平民生まれのTS【ヒロイン】は理不尽なエロ展開に翻弄(ほんろう)され、高位貴族たる【悪役令嬢】は課金チートで優雅にほくそ笑む
先日、目にしたニュース『妻が乙女ゲームに500万円課金』をネタに短編を書いてみました。
当然のことながら、実在の人物や団体などとは関係ございません。
「おい! 深香!! これは一体何だ!?」
「何だと仰られても……。消費者金融の督促状でしょうか?」
俺こと伊東博之が仕事を終えて自宅へと戻った時、郵便ポストに見慣れない封書が届いていた。
宛名は妻の伊東深香である。
だが、差出先を確認すると、テレビのコマーシャルなどでもお馴染みの大手消費者金融からだったのだ。
深香には悪いと思いつつも封を切って内容を確認すると、彼女は件の消費者金融から多額の借金をしており、その借金の返済を求める督促状だったのだ。
借金の総額は500万円を超えており、博之としても直ぐには返済できない大金である。
深香は博之よりも5歳年下の御年22歳の美女であり、お見合い写真の段階からひと目惚れした恋女房だ。
『痘痕も靨』とか『恋は盲目』とかとは良く言うが、美しい深香に惚れた博之は、見合いにデートにと押し捲って、何とか結婚に漕ぎ着けた相手であった。
ところが有名幼稚園から一貫教育の名門女子短期大学を卒業したばかりの深香は、純粋培養のお嬢様として育ったからか、一般常識に欠けるところがあったのだ。
特に経済観念が未発達で、博之が汗水垂らして稼いだ給与を貯蓄に回すことは殆どなく、逆に結婚前に貯めていた貯金を取り崩して生活しているという体たらくだったが、美しい深香に惚れている博之としては、嫌われることを恐れて今まで我慢していたのだが……。
「ちょっとこっちへ来い、深香!」
「きゃあ、痛い、痛いの。乱暴に掴まないで! 貴方!!」
博之としては、今日という今日は深香に説教するために、彼女の腕を掴んで家の外へと連れ出した。
この行動は、所謂、折檻行為の歯止めのためであった。
密室状態となる自宅の中では、酷い暴力を振るってしまう事を懸念したが故に、屋外へと連れ出したのだ。
当然の事ながら屋外では他人の耳目があるので、互いに自制することを期待したわけである。
更に近くの国道の脇では自動車の騒音により、他人に喧嘩の内容も気取られないというメリットもあると思われた。
「おい深香、この借金は如何したのだ! 500万円を超える借金があったとは……。しかも返金が滞っているので、これ以上遅延すれば簡易裁判所に訴えると書かれているぞ!!」
「博之さん、酷いですわ。わたし宛の手紙を読むなんて! プライバシーの侵害だわ!!」
「馬鹿野郎! 宛先を見れば、消費者金融からの手紙だと分かるじゃないか! それで借金を作った理由を説明しろ。若しかして、結婚する前から借金塗れだったのか?」
「こ、これは結婚してから作って仕舞ったの……」
「この借金で何を買ったというのだ!」
「それは……その……スマホの『乙女ゲーム』に嵌って仕舞って……」
「深香、正直に言え! 高々ネトゲでこんな借金ができるものか!」
「わたし……攻略キャラのために課金していたら借金がいつの間にか膨らんで……」
「お、お前という奴は!」
「ぼ、暴力は反対よ」
博之は深香の説明により頭に血が上り、つい右手を振り上げて彼女の頰を張ろうとした瞬間。
キィキキキッ……ドガァアァアァァン
行き成りガードレールを突き破って、2人の喧嘩していた場所へとトラックが突っ込んできた。
その次の瞬間、博之と深香はトラックに撥ねられ、空中に投げ飛ばされた。
薄れゆく博之の真っ赤に染まった視界には、首や手足がありえない角度に曲がった深香の無残な姿が映っていた。
結果としてトラックに轢かれた博之と深香は、即死だった。
「起きよ! 我の前で寝ているとは、不遜であるぞ!!」
「――……此処は、一体何処だ!? それよりも俺は生きているのか?」
「――……わ、わたし……トラックに轢かれたような!?」
「深香、無事だったのか。だが、今日という今日は赦さない。折檻してやる!」
「暴力反対よ! 狭量なのだから! お仕置きをするというのなら、受けて立つわ!!」
「鎮まれ! 馬鹿ども。 我の眼前で喧嘩するとは……」
