第三王子の守護騎士
ロード「いろいろと飛ばして七年がすぎました」
ベルグス「ようやく、俺が登場」
ロード「は、しませんが、名前はでましたね」
ベルグス「チクショー!!!!」
あの日から、七年の月日がたつのだかルイスから伝説について一言も語られることはなかった。
そして、エルフの里に帰ったムルグから一度も連絡は来なかったがエルフ族は元々月日がたつのを余り気にしない種族であるため、十年や五十年たってから手紙が来るというのも考えられる。
人族のように寿命が短い種族ならともかく、永い時を生きるエルフ族や龍人族にとってはさほど気にするようなことでもないのだった。
それと、精霊達は魔法を教えると直ぐに消えていった。元々精霊を呼び出す魔法ではなくて自らの魔力によって姿を現しているだけだったので他にすることができたのだと言っていなくなった。
今のロードはそんなたわいもない過去を思い出して気を紛れさせようとするほど余裕がなかった。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ、ロード」
今日で、五歳になる第三王子ベルグス・ドゥ・フェルノートの守護騎士の任命式の為、別室で待機していたロードの元に騎士団の服を纏っているルイスが現れた。
緊張している為か、体を固くして拳を握っているロードを見て微笑ましく感じながらルイスはロードの頭を優しく撫でた。
今年で、十二歳になるロードは龍人族特有の早めの成長期が来たので身長も伸び体つきもしなやかで柔らかい女性的なものへと変化しているため凛々しくも可憐な少女になっていた。
『ですが、お父様。私なんかが第三王子の守護騎士だなんて・・・』
しかしその顔は、暗い影をおとしており自信なさげに下を向いている。
ロードは幼い頃から父に鍛えられた剣術も精霊達に学んだ魔術も同年代の騎士には負けないものだと自負していたがどうしても、女である自分が選ばれたのか理解できないのだった。
そんな、ロードの心を知ってか知らずかルイスは腰をおりロードの目を真っ正面から見つめながら言った。
「ロード、私はお前を小さな頃からずっと鍛えてきた。それこそ、子供のお前には辛いよな修業も沢山させてきたつもりだ、だがおまえはそれを無駄だったと思うか?王子一人を守れないような半端な修業しかしてこなかったか?」
『い、いえ!そんな事ありません!』
「だろう?おまえは、同年代のどの騎士よりも強くなるための修業をしてきたんだ。なら、お前が選ばれることはなんの不思議もないはずだよ」
ルイスのいつになく真剣な様子に黙って話を聞いていたロード昔の父との修業を思い出した。
剣術だけで同時に五体の魔物の相手をしたこともあれば、水属性の魔物に火属性の魔術だけを使って倒せと言われたことや、本気の父相手に一撃いれるまで寝ることすら出来なかった事もあった。
これだけの事をしているにも関わらずロードが迷っていたのは実力がないことではなく別のことが原因だった。
「それとも、自分が女だから自信がないのか?」
『!・・・』
王族を守るための騎士、守護騎士に選ばれるのは
守るべき主人と同じ性別のものだけだった、つまり姫ならば女の騎士を王子ならば男の騎士が選ばれるのが普通のはずなのに今回は王子の守護騎士に女であるロードが選ばれたのだ。
周りの心無い人達はロードが選ばれたのは国王と仲の良い父の頼みだったから無理矢理、守護騎士にしたのだと言っていた。
もちろん、父や国王がそんな不正をするはずがないと思っているが今までに前例がなかった為ロードははっきりと実力で勝ち取ったのだと言えなかったのだ。
「ロード、私も国王様もお前の事を贔屓で守護騎士にしたわけではないよ。確かに今までに前例がなかったが、それは今までにお前のような強い女の子がいなかっただけで王子の守護騎士に女がなってはいけない何て事はないんだよ。」
