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7±∞ (作:珠島 詩音)

 うわさどうり、こーこーせいはそこにいた。かわらで足を組んでねそべって、空を見上げていた。

「お前、ヘンなんだろ!」

 そう言うとこーこーせいはふりかえった。しわくちゃなせいふくに、けだるそうな顔をしておれを見た。そんで、はなでわらって、空を見る。ムシだ! ムシしちゃいけねえんだ! 

「………お前、虹見たことある?」

 バカって言ってやろうとしたらこーこーせいがしゃべり出した。よかった、バカって言わなくて。バカって言う方がバカだもんな! おれの方がバカになっちまう!

「ニジくらい見たことあるにきまってんだろ! バカにすんな!」

「じゃ、問題。虹は何色(なんしょく)だ?」

 こーこーせいはねころんだまま、顔だけこちらに向け、しゃべった。おれの方が上から見てんのに、なんかぎゃくに見下されてるみたいだ。ハラタツ! ムカつく!

「7色にきまってんだろ!」

 おれがそういうとこーこーせいはハッとわらった。なんなんだこいつ! ヘンな上にハラタツ!

「俺も昔はそう思ってたさ」

 こーこーせいは立ち上がると手をふりながらどっかに行った。おれが「おい!」ってなん回もさけんだけど一回もふりかえらなかった! なんなんだあいつ!

「バーーーーーーカ!」

 そうさけんでからバカって言うヤツの方がバカなんだって思い出した。ちがうし! おれバカじゃねえし! こーこーせいがヘンだからバカがうつっただけだし! おれバカじゃねえし!


 次の日は雨だった。雨の日は外で遊べねえし、きらいだ。母ちゃんが「はけ」ってうるさいから、しかたなく長ぐつをはいた。歩きずらいからきらいだ。

 ほうかご、外を見たら雨が止んでいた。でもまっ先に目に入ったのは雨がやんだことじゃなかった。

 ニジだ。

 むがむちゅうで走った。

――じゃ、問題。虹は何色だ?

 数えてやる。ぜってえ、7色だかんな!

 いきをきらしながらおくじょうに立った。べつにつかれてなんかねえし!

 「……あか! きいろ! みどり! あお! ……むらさき!」

 指をおって数えながら色をさけぶ。もういっかい、よく見てさけぶ。でも、なん回見ても、なん回さけんでも、あかときいろとみどりとあおとむらさきしかない!

――7色に決まってんだろ!

 きゅうにすんげえはずかしくなった! 顔から火が出そうだった! おれがヘンみたいじゃん! でも先生、ニジは7色だって言ってたもん! 母ちゃんがよんでくれたえほんにもニジは7色だって! みんなうそつきじゃん! バカじゃん!

おれはまた走った。あのかわらへ。ヘンだって、みんなに言われているあのこーこーせいがいる、かわらへ。やっぱ長ぐつだと走りずらい!

 こーこーせいはやっぱりそこにいた。あいかわらずかわらでねころがってる。雨で草がぬれてるのに、やっぱこいつヘンだ!

「おい! こーこーせい!」

 こーこーせいはきのうと同じようにねころんだまま首だけこっちにむけた。やっぱだるそうな、めんどうくさそうな顔をしている。そういう顔してるとやる気がねえって母ちゃんにおこられるんだぞ!

「……なんだよ、しょーがくせい」

 おれを見ているようで見てないみたいでなんだかくやしかった! だからおれはもっとこーこーせいの近くにかけよった。

「おれはこーこーせいを上から見ないぞ! だからこーこーせいもそういうふうにおれを見ちゃだめだからな!」

 そう言いながらこーこーせいと同じようにねっころがった。つめたい! こんなとこにねっころがるなんてやっぱこいつヘンだ! でもおれはおき上がらないぞ!

「……変な奴」

「バカって言うほうがバカなんだぞ!」

「いや、言ってねえよ」

 そう言うとこーこーせいはわらった。うわ、びっくりした。人のことバカにするようなえがおいがいもできんだ! すげえ! なんかおれ今、すっげえかんどうした!

「お、おれ! ニジ数えたぞ!」

 おれたちがねころんでいる位置からもちょーどニジが見えた。おれはニジをさしながら言った。

「ああ……」

 こーこーせいはニジを見ながらぼんやり言った。今まで気づかなかったのかな? ずっとねっころがって空見てんのに? ヘンなの!

「5色! 5色見える! あか、きいろ、みどり、あお! むらさき!」

「ふーん」

 こーこーせいはそう言いながらじっとニジを見ていた。しばらくなんにも言わなかった! 

「……俺は8色だと思うな」

「……おもう?」

「………」

 こーこーせいはやっぱりしばらくだまってた。やっぱりこのこーこーせいはヘンだ!

 こーこーせいはじっとにじを見る。おれもじっとニジを見る。そしてもっかい、色を数えてみる。

「あ、やっぱオレンジも見えるかも! 6色? なあ、あとの2色は!?」

 そう言って、こーこーせいの顔を見たら、なんか、すっげえなきそうな顔してた。びっくりした。

「……ま、実際今の俺が認識できるのは3色だけなんだけどさ」

「3色しか見えねえのに8色あるっておもうの?」

「そ」

「なんで? なんで?」

 おれがきょうみしんしんで聞くとこーこーせいはちょっとこまった顔をしてた。

「ニジのまわりは何色(なにいろ)?」

「まわり? そらのこと? そんなんそらいろにきまってんだろ!」

「うん、そ。で、仮にニジを7色だとするだろ。実際そんなに見えねえけど、まあ例えばの話だからな? ぐーたら言うなよ? で、その7色にまわりの空の色も入れたら8色になんの。だから虹は7色じゃなくて8色なんだよ」

「……よくわかんねえ!」

 おれはそう言って口をとがらせた。そしてニジを見る。また数える。あか、おれんじ、きいろ、みど……んーあれ、きみどりもあるかな? よくわかんない!

「………まあ、虹っていう単体だけを見るんじゃなくてさ、ちゃんと周りもよく見なきゃダメ、ってこと」

 そう言うとこーこーせいは自分の目をゆびさした。

「じゃなきゃ俺みたいなことになっちゃうからな」

 なみだは出てないんだけど、なきそうにそう言った。おれはとっさに立ち上がった。

「なんかよくわかんねえけど、きょうそうしようぜ!」 

 おれはランドセルをせおって、こーこーせいを上からみた。

「どっちが先に、にじの8色を見られるかきょーそう! いまのところ、おれは5色でこーこーせいは3色だからおれのかちだな!」

 こーこーせいはぽかんと口をあけておれをみた。ヘンなやつがヘンな顔してる! ヘンなの!

「……俺はお前の方が変だと思うなあ」

 こーこーせいはそう言うと立ち上がった。ムッとしてこーこーせいを見上げる。こーこーせいはそんなおれを見て、ニヤリとわらうとまた手をふりながらどっかに行った。

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