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〜1番目〜

学校帰りの憂鬱な坂道。ため息を吐く気力もなく足を進める。一歩二歩と進んだ先。


瞬きをして目を開けたら突如として現れた白い柱。そして見上げればガラス張りの天井。

後ろを振り返っても、ローブ姿のコスプレみたいな格好をした人しかいない。

夕日に照らされていたブロック塀もなく電柱もカラスの声もなく。ただ春の陽気みたいな陽射しが差し込んでいるだけで。

この空間には僕と不思議な格好の彼らしかいなかった。


どこだかわからない、誰だかわからない人達に囲まれて小学校から高校まで友達ができなかったくらいのコミュ力しかない僕は既に半泣きだった。

一等細かい装飾がある深緑のローブの男性が話しかけてきた。見た目は40代後半くらい。


「っ!!……突然の召喚をお許しください、異世界の勇者よ。どうか我らを魔王の手から救ってほしい」


驚いた顔をしたその人は僕が驚く発言をした。ゆうしゃ、勇者?僕が?ありえない、だってコミュ力0のいじめられるしか能がない僕が勇者?天地がひっくり返っても想像つかない。


「だ、誰かと間違っているのでは……ないでしょうか……?」


無いに等しい勇気を絞り出して言った言葉をすぐに否定された。


「いえ、勇者としても問題ない人のみの探知で召喚術を行なっております。貴殿の勇者としての素質は間違いないかと__」


「オリバエス!その者が勇者で間違いないのだな!?」


彼の言葉を遮ってこの空間で最も高そうな服を着た太った人。豪勢な王冠を頭に乗せたthe王様な人が問う。


「ええ、陛下。間違いはありません」


「そうか!」


確認を取った国王は僕にドタドタ効果音が付きそうな歩き方で近付いて来た。


「余はゼフィット王国国王ディルス・ゼフィット。本来ならば目下の者が先に名乗るのがこの国の礼儀であるが……貴殿はこの国に来たばかりであるからなぁ」


そう言うと僕を一見する。名乗れと言うことだろう。


「僕は……に、二色弥一と申します」


「ふむ、今度からはゼフィット王国勇者、と名乗ることを許可しよう。我が王国で勇者は貴殿だけだぞ?よかったなぁ」


ニタリと国王が笑うとその横から「御時間です、陛下」と声がかかり国王とその声をかけたは階段を降りて行った。

あんまりこの国王好きじゃない。


「ニイロ、ヤイチ、どちらが名か聞いても?」


「あ、えっと、弥一が名前です」


「ではニイロ殿、この世界についても詳しく話すべきだと思います。場所を移しましょう」


敬語がひどく落ち着かない、彼にはあとでそう伝えなくては。



あのあと半ば引きずるように案内されたのは王城の客人用の一室。僕はなぜここにいるのだろうか。

目の前に座った彼の名はオリバエスと言うらしい。国王が呼んでいた名前だがおそらくそれは名前ではなく苗字だと思うが、それだけしか名乗らなかった。細かい刺繍のフード付きのマントとその下の貴族のような服装からしてかなり偉い人だろうと思う。

オリバエスさんは気難しげに眉間に皺を寄せたままため息を吐く。


「確か貴殿の住んでいる国では苗字を先に名乗るのだったな。ここでは名を先に言う。

ヤイチ・ニイロ。次からそう名乗るといい」


そう言うと手元の書類に視線を戻した。先程からファンタジーの文官のような格好をした人が急ぎ足で書類を運んでくる。

既にオリバエスさんの前にかなりの書類が積まれているがまだまだあるようだ。

この部屋には僕とオリバエスさんだけしかおらず、彼が書類付きっきりになると暇……というよりは不安なのだ。この異世界で初めて話したのがオリバエスさんで、顔見知りは彼だけ

だから。もしかして殻から初めて出た雛はこんな気持ちなのだろうか。


「えっと、そのオリバエスさん。僕がなぜここにいるのでしょうか」


「私は召喚術を使ったに過ぎない。この世界とそちらを繋ぐ穴を開けただけだ。それに偶然貴殿が落ちただけであって、そこに明確な意図はないだろうと予想している。ただ、勇者としての素質がある、という条件を満たしただけだろうと思う。」


書類から顔を上げないままそう答えた。

僕が偶然落ちただけ……そして偶然ここにいるだけ。そう言われると何かが胸に重くのしかかるような心地だった。

僕をちらりと見るとオリバエスさんは文官のような人に向かって叫んだ。


「ジゼル!エリアスでも呼んでこい!!ブランシュでも構わん!」


「うぇーめんど……はい了解しましたぁ!」


面倒だと言いかけた書類を運んでいた文官__ジゼルさんをひと睨みしてさっさと行かせた。


「ああ、すまない。色々と詳細を説明しようと思っていたのだが厄介なことに私は書類の山に追われているのでな。代わりの者を呼ぶことにしたんだ」


たしかに僕はこうなったものは仕方がないと思ってぼーっとしてたがこの世界のことをほぼ何も知らない。知っていることと言えばこの世界が魔王に支配されそうで僕が勇者らしいってことだけだ。


「お気遣い感謝します」


僕はそう言って頭を下げた。


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