主人公登場!
ロード「ここからは、しばらく私のお話が続きますよ」
ベルグス「俺の出番はまだ先だな!」
暖かな日射しの降り注ぐ春の庭を五歳ほどの龍人族の少女が全力で駆け抜けて行く。
その少女は、長い銀色の髪を青い髪紐で一つに束ねられ淡い紫色の瞳は日の光を浴びてキラキラと輝いていて将来を楽しみとさせる可憐な少女である。
後ろには必死に、その後を追いかける二人の騎士の姿がある。
二人が必死で声をかけるが少女には全く届いていないようで走るスピードはかわらずむしろ目的地に近づいたのかスピードが上がっている。
「ま、待ってくださいませ!ロードお嬢様」
「大丈夫か、ジェシカ?無理なら俺一人でも・・」
「バガディラン!ロードお嬢様をあなた一人に任せられるはずがありませんわ!」
ジェシカと呼ばれた金髪の人族の少女が、声を上げて自分の少し先を走るもう一人の少年を睨んだ。
睨まれた茶髪の犬の獣人族の少年は心配しただけなのにと内心傷つきながら目の前を走るロードを見失わないようにスピードを上げる。
因みにジェシカも必死に走っているが全く距離は縮まらないそしてディランとも少しずつ距離が開き始めた。
『おかえりなさい、お父様!』
二人の騎士からロードと呼ばれた少女、ロード・フォン・マグラシアは後ろの二人に心のなかで謝りながらもスピードを落とさない、そんなロードの前に一人の男性が見えた。
ロードは、長い銀髪を棚引かせて馬から降りたばかりの龍人族の男性の懐へと飛び込んで行く。
男性は少し驚いたような顔をしたが直ぐに、笑みを浮かべて走りよってきた少女を優しく抱き止めた。
「ただいま、ロード。庭で遊んでいたのか、頭に葉っぱがついているぞ」
そう言いながら、お父様と呼ばれた男性。
ルイス・フォン・マグラシアは、娘の頭に乗っていた葉っぱをつまみ上げ、荒い息をしながら此方へ駆け寄ってくる二人の騎士に苦笑しながら言った。
「ディラン、ジェシカ。娘の相手をしてくれていたようだね。ありがとう、疲れただろう?少し休むといい娘は私が相手をしよう」
「「はい、わかりました。候爵様」」
『お父様が相手をしてくださるんですか!それなら、また剣や魔法の訓練をしてください!』
二人の騎士はルイスの側によると騎士の礼をしてから、馬をつれて屋敷へと戻っていき、ロードは父の言葉に瞳を輝かせ嬉しそうに言った。
その様子に、すっかりお転婆になったものだと思いつつも可愛い娘が向けてくる眼差しに頬が緩むルイス。
「あぁ、いいよ。ロードは本当に訓練が好きだね」
『はい、大好きです!私も何時かはお父様のように立派な騎士になりたいのです!』
その言葉にルイスは嬉しそうに顔をほころばせロードの頭を撫でた。
「それじゃあ、剣を取っておいで」
『はい!』
ロードは父の腕の中から駆け出し屋敷へと向かって走っていった。
ルイスとしては、娘が傷だらけになりながら訓練するのはあまり好ましくは思っていないが、自分に憧れて必死に頑張っている娘を見ているとどうしても応援してしまいたくなるのだった。
昔は、やんちゃ坊主と呼ばれた自分がこんな風になるとは昔の自分なら考えもしなかっただろうなと思い。
「メリアンヌ・・・僕たちの子供は元気に育っているよ。元気すぎて少しお転婆なくらいだ、君が居てくれたらきっと君もロードと一緒に訓練をしたがっただろうな」
ルイスは自分の妻であり、ロードの母のメリアンヌの事を思い出しながら呟くように言った。
エルフ族のメリアンヌは、そのおっとりとした容姿に似つかわしくないほどの戦闘狂で、よく魔物を血祭りにあげていた。
そんな昔の事を思っていると、ロードが剣と魔術書を持って走ってくるのが見えた。
ルイスは少し落ち込んだ気持ちを切り替え娘の訓練に付き合うべく剣を手に取った。
「ロード、あんまり急ぐと転んでしまうよ」
『大丈夫です!』
息を弾ませながら笑う娘に、苦笑をもらしながら言った。
「さぁ、始めようか?最初は素振りからだできるな?」
『もちろんです!』
ロードは手に持った、剣をしっかりと両手で握りながら頷いた。剣を構えたロードに、父が声をかける。
「何時のように500回振るんだぞ。数は声にだして数えていいから」
『はい!1、2、3・・・』
ルイスは、その様子を見ながらロードに注意を飛ばす。