俯いていた顔を上げルイスを見つめるロードに先ほどのように迷いはなかった。
「おまえは、私の自慢の娘だ。きっと素晴らしい守護騎士になるよ」
『はい!お父様』
父の顔を真っ直ぐ見つめ満面の笑みを浮かべるロードにはさっきまでの不安はなかった。
他の人が何を言おうと父が自分を信頼してくれたのだ、ならば自分はその期待に答えるべく頑張ればいい。
文句を言う奴がいるのなら文句を言わせないほどの働きをすればいい、贔屓だと言う奴がいるのなら贔屓だと言わせないほどの力を見せつければいい。
『私は・・いや、私が第三王子の守護騎士だ』
そう告げる、ロードの目には確かな光が宿っていた。
その姿を見たルイスは安心したように微笑んで静かにロードの元から離れて国王の元に戻った。
「どうだ?ロード嬢の様子は?」
国王、ユグルド・ドゥ・ジェノス・フェルノートは女性なら誰もが虜になるような優しい微笑みを浮かべて自身の元へと戻ってきた信頼する騎士にして親友であるルイスに声をかけた。
もちろん、永い付き合いであるためルイスがこんな笑いかたをしている理由はわかっているが、自分達のせいで不正を疑われた親友の娘の事が気になっていたのだった。
「緊張していたようですがもう大丈夫です。あの子なら立派にやりとげますよ」
「そうか、よかった。しかし、さっきまでソワソワしていた奴の台詞とは思えんな」
安心したように息をつきつつも、ルイスをからかうように笑う悪友に苦笑いを返す。その様子に、ユグルドは笑いを堪えつつ任命式の始まりを告げた。
「これより、我がフェルノート王国の第三王子、ベルグスの守護騎士の任命式を始める!」
その言葉に、式場に来ていた貴族達は家臣の礼をとり第一夫人達や第一王子達も姿勢を正した唯一眠そうに欠伸をしている第三王子以外を除いて。
そして、大きく開かれた扉の向こうには、白を主として金の装飾品がついた騎士服を纏っているロートが、迷いなく真っ直ぐな目で前を向いていた。
因みに、守護騎士達の服は多少騎士団の物とは違っていて騎士団は黒い騎士服をきていて、守護騎士はそれ以外の色の服を着ることになっている。第一王子の守護騎士は青、第二王子の守護騎士は紫、第一王女の守護騎士は赤を主とした騎士服を纏っている。
「ベルグスの守護騎士、ロード・フォン・マグラシアここに!」
『は!』
ロードは白いマントをたなびかせて中央の道を堂々と歩いた。多くの視線に晒されながらもしっかりとした足取りで進む姿に周りの者達は、見とれていたが国王が立ち上がったことで我に帰った。
ロードはそのまま国王の前まで歩みより騎士の礼をとった。
そんな、ロードを優しく見下ろしながらユグルドは声をかけた。
「久しいな、ロードよ。お前の強さは噂でもよく聞くほどだ、これからはその力をベルグスの為に使ってやってくれ」
『勿論です、国王様』
ユグルドは、側に置いてある銀色の刀、白銀をロードに翳し、声高々に宣言した。
「これより、ロード・フォン・マグラシアをベルグス・ドゥ・フェルノートの守護騎士とする!」
その言葉に貴族達は家臣の礼を、騎士達は立ったままで行う騎士の礼をした。
ユグルドはそのまま持っていた刀をロードへと渡した。ロードはその刀を恭しく受けとると立ち上がり腰に刀をさし、今度は家臣の礼した。
多くの者に見届けられながら任命式は無事に終わったかのように見えた。
その頃、城の上空にいくつもの怪しい影が現れたことに誰も気がつかなかった。
「なぁ、早く始めようぜ」
薄い緑の髪をかきあげて細身の青年が言った
「こっちの準備は整ってるよ」
その言葉に、幼い少年のような容姿の者も同意した。
「此方も終わっていますわ」
赤い髪の妖艶な姿の美女が隣にいるフードを深く被った男に声をかけた。
「・・・・行くぞ、この国を完膚なきまでに破壊する」
その影の者達と共に近づいてくる破滅の足音にも・・・・