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ついてきてくれ

 王の間にてそれぞれ自己紹介を済ませた勇者達は、王宮内にある訓練場にて魔法について騎士団長のヴィクタに教わることになった。


「――改めまして勇者様方、私は皆様に魔法の教育や能力向上などをさせて頂きます、騎士団団長ヴィクタ・ヴァインと申します。以後、お見知り置きを」


 幼い顔立ちで真っ赤な髪を靡かせ、腰に剣を刺すその姿は、異世界人である彼らには異質な違和感を生じさせた。


「あんなちっちゃな子が団長って……やっぱ別世界って感じだよなぁ」


 真鍋(まなべ)常盤(ときわ)の耳元で小さく呟いた。


「童顔ってやつだろ。流石に見た目通りなわけないさ」


 その時、アレックスが小学生のように大きく手を上げ質問をする。


「ヘイ団長さん!其方の(よわい)はいくつ?!」


「……申し訳ありません、何語ですか?」


 突然の意味不明言葉にヴィクタは混乱していた。ヴィクタだけじゃない。その場にいたほとんどは頭に?を浮かべている。勿論今はわかる。だが何でわざわざ難しく喋るのかが分からなかった。


「普通の日本語喋った方が絶対楽だろ、どこで覚えんだよ(よわい)とか」


 淺岡(あさおか)のこの言葉に頷く一同、その後(かすみ)がヴィクタに質問の意図を説明する。


「――なるほど、私の年齢を。私は16です、勇者様方とそれほど変わりません」


 胸に手を当て質問に答えるヴィクタ。


 16、もっと言えば年下という事実に空気が若干騒ついた。


「おい勇、年下だったぞ!ギリ年相応の顔つきじゃねぇかよ!」


「ああ、そうだな(16歳で騎士団長……一体どんだけの才能と努力を重ねたらこうなるんだ?それにしても、16歳の子供が剣を持たなくてはいけない世界……これも魔王の影響なのか?……ほんとにそうか?)」


 初めてこの世界に飛ばされた時に見た魔王の映像。その時に生じた違和感が常盤の中で今でも廻っている。


「へぇ〜っ!団長ほぼタメなんや!そしたらこちとら達のことタメ口でようない?皆さんどう思いまする?」


「アレくんの話し方独特すぎて入ってこなかったんだけど。委員長訳してくんない?」


 いきなりアレックス専用通訳機の役割を与えられた霞は、一瞬「えっ?」という顔を浮かべたが、断れない性格が災いしその任を受けてしまう。


「え、えっと……要約すると同い年だしタメ口で良くない?って感じかな?……あってる?」


「YES!バッチグー!」


「……何で私異世界来てまでこんなことやってんだろ?」


 自身の性格を憂いていると、拍手をしながら永守(ながもり)が近づく。


「いや〜ほんとわかりやすい通訳でした!芽衣、委員長さん尊敬しますっ!芽衣じゃこんなことできないやー!」


「あ、うん……ありがとう」


 微妙な表情と声で返事を返した霞は、ヴィクタの方に向き直った。


「あの、そういうわけなんですけど……どうですか?あっ……どう?」


 霞はヴィクタに自然とタメ口になってもらうために自ら率先していく。その気遣いを察したヴィクタだったが、さすがに世界を救う勇者と呼ばれている者達と気軽に話すことは難しいらしく――


「あの……他の皆様はよろしいのですか?私、タメ口だとすごい偉そうですが」


「それくらいでいいと思うよ!だって私たちの先生なんでしょ?理不尽な暴力とか、そんなんじゃないなら別にいいと思うよ。みんなどう思う?」


 霞の問いかけにそれぞれ反応を示す面々。


「いいと思うよ。ずっと甘やかされたら、多分俺たちは強くならないし」


「だな、勇の言う通りだとおれも思う。サッカーだって、コーチにずっと敬語使われてたらこっちは舐めるしな。だろ?和馬(かずま)?」


「まぁ確かにな。こっちもその方がいいのかも知んねぇ」


「…………勝手にしろ」


「やはり騎士団長と言ったらプライドが高く強くなくてはな。でないと僕がその力を超えたときに盛り上がりにかけるじゃないか」


「別にいいんじゃな〜い?うち絶対面倒かったら抜けるし。――あ、爪欠けた」


「ぼくは厳しいのはいや……あいややっぱなんでもないです」


「芽衣は歓迎ですよ!だってその方が気が引き締まるじゃないですか〜!芽衣もその方が頑張れそうです!」


 全員の総意は程度の差こそあれ、概ね肯定的だった。そして霞はヴィクタをもう一度視界に含み語りかける。


「――だ、そうですけど。どうします?」


 驚いた表情を見せるヴィクタ。想定していなかつた展開に開いた方が塞がらずにいる。


「えっと……皆様がそう望むのであれば……分かりました、今からはタメ口で行かせていただき……ゔゔんっ!……行かせてもらう。改めて願い出よう。私は君たちを必ず守る。そして守れるための力を授ける。だから……どうか私に協力してくれ」


 真剣な表情になり、頭を下げるヴィクタ。不思議と誠実さを感じさせる雰囲気に、常盤は敬意の念を抱いた。


「(多分この人は部下にもこうなんだろう。自分の頭の重さなんて考えずに、責任を取るべき時には一身で取る、その覚悟が見える。自分の部下のための頭を下げられる人は少ない。これが……最強の剣士。俺は俺が正しいと思った者を――)」


