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かみのつながるはなし

作者: 紫晶朔実

 …別の世界線にて、花のように美しいとある代行者、iaから「創作者の暴走(?)を止める為にそちらの創造主の協力を煽りたい」という頼みを聞き入れた黒記と白記。直接会うのではなく、文通をしてほしいというその相談に、迷った末に二人は快く返事をし、三人で笑いながら逃げる様に下校したが、黒記は一抹の不安が胸に残っていた…



「いーやーだーね」

 青薔薇の主、創造の一番目は肘をついて物凄く怠そうな態度で、黒く塗った爪を見つめて弄りながらそう吐き捨てた。


 ここは上界のどこかにある管理者の会議室、集合場所…のようなものだ。

 黒記…もとい魔女の13番目と、白記…もとい盲目の12番目は自分の世界に帰り、言伝を伝えた。が。返答は以上のようなものだった。

「おいおい…まー予想はしてたしイヤーな予感はしてたけどさぁ…即答じゃん面白」

 13番目が呆れたような声で、手を頭の後ろで組んで椅子の上で上半身を左右にぐらぐら揺らして言った。彼女の少し幼い癖だ、意見を否定されると不満そうにこのような行動をとるのだ。

「当たり前じゃろう…母上にそのような頼みごとをするとは中々挑戦者(チャレンジャー)な提案ぞ。」

 狐面の二番目がため息を吐いて仮面の半分を袖で覆う。天使の三番目も今回ばかりは顔が強張った。

「お前、もう忘れたのか。一番目がどれだけ外のモノを忌み嫌っているのか。」

「分かってますぅ~。分かってるからこそこうやってお願いしてるんですけどねぇ…ダメもとで。」

「☆。じゃないだろう紫晶、ダメ元もダメもとで、相当可能性が低いじゃないか。」

「いやぁ。たまにはいいじゃん?そういうのも」

 宝石の4番目が言い聞かせようとするが、13番目は珍しく引こうとしない。むしろいつも以上に楽観的で、少し汗が流れている。

 一番目の表情は既に機嫌が良いとは言えない目つきだった。その目に栄光の七番目と良縁の11番目は身を縮込めて、少々怯えているようだ。

 純愛の八番目は微笑んでというよりは、ニマニマと楽しんでいる様子。

 載記の五番目はまるで興味なさそうにぼうっと見ているだけで、断罪の六番目は何かを待つように薔薇時計のテーブルの下で袖にナイフを両手に一本ずつ忍ばせて、静かに身構えている。

 14番目はその左目で顔を動かさずに周りを警戒していて、現実の15番目は顔をしかめて()()()()()()()()()()()()()たちの顔を見つめていた。

 …何が起きてもおかしくない…。

「んー、結構危ない発言だった?」

 と13番目が緊張感のない発言をするも、その空気は緩和されることはなかった。

「…ん?ねぇねぇ、その創作者さんってさ?けっこう狂暴なイメージが今あるんだけど。」

「そう…らしいわ。そやけど、最近度が過ぎとぉらしゅうて。」

「ほうほう…。」

 8番目が興味を示す。その質問に12番目は一生懸命言葉を選んで説明する。

「モノ、壊シテ、喰ベルノカナ??ナカマ???」

「いやいやナカマ増えても困るよアル。食べる量減っちゃうよ。」

「ア!!!ヤダ!!」

「…そこ気にするんですね…。」

 正夢の10番目が興味津々で勢いよく椅子から立ち上がるが悪夢の9番目にどうどうと座らされた。11番目はポカンとしてその場で頭に?を浮かべていた。

 暫くの間、沈黙してつまらなさそうに指遊びする一番目をよそに、管理者たちはわぁわぁと話し込んでいた。途中から関係ない話も混ざり込んで一度全員の会話がストップしたり、現実を思い出してみんなで頭を抱えたり、全員で一番目の顔色をうかがって怒鳴られたり、時間が過ぎていく。一向に結論がまとまらない泥沼試合である。


 BRはずっとつまらなさそうに離脱していたわけではない。ずっと考え込んでいたのだ。

 こう見えて記憶世界の一番上。自分の行動が世界に大きな影響を及ぼすことは十分に理解しているし、遊び半分でなにかをするのを許されないのも知っている。これまでの経緯を振り返って、これから先の機密計画を見直して、毎日毎日陰ながら管理していたのだから。

 その中で訪れた外部からの接触。

 目的はなんだ。

 平和条約を結ぶのか?僕たちの計画に気が付いたのか?嫌そんなことはあり得ないなぜなら誰にもこのことはバレてはいけない。この作戦は最終目的…復讐を、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なのだ。

 だからこそ自ら罪をかぶり、沢山の誰か、を殺し回り、自分の分身を作り、毒を飲んで来た。

 …でも、これがその世界を知る手掛かりになるとしたら?