再び意識を取り戻した博之と深香は、何やら不思議な空間にいた。
何というか地面はふわふわとした雲で出来ており、眼前には神聖さが漂う白亜の神殿が聳え立ち、更に金髪の美しい女性が2人を睨んでいたのだ。
そして、その女性は、口喧嘩している2人を叱責したのである。
「目覚めたようですね。伊東博之さんと伊東深香さんに間違いないですよね。我は輪廻転生を司る女神のカリィーンカと言います。お前たちは互いの確執が強すぎますね。このまま輪廻の輪に戻すことはできません」
「な、何を言っていやがる?」
「女神たる我に対して無礼ですよ? 立場を弁えよ! 愚か者!!」
ピカッ、ドッカァアァァン
「うぎゃやゃやゃゃゃゃ」
事情の解らない博之が自称女神のカリィーンカに文句を言ったところ、彼女が持っていた錫杖を軽く振るった途端、彼の全身が眩い光を伴った雷撃で打ち据えられた。
博之の全身に雷光が迸り、絶叫して失神したのだ。
「こ、これは! ……カリィーンカ様、失礼いたしました」
博之の全身が雷に打たれるという驚愕の場面をみた深香は、要領よく女神カリィーンカに平伏した。
「わたし……死んだのね。これは博之さんの所為だわ!」
事情を理解したらしい深香は、彼女が死亡する原因となった博之を睨み付けた。
「……そうか。俺はトラックに轢かれて死んだのか。それもこれも借金を作った深香の所為だ!」
博之に取って恋女房であった深香だが、自身の理不尽な死を前にして深い愛情が転じた憎悪から表情を歪めて彼女を睨んでいる。
「お前たち……死んでからもいがみ合うとは……。お前たちは特殊な異世界へと転生して反省するが良い。若しくは喧嘩の決着を付けよ! 然すれば、自ずと魂も安んずるであろう」
「お、俺が異世界転生だって!?」
「わたし、わたし……これが所謂『トラック転生』という奴なのね」
2人が絶句している間に、女神様は今後のことを説明してくれた。
曰く、2人が送られるのは深香が借金を作った件の『乙女ゲーム』であるレインボーララバイが現実化した異世界であるという。
そしてレインボーララバイでは、王太子殿下、宰相の息子、将軍の息子、大商人の息子、麗しの神官、隣国の王子、未覚醒状態の魔王といった7名のイケメンを攻略するゲームらしい。
そして転生先の選択肢として、【ヒロイン】と【悪役令嬢】が提示されたのである。
【ヒロイン】と【悪役令嬢】の恋の鞘当ては、レインボーララバイのメインストーリーであり、お相手となる王太子殿下との絡みで幾つもの結末が待っているマルチエンディングストーリーであるという。
毎日真面目に働いていた博之も、通勤中にネトゲを楽しむことはあった。
だがしかし、『乙女ゲーム』というジャンルのゲームはしたことがなかったのだ。
だけれども乏しいゲーム知識で【ヒロイン】と【悪役令嬢】を比較してみたところ、やられ役らしい【悪役令嬢】を選択することは得策ではない。
つまり王道展開の期待できる【ヒロイン】の一択である。
「それでは、転生先は決まりましたか? 今回の事件では被害者寄りである博之さんに優先権を授けましょう」
「お、俺は【ヒロイン】を選択する。だが、その前に俺は男なのだから【ヒーロー】とか【勇者】とか【賢者】とかが選択できないのか?」
「残念ながら、その他の配役は埋まっているのです。それでは深香さんは【悪役令嬢】に転生させますね」
「あ、あの女神様。わたしが転生させられるという異世界ですが、前世の課金情報は活用できるのですか?」
「ええ、勿論、有効ですよ。それから博之さま。転生先の【ヒロイン】ですが、生い立ちは平民の生まれとなります。そして――」
「まあ、妥当な設定だな」
女神様は博之に【ヒロイン】のキャラ設定の説明を始めたのだが、途中から声が小さくなって聞き取れなかった。
「それでですね。互いの勝利条件としては、相手を破滅させることとなります」
女神カリィーンカから伺った勝利条件を聞いた博之と深香は、互いに敵となる相手を睨み付けた。
女神様の目的としては、前世の遺恨を晴らすことにより魂の安寧を図って来世へと輪廻転生の輪に戻すための処置だったのだ。
「それでは、直ちに『乙女ゲーム』であるレインボーララバイの異世界へと転生なさい。ああ、ちょっと言い忘れていたことがありました。【ヒロイン】が生まれるのは『18禁ゲーム』の世界となります」
