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第七章(八)

誤解(八)


 久しぶりに事務所に顔を出した。肩に受けた打撲もだいぶ快復していた。

「お、もういいのか?」

司が入って来ると全員心配そうに立ち上がる。

「お陰さんで。心配かけたな」

元気に言う司に皆安心した。病院へ行っても面会できず、しかも司ではない別の人物が入院していたのだ。全く連絡も取れずに一週間が過ぎた。奥では晃一が手招きをしている。紀伊也を除く三人がトランプをして遊んでいた。

「何?」

ポケットに手を突っ込みながら近づいて晃一の隣に座った。

「何、じゃねーだろ、このばかっ」

そう言うとカードを放り出して司の左肩に手を廻し頭を抱えた。

「っテなぁっ!!」

思わず晃一を突き飛ばし、肩をさすりながら晃一を睨む。

「ごめん、ごめん。 つい」

「ごめんじゃねーだろっ、ったくゥ」

怒ったように言うがその目は笑っている。これが晃一と司の挨拶だ。

もう、心配ない。前に座っていた秀也とナオは安心したように顔を見合わせた。

「司、大丈夫か?」

紀伊也がコーヒーを二つ持って来ると、一つを司に渡す。

紀伊也には本当に心配をかけた。あの日以来会っていないのだ。ユリアから事情を聞いただけで、サラエコフの事についてはどうなったのか誰も知らないでいた。

司と翔、それに亮太郎の三人だけが知るところだった。

コーヒーを受け取りながら「サンキュ」と、それだけ言って紀伊也を見た。今はそれだけで充分だった。

「そう言えば、隣の公園、桜咲いてたよ」

紀伊也は思い出したように窓に目をやりながら言うと、コーヒーを一口飲んだ。

「桜か、もう春だな」

同じように窓に目をやると司は呟いた。メジャーデビューを果してからちょうど五年になる。あっという間に駆け抜けた五年だった。

「早いなぁ、あれから五年だ。しっかし、よく持ったな」

メンバーを見渡すと、フッと笑った。 『仲間』司が本当に出会う事のできた大切な仲間だった。そして、親友だった。心友とも言えるのだろうか、司にとって、本当に大切なモノだった。決して手離してはいけないと思っている。

「お前がいなけりゃ、何も始まらねぇよ」

晃一が司の頭を叩きながら言った。 ってェな。 頭を押さえて横目で睨みつける。それを見ながら他の三人は顔を見合わせて笑った。皆、特に音楽を本当にやりたくて集ったのではない。司の元に集ったのだ。それだけは解っていた。

「なぁ、花見でもやらねぇか?」

晃一が提案すると、良いねえとナオと秀也も賛成する。紀伊也も頷いた。

「花見かぁ・・・ 」

ふと、思い出した。

 いつの頃だったのだろう。亮と翔の兄二人と共に親戚の西園寺家族と共に、何処かの公園の花見に連れて行かれた。

そこで、ふざけて『花咲かじいさん』のおとぎ話にちなんで、どちらかの兄と木に登り、桜の花びらを全て舞い落として遊んだ事がある。あの時はエラく怒られたが、とても綺麗だった。

 -あれはどちらだったのだろう

亮はどう考えてもそういう事は決してしない。どちらかと言えば草花を愛していたので、花をちぎったりすると怒る方だった。

 -そうか、あれは翔兄さんだったんだ。

司は悪戯いたずらが好きだった。それも半端じゃない。庭の水巻き、とか言っては家の開いている窓目掛けてホースを向け放った。また、パーティーの料理に蛙の丸焼きを並べた事もあった。しかし、それをけしかけたのは確か、翔だった。


 くっくっく・・・・、 思わず思い出し笑いをしてしまった。

「何だよ、気持ちわりィな」

晃一に言われ、ハッと口をつぐむがおかしくて笑いが止まらない。

悪戯いたずらをした事よりも、翔と二人で悪戯をした事の方がおかしかったのだ。

「いや、桜、見せてやりたいな。翔兄さんに」

そう微笑んで言う。

翔と聞いて晃一・ナオ・秀也の三人の顔が曇る。あの時、司の事を『あんなヤツ』と言った翔が許せないでいたのだ。

「そういや、お前の兄貴、性格悪かったぞ」

晃一は思い出すとムッとして、あの時の事を話した。司の事を馬鹿にされた気がして本当に腹が立ち、言わずにはいられなかったのだ。

「生きてる価値もない、か・・・」

少し寂しそうな顔をした司に秀也は心配になった。

「ま、そうだろうな。兄さんの言う通りだ」

「え?」

秀也は驚いた。あんな言い方をされて平気なのだろうか。秀也にはあの時の翔が司に対して憎しみを抱いているようにも見えたのだ。司はそれを知って翔をかばっているのだろうか。

秀也には司が理解できなかった。そして初めて知った翔の存在に、司の事が解らなくなって来ていた。

「いつ、やるんだ?」

司が晃一に訊く。

「そうだな、散る前だな」

「何だ、そりゃ」

ナオは呆れると、スタッフの方に向いてチャーリーを呼ぶ。

「チャーリーっ、花見やりたいからスケジュール組んで!」

その声にスタッフ全員がメンバーを見ると歓声を上げた。


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