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てんあいの御伽草子  作者: てんあい
1/3

阿修羅王の問い

それは、何処かの世界の、何処かの国の、何処かの人々の物語。



お初にお目にかかる。

余の名は、毘摩質多羅びましったら

汝達には、「阿修羅王」と名乗った方が通りが良いかも知れぬ。

余は、阿修羅の王として自らの身を常に戦いの渦中に置いてきた。

それこそが余の、そして、阿修羅の存在意義そのものだと信じてきたからだ。

だが、そのことを根底からくつがえ)される出来事があった。

余が考えもしなかった、本当の戦いの意義についてだ。

そのことを今、汝達に話したいと思う。

それは、人知を超えた遥かなる昔、我が宿敵帝釈天たいしゃくてん)との決戦が始まりだった。



「怯むな、つっこめ!」

「今日こそは、彼奴きゃつ)らと決着を付けてくれるわ!」


激しくぶつかり合う軍勢、響き渡る剣戟けんげき)の音。

余は配下の阿修羅達と共に、帝釈天率いる天軍と戦いを繰り広げていた。

彼奴とはもう何度、戦い合った事だろう。

戦いは一進一退。

余が勝つときもあれば、彼奴が優勢となるときもあった。

原因などどうでも良い。

いや、正確に言うと、何故この戦いが始まったのかさえ記憶が薄れてしまうほど、すなわち、戦いそのものが目的となってしまったと言える。

余と帝釈天は、いつ果てるとも知れない戦いに身を委ねてしまっていたのだ。

だが、今回は違った。

士気の奮わぬ天軍に対して、余の軍勢は攻勢をかけていた。

勝てる、勝てるぞ。

余は、眼前にある勝利を思い、小躍りをしてしまいそうだった。


「良いぞ、天軍は恐れをなしておる。今じゃ、押し出せ!!」


余の命に阿修羅達は雄叫びをあげつつ、天軍に切り込んで行く。

帝釈天の軍勢は、何とか踏みとどまっているが、総崩れとなるのは時間の問題だと思われた。

次の瞬間、帝釈天の乗った馬車がきびす)を返す。

彼奴め、己の不利を悟り、戦場から逃げ出したのだ。


「彼奴が逃げるぞ、追え、逃がすな!!」


帝釈天の後に続く天軍を追い、余の軍勢は追撃を開始する。

必死に逃げる天軍、それを追いかける余の軍勢。


「王よ、勝利は我らのものでございますなぁ」


臣下達が言上してくる。

余は鷹揚おうよう)に返事を返した。


「うむ、長かったぞ、だがそれも今日で終わりだ。見よ、彼奴らめ森の中に逃げ込もうとしておるわ」


帝釈天と天軍は余と余の軍勢を振り切ろうとしたいのであろう、先にある森へと逃げ込んでいった。

愚かな、袋のねずみだ。

余は、帝釈天の行動が滑稽に見えて仕方が無かった。


「はははははっ!帝釈天よ覚悟するがいい。余の勝ちだ!」


だがそのときだった。

一斉にときの声があたりに響く。

森に逃げ込んだはずの天軍が、帝釈天を先頭に攻め返してきたのだ。


余は最初、何が起こったのか理解することが出来なかった。

余の軍勢は、間違いなく帝釈天を追い詰めていた。

追っ手から逃れるために、彼奴は森に逃げ込んだ……そうとしか思えなかった。

それが、何としたことだ。

帝釈天を先頭に、天軍は森から逆に打って出てきたではないか!!


「こ、これは一体……」

「王よ、ご覧くださいあの大軍を。帝釈天はあの森に軍勢を隠していたに違いありません。これは罠です!!」


次々と討ち取られていく余の軍勢。

こうなってしまえば、もうどうすることも出来なかった。


「た、退却だ!!引け、引けーっ!!」


余の軍勢は総崩れとなり、余自身は命からがら逃げ出して波熱池はねっちの蓮の葉の影に身を小さくして隠れるしかなかった。

あまりの屈辱に身を震わせながら……。


余は、分からなかった。

何故我が軍勢は、あれだけの優勢を保ち、帝釈天を後一歩のところまで追い詰めていたはずなのに、敗れてしまったのか。

あれは、本当に帝釈天の策略だったのであろうか。

悩みに悩んでいた余は、しばらくして衆生(しゅじょう。全ての生き物の事)に教えを説いている仏陀と言う存在を知った。

臣下に調べさせてみると、仏陀は衆生に勇気と希望を与え、大変な尊敬を勝ち得ているらしい。

であるならば、余の悩みにも何かしらの答えを与えてくれるかもしれない。

そう思った余は、人の(少年ならば怪しまれまい)姿に身を変え、仏陀の下へと赴いた。


仏陀は、大きな菩提樹の下でたくさんの衆生達に取り囲まれ、様々な教えを説いていた。

やがて余は招き入れられるままに、仏陀の前へとやってきた。

余は仏陀に合掌をし、問いかけをなそうとした瞬間、先に仏陀が声を発した。


「汝の名は何か?」

「え?は、はいっ、毘摩質多羅と申します」


突然尋ねられ、余はごまかすことなく名を名乗ってしまった。

仏陀は目を細め、耳に心地よい声をかけてきた。


「良い名をお持ちであられるな……よくぞ来られた、阿修羅の王よ」

「!!」


なんと仏陀は、余の正体を見抜いていたのだ。


(これは敵わぬ……)


