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ビリーブ  作者: めぐる
4/5

ビリーブ(4)

 2人は、抜け穴から訓練校の敷地の中に忍びこんだ。

 訓練校側には、敵味方ともに人気がなかった。

 どうやら、あまり重要視していないようだ。

「いくぞ。後ろから離れるなよ」

 キースが銃を構え、レイの先を歩く。

 黙って頷いて、レイも後に続いた。

 左右を確認して、近くの建物まで走る。

 足音がやけに大きく聞こえた。

 横目に見た講堂の半分が、爆撃で屋根が吹っ飛んでいた。

 よく見ると、レイたちのいる側は被害はほとんどないようだが、講堂がある正門側は、被害がかなりあるようだ。

 もしかしたら、誰かが助けを呼んでいるんじゃないだろうか。

 ちらりとレイの頭の中を、そんな考えがよぎる。

「今は余計なことを考えるなよ。死ぬぞ」

 キースが見すかしたように、背中を向けたまま言った。

「……わかってます」

 自分のやるべきことをやるだけ。キースの、そして自分の判断を信じるしかない。

 校舎の壁に沿って、基地側に向かう。

 途中で窓から校舎の中を覗いたが、人の気配はない。

 そのまま進むと、基地が見えてきた。

 訓練校と基地の間にも門はあるが、形だけでいつも開けっ放しになっている。

「いるな」

「はい」

 門は開け放たれたままだが、小銃を持った兵士が2人立っていた。

 遮蔽物はなく、20メートルはある。

 近づけば、すぐにわかってしまうだろう。

「予想はしていたが、これで確実に中は制圧されたと見ていいだろうな」

 キースの声に、緊張の色が混じる。

「どうしますか? おれが囮に……」

「バカか」

 キースは呆れたように、肩をすくめた。

「お前が出て行っても、すぐに蜂の巣だ。囮にすらならん。お前、体術に自信があるって言ってたな」

「はい。訓練校の大会でも優勝しました」

「所詮アマチュアの大会だが、今はそれに期待するしかないか……。よし。おれが合図をしたら、左の奴のところへ全速力で向かえ」

「わかりました」

 レイは迷わず返事をする。

「お前、疑わないのか?」

 キースは驚いたような顔をしていた。

「信じてますから」

 レイはじっと、キースの目を見る。

 キースは盛大にため息をついた。

「……ったく。そういう目は嫌いなんだよ。信頼には、応えてやる」

 キースはそう言って、銃を構えた。

 物陰からなので、相手からは気づかれないだろうが、距離は20メートル。

 一般的にはライフルなどの照準のついた銃でなければ、狙うのはまず無理な距離だ。

「5,4,3,……」

 キースがカウントを始める。

 それがレイへの合図だとわかり、レイは余計な考えを頭から、はじき出す。

 ただ、左の兵士だけを見る。

「……2,1、GO!」

 キースがかけ声と一緒に、発砲したのがわかったが、構わずにレイは走り出した。

 左の兵士は発砲音で、レイのことに気づいた。

 銃身をレイに向けようとする。まだ距離がある。

(くそっ、無理か!)

 レイが撃たれる覚悟をした瞬間、一瞬だけ左の兵士がレイから視線を逸らした。

(チャンス!)

 レイは一気に加速して、銃身を蹴り上げる。

「くっ」

「寝てろ!」

 両手を跳ね上げられた兵士の鳩尾に、思いっきり拳をめりこませる。

 くの字になった兵士が、ぐったりと地面に倒れた。

「おおっ、よくやったじゃねえか」

 声に慌てて振り返ると、キースが銃を片手に立っていた。

 右側の兵士は、額に黒赤い点をつけ、ばったりと倒れていた。あの距離から額に一発撃ち込んだ。そういうことだろう。

「さて。こいつに話を聞かせてもらおうかな」

 レイが気絶させた兵士の襟首を、キースは持ち上げる。

 額をはたいて、目を覚まさせる。

「ううっ……」

 兵士が目を開ける。キースの顔を見て、ぎょっとしたような顔をした。

「おい、中はお前らが占領したのか?」

「き、敵なんかに、誰が答えるか」

「ほお、強気だな。……これでもか?」

 キースは兵士の額に、銃をつきつける。

 兵士の顔に、怯えが広がる。

「……わ、わかった。言うから。中はまだ抵抗している奴らがいる。制圧はしきれていない」

「骨のあるやつがいたか。それはどこだ?」

「反対側の裏門の方の倉庫だ」

 兵士が答えると、キースは兵士の鳩尾に、レイよりはるかに重そうな拳を沈めた。気絶した兵士を地面に放る。

「場所はわかるか?」

 キースがレイの方を向いて、きいた。

「わかります。助けに行くんですね」

「いや、囮に使う。第8倉庫はどこにある?」

 キースはさらりと言う。

「囮って、見殺しにするつもりですか!」

 レイは思わず、キースに詰め寄る。

「うるせえな。とにかく質問に答えろ。第8倉庫ってのは、どこだ?」

「第8? たしかあそこは物置じゃ……」

「いいから、教えろ」

 キースの強い口調に、レイはムッとしつつ答える。

「正門の方から、少し行ったところです」

「よし! なら裏門とは反対だな。行くぞ」

 キースはそう言って、正門の方へ歩き出す。

(今はキース大尉を信じるしかないか)

 レイは自分に言い聞かせて、キースの後を追った。

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