「な、なんだって!?」
女神様の追加説明に驚いた博之は声を荒げた。
駄女神の不審な態度から、明らかに不利な情報を隠蔽していたことが窺われた。
異世界転生が始まり、意識が薄れていく中で聞いた駄女神の追加説明は次の通りであった。
曰く、『乙女ゲーム』に登場する【ヒロイン】は、男爵家の養女と成った後に編入する王立白百合学園で【ヒーロー】役である王太子殿下に見初められるシーンからの登場らしい。
その【ヒロイン】の生い立ちに関しては、『乙女ゲーム』の人気が出た後、大きなお友達向けの外伝が制作されたのだということだが、その世界は元の『一般ゲーム』ではなく『18禁ゲーム』であったということだ。
明らかにコアなファン向けの設定らしい。
間違いなく駄女神は博之に、十分な説明をせずに選択させたということである。
結果として博之の勝利条件は、『18禁ゲーム』の世界で何とか自身の純潔を守って、本編である『全年齢版』の『乙女ゲーム』の世界へと繋げ、『ヒーロー』役の王太子殿下と結ばれつつ、【悪役令嬢】に転生した深香を破滅させるということであった。
一方、深香に与えられた【悪役令嬢】であるが、高位貴族である公爵家の生まれであり『ヒーロー』役の王太子殿下とは許婚であるのだとか。
従って深香の勝利条件としては、王太子殿下との関係を維持しつつ、【ヒロイン】に転生した博之を破滅させることだという。
何だか異世界転生を始める前から、勝利条件の難易度に大きな違いがあるような……。
博之自身の選択で決めた【ヒロイン】であるが、釈然としない気持ちで意識を手放した。
次に目覚めた時、博之は寝台の中で寝かされていた。
如何やら無事に異世界転生に成功したらしい。
そして、博之は赤子からやり直すこととなった。
「お、おぎゃあ、おぎゃあぁ、おぎぁあぁぁ……」
「まあ、目覚めたら元気に泣き出したわ! おしめが濡れているのかしら? それともおっぱいが欲しいのかしら?」
「きっと、この娘は、お前に似て器量よしになるだろう……な」
「元気な泣き方から、きっと貴方に似そう……ね」
赤子の両親らしい2人が、仲睦まじい様子で寝室から出て行った。
その直後、開いていた窓枠から寝台に飛び乗って好色な視線を向けてくる存在に気付いたのだが……。
赤子に戻った博之に身を護る術はなかった。
そして、好色な視線を向けてくる相手だが、発情期なのか盛った状態の雄猫だった。
つまり、この世界の18禁仕様には獣姦が含まれているということだ。
結局、より一層の大声で泣くことにより、母親が気付いてエロ猫は追っ払われた。
【ヒロイン】と成るべく、異世界転移して女の子と成った博之の名前はルナマリア・ウッドという。
両親は下町で人気の宿屋を経営する鴛鴦夫婦であった。
そして当然のことながら長じて後に、とある男爵家の養女となるような美少女であったのだ。
そしてルナマリアの生まれた世界は『18禁ゲーム』の世界である。
ほんの少しの油断で、エロ堕ち展開のバッドエンドが待っている。
次にルナマリアが襲われたのは、近所の男の子とお飯事をして遊んでいる時だった。
料理に見立てた泥饅頭を出した後、夜の時間だと男の子に圧し掛かられそうになったのである。
だがしかし、その時のために鍛えていた黄金の右脚で男の子の股間を蹴り上げて、事なきを得た。
「ふぅ、あぶなかった」
美少女になるべく生まれたルナマリアは、次から次へと襲われることになる。
八百屋の親父に続いて、魚屋の青年、果ては隠居した爺にまで……。
それでもルナマリアは、黄金の右脚から繰り出される必殺のキックで凌ぎ続けた。
倒された粗末な息子は数知れず。
それから、この世界がゲーム準拠だか如何だかは知らないが、一度倒した相手はルナマリアに二度と興味を示さないという特徴があった。
更に襲撃者の中には女性も含まれ、明らかに百合堕ち展開も含まれていた。
と思えば、ルナマリアよりも幼い少年に襲われるショタ堕ち展開まで経験する始末。
流石は、女性向けの『乙女ゲーム』の外伝である。
鬼畜度合いが半端ない。
そしてルナマリアが散歩すると、近所の大型犬まで盛って襲って来る始末だった。
間違いなくエロ堕ち展開の中に、獣姦堕ち展開が含まれている。