全てを観念した余は、阿修羅王たる真の姿に戻り、仏陀に問いかけた。


「世尊(せそん。仏の異名)よ、そうです。余は阿修羅の王。修羅界に君臨する戦いの王です。

 ですが、余は宿敵たる帝釈天との戦いに敗れてしまいました。

 どう考えても余の勝利であった戦いにです。

 余は、何に敗れてしまったと言うのでしょうか。帝釈天の何に。

 策略?士気?武具の優劣?地の利?

 考えれば考えるほど、深く深く悩みの海へと余は沈んでしまう気がします。

 ああ世尊よ、どうかお教え頂きたい。余は分からない。勝利とは一体何なのか!?」


仏陀は、その慈悲に満ちたまなざしを余に向けると、ゆっくりとした口調で語り始めた。


「毘摩質多羅よ、まずは汝が問いかけをなしたことを心からうれしく思う。

 それは何故か?まさに汝がその問いかけをなした時点で、勝利への道のりを歩み始めていると言えるからだ」


微笑を浮かべる仏陀を見つめながら、余は益々わけが分からなくなってしまっていた。


「……問いかけが勝利の始まりだとおっしゃるのですか?」

「然り、それこそが、己自身をしっかりと見つめることとなるからである」

「見つめること……」

「汝は何故敗れたのか。それは、汝が目先の勝利にのみ固執し、本当の勝利を忘れてしまったからなのだ」

「……」

「あの時帝釈天は、森の中で金翅鳥(こんしちょう。全ての鳥類の王)の卵がかえり、雛が鳴いているのを見つけた。

 “このまま逃げれば、この卵と雛は押しつぶされてしまうこととなる。我が身の為にこんな小さな命が犠牲となっても良いのか?”

 そう考えた帝釈天は、勇気を奮い起こし、天軍に反撃を命じた。帝釈天の強き決意が全軍を叱咤し、皆の決死の覚悟となったのだ」


余は言葉を返すことが出来なかった。

では、余と余の軍勢は、帝釈天の勇気に敗れてしまったと言うのか?

天軍の強き決意と決死の覚悟に。


「決意と確信を持った者は強い。汝は帝釈天と天軍の放つ勇気の気迫にのまれ、その軍勢を大軍と見てしまったのだ」


(確かにその通りだ)


余はそう思った。

帝釈天は森の中に伏兵を潜ませていたわけでは決して無い。

天軍の数は、余が追い詰めたときとなんら変わってはいなかった。

だが、彼奴らは変わったのだ。己自身の勇気と覚悟を持って……。


「帝釈天は己自身に勝った。そう、己自身に勝つ者こそ、まさに最勝者さいしょうしゃ)と呼ぶのである」

仏陀は、確信に満ちた表情で余に教えを説き続ける。

「一念によって、全ては変わる。帝釈天は己の臆病なる心に打ち勝ち、勝利を成し遂げたのだ」


余は目の前が晴れ渡るのを感じた。

そうか、そうなのだ。戦いとは、勝利とはまさに……。

余は、仏陀を深く礼拝した。

余の目から、とめどなく涙が溢れ出していた。


「ああ世尊よ、余は、余は今初めて分かりました。

 戦いとは、誰かに対して行なうものではなく、己自身の弱き心に立ち向かうことであるという事を。

 勝利とは、己自身の強き一念により、己自身だけではなく、周囲の環境をも変革させていくことであるという事を。

 まさに勝利とは、勇気の異名なのですね!!」


仏陀は満面に微笑を湛えると、余を抱くように声を発した。


「ああ毘摩質多羅よ、汝こそは勝利者の名にふさわしい。衆生を守り、称えられる存在となれ」


余の思いは、確信へと変わった。


これが、余という存在を変わらしめた出来事である。

戦いも、そして、勝利も勇気から発するものなのだ。

余はこの強き一念を持って、衆生を守り抜いて行こうと思う。


余はもう、迷わないのだ。

はじめまして!

小説を掲載させて頂きます。

なにぶん素人で、文章力もありませんが、

読んで頂ければ幸いです。

今後も、まったりと更新できればと思っています。

よろしくお願いいたします!

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