ロードは、父から受けた注意を聞き言われたことを直し、また父から注意が飛びそれを直す、そうしているうちに気がつけば、二時間が過ぎていた。
『・・・498、499、500!』
「上出来だ、前より筋がよくなっているね。私がいない間もきちんと練習していたんだな、偉いぞ。このあとは、、そうだな少し休んでから打ち合いをしようか」
『は、はい。ありが、とう、ごさい、ます』
前よりも着実にうまくなっているが、まだ体力は足りないようで息も絶え絶えで地面に座り込んでしまっているがこの年にしてはなかなかできることではないので、ロードがどれだけ本気で訓練に取り組んでいるのかがよく分かる。
娘の様子にルイスは、満足そうに笑ったが少し熱が入りすぎてしまったかと心の中で反省した。
すると、すぐ後ろの方から声がした。
「ロードお嬢様、お疲れ様です。どうぞタオルでございます」
『カ、カタ、リナ、、あ、ありがとう』
ロードは、いつの間にか二人の近くにたっていた淡い金髪のエルフのメイドカタリナから濡れたタオルを受け取って顔を拭いた。
カタリナは、ロードの母親付のメイドで二人は親友のように仲がよかった為カタリナはロードを娘のように可愛がり、ロードもカタリナになついていた。
カタリナは熱が入りすぎいつまでたっても戻ってこない二人を呼びに行くと共にロードの為にタオルなどを用意していたのだった。
「礼には及びませんわ、ロードお嬢様。旦那様おかえりなさいませ、御夕食の準備があと少しで整いますが、いかがなさいますか?」
カタリナはロードに微笑んでからルイスに向き直り言った。
カタリナの言葉に、少し考えてからルイスが言った。
「そうだな、今日はここまでにしておこうか。こういうものは、あまり根を詰めすぎるとかえって、よくないしな。夕食の前にお風呂にしようか。カタリナ、お風呂の用意はしてくれているかい?」
「はい、準備は整っております」
ルイスは娘を抱き上げて、屋敷へと歩いていった。カタリナはそんな二人の姿を微笑ましげに見つめながら二人の背中を追って屋敷へと行だした。
「ロード、またあとでな」
『はい、お父様』
「ロードお嬢様、どうぞこちらに」
ロードは、ルイスと別れお風呂に向かった。
そこには、ロード付きのメイドであるハティがすでに待っていてロードは二人に洗われることになった。
ハティは、人族の少女でロードが生まれた頃から世話になっているメイドである。
「ロードお嬢様これなんていかがでしょう?薄い水色がお嬢様の髪の色にもあっていてとっても似合いますわ!」
体を隅々まで洗われたので、お風呂に上がりぐったりとしているロードの服をハティがにこにこと嬉しそうに選んでいる。
その様子を見てロードは特に着たい服もないしと思い我ながら無頓着過ぎるなと思い苦笑しハティに言った。
『ハティが、選んでくれたのならそれにするよ』
「もう、私はお嬢様の意見をお聞きしたいのです!もう少し、洋服や容姿に意識を向けてくださいませ!」
『えぇ~と、そう言われてもなぁ。そういうのあんまり興味ないし、どっちらかと言うと洋服の事よりも、剣や魔法の方が好きだし・・・・』
あまりにも軽いロードの発言にむっと、したようにハティがロードに詰め寄るとハティの勢いに押されたロードが二歩ほど下がりながら言った。
選択を間違ったかな?と思いつつこれ以上遅れるのも困ると
まだ、何か言おうとしているハティから洋服を取り上げて直ぐに着替え始める。すると、ハティも黙って着替えを手伝いだした。
まだ、少し不服そうな顔をしていたが
『うん、これでよし!お父様との夕食に遅れないように急がないと!』
ロードは、鏡で確認するとハティに何か言われるよりも早く部屋を出て食堂に向かった。
そこには、すでに騎士団の服から普段着に着替えた父が椅子に座りロードを待っていた。
「ロード、その洋服似合っているよ」
『ハティに、選んでもらいました!』
にこにこと談笑をしていると直ぐに食事が運び込まれた、今日あったことを話すロードに、ルイスは頷きながら話を返した。
その様子を、配膳係をしていた執事やメイドたちが微笑ましく見守っていた。
その夜、話足りなかったのか部屋にやって来たロードに昔、家出してきた生まれ故郷である龍人族の里の話や、フェルノートにたどり着く前の旅の話を聞かせて眠った。