この分では、拷問堕ちや妊娠堕ちなんかもありそうだ。
もしも魔物の出没する森へと向かおうものならば、ゴブリンやオークが大挙して襲ってくることだろう。
更にルナマリアを襲う野郎の中には、飛び掛かる空中で器用にズボンとパンツを脱いで粗末な息子を晒す輩も存在した。
そして、14歳になったある時、立派な身形の紳士に襲われたのだ。
勿論、黄金の右脚は健在で、紳士は悶絶して失神した。
その紳士こそが、ルナマリアの義父となるエルベバッハ男爵、その人であった。
何故だかエルベバッハ男爵に気に入られたルナマリアは、とんとん拍子で養女の話が決まり、男爵家令嬢になっていたのである。
当然の事ながら、エルベバッハ男爵家では男爵夫人から媚薬を盛られたり、使用人たちから襲われたりしたが、何とか躱すことに成功していた。
併せて、馬車を牽く馬たちも巨大なモノで襲ってくるが、黄金の右脚と秘技肘打ちで粉砕した。
全ての敵を薙ぎ倒したルナマリアに、ひと時の平安が訪れる。
今度こそ、男爵家令嬢としての行儀作法のお勉強が始まった。
肉体言語には長けたルナマリアだが、お淑やかな貴婦人になれるのか!?
そして男爵令嬢として社交界デビューするために、洗礼名を付けてもらったのだが、その際にも懺悔室で司祭様に襲われた。
結局、司祭様も股間に黄金の右脚による蹴りの洗礼を受けて悶絶した。
そして、その時、博之の生まれ変わりである美少女のルナマリア・ウッドの頭の中に、件の駄女神の声が響いてきたのだ。
『これにて『18禁ゲーム』仕様の外伝はクリヤーしました。次のステップに移行します。同時に不要となった肉体言語は封印します』
斯うしてルナマリアが鍛え上げた『黄金の右脚』と『秘技肘打ち』は封印されたのだ。
これは『18禁ゲーム』から全年齢対象の『一般ゲーム』の世界へと移行したことによる処置らしいが、ルナマリアの胸には一抹の寂しさが去来した。
同時に【悪役令嬢】に異世界転生した深香に対する攻撃手段を喪失したのと同義であった。
あの駄女神の野郎、何てことをしてくれたのだ……。
その晩、理不尽な怒りからルナマリアはまんじりともできなかった。
美少女に育ったルナマリア・アルテリア・ド・エルベバッハは、気だるげに微笑んだ。
生まれた時の名前であるルナマリア・ウッドから貴族令嬢らしい名前になっていた。
「これでようやく『乙女ゲーム』に突入ですわ」
すっかり美少女然としたルナマリアであった。
エルベバッハ男爵家の攻略後に受けた貴族教育により、一端の貴族令嬢と見紛う礼儀作法を身に着けていたのだ。
そして『乙女ゲーム』の舞台となる王立白百合学園に無事編入したルナマリアであるが、お目当ての王太子殿下はおろか、攻略キャラの全員がとある美少女に傅いていたのであった。
その美少女こそ、【ヒロイン】であるルナマリアの仇敵となる『悪役令嬢』であったのだ。
確か、駄女神からの説明によると公爵家令嬢である『悪役令嬢』は、無駄に高いプライドにより周囲から浮いている筈であったのだが……。
ところが現実には、全攻略キャラを従えた完全無欠のお嬢様キャラに成っていた。
そして、何とか王立白百合学園に編入できたルナマリアであったが、王太子殿下と会うことが叶わない。
舞台設定が根底から覆るというか、『乙女ゲーム』で王太子殿下と出逢う筈の場面に、彼は現れなかった。
何となれば【悪役令嬢】であるテレージア・マリナベルル・ド・シュタインベルデが王太子殿下をお茶会に招いていたからである。
今や【ヒロイン】から【モブA】に落とされたルナマリアは呆然自失状態に陥っていた。
翌日、何気なく王立白百合学園の中を彷徨っていたルナマリアであったが、とある階段のところに佇んでいる。
この階段こそ、【悪役令嬢】たるテレージア公爵家令嬢から意地悪されて突き落とされたと王太子殿下に吹聴することになる現場であった。
「な、何て段数と急勾配なの! こんな場所で階段落ちしたら死んでしまうわ」
「ルナマリアちゃん。みぃ~~つけた!」
ふっ
「き、きゃ」
そしてルナマリアの背後から、行き成りに抱き付いて来た何者かが、耳朶に熱い吐息を吹きかけたのだ。
ルナマリアの口から、可愛い悲鳴が漏れてしまった。
しかし、抱き付いて来たのは、一体誰なのか!?
