謎の男
ロード「油断できない相手が現れましたよ」
ベルグス「ロードの父の知り合いか?」
ルイスがリリシアンに告げられてロードを探していた頃同じようにロードもルイス達を探していた。
もといた大広間を覗いてみたが中には誰もいなかったのでルイス達も自分と同じように魔人族に襲われ逃げたのではないかと思い唯一知っている隠し通路へと急いだ。
『僕が唯一知ってる隠し通路にお父様達がいるとは限らないから何とかしてお父様達の行方を探さないと』
腕の中にいるベルグスをチラリと見てから小さな声で言った。
『大丈夫、大丈夫。お父様なら何とかしてくれるはず。ベルグス様も直ぐに目を覚ますはずだから』
ロードはディバルの魔術により眠ったままのベルグスに不安が募り自分に言い聞かせるように何度か呟いた。
更に遠くで聞こえる破壊音や叫び声が段々と減ってきているような気がして落ち着かない気持ちだったのだ。
『(少し静かになってきた、魔人族が撃ち取られたのかそれともフェルノートの騎士達が殺られてしまっているのか・・・・。判断がつかない、どうすれば。そのまま進んで大丈夫だろうか?もしかしたらこの先に魔人族が待ち伏せしているかもしれない)』
ロードは漠然とした考えを巡らせながらベルグスに視線を落とし、しっかりと抱きしめ直した。
何もわからないが、今ベルグスを守れるのは自分しかいないのだ、自分がしっかりしなくてはと己を奮い立たせた。
薄暗い廊下の奥へ目を光らせ、分かれ道を慎重に調べ少しずつではあるが目的の隠し通路へと近づいていった。
『(もう少しで、隠し通路につく。お父様と合流できないまま此処まで来てしまったけど、仕方がないからまずは、ベルグス様を安全な場所へ連れていこう)』
目的地を前に気が緩んだのであろうロードは自分の真後ろにいるフードを深く被った男の魔人族に気がつかなかった。
男はゆっくりとした動きでランスを構えロードごとベルグスを貫こうとランスを振るった。
その瞬間、何かを感じたロードが振り向くと目の前にランスの先端が迫り二人を貫こうとしていた、あまりに突然の出来事にロードは迫り来るランスを見たまま呆然とした。
『え?』
しかし、ランスは二人を貫くことはできなかった。
ロードの後ろから刀が現れランスを押し返していたのである。
はっと、ロードが振り替えると其処には父であるルイスが険しい表情で男を見据えていた。
『お父様・・・』
「怪我はないね?ロード」
『は、はい。僕、いや私は大丈夫ですが、ベルグス様が・・・・』
ロードは突然の出来事に理解が追い付いていないらしくポカンとしたままルイスにベルグスの事を話す。
チラリとベルグスに視線を向けたルイスが口を開く前に相手の男がロード達から距離をとり、ポツリと言った。
「明日まで目を覚まさん」
『!?明日まで・・・』
「・・・・ロード信じるな。嘘を言っているかもしれないよ」
「信じる信じないは貴様らの勝手だ」
男がベルグスが明日には目覚めると言った事に少しだけ安堵したロードの後ろに立っていたルイスはロードを庇うように前に出て、男の言葉を信用できないと告げるが男は興味無さそうに軽く返した。
ルイスはそんな男の様子に内心イラつきながら刀を持つ手に力を込める。
男はそんなルイスをフードの下から覗く瞳で真っ直ぐ見つめている。
「ロード、ベルグス様を連れて逃げなさい。ここは私が食い止める」
『そんな!?』
「早く行きなさい。守護騎士は何よりも主を守るのが仕事だ、此処で戦って主を危険に晒すことは許されないよ」
父を残して逃げるなどと感情的になったが直ぐにルイスの言葉で冷静になり此所に居てはベルグスを守れないし父の邪魔になると判断したロードは自分の力不足に歯がゆい思いを抱きながらベルグスをしっかりと抱き抱えてルイスに背を向けた。
『はい!必ずやベルグス様を守って見せます。また後で、お会いしましょうお父様!』
ロードの力強い声と遠ざかってゆく足音にルイスは小さく笑みを溢してから男に向き直った。
「・・・あいつがお前の子か、ルイス」
「?・・・・・そうだ」
「まさか、お前の子があの伝説に関係するとはな・・・・」
「何を言って・・・・!お前まさか!?」
ルイスが声を上げた時、男が被っていたフードをおろし顔を見せた。
「やっぱり、お前は・・・・・・」
その頃、ロードは抜け道を通り城から離れた森の中へとたどり着いていた。
どうやら町も魔人族による被害を受けているらしく悲鳴や笑い声が聞こえてくる。
ロードは無我夢中で森の中を駆け抜けた、ルイスに言われたように自分の仕事はベルグス様を守ること、だから一刻も早くこの場から離れなければいけないと助けを求める声や悲鳴を心を圧し殺し聞こえない降りをして逃げた。
『はぁはぁ、此処まで来れば』
森を抜け、城や町から遠く離れた国境の近くでゆっくりと振り返り驚愕した。
美しかった城は炎に包まれて町も幾つもの煙が上がっていた。
『そんな・・・こんな事が』
ロードの頬には涙がつたい目の前が暗くなり手足の力が抜けてゆく。
城に残ったルイスの事や他の王族の事、世話をしてくれたカタリナ達のことを思いだし直ぐに戻りたくなったが腕に小さな身動ぎを感じゆっくりと視線を落とすと微笑みを浮かべ眠るベルグスが目にはいる。
ロードは踏み出そうとした足を止めベルグスを抱きしめたまま涙を溢した。
『ベルグス様、絶対に絶対に、守るから。何があろうとどんな奴が来ようと貴方を守りどうせるように強くなるから、今だけ、今だけは泣かせてください』
そして、城に背を向けロードはまた走り出した。
父はまだ生きていて会えないのは仕方ないと王族の方々やカタリナ達も無事に逃げ出したと信じて。