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競り人  作者: 葉山るな
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5



「わっけわかんねぇ!」


 帰宅早々、セリは暴れ出した。


「お前は俺に勝っただろうが! 死体蹴りか!? 追い討ちか!? 俺に何の恨みがあるんだ、プライス・アウクション!!」


 それから後ろにいるティアーフロに気がついていやな笑みを浮かべた。


「そういえば、こういう時のためにお前がいるんだった。よく見るとお前、アウクションに似てるな?」


 金髪。背丈。それから、端麗な容姿。共通点といえばそれくらいだったが、今のセリにとっては大した違いではなかった。


 鬱憤晴らし。何をしても怒られない存在。サンドバッグ。それが愛玩奴隷の宿命だ。ティアーフロはぎゅっ、と目を閉じて、振るわれる拳を黙って待った。


 果たして拳は飛んでこなかった。


 セリは頭をがしがしと掻いて、あーあー、と天を仰いで言った。


「……馬鹿馬鹿しい。治療費だってタダじゃないんだぞ、くそが」


 何の役にも立ちゃしねえ、とセリは好きなだけ悪態を吐いたが、決して手だけは出さなかった。がしがしと頭を掻く。それがイラついた時のセリの癖のようだった。


 セリはそれから軽めの夕食を作った。金を節約するためだ。方針が変わった。その日暮らしだけではダメで、セリは自由を取り戻すために、力を蓄えなければならない。


『プライス・アウクションはセリになんの恨みがあるのか』


 この問いへの答えは、つい先ほどミナトから教えられていた。


『セリ個人を、というより、「競り師」を恨んでいるみたいだよ。潰して回ってるらしい──というのは前にも忠告しただろう?』


 風の噂程度には聞いていた。最近競り師を目の敵にする凄腕が現れたと。確かにその噂の人物とプライス・アウクションとでは活躍し始めた時期が一緒だった。


「……馬鹿馬鹿しい」


 夕食を終えて、セリは呟いた。ずいぶんとお粗末な『復讐』だなと思って。


 ちょこん、と虚に椅子に座るティアーフロにセリは尋ねた。


「お前、奴隷商の弱点か何か、見つけてないか?」


 ティアーフロは黙ったままだった。答えない理由に察しがついて、セリは頭をがしがしと掻いた。


「ティア、お前なあ。喋るなとは言ったが、俺に促されたら例外だ。話せ」


 そう命令されて初めて、ティアーフロは口を開いた。


「……いいえ」

「……はあ。使えねえ。ってより当たり前か。期待した俺が馬鹿だった」


 セリは食器を洗って、それから就寝ではなく、外出の準備を始めた。産業革命は人々から夜を奪った。外は空を見上げれば真っ暗だが、街道を眺めるとまだ明るい。


「お前はもう寝ろ」


 セリの持ち物を勝手に触るわけにはいかない。布団を用意するなんて言語道断で、だからティアーフロは床に寝転がった。





 セリの知り合いがミナトだけだと思うな、という話だ。


 セリは酒場に来ていた。正直、こんな場所で飲み食いする金は無いのだが、舐められたら終わりのこの業界である。さっそく先の節約が役に立っていた。無理をして見栄を張るくらいの金はまだ残っていた。


 つまり、『いつも通りの演出』。普段と変わらない様子を見せる。セリはいつも頼むのと同じもの、少し度の高いハイボールにピーナッツを頼んでいた。それだけでここ二日分の収入が全部飛んで、セリは過去の自分を呪った。どうして毎回こんなものを頼んでいたんだ。


 もうすぐ約束の時間になる。ピーナッツは美味しかった。ハイボールはもっと美味だった。食べ切ったり飲み切ったりしてもいけないので、セリは長らく誘惑と戦わなければならなかった。


「相変わらずですね。セリさん」


 そんな悶々とするセリに話しかける声があった。


 ようやく来たか、と顔をあげようとして、セリは違和感に気がついた。そんな分かりにくいものではない。簡単だ。『どうして女の声がする?』。セリの待ち人は男だ。それも野太い声をした、筋骨隆々のソレだ。


 座するセリが見上げる先には、フードを被った金髪の女がいた。


「どうも。お金は大丈夫なのですか?」

「あ……な、お、お前──!?」


 透き通る金髪。緋色の瞳。まだ二十歳にも満たないだろう、あどけなさと妖艶さを持った相貌。ふっくらとした唇にいたずらっけな眼差し。


 それが、無表情でセリを睥睨していた。


「──プライス・アウクション……!?」

「はい。いい人ですね、あの、なんて言いましたっけ、筋肉が凄い……ああ、ズレ・ハイバブルさん」


 唐突に現れたプライス・アウクション。彼女は、セリが待っていたはずの男の名前を口にした。


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