背中に当たる柔らかな双丘の膨らみと声から、見知らぬ相手も少女であるらしかった。
しかも貧乳なルナマリアと異なり、豊かに膨れているらしい。
「ねぇ、ルナマリア・アルテリア・ド・エルベバッハ男爵家令嬢さん。いえ、博之さん。久し振りですわね」
「あ、貴女は若しかして……深香なの?」
「わたくしは、公爵家令嬢のテレージア・マリナベルル・ド・シュタインベルデですわ」
そしてルナマリアを背後から抱き締めていたのは、敵である筈の【悪役令嬢】だったのだ。
「わ、わたしを如何する気なの?」
「此の儘、突き飛ばして仕舞おうかと思ったのだけれど、わたくし好みの美少女に育っていますわね。此処で選択させてあげますわ♪」
「せ、選択!?」
「ええ、予定通り階段落ちして半身不随になるか儚くなってもらうという選択肢と、わたくしの侍女となって侍ることですわ」
「そ、そんな……。未だ王太子殿下とも出逢っていないというのに……」
「わたくし、前世の課金による知識チートで王太子殿下を含む全攻略キャラは完全制覇済みですわ。既に貴女の取り付く島など欠片もないのですわ」
「そ、そんな」
「さあ、選択しなさいな。わたくしはどちらでも構いませんのよ」
そして進退窮まったルナマリアの出した苦渋の決断は、テレージアの侍女となることであった。
この時点で『乙女ゲーム』の展開から大きく外れていた。
シュタインベルデ公爵家に連行されたルナマリアは、お仕着せのメイド服を着せられてテレージア専属の侍女になっていた。
この事態に、義理の両親であるエルベバッハ男爵夫妻は、ルナマリアが公爵家に取り入ったと大いに喜んだ。
結局、ルナマリアは仇敵である筈のテレージアと共に王立白百合学園に馬車で通うことになるのであった。
そして……全裸のルナマリアは、とある寝室の寝台の上で涙していた。
つまり敵である筈のテレージアに夜伽を命じられたのだ。
鍛え上げた黄金の右脚でテレージアを撃退しようかとも思ったのだが、駄女神によって封印済みだった。
更にテレージアに飲まされた紅茶に仕込まれた媚薬の影響により、発情し足腰が立たなかったのだ。
斯うして、予期せぬ百合落ちで【悪役令嬢】と【ヒロイン】が結ばれて仕舞った。
「わ、わたし……。如何して、わたしを抱いたのよ!」
「だって、攻略キャラが余りにもチョロかったから。それにスレンダー体形とはいえ、流石に【ヒロイン】だけあって良い身体をしていたものね♪ 実はゲームでも狙っていたのよ。『ざまぁ』して破滅させるだけでは勿体ないわ」
「この『乙女ゲーム』の世界は全年齢版なので、エロ堕ち展開はないと思っていたのに……」
「それは……まあ、『魚心あれば水心』、『蛇の道は蛇』というものね」
「そ、そんなぁ~~。うっ……ううっ。うわぁあぁあぁぁぁ……」
折角、『18禁ゲーム』の世界では、純潔を守り切ったというのに!
