誰のせいでもなくて
「なんか最近すっごい孤独なんですよ。押しつぶれています。もうこれ以上生きていけないかもって…。」葉月涼子さんは語る。手で口を押え、目は足下を見つめる。
「10年前とか、まだ高校とか行ってたし。大学も行って。…ここ3年くらいですね、本当に全てを棄てて、集中して、アイドルのこと、させていただいて。ファンの皆さんに支えていただいて。本当に幸せなことなんすけど、その3年でいよいよ人と話せる共通の話題とか、ほんとに無くなっちゃったんです。みんな、久々に会うとフツーにライフイベント結構こなしてて。結婚とか、出産とか。離婚もしてたり。ゲームのトロフィー?ありますよね。ああいう感じで…。私、ひとつも無いんです。趣味だった映画だってもうほとんど、年に1本くらいしか見てないんです。車の免許も持ってないんです。一度は考えましたよ、そういうのに。普通に生きるって。恋人だって。…普通の方です。本当に…。わたし…もう30になっていました。」
「フィッシュマンズで、良い歌詞の曲ありますよね。いい言葉だけを頂戴、とか。あと10年経ったら、とか。ああいうの…。もう、最近何も分からなくて。メンバー以外の飲み会、新年とかで大学の同期とかの集まりに出ると、本当にニコニコして。帰ってきて。布団の中で。朝まで泣いてるんです。」言葉に詰まる、葉月涼子さん。
「なんでこんなことに頑張ってきちゃったんだろう…。私にも、私も。たった1つくらい、人並みの幸せがあってもいいと思うんです…。」
日も暮れた666プロ。暗くなった部屋。プロデューサが話を聞く様子もなく、紫煙をくゆらせ、葉月涼子の上の空間を見つめ続けていた。引退前のアイドルと、よくある光景だった。




