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第八章(ニの2)


 ****


「何やってんだ、お前」

ソファに横になり、片手で顔を覆っている司の顔を覗き込んだ。

「うわっ、くっせーなぁ。 何だ、飲み過ぎか? お前らしくない」

晃一は向かい側のソファに座ると、タバコを取り出し火をつけた。

テーブルの上にはミネラルウオーターの大きなペットボトルが、半分位までなくなって置いてある。煙を吐きながら横目で司を見る。

「お前ら、昨日一緒じゃなかったのかよ」

晃一は秀也がまだ来ていない事に気付いた。

「んー、一緒だったよ。 ・・・ 途中まで」

司は目を閉じたまま言った。

「途中まで?」

「ビール買いに行って、途中まで一緒だったけどねぇ」

片目を開けて晃一を見る。

晃一は苦笑した。 秀也が誰かに呼び出され、司はそのまま置いてきぼりを喰らったのだ。

「だから、言わんこっちゃない」

晃一は司の胸のポケットの携帯電話を見ながら言った。

これは自分のじゃないからと、誰にも番号を教えていないのだ。それに、あれから何度か並木から電話がかかって来ていた事も事実だった。

「司、そろそろ始めるよ」

紀伊也がデスクの方から声をかけた。

うーん、と片手を上げて返事をし体を起こすが、どうにも体が重たくて動かない。とにかく胃の辺りがぐるぐるしている。

「気持ちわりィ・・・ 」

そのまま体を倒した。

晃一はタバコの火を消すと司の側に寄った。

「大丈夫か?」

「ダメ・・・ 」

「ホントにダメそうだな。 ったく、バカが」

 司がこんなになるまで飲むなんて・・・  晃一は少し秀也を恨んだ。

そして、デスクにいる紀伊也の所へ行くと耳打ちし、司の所へ戻って来た。

「さ、行くぞ」

腕を引っ張って無理矢理体を起こさせる。

「うえ~、オニ」

片目を上げて、晃一を上目で見る。晃一は司に呆れると

「お前ん家、帰るぞ。 今日は寝てろ、このバカ」

そう言って肩を担いで事務所を後にした。途中、昨日のコンビニで、水とポカリスエットを買うと部屋へ入った。

司はソファに倒れるように横になると、クッションを抱えた。

 晃一が台所に入ると、あ然として司を振り返る。

床には一面、ビールの空き缶が転がっている。冷蔵庫の壁の近くに立てて置いてある空き缶は、灰皿替わりに使ったのか、タバコの吸殻が飛び出している。その横にぐしゃっとつぶされたタバコの箱が投げ捨ててあった。

