いのちの行方
健一郎は、悩んでいた
最近1ヶ月、週に2回以上、アラートが鳴るようになった
雪奈の体調が悪くなり、手足の痺れや痛みを訴える様になってきた
脱力による転倒もあり、ハウスキーパーロボットに、任せっきりに出来ない
ルーモも頑張っているが、そろそろ限界の様子である
「入院・・かな?」
ボソリと健一郎が呟く
(なんで? 入院すれば治るの?)
ルーモは聞く。 答えは分かっているはずなのに・・
(ホスピス入院ならば、自宅でも構わないはず、雪奈もそれを望むだろう)
「ネルモの言う事は正論だ。しかし・・万が一の事があった時・・責任が取れない」
(大丈夫だ、雪奈が一番、良く分かっている)
ネルモは何故、そこまで言い切れるのか?
何を知っている? いや、何かを隠している?
不意にアラートが鳴る、本日2度目である
急いで、雪奈の部屋に向かう
四肢の痛みを訴える雪奈、発汗、心拍数が多い、血行不良からか四肢の色も悪い
『!!!』
再びアラートが鳴る
すぐにハウスキーパーロボットが、部屋に来た
そして、デジャヴ・・
『ガシャッ』
『ギュルンッ
『ガコココココッ』
『ガチャン、ガチャン』
『グィィィィン、プシュー』
ストレッチャーに変形した
「・・・教授ぅ、ロボットの完成度、万能性、素晴らし過ぎマス」
健一郎は、あっけにとられ、感心しながらも、こめかみを指で押さえていた
ストレッチャーロボは、雪奈を優しく移乗した後、廊下に出る
天宮家の部屋が、『幅の広い、吊り形引き戸』になっているのは、ハウスキーパーロボの為だと思っていたが
ストレッチャー移動時の障害を無くす為でもあったのだと、初めて理解した
そして、ストレッチャーロボは『ピカソ』の前で停止
『ビポポポポッ』低周波音を発信すると壁が開き、中に入っていくストレッチャーロボ
壁が閉まらない内に、中に入りたい
慌てる健一郎は、足をもつれさせ転倒する
まだ閉まらない、大丈夫だ、慌てるな
這いつくばる様な格好で、やっと健一郎は中に入る、そして壁が閉じる
「下に移動している? 確かここには階段があったはず、エレベーター機能まであったのか?」
「教授、さすがです。趣味の限りを尽くしてますね」
「この状況で不謹慎ですが、楽しくなってきました。最後まで、雪奈に付き添いますよ」
「え・・地下2階? いや3?」
エレベーター停止、そして開いたドアの向こうには
眩い光
無数のロボット、マニピュレータ群
耳が痛い程の静寂
あっけにとられ、放心状態の健一郎
ストレッチャーロボは、音もなくスルスルと中に入り、ドアが閉まる
その場に取り残される健一郎、ルーモ&ネルモは雪奈と一緒だ
「あー、しまった」
恨めしそうにドアの向こうを眺め、途方にくれる
『ポーン』
『こちらへ、どうぞ』
不意に女性の声、いや、人工音声か? 人工音声特有の堅さがない
頭上でランプが点灯し、隣のドアが開く
中に入ると、10台以上のモニターがズラリと並び、50インチ程のメインモニター
マイク、キーボード、トラックポインタ等の入力デバイスもあった
『ポーン』
メインモニターに女性の顔が映り、喋り出す