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第一章(二の2)

 

 メンバーが楽屋に戻って来ると、司の姿はなくテーブルにコーラだけが残されていた。

誰も気に留めず、帰り仕度をする。

また横浜のホテルにとんぼ返りだ。メンバーは箱根の温泉を目の前にしてUターンしなければならず、司を恨んだ。

「 ったく、あの我が儘娘を何とかしろよ」

司がいないのをいい事に晃一が秀也に食って掛かる。

「 んな事言われたって、知らねぇよ」

相変わらずお決まりの台詞セリフにナオも紀伊也も呆れて顔を見合わせた。

楽屋を出ようとして、ふと紀伊也は司の荷物が何も片付いていない事に気が付いた。

「あれ、司は?」

「知るかよ」

晃一も秀也も言い合いの最中だったので、ぶっきらぼうに答えると楽屋を出て行った。

仕方なく紀伊也は司の荷物をまとめ手に取り楽屋を出ると、宮内が慌てて走って来て、先程の出来事を話した。

「そう、なら仕方ないな。 じゃ、これは俺が預かっとくよ」

そう言うと、溜息をついた。

司も厄介なお嬢さんに取りつかれたものだ、と半ば同情した。

 通用口を出ると、いつものようにファンの見送りに会い、車へ乗り込んだ。

今夜の食事は昨夜ゆうべのようでは困るということで、当初予定されていた場所をキャンセルし、メンバーだけで取ることになっていた。4人はホテルの和食専門の店に入り食事をすることにした。

「司は?」

秀也が紀伊也に訊く。

宮内から紀伊也に訊けば事情が分かると言われていたからだ。

「ああ、親戚のね、西園寺さんってとこのお嬢さんが迎えに来たらしい。迎えと言うよりは拉致、かな」

「拉致?」

「うん、西園寺さいおんじ姫美子ひみこっていうお嬢さんがさ、司にエラく入れ込んでてね。昔っからベッタリなんだよ。とにかく我が儘で、一度誕生パーティに司が来なかったら死ぬとまで言い出してさ、わざわざフランスからその為だけに戻って来た事もあったな。とにかく誰もがお手上げなんだ 」

気の毒そうに言う紀伊也に晃一は鼻で笑う。

「ふんっ、我が儘娘に我が儘お嬢なんて、聞いて呆れるいい組み合わせじゃねぇか。 ったく、俺達だって司にお手上げだぜ」

確かにそうだ、とメンバーは大笑いした。

 その夜、秀也は昨夜と同じ部屋で一人で過ごした。

事情が事情なら仕方ないか、とビールをいつもの倍は飲んで寝る事にした。


 *****


 クロロフォルムをがされ、意識を失った司はしばらくシートに倒れていたが、突然うっと呻き声を上げると、左胸を押さえ苦しそうに顔をゆがめた。

呼吸が不規則に乱れていく。全身で息をするかのようにもだえた。

 はぁっはぁっ、と肩で息をするがなかなか上手く吸えない。

持病の心臓発作が起きたのだ。

その息遣いも次第に途切れていく。

そのうち、完全に力が抜けて再び意識が失くなった。

 どれ位経ったのだろうか、全身に悪寒が走り凍えるような寒さで目が覚めると、薄暗い小さな倉庫のような建物の中にいるのに気が付いた。

体を動かそうとしたが、後ろ手に何重にも紐のようなもので縛られ、両足にも足首と膝に紐がきつく巻きついていて身動きが取れない。そして、息をしようにも口には猿轡さるぐつわがはめ込まれ、それも紐で巻きついている。

完全に司の動きを封じられていた。

 -くっ・・・何なんだよ、これは・・!?

何とか動く頭だけを動かし周囲を確認しようとするが、クロロフォルムをまともに浴びて発作を起こし、意識が失くなった挙句に全身を氷で包まれるような寒さで目が覚め、その上に熱も出てきた為か目の前がぼおっと霞んでよく見えない。が、かすかに人の気配がする。

 -男? 二人か・・・。何を喋っている?

突然、ぐいっと顎を持ち上げられた。

 っ!?  

頭が割れるように痛む。

「うっ・・・ はぁ、はぁっ ・・・・・」

「ほお、さすがに人気者のスターさんだね。苦しむ顔も美しいか・・。一時間後にまた連絡をする。・・・ おっと、お宅のお嬢さんは具合でも悪いのかい? 随分と息が荒いね、熱もあるみたいだけど。くっくっく・・・」

そう言って男は電話を切ると司の顔を覗きこんで含み笑いをした。

サングラスに帽子を目深まぶかかぶっていたが、なんとも下賤げせんな笑い方をする。

 -嫌な野郎だ・・・

司はさげすむような視線を送った。

「チっ、これだから金持ちってのは嫌いだぜ。ま、そういう目をしていきがってられるのも今の内だな」

め回すように司を見ると、手にしていたナイフの刃を頬に当て、静かにゆっくりと下へ滑らせていく。

首筋から胸元へ下りて行った時、男はドッと横にり飛ばされた。

司が体を弓なりにしならせ、両脚で思い切り蹴り飛ばしたのだ。瞬間、ツゥと首筋に赤い血が流れた。

 ドカッ

 うっ・・・

もう一人の男が司を思い切り蹴り飛ばす。

そのまま横に転がり、更に腹にもう一発食らった。

「とんだお嬢さんだな」

司に蹴り飛ばされた男は、髪を鷲掴みにすると平手で頬を2,3発殴った。

そして床に放り投げると、立ち上がって見下ろす。

「まだ、殺しはしないよ。大事な人質だからな。5億の身代金と引き換えだ。まずは手つきで1億。その後スイス銀行に4億振り込ませる。それが確認できたところで解放してやってもいいが・・・。 それまで持つかな? 」

 - こいつら何者だ?・・・5億?・・・スイス銀行?

男達の容姿を見ようと顔を上げようとしたが、再び発作に見舞われ意識が失くなってしまった。



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