とりあえず、冷蔵庫を開けて買って来た物を入れようとしたが、中にはマーガリンとジャム、それにチーズが少し入っているだけだった。

 -俺よりひどいな。 ったく、これでも女か

晃一は呆れた。

そして冷蔵庫にしまうと、空になった袋に空き缶を入れていく。

全部入れると15本あった。

それをゴミ箱の横に置くと、再び冷蔵庫を開け、ポカリスエットを1本出し、リビングへ入ると、司の向かい側に座った。

「お前、あんなに飲んだの?」

「うん」

「一人で?」

「そう」

クッションを抱えながら晃一を見る。

晃一は ふうっと溜息をつくと、缶のふたを開け一口飲んでテーブルに置き、ソファにもたれた。

「お前さ、もし、秀也がどっか行っちゃったらどうすんの?」

「んー、どうすんのかなぁ? ・・・  死んじゃうかも」

ぎゅうっと クッションを抱き締めながらおどけた。晃一はそれを横目で見ると、ばかっと言った。

「ねぇ、晃一・・・」

 ん? 晃一は胸のポケットからタバコを取り出すと火をつけた。

「晃一さぁ、・・・  結婚、考える時って、どんな時?」

急に真面目な顔をして、晃一のタバコを見つめた。

 あん? 煙を横に向かって吐いた。

「どうしたの? いきなり」

「え、いや、別に、何でもない・・・」

そう言うと、司はクッションを顔に当てた。

「まぁ、少なくともお前みたいな女は勘弁だなぁ」

 え? と司がクッションをずらして晃一を見ると、顎で台所を指している。司は台所に目をやると、苦笑して目を隠した。

「 ったく、しょうがねぇな。何だってあんな事したんだよ。お前、自分でビール飲めないの、分かってんだろ?」

呆れながらタバコを吸って、テーブルの下から灰皿を出すと、灰を落とした。

「うーん、反省・・・ 」

司はクッションを胸に抱え直すと舌を出した。

晃一はもう一服吸ってタバコの火を消すと立ち上がった。司は寝ながら晃一を見上げた。

「じゃ、行くわ。 今日はおとなしく寝てろ。 何かあったら連絡しろよ」

そう言って部屋を出て行った。

ドアの閉まる音がすると司は目を閉じた。

「サンキュ・・・」


 夕方、ようやく目が覚めると、今朝味わった不快感が嘘のように消えていた。

喉の渇きを覚え、ふとテーブルを見ると、晃一が置いて行ったポカリスエットがある。体を起こしながら手を伸ばし、それを取ると口に含んだ。

生ぬるかったが、少し甘く喉に入っていく。

もう一口飲むと、それを置いて立ち上がり台所へ行きかけたが、戻って缶を手に取ると、台所のシンクへ流し捨て、ゴミ箱の横に置いてあった空き缶の入った袋に入れた。そして、冷蔵庫を開けるとポカリスエットを出し、蓋を開けると一気に飲み干し、シンクへ放り投げた。

リビングへ戻り、キャビネットの引き出しから新しいタバコを取り出すと封を開け、一本取り出して火をつけた。

一服吸って煙を吐くと、急に空腹感を覚える。

「あー、腹減った」

そしてタバコを吸いかけたところで電話が鳴ったので、ズボンのポケットから出した。

「はいはい」

言いながらタバコを吸うと煙を吐いた。

 電話を切って暫らくすると、玄関のチャイムが鳴った。玄関の扉を開けると、コンビニの袋を目の前に突きつけられ、その後ろから並木が顔を出した。

「サンキュ、悪いね」

言いながらそれを受け取ると、中からおにぎりを取り出した。そして、リビングのテーブルに袋を置くと、おにぎりの封を開けてそれをそのまま落とすと、かぶりついた。かぶりつきながら、ビニル袋からお茶の入ったペットボトルを出すとそれを開けた。

並木はそんな司を少し呆れたように見ながらソファに座った。

「まったく、二日酔いだって?」

 ん? と横目で見ると、お茶を飲んだ。

「どうしちゃったの、疲れ過ぎ?」

司はおにぎりを一つ食べ終わると、指についた海苔を舐めながら並木を見て、ソファに腰を下ろした。

「うーん、かもね。 何だか、ハードだったからなぁ、疲れたよ」

「ま、でも仕方ないんじゃないの。一応、アニバーサリーの年なんだし」

「まあね・・・ 」

司は並木を見た。メンバー以外のヤツがこの部屋に居るのも珍しい。しかし、何となく馴染なじんでいるようだったのが、司には不思議だった。

「ん?」

並木が自分をじっと見ている司に気が付いた。 司は一瞬目を逸らしたが、もう一度並木を見ると

「ねぇ、何か、食べ行こ。腹減っちゃって」

と、いたずらっ子のように笑った。「はいはい」首をすくめて司を見る。

「ちょっと、待ってて。 シャワー 浴びて来る」

そう言って立ち上がるとバスルームへ向かった。

 並木はソファにもたれて司を見送ったが、テーブルを見ると、おにぎりを包んであった袋がそのままにしてあったので、苦笑しながらそれを拾い、ペットボトルの蓋を閉めて立ち上がると台所へ持って行った。

ペットボトルを冷蔵庫にしまうと、ゴミ箱にゴミを捨てた。ふと横を見ると、山積みになったビールの空缶が袋に押し入れられていた。

 ピンポーン、と玄関のチャイムが鳴った。並木は一瞬どうしようか迷ったが、台所を出た。


 玄関の扉がゆっくり開かれると、中から並木の顔が出て来たので、秀也は驚いて一歩下がった。一瞬、部屋を間違えたかと思った。

並木は扉を開け放つと、一歩下がった。

司を心配して来たのだろう。

「こんにちわ。 あ、司なら大丈夫みたいですよ。 ・・・ どうぞ」

「そう・・・」

秀也は一瞬戸惑ったが、昨夜の事もあったので、中へ入ると扉を閉めた。

並木は黙って後ろに下がった。

秀也は靴を脱ぎかけて足を止める。奥からシャワーの音が聞こえた。

そんな事があるワケがないと、並木を見るが、並木は黙ったまま秀也を見ていたが、そのまま奥へと歩いて行く。

バスルームの前まで来ると

「司、秀也さん来たよ」

と、大きな声で呼んだ。

暫らくしてシャワーの音が止み、バスローブを羽織ってタオルで髪をきながら司が出て来た。

「ん?  誰が来たって?」

耳の中にタオルを入れて拭いた。

「秀也さん」

玄関を指す。

「秀也?」

司は髪を左右に振りながら、玄関に行ったが誰もいない。

「誰もいないよ」

並木に振り向いて言う。 え? と並木は玄関を覗いたが、秀也の姿はなく、足元にも自分の靴と司の靴があるだけだった。

「あれ? さっき、来たんだけどな」

「幻でも見たんじゃないの。もしかして、お前の方が二日酔いだったりして」

司は並木を見て笑い出した。 並木はムッとして司の頭をはたいた。







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