ルナマリアの肉体は、簡単に汚されて仕舞ったのだ。
ルナマリアの瞳からは、止めどなく涙が溢れてくる。
そして泣き疲れて……、寝台の上で寝入って仕舞った。
そんなルナマリアの蒼い裸体をテレージアは愛おしそうに眺めていた。
「起きよ! 2人とも!!」
再び目覚めた時、博之と深香は再び駄女神であるカリィーンカの前にいた。
如何やら今までの出来事は、駄女神の掌の上で転がされていたようだ。
「深香よ、理不尽に殺された怒りは収まりましたか?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! これは如何いった事態なんだ!?」
「我は女神ゆえ、女性の味方ということである」
「そ、そんなぁ~~」
「カリィーンカ様、心は定まりました。来世も博之様と添い遂げとう御座います」
「そうか……難儀なことであるな」
「そ、それでお願いがあるのですが」
「何なりと申してみよ」
「来世では、性別を逆転させて欲しいのです」
「何と変わった願いであることか」
「わたし、来世では女性となった博之さんを処女喪失させて泣かせてやりたいのです。わたしの時も、とっても痛かったですから……。これで手打ちにします」
「おい! 俺の意見も聞いてくれ!!」
「この場で野郎に発言権などあるものか。其方の願いは聞き届けよう、深香」
「ありがとうございます。カリィーンカ様」
そして、今度こそ博之と深香の魂は、輪廻の輪の中へと還っていった。
お読み下さり、ありがとうございます。
結局、『乙女ゲーム』の世界が登場した時点で、女性優位の結末となりました。
博之もTS【ヒロイン】で頑張ったのですが、本物の女性には適わなかったようです。
設定資料
伊東博之 27歳 俺は……だ
真面目な性格の男であり、お見合い写真で見初めた深香を口説いて嫁とした幸せ者。
ところが世間知らずな深香が大きな借金を負っていたことが発覚し、口喧嘩を始めたのだが……。
運悪く突っ込んで来たトラック轢かれ即死した。
伊東深香 22歳 わたし……だわ
伝統ある女子一貫教育 の女学校を卒業したのと同時に見合い結婚をした美女。
若干気が強いというか世間知らずなところがある。
昼間の寂しさを紛らわせるために始めた『乙女ゲーム』に嵌り、課金によって500万円以上の借金を作った。
博之と共にトラックに轢かれて即死した。
カリィーンカ 年齢不詳 我は……じゃ
輪廻転生を司る麗しの女神様。
見た目は金髪の美女であるが……博之から『駄女神』の烙印を押された。
今回の事態を裏から操っていた黒幕でもある。
ルナマリア・ウッド ~14歳 あたい……なの
下町で宿屋を営む夫婦の娘として誕生した【ヒロイン】。
『鳶が鷹を産んだ』が如き可憐な美少女であったため、周囲から襲われる毎日であったらしい。
ルナマリア・アルテリア・ド・エルベバッハ 15歳~ わたし……ですわ
とある男爵に見初められて、男爵家の養女となり、男爵家令嬢を名乗ることになった【ヒロイン】。
国立白百合学園で王太子殿下に見初められる少し前の場面から『乙女ゲーム』が開始された。
淡いピンクの髪にスレンダー体形の美少女。
ところが現実には……。
テレージア・マリナベルル・ド・シュタインベルデ わたしく……ですわ
公爵家令嬢である【悪役令嬢】。
金髪碧眼に巨乳の美少女。
縦ロール髪と高飛車な雰囲気が漂う。
深香が課金で得た知識チートにより、攻略キャラを全員モノにして逆ハーレムを築いていた。
レインボーララバイ
乙女ゲームの名称
七名の攻略キャラを屈服させて、跪かせるゲームである。
攻略キャラは、王太子殿下、宰相の息子、将軍の息子、大商人の息子、麗しの神官、隣国の王子、未覚醒状態の魔王。
王立白百合学園
『乙女ゲーム』の主舞台となる学園。
外伝
大きなお友達向けに制作された18禁仕様の外伝では、各種のエロ堕ちのバッドエンドが設定されていた。
なお、同性の女性向けであるためか、容赦のないエロ展開だったらしい。
黄金の右脚及び秘技肘打ち
『18禁ゲーム』の世界に異世界転生した博之が編み出した肉体言語。
確実に野郎どもの粗末な逸物を捉えた必殺の武器である。
『一般ゲーム』である『乙女ゲーム』に突入した際、駄女神によって封印された。