 またとないチャンスだ。この作戦に気が付いていないのなら情報を搾り取るのにうってつけの提案だ。相手がどんな性格なのか知りもしないが、話を聞けば世界の再生が追いつかない程の破壊行為をしているそうじゃないか。

 頭悪そう…いやいや警戒しろ、相手が嘘をついているのかもしれない。俺はそいつの発言を信じたわけじゃないんだぞ。

 一か八か。賭けてみるのもあり。しかしこちらの弱点を知られる可能性もある。相手が心理に強かったらこちらはひとたまりもない。プログラムに強かったら…さっさと破壊するか、否か。

 主は表、態度で周りに嘘をつきながら、裏で頭を悩ませていた。

 一番の問題は、()()()()()()()()()()()()ということだ。そして。

 BRは文字が書けない。

 そう、分からないのだ。今ある記憶文字は下界の()()()が考えた記号を管理者たちが流用しているだけで、BRはそもそもペンすら握ったことはない。手紙なんて書いたこともないし、ましてや瞬時に移動できるうえに、誰もが従う女王に必要すらなかった。


「…なぁ。」

 一番目が口を開いた。そのだらけた姿勢のままで。

 管理者たちが肩を震わせ驚き、全員が座りなおす。

「…いったん……持ち帰らせて。いや、やるって決めたわけじゃないが。」

 気が重たそうに一番目がそう伝える。彼女たちは予想外だという表情と、一部は何の話だっけ?と首を傾げていたが、そのまま解散となった。

「(…もう少し様子見てあとでiaちゃんに謝ってこよ…)」

 13番目は工房で宝石を弄りながらため息を吐いて机に突っ伏した。


 その数日後。

 上界、記憶の書斎にて。五番目は今日もせっせと毎秒更新される記憶世界の情報を全て手書きでそれぞれの本に記していた。機械だからこそ、義手だからこそ出来る動きで。銀の腕には13番目が施した美しい植物の彫刻が施されている。

 ここには数日に一回、特定の来訪者が居る。

 たまに13番目や、4番目が迷子の子を連れてきてデーターの処理を任されるのは例外として、決まったあの子が一人で。

 最近はあの会議の後から暫く来ていない。

すると、扉が開く。こっそりと入ってきたが、5番目の愛馬の機械が鳴いて挨拶をした。

「ちょっ、おい、静かにしろって…!」

「…そんなに静かに入ってこなくてもいいだろう。」

「うるせーうるせぇうるせぇー。別に今日はお前と話しに来たわけじゃないんです~」

 一番目の胸には何十枚かの小さな紙とペンが何本か抱かれていた。

「文字の本なら、見やすいのが二階にある。」

「………っは、ちげぇし!!!!」

 一番目はそう叫んでダッシュで二階に上がっていった。その顔は一瞬赤くなってはにかんでいた。



「えーっとこれは…これか、ふむ…で次が此奴で…あー!!面倒くせぇー!!」

 BRはペンと書きかけのぐちゃぐちゃの紙を空中に投げ捨てて、椅子が倒れるくらいのけぞって、ガタンと椅子ごと着地した。

「わ”がん”ね”ぇよ”ぉ~…なんだよ此奴ら~種類多すぎるだろうがよぉ~…あ”ぁ~」

 彼女は勉強したことがない。勉強する年になる前に()()()()()()()()()()()()()やり方も分からないしペンの持ち方もグー握りだ。ただ幼児のお絵かきのようにぐるぐる描くのが精いっぱいだ。しかし

