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第四章・償い(一)

爆発騒ぎで会った一人の少女に過去のしがらみを思い起こさせる。司とナオにまとわりついた過ちは償えるのだろうか。

第四章 償い(一)


 バーンッ!

という爆発音を聞いた気がして司は歌うのを止めた。

今はコンサート中だ。

ちょうど始まってから一時間、メンバーも観客も興奮と熱狂の渦中にいる。

突然、司が歌うのを止めて動きを止めると、辺りを伺うようにステージの中央に立ち尽くした。渦の中心にいた司が動きを止めた事で皆何事かと静まり返り、その視線はステージの中央に注がれている。

 右!?

ハッと感じた方向に集中させると、会場に隣接するレストランの厨房が吹き飛び、火が舞っているのが見えた。

「爆発だっ!」

司が叫ぶのと同時に、バーンッともう一度、大音響と共に会場がわずかに揺れた。

一斉にあちこちで悲鳴が上がる。スタッフも脇から飛び出して来てメンバーを一人一人取り囲むように集まった。

司はスタッフを跳ね除けるとステージの前に立ち、マイクを握った。

「もうすぐこっちまで火が回るっ、その前に全員逃げるぞっ!」

司が叫ぶと皆が息を呑んで司を見つめる。

「落ち着いてオレの指示に従えっ! いいかっ、お前らから見て左から火が回って来る。右の入口から順番に出ろ。二階のヤツも階段に気を付けてなるべく右側から外に出ろっ! それから出る時煙が来たら、姿勢を低くしてタオルかハンカチ、上着でも何でもいいから鼻と口に当てて煙は絶対吸うなよっ! とにかく慌てるなっっ!! いいか、この会場の外に広場がある筈だっ、全員そこに避難しろっ、なるべく遠くにだっ! オレ達とスタッフの指示に従ってくれっ! 行けっっ!! 」

既に紀伊也がスタッフに指示を出し、半分が外へ走って行った。残りは会場の入口で既に誘導を始めている。

 ステージの上から避難する観客を見ていたが、やはりこれだけの人数を限られた出口から出すのは時間がかかる。また、おびえているのか、何か心配なのだろう、こちらを見ながらゆっくり進んでいる。

司はチッと舌打すると、

「ぐずぐずするなっ、いいか、オレは最後に出るからなっ! お前ら全員が出るの確認したら出るからっ! オレを死なせたくないならさっさとしろっっ!!」

そう叫ぶとマイクを投捨てた。

「司さんも早く逃げて下さいっ」

この前入ったばかりの新人スタッフの透が司の腕を引っ張る。それを払い除けると、突き飛ばした。

「馬鹿野郎っ! 今オレが言った事が聞こえなかったのかっ!? とにかく全員を避難させろっ! 怪我人を出すなよっ、全員がオレ達の大事なファンなんだぞっ!」

「でもっ、司さん、死んじゃいますよっっ」

透も必死だ。

「ばあか、こんな所で死んでたまるかよ。自分の身くらい自分で守れるさ。それに、だいたいてめェみたいなのにうろちょろされたんじゃ、返って迷惑なんだよ。とっとと逃げやがれ。それに何の為にてめェはオレの前に現れたんだ? 命令が聞けないなら即刻クビにするぞっ」

半ば呆れながら怒鳴りつける。

 - ったく、Rの頼みじゃなきゃこんなヤツそばに置いたりしねぇよ・・・。

「おい、誰かこのバカどっかに連れてけっ!」

観客を心配そうに見ているメンバーに振り向くと、紀伊也と目が合ったので彼に任せる事にした。

紀伊也は厄介な者を押し付けられたと言わんばかりに、小さな溜息をつくと透を引きって出て行った。

 鼻を衝くような匂いと共に、反対側の入口から煙が少しずつ流れて来る。

「まずいな、これじゃ外は煙がいっぱいか・・。 みんな大丈夫か?」

ステージの上でメンバーは顔を見合わせ、会場を見渡す。二階席は誰もいなくなり、一階席もあと数人だ。

「晃一、ナオ、頼む」

任せとけ、と二人は手を上げ、ステージから飛び降りると最後の観客について出て行く。それを見届け、ステージにスタッフがいない事を確認すると「秀也、逃げるぞっ」二人は走り出した。が、司がふと立ち止まった。