 常盤は足を前進し、頭を下げているヴィクタの前で立ち止まった。そして右手を差し出した。


「常盤勇正、これからよろしく!」


「……ふっ、変なやつが多いな、勇者というのは。こちらこそよろしく――」


「――なぁおい忘れてんじゃねえのか?」


 口を挟んだのは相良だった。彼はヴィクタを苛立ちを孕んだ目で睨み付けていた。


「テメェがおれらにタメ口聞くのは知ったこっちゃねぇ、勝手にしろ。おれが言いてえのはんなことじゃねぇんだよ。協力しろ?それは魔王討伐のことか?それとも訓練のことか?いずれにせよ、勝手に呼んどいて大層な言い草だな。戦う気のねぇ奴はどうすんだよ?無理やりやらせんのか?その説明はちゃんとあんだろうな?」


 常盤は現実にいるときは相良に対し、頭の悪いヤンキー、くらいの認識だった。しかしここに来てその印象は大きく揺らぐこととなった。


 王の間での自分の意見を補強するために他人の意見を使うやり方、そして先ほどの発言。


「(自分の意見をしっかり持ち、その意見をちゃんと伝えられる。そして全体のことをよく考えてる。少なくとも俺よりは頭いいんじゃないか相良って)」


 ヴィクタはその質問に答えあぐねている。勇者を育てろというのは、言ってしまえば王からの命令なのだ。これを無碍にするわけにはいかない。だからといって思考停止し、相手の感情を無視してやらせるほど感情は欠けていない。


「それは……」


 答えを出しあぐねているヴィクタを見て、相良は視線を常盤に移した。


「常盤、お前もそう思うだろ?だから自己紹介で魔王を倒す意志を言わせてたんだもんなぁ?」


「あらら、霞と海斗にしかばれてないって思ったのによ……まさか相良、それが分かってて俺達の次に自己紹介してくれた?」


「はっ、4人も続きゃ十分だろ?それにああいうのは仲良し連中だけでやったところで意味ねぇんだよ。おれみたいな異物もやらねぇとな」


「はは、やっぱお前頭いいな。正直そこまで考えてなかったよ。ってことはあれか、助けられたってことだな。ありがとう」


 真正面から礼を言われ慣れていないのか、視線を逸らした相良。誰もいない奥の壁を見ている。


「はっ、礼を言われるこっちゃねぇ。戦わなくて済む道に乗っただけだ。ま、倒さねぇと帰れねぇって聞いて、無駄になったがな。――で、そろそろ答えは出たかよ団長さん?」


 この時神囿(かみぞの)はある悔しさから服の裾を握りしめていた。


「うぅぅぅ……ああいうのは主人公である僕の仕事だろうが!なに不良がとってんだよ、空気読めよ」


「(なんか神囿くんって絶対勇者向きの性格じゃないよな……)」


 小声でぼやく神囿と脳内で突っ込む奥田。


 しばしの沈黙の後、王の命か?それとも自らの意思か?そんな2つの障壁。果たしてどちらを超えるのか?


 ヴィクタは少し深呼吸をし、剣を握る。そして勇者達に再び問うた。


「もう一度聞きたい、魔王と戦いたくのない者、今一度手をあげてくれないか?決して責めたりしない」


 わずかな間の後、数本の手が頭上に上がった。


 濱崎(はまさき)、奥田、永守の3人だ。その他の7人は、自主的、もしくは帰るため仕方なくといった感じで魔王討伐に参加するようだ。


「へぇ〜、みんなすごいね。うちは絶対やだわ、だって死ぬじゃん?うちはそんな面倒なことしたくないわ」


「ご、ごめんなさい神囿くん。やっぱりぼくは怖いです……戦いたくない」


「3人か〜。芽衣たちのほうが少数派って不思議だねぇ。芽衣たちは戦えないけど、みんなのこと、変わりに沢山応援するね!」


 この結果を見たヴィクタは本当に怒りもせず、特にショックを受けた様子もなかった。やはりこうなるよな、と言いたげな顔だ。


「……分かった。戦闘の意思のないもの、これを強制することのないよう王に訴える。私も君たちも替えが効かない、そうそう無碍にはされんさ。それと、もし戦わざるを得なくなった場合、もっと言えば自衛のための力は持っておいた方がいい。だから、特訓には3人も同じく出席してもらう。……これで納得してくれたか?」


 剣から手を離し相良を見るヴィクタ。その目は覚悟が決まっていた。


「……あとは本当に許可を得れたら上出来だ。……言い方悪かった。おれは魔王討伐組だ、強くしてくれんだろうな?」


 その質問に、ヴィクタは「ふっ」と笑ったような息を漏らし、剣を鞘から引き抜き、その剣を自身の目の前に突き刺した。


「この……私の()に賭けよう!協力してくれたはもう言わん。その代わり……ついてきてくれ」


 面倒臭そうに頭を掻く相良。そしてため息をつくと、右手拳をヴィクタに向かい向けた。


「……ああ、見たことあるなこういうの……!」


 こうして常盤達をはじめとした勇者達は拳をヴィクタに向け、笑みを浮かべた。


 こうして講師と生徒、そして共に魔王を倒す関係は結ばれたのだ。




「……(寒……恥ずかしくないのかね?)」


 ただし、全ての心が一つなど、あり得はしないのだが。


















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