番外編 第一王子との出会い・2
ベルグス「二人で・・密会・・」
ロード「連れ出されただけですけどね」
バルトールに腕を引かれバラ園を進んでいくと少しだけ開けた場所に出た。
其処は、綺麗に手入れされた芝に小さな噴水と白いテーブルに椅子が幾つか並んでいて何処か神秘的な雰囲気のガーデンテラスだった。
「ついたぜ。ここだ」
『ここは?』
握られていた手が離され辺りを忙しなく見渡しているロードを横目で見ていたバルトールがテラスに向かって歩きながら答えた。
「ここは、母上達がたまに来る秘密のガーデンテラスだ」
『秘密の?そんなところに私を連れてきてもよろしかったのですか?』
「いいんだよ、一人じゃ退屈だしな」
テラスの椅子に座りその場から動かないロードを手招きしながら隣の椅子を指差した。
ロードは戸惑ったがじっとこちらを見つめているバルトールに負け恐る恐るテラスの椅子に座った。
「ん~」
『あの~何か?』
「・・・お前変なやつだな」
『・・・・』
隣に居心地悪そうに座ったロードをじっと見ていたバルトールは不思議そうに言った。
本人には悪気はなく何時も甲高い声で話しかけ媚を売ってくる女とは違い何となく嫌そうで困惑している様子のロードについ思ったことを言ってしまったのだった。
勿論本人は自分がどの様な立場なのかしっかりと理解していた、何事もなければ次の国王になるのだし回りにちやほやとされ鬱陶しく付きまとってくるのは仕方がない事だと思っていた、そしてルイスの娘であるロードも同じだと考えていたのだが違った。
ルイスからある程度話は聞いていたので話しかけるくらいならばしてもいいかとガーデンテラスまで連れてきたのだが本人はバルトールを見ないで視線を下に落としたまに大広間の方にチラチラと視線を送っていた。
「ああ、別に悪い意味じゃねえよ。何て言うか、いつも回りにいた女達は五月蝿いのが多かったから何か不思議でな」
『そうですか』
「それが嫌になって引き留めようとする守護騎士を出し抜いて出てきたんだがな」
『・・・よろしかったのでしょうか?守護騎士様を置いてきても、あなた様にもしもの事があったら』
「城ん中じゃそうそう殺られないって」
無言になったロードに慌ててバルトールがフォローを入れ、大広間から出てきた訳を話した。
守護騎士を置いてきたと話すバルトールに一瞬意識が飛びかけたがなんとか持ち直し説得しようとするがバルトールは聞く耳をもたなかった。
「誰かそこにいるのか?」
「!?」
『・・・・』
二人の後ろから男の声が響いた。
バラ園から出てきた男は騎士団の騎士服を来ていた、ルイスや自分の守護騎士でなかったことにホッとしながら騎士に立ち上がりながら声をあげた。
「私だ!バルトールだ!」
「バルトール第一王子!どうしてこんな所へ!?」
「騒がしい大広間が嫌になったから少し休みにな」
「ですが、護衛も着けずにお一人いらっしゃるなどあぶないですよ!」
声をかけた相手が自国の第一王子だと分かり慌てた様子で近づいてくる。
ロードはただ二人のやり取りを眺めていた、不自然な沈黙を保ったまま。
「いや、一人じゃないロード嬢も一緒だ」
自分が立ち上がったことでロードが見えなくなったのかと近づいてくる騎士から少し体をずらそうとしたが、それよりも早く襟首を捕まれ後ろに引っ張られた為転がった。
「!!?急に何を・・・・・え?」
「外したか」
さっきまでバルトールが立っていた場所には騎士が持つ剣が刺さっていた。
後ろにいたロードが騎士より早く動きバルトールを後ろに引っ張ったのだ。
『バルトール様、私の後ろからでないでください』
その動きに感心したように偽物の騎士が言った。
「小娘だと思っていたがなかなかやるようだな。何故、俺が本物の騎士ではないとわかった?」
『微かにだけど殺気がしたし不審な人物を見つけて気配を消すにしても王子が自ら名乗りをあげたのに気配を消しておく必要はないはず。あと、ここの辺りの巡回は最低三人で行うものと父に聞いている。バルトール様の命を狙った暗殺者か』