「他の奴に笑われたくねぇし…やるしかねぇ…。」

 実は数名管理者の中で文字が書けない子がいるのは事実だが、まだペンは持てたり、たまに文字を忘れるぐらいで、BR以上に出来ない子はいないのである。一番強いという誇りもあってか、負けず嫌いな彼女はどうしても他の子に頼りたくなかった。

 ここ最近は平穏で悪戯を起す気力もなく、ただただ暇だったBRは時間をたっぷり使って…たまに放り投げたくなる、いやもう実際にペンを投げてダーツもどきをしたりしながら…。



 登校日、黒記は荷物を机に置きと白記を席に座らせると、すぐiaの席へ向かった。彼女は黒記の顔を見ると立ち上がって、

「ど、どうでした…?」

 と聞いてくる。黒記は少し言葉を詰まらせたが、

「いやぁなんだか…うん、言ってみたんだけどめっちゃ不機嫌になっちゃってさ。そのあとも返事聞けてないし…どうしよう。ごめん…」

「そうですか…えぇ、ありがとうございます。」

 すこししょんぼりした顔を見て黒記は胸が痛んだような気がした。


 放課後、iaが、生徒でにぎわう廊下を歩いていると、黒猫が一匹。

 にゃーと鳴いて、廊下の真ん中で座っている。ふと顔を上げると、先程まで賑やかだったろうかも教室も誰も居ない。しん…と静まり返った学校にポツンと取り残されたようだった。

「みなさんは…?」

 黒猫がまたにゃーんと鳴くと、廊下を歩き始めた。暫く行ってまるでiaを待つように背中を向けて座って顔を向けていた。その首輪には青いリボンの結び目に青い薔薇の飾りが一つ。青い眼をした黒猫はiaが恐る恐ると近づいてくるとまた廊下を進んで、座ってまた待っていた。曲がり角を曲がるとまた待っている。階段は踊り場ごとに待ってくれていた。

 誰も居なくなった学校…よく見れば視界は霧が薄くかかったかのようにぼやけていてその中ではっきり黒猫だけ見えている状態で、意識が少し朦朧としている気がする。そのまま昇降口を出て花畑に足を踏み入れた瞬間、iaははっと。その場ではっきりと意識を取り戻した。

 花畑はいつもの色とりどりの花畑ではなかった。まるで誰かが作り変えてしまったかのように、真っ青に染まっていた。青い薔薇が、この世に存在しない光景が広がっていたからだ。黒猫はその青薔薇の中でまた鳴いていた。その口には一通の封筒を咥えている。

 黒猫はiaの元に初めて駆け寄って、足元にすり寄ると、そのまま封筒を差し出した。

「…くれるんですか?」

 その封筒は少し青みががっていて、封をされたスタンプは青い蝋に薔薇の模様が浮き出ていた。

 iaは突如置いていかれたその封筒を手にして裏表を見たが、送り主が書いていない。宛名は「願った主へ」と不慣れな、ゆっくり描いたようなガタガタの文字でそう書かれていた。

 それを読んでいる間に、また黒猫は鳴いて、どこかへ走っていくのが視界の端っこで見えた。

「あ、猫さん!待って…」

 花畑に足を踏み入れると、顔を覆いたくなるような突風が吹き荒れる。青い花びらが吹き上げられて、目は開けられない。

 風が収まった時には、その場所はいつもの花畑に戻っており、もう日が暮れようとしていた。

 何だったのだろうと、顔を覆ていた腕を下げると、服とこすれてカサッと音がする。その手にはあの封筒と一輪の青い薔薇が優しく握られていた。

「この青薔薇は一体いつ…」

「おーい!iaちゃん、良かった。探したよ~もう下校時刻ギリギリ!」

 黒記が荷物を持って走ってくる。

 時計を見ると、既に5時前だったのに目を丸くして、急いで荷物を受け取って校門まで走る。

「ていうかあそこでずっと何してたの?」

「さ、さぁ…?」

「なんじゃそりゃ~面白すぎる。」

【青薔薇の手紙)

(漢字付き翻訳版)(文字が結構崩れており、何度か書き直した形跡がある)


こんにちは

こんばんわ

おはようなのか、わ(分)かんないけど

はじめて(初めて)てがみ(手紙)を、か(書)いた。どういうこと か(書)けばいいのか わ(分)からないけど、これから すこ(少)しの あいだ(間)よろしく


ぶるーろーず より

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