに走らせるかな
バイクのキーとヘルメットを取り、出かけた。海は暑いから山にしよう。単純に考え、箱根へ向かう。
山道を走らせながら、そうだ、芦ノ湖でも行くか。そう決めた。
そう言えば16歳になったばかりの9月の末に、亮と二人で芦ノ湖まで走らせた事があった。
「懐かしいな・・・」
あの時は前を走る亮の後をずっとついて走った。
しかし、今は一人だ。
芦ノ湖に着くと、車の列が道路を埋め尽くしていた。その間をすり抜け、駐車場に入ると満車だった。バイク一台くらい大丈夫だろうと思い、行くと辛うじて停められた。
ラッキー、エンジンを止め、ヘルメットを取った。
「ふうーっ、あっちィなぁ・・・」
9月末とは言え、まだ残暑が残る。
サングラスをかけようと、ポケットを探ったが何処にもない。
あれ? 置いて来たか? ま、いいか、と思いシートから降りようとしたその時、キャーっと言う数人の女性の悲鳴が聞こえ、ハッとそちらの方を向くと、彼女達が突進して来る。
明らかに自分を目掛けて来ている。
「司よっ! ねぇ、ジュリエットの光月司よっ! キャーーっっ!!」
その奇声に周りが一斉に注目する。
やばっ! そう思った時には既に遅かった。
その場から出ようと思って慌ててエンジンをかけるが、ヘルメットを被る間もなく、しかも駐車場はいっぱいで行く手を阻まれてしまったのだ。
「うわー、勘弁してくれーっ」
司は叫んだが、もうどうする事も出来ない。
もみくちゃにされた。
ようやく、警備員と警察官に助けられ出る事が出来たが、帰り際、彼等にお小言をいっぱい言われてしまった。
-もうっ、何なんだよー。 オフも過ごせねぇじゃん。
司にとって、散々な一日だった。
翌日事務所に行くと、チャーリーが待ち構えていて、昨日の事をこっぴどく怒られた。それに輪をかけて、宮内や透が、日頃溜まっていたうっぷんを晴らすかのように、司を取り囲んで、もっと自覚を持てだの、軽はずみな行動をするな、など言って来る。
- ったくー。何なんだよっ・・・!!
司も、確かに彼らには迷惑をかけているし、実際目に見えないヤツに狙われ、その事でも心配をかけていたので、言い返す事も出来ない。
そこへまた、相性の悪いヤツが現れて、司はうんざりした。
晃一だ。
「あらあら、また、何かやらかしたの?」
「うるせェなぁ、何だよ」
二人はいつものソファに腰を下ろすと、タバコを取り出した。
火を付けながら、晃一が司をちらっと見た。 司は「ナニ?」と横目で見る。
「あの時計、いくらしたんだよ」
ん・・・? 目を逸らし、火を付けると一服吸った。
「昨日、すっげェ、自慢してたぜ、あのバカ」
二人は同時に煙を吐いた。 司は思わず嬉しくなったが、それを悟られないように、タバコを吸う。が、ニヤけてしまう。そして指を二本立てた。
「げっ、マジで!? そんなすんの? あれ」
「仕方ねェよ。本当は1年掛かるって言われてさ。それじゃ意味ないからとにかく3ヶ月で作れって頼んだら、足元見られたよ。 ま、実際半年は掛かったけど。その代わり、クズダイヤなんか入れたら承知しねェぞって、一応言ったんだ。んなもん見りゃ分かるからな。そしたらそれだけかかった」
「お前もすげェな。なぁ、俺の誕生日にもくれよ。俺さ、ロレックスの・・」
「自分で買えよ、ばぁか。秀也だからできるんだ。誰が他のヤツにそこまでするかよ」
吐き捨てるように言うとタバコを吸い、天井に向かって煙を吐く。
「愛されてんだなぁ、あいつ」
晃一が横目で見ながらタバコを吸い、天井に向かって煙を吐くと、司はそれを横目で見た。
「当り前だろ」
「それより、例の話だけど」
「ああ、あれね。もち、いいよ。いくらでも出すよ、それに関しては。失敗しても構わねェよ。ま、お前の頭じゃ、鼻っから、それくらいの覚悟はしてるがな」
そう言うと声を上げて司は笑った。