「どうした?!」

「フルートっ楽屋に置きっ放しだ」

「そんなもん後にしろっ」

「ダメだ、あれだけは・・・! ごめん、先に行っててくれ、必ずお前の所に行くからっ」

「司っっ!!」

秀也が止めるのも聞かず、向きを変えると走り去っていく。

 秀也は仕方なく皆を追った。途中煙が充満し口に衣装の袖を押し当てて中腰で進む。司がいない今、自分が最後に出る事だけ考え、辺りに注意しながら出口へ向かう。

会場から外に出ると既に晃一とナオが待っていた。観客やスタッフは全員広場の方へ走って行っている。

「司は?!」

「フルート取りに行った」

「フルート?!」

二人は愕然として秀也を見たが、三人とも無言だ。司がいつも肌身離さず持っている大切なフルートだ。それはお金では決して買う事の出来ない、七年前に亡くなった兄、亮の形見だった。

「司なら絶対に大丈夫だ」

「ああ」

三人は言い聞かせると先に行っている紀伊也の元へ急いだ。今度はパニックになっている彼等を落ち着かせなければならない。恐らく既に紀伊也が動いているだろう。


 秀也と別れ楽屋へ走って行く途中、目の前をフラフラと女の子が一人歩いていた。

「何やってんだ、こんなとこでっ!? 出口は反対だぞっ」

見ると右手に白い杖を持っている。彼女の目を見ると、開いてはいるようだがそこに光はなかった。

「お前、見えないのか!?」

思わず肩を抱き寄せた。

「ここを動くなよっ、オレはちょっと取りに行く物があるんだ。それ取って来たら必ずここに来るから待ってろっ。絶対動くなよっ」

念を押すように力強く言うと、彼女を残し楽屋へ急ぐ。

楽屋へ入ると、テーブルに置かれた黒いケースを手に取りふたを開ける。中に銀色のフルートがある事を確認するとホッと胸を撫で下ろして蓋を閉めた。それを抱え傍にあったタオルを掴むと急いで元来た道を引き返す。 彼女は無事か?

 司は彼女がまだそこに居た事に安心すると肩を抱いて歩き始めたが、ぐずぐずしている暇はない。いつ煙に巻かれるか、また爆発が起きるとも限らない。もしステージにまで火が回り、舞台セットに引火するような事になれば大爆発を起こしかねない。

「歩いてたら間に合わねぇよ、お前、目ぇ見えなくても走れんだろ? オレがしっかり手ぇつないでくからオレを信じて走れっ、いいなっ!」

驚いて怯える彼女の手から杖を奪い取ると、それをフルートのケースと共に抱え、彼女の手を握って走った。と、突然通路の灯りが消えた。

 まずいな・・・。

勘を頼りに真っ直ぐ走る。非常口の灯りが見え、それをめがけて走り扉を開ける。どうやらそこはホールへ続く通路らしい。足元に絨毯じゅうたんが敷いてある事でそれが分かった。

そこは既に煙が充満している。彼女が咳き込んだ。煙を吸ってしまったのか。慌てて持ってきたタオルで彼女の口と鼻を塞いだ。

「これで口と鼻を塞いでいろ。あともう少しだ、頑張れ」

真っ暗な通路の非常灯を頼りに足早に歩いて行く。

司もさすがに煙を吸ってしまい咳き込んでしまった。だが、立ち止まっている暇はない。ようやく明りが見えた。

「出口だっ」

握っていた手に力を込め、再び走り出した。


「司だっ」

建物から離れ、広場から心配して入口を見つめていた秀也が司を見付けて走り出した。他のメンバーもスタッフも安堵の息をついた。

「司っ、大丈夫か?!」

 ケホっ、ケホっ、はぁ、はぁ、と咳き込み肩で息をしながら秀也を見上げた。

「ごめん・・・ 心配かけた」

二人は目を合わせお互いの無事を喜んだが、司は秀也に彼女を預けた。

「秀也、彼女を頼む。目が見えないんだ」

杖を彼女に返すと、後から来た晃一に支えられ皆の所へ歩いて行く。

広場では既に警備員と観客がもみくちゃになっていたが、パニックになっている事はなく比較的落ち着いていた。

紀伊也とナオとスタッフが何とか落ち着かせていたのだ。




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