「なるほど、随分と詳しいな」
「今回は簡単に殺れると思ったんだがな」
「!?」
『・・・』
いつの間にか近くに来ていたらしいもう一人の暗殺者がめんどくさそうに言った。
近くに来ているのに気づかなかったバルトールが驚き体を強張らせ、ロードはどうしたらバルトールを逃がせるかを考えながらドレスの下に仕込んでいたナイフを取り出した。
「へぇ~、俺らと殺り合うつもりかよお嬢ちゃん?」
「こいつは、俺の先手を見切ったんだ。さっさと挟み込んで殺すぞ。本物の騎士が見回りに来ると厄介だからな」
『くっ!』
「ロ、ロード嬢・・・」
面白そうに笑う黒い服の男を騎士の姿をした男が静止し二人は左右から挟み込むようにロードから距離をとる。
ナイフしかないロードは苦しげに呻きながらもナイフを構えバルトールを守るように二人に立ちふさがる。
その背中を後ろで見ているバルトールは自分の命が狙われたことに恐怖を抱きながらも自分より年下の女の子に守られている今の状況を恥じた。
「行くぞ」
「死にな!」
『王子!』
ロードは二人をギリギリまで引き付けてから後ろにいた王子を前へと転がした。
「うおっ!」
『ぐっ、は・やく・逃げて・・・』
「こいつ!」
「大した忠誠心だな」
ロードはバルトールを突き飛ばしたあと突っ込んでくる二人をナイフを捨て受け止めた。
黒い服の男の剣は脇腹を、騎士服の男の剣は肩を貫いた、ロードは自分の体を貫いた男達の腕をしっかりと掴みながら声も絶え絶えにバルトールに訴えるがバルトールは絶句してロード達を見つめている。
『おう、じ・・早く・!』
「ちっ!離せよ!」
『ガハッ、グゥッ・・逃げ、て』
「そんな、何で・・」
黒い服の男が苛立ったように剣を更にロードへと射し込む、あまりの痛さに顔を歪めながらも必死にバルトールに逃げるように言うがバルトールは腰が抜けたのか座り込んだままロードの事を見ている。
「はっ!」
『ウッ!』
騎士服の方の男がおもいっきりロードを蹴飛ばした、流石に傷を負った状態では耐えることが出来ず簡単にテーブルと椅子を巻き込みながらバラの茂みの近くまで吹き飛んで行く。
「俺が王子を片付ける。お前はあの子供を殺せ」
「わかったぜ」
『王子・・』
騎士服の男のはバルトールの元へ黒い服の男はロードの方へやって来た。
ロードは地面を這いながら何とか王子の元へ向かおうとするが黒い服の男に背中を踏まれ動けなくなる。
「じゃあな」
「死ね」
「あ、あ・ああ」
『王子!』
「そうは、させないぞ」
それぞれがバルトールとロードに剣を振り上げたが突然現れた者達に防がれてしまう。
気配を感じなかった二人はその場から飛び退き剣を構えた。
バルトールとロードの危機を救ったのは
『お、お父様』
「それに、副団長のルブルフさん」
「ロードよく頑張ったな、休んでいなさい」
「怪我はありませんね。バルトール第一王子様」
騎士団長と副団長の二人が現れたことで不利を悟ったのか逃げようとするが、それよりも早く二人を捕まえるために隠れていた三番隊の隊長、サージェスが土魔術の土牢を発動させ二人を捕まえた。
「あんな、あっさりと」
あまりにも簡単に捕まった暗殺者をバルトールはサージェスが連れていくのをぼんやりと見ていたが、ロードの事を思いだしルイスの方を向くとルイスがロードを抱え歩いてきた。
「ルイス、さん。ロード嬢は?」
『幸い急所は外れておりますので直ぐ治療魔術師に見せれば大丈夫でしょう』
「そうか、よかった。・・すみませんルイスさん、俺がロード嬢を連れ出さなければ」
「大丈夫ですよ王子。この子は強い子ですから」
そういうとルイスはロードを連れ城に戻った。
翌日目を覚ましたロードの元にバルトールが訪れ泣きながら謝り続けられ困惑したが、何とか王子を宥め泣き止ませた。
その事があって以来バルトールは、怠けぎみだった鍛練や王子としての職務をしっかりこなすようになり王様と王妃様にはこっそりと感謝された。