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第三章(三)


「あ・・・」


 二人はお互いフロントガラス越しに目が合うと、しばらくブレーキを踏んだまま何か言いた気に見つめ合ったが、晃一がどうぞと手で合図を送った。

それぞれ駐車場に車を入れ、晃一は車を降りて声をかけようとしたが、秀也は後部座席から何やら引っ張り出している。

「何だ、それ?」

秀也の抱えた大きなビニル袋を指した。

「ああ、これ。10日分の洗濯モンの一部。すげーだろ、タオルとバスローブだけでこんなにあるんだぜ。合宿以上の量だよ」

「まさか・・・」

「そう、司んの。家の洗濯機じゃ洗いきれないからコインランドリー行って来たんだ。クリーニングも行って来たよ。 ったくあいつの服ってクリーニング代もバカになんねぇよ。ぜーんぶ高級仕上げってぇの? 全く、一度は自分で出して来いっていうの」

半分呆れながら、ぼやいた。

「あれ、ところで晃一は何しに来た?」

「お前の代わりに呼び出された」

「え?」

晃一はそれ以上答えようとしない。何となくほうけているような感じだ。晃一はいつになくおとなしく無言で、秀也の後について行った。


「司ぁ、帰ったよー。お前の方は、終わった・・・ の・・・?」

居間へ入り袋を床に置くと、あ然としてソファに釘付けになる。ヤケに静まり返っているなと思いつつも声をかけてはみたが、やはり眠っていた。

 やれやれ・・・

秀也は溜息をついてベランダを見たが、案の定何もないのを確認し、もう一つ溜息をついた。

「やっぱり、ダメだったか・・・」

「おいっ、起きろっ。バカ娘っ」

見ると晃一が足で司を突付いている。

 う~ん、何?、と目を開けると晃一が、じーっと見据えている。司が大きなあくびをすると、その口を晃一の片足がふさいだ。

「ん!? っわ、何すんだっ!?」

驚いてそれをけると、飛び起きた。

「何すんだじゃねーよっ、このスカタンっ。洗濯は終わったのかっ?!」

「洗濯? ・・・ああっ、そうだ。干さなきゃ」

慌てて洗面所に走って行く。それを見送りながら晃一は呆れてソファにどっかり腰を下ろすと、タバコに火を点けた。

 それを見ていた秀也は台所からビールを持って来ると、晃一の前に差し出した。チラッと秀也を見た晃一だったが、無言で受け取るとプルタブを引き、それを一口飲んだ。

「なあ、秀也。俺、何しにここへ来たと思う?」

「・・・・。」

「掃除機のスイッチ、切りに来たんだぜ」

「え? ・・・」

一瞬、二人の間にそよそよと、風が流れた。


「晃一っ!! たーいへんっっ」

二人の沈黙の間を割ったように司がTシャツを抱えて飛び込んで来た。

「あ、秀也帰ってたの? ねぇ、見てよこれっ、どうしよう。白いTシャツが青に染まっちゃったよ」「・・・・・・。」

晃一と秀也は思わず顔を見合わせた。

「お前の言うとおりにこいつはやったらしいよ。洗剤五杯も入れて」

「五杯? ・・・ え?」

秀也はあ然と晃一を見ると、まじまじ司を見つめた。司はワケがわからないというように二人を交互に見る。

「だって、ジーンズ三本あったから三杯入れて、あとTシャツとかいろいろあったし、二杯追加したんだけど・・ 違った?」

「Gパンと一緒に洗ったの?」

「うん」

「ばかっ、あれは色落ちするから気を付けろって言っただろっ?! 白い物と一緒に洗うなっばかっ! それに一回の洗濯で五杯も洗剤入れるバカがどこにいるんだよっ。適当にって言った意味を考えろっ。それにっ、分からなかったら箱の説明をよく読めっ! 」

一気に怒鳴り散らすと、秀也は司の手からTシャツを奪い取った。司もいきなり怒鳴られて思わずムッとした。

 自分でも頑張ったのだ。

「そんな事言うなら最初っから秀也がやってくれれば良かっただろっ。 オレだって洗濯すんの今日が初めてだ、って言ったぜ。それを何だよ・・」

「ちょっと、待て」

晃一が振り向いて司の言葉をさえぎった。睨み合っていた二人は一瞬晃一を見る。

「洗濯すんの、初めてだと?」

「そーだよ」

「なら、掃除機は?」

「んなもん、使った事ねーよ」

ムッとして言う司に晃一はゆっくり立ち上がるとニヤついて近寄る。

 な、ナニ・・・?、 思わず司は後ずさった。

何やらイヤな気配を感じたのだ。

瞬間、ぐいっと胸ぐらを掴まれ、晃一の罵声を浴びた。

「だったら最初から触んじゃねーよっ! 何だって俺は掃除機のスイッチ切る為にわざわざ来なきゃなんねーんだよっ!? 今時のガキにだってそれ位出来るのに何でおめェは使えねぇんだっ?! ええっ?! 洗濯も掃除も初めてだと?! 23年間生きてて今日が初めてだとっ?! 笑わせるなっ。 お前一人でずっと暮らしてるクセに何でそんな事もできねーんだよっ?! おまけにクリーニングにも行った事がねぇだとっ?! しかもゴミまで出してねぇっ、洗い物はたまってるっ。あのシンクにあるグラスの山は何だっ?! 料理ができねぇのは別として、自分の身の回りの事くらい自分でやってみろっ!! これくらい男の俺でもやるわっっ、ばかたれっ!! 」

一気にまくし立てると司を突き放す。肩で息をする晃一に思わず秀也が止めに入った。

 まあ、まあ、落ち着いて・・・。

「だいたい、お前も甘やかし過ぎだっ。何でお前がコインランドリーに行くんだよ。んなもん司に行かせろっ。 それにな、フツー、付き合ってんなら彼女が彼のもんをクリーニングに出しに行ったりするもんだぜ。 ったく、男たるものあぐらかいてりゃいーんだよ 」

晃一の怒りは秀也にまで飛び火する。

「あー、それ、男尊女卑ィ」

司が思わずムッとして言う。

が、とたんに晃一と秀也は目を吊り上げて同時に司に向かった。

「お前の場合、そーいう問題じゃないっっ!!」

その後、司は二人にこってり絞られ、ゴミはしっかり捨てる事、グラスくらい洗って片付ける事、慣れない家事は一切しない事をきつく言われた。そしてすぐに弘美に謝ってストを解除してもらう事を約束させられた。

司は仕方なく二人の目の前で電話をかけた。

「 ・・・。 ごめんよ、オレが悪かった。・・・、そう、そうなのよ。やっぱ、弘美ちゃんじゃないとダメだな。新しく雇ったヤツなんて最悪だよ。洗濯頼んだら染めちゃうし、掃除したらライター吸っちゃうしさ・・・。 うん、もうクビにしたから、明日から来て、お願いっ。・・・ ん? うんわかった、帰るから。・・・ うん、ありがと。じゃね 」

電話を切った瞬間に、クッションと秀也が持ち帰った大きな袋が飛んで来ると、思い切りそれを食らった。



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