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ビリーブ  作者: めぐる
2/5

ビリーブ(2)

 レイはビルを出ると、目の前の光景に一瞬言葉を失った。

 砂塵が立ちこめ、そこら中に見える瓦礫の山。

 さっきまでは、舗装された道路だったものが、跡形もなかった。

 しかも、あちこちから助けを呼ぶ声が聞こえる。

 瓦礫に埋もれた人がいるのだろう。

 レイは足下を確認しながら、ゆっくりと歩く。

 基地までは、ここからまっすぐ1キロ程度だが、この分だと時間がかかりそうだ。

 10メートルも歩かないうちに、瓦礫に下敷きになった女の人を見つけた。

「大丈夫ですか!」

 レイは駆けよって、絶句した。

 女の人の下半身が、巨大な瓦礫に押しつぶされていた。

 レイの声に気づいたのか、女の人は虚ろな目をわずかに向けてきた。

「……うぅ………」

 女の人は、掠れた呻き声を上げた。

 レイはしゃがみこみ、耳を傾ける。

 助けるのは不可能だということは、一目瞭然だった。

 女の人は口を動かす。

「……し、……にた………くない」

 そう言うと、女の人を事切れていた。

 レイは固く目をつぶり、拳を握りしめる。

「くそっ!」

 毒づいて、立ち上がった。

 ここで立ち止まっていても、なにも始まらない。

 レイには、レイのするべきことがある。

 砂塵も少し晴れてきた。

 レイは基地の方角を見据えた。まだ、煙っていてそこまでは見えない。

 基地がいったい、どんな状況になっているかわからなかった。

 もしかしたら、すでに壊滅している可能性もある。

 その場合は、この街を守る者はいないことになる。

 ろくでもない状況だ。そうじゃないことを祈るしかない。

 レイは空を見上げた。

 空爆をしてきた戦闘機は、とりあえず近くにはいないようだ。

 とはいえ、慎重に近づく必要があるだろう。いつ戻ってくるか、わからない。

 瓦礫に埋もれた人たちを見ないようにしながら、レイは基地に向かって歩き出した。

 悔しいが、今はレイが助けに行ったところで、瓦礫に埋もれた人を助け出すことは出来ない。

 さっきから、携帯端末で消防や救急に連絡をとっているが、つながらなかった。

 通信が麻痺しているのか、受ける相手がすでに存在しないのか。

 どちらにしても、いい状況じゃない。

 惨状に滅入りそうになる気持ちを抑えながら、レイは別のことも考えていた。

(どうして、月の連中はここまで来られたのか?)

 月と地球の戦争は、小競り合い程度の規模で半年間続いていた。

 その最大の理由は、月側が地球に拠点を持たないためだ。拠点を持たない月側は、攻撃を仕掛けるといっても、地球に戦闘機を降下させるしかない。

 しかし、降下すれば地球側からは、すぐにわかる。地球側は迎撃態勢を整えて、待ち構えた状態で戦闘になる。

 ほとんどの戦闘は、痛み分けに近い形で終わり、月側は引き揚げて行く。

 では、地球側が月に対して、打って出るのはどうかといえば、これも同じことだ。地球側が月に向かう間に、迎撃態勢が整っているだろう。

 ミサイルなどの攻撃が、迎撃システムの発展で、ほとんど無意味になっている現状では、人が乗る戦闘機が最大戦力だった。 つまり、こう着状態。

 そういう理解をレイはしていたし、世間一般でもされていたはずだ。

 つまり、地球側にも月側にも一般市民の被害は、ほとんど出ていなかった。

 それがこの状態とは、いったいどういうことなのだろうか。

(考えられる可能性は、月が大規模な作戦を展開し、地球側の対応が追いつかなかった、というところか)

 レイの予感が正しければ、この街は陥落寸前ということになる。 レイたちが通う訓練校と併設するように、基地も存在する。

 補給のための基地で大きくなく、月側が編隊を組んで来られたら、迎撃などできないだろう。

 ただ、腑に落ちない点もある。

(こんな基地を攻撃する意味なんてあるとは、思えない)

 こういってはなんだが、この街の基地に戦略的な価値はない。狙うなら、近くに大きな基地がある。

(そちらのほうが戦略的価値は高いはず……そうだ! どうしてそこからの援軍がない――)

 レイは思い至って、身震いした。

 援軍がない理由なんて一つしかない。見捨てられたか、見捨てざる得ないか、だ。

 有力なのは、こちらまで手が回らない状態だろう。こちらより、もっと多くの攻撃がなされているとすれば、こちらにかまってなどいられない。

「悪い考えしか、浮かばないな」

 レイは考え込んでいるうちに、すでに基地のそばまで来ていた。

 表門が見えるが、爆撃を受けたのか、鉄扉はひっしゃげて、用をなしていなかった。

 当然ながら、警備の人間もいない。

 レイの場所からでは、中の様子は窺えなかった。

「ここから入るべきか、それとも……」

 レイが思案していると、戦闘機のエンジン音が空から響いてきた。

 とっさに、壁際に身を隠す。

 さっきの戦闘機だ。

 訓練校の講義やニュース映像で見たことがあるが、実物を見たのは初めてだった。

 機体の名は、セイレンだったはずだ。

 セイレンは低空で飛び、しばらく旋回していたが、爆弾投下口が開くのが見えた。

 まずい!

 身を隠さなくては、爆風だけでやられる。

 すぐにそう直感したが、目が戦闘機から離れなかった。

 頭の中で危険信号が鳴り響いているのに、体が動かない。

 いつの間にか、硬直してしまったように、戦闘機の威圧感にレイの心は飲まれてしまっていた。

 いつも訓練をしているはずなのに、対処法だって頭では理解しているのに。

 ――なのに、体が動かない。

(こんなところで、死ぬわけにはいかないんだ!)

 レイの心の中の叫びとは裏腹に、戦闘機は淡々と爆弾投下の作業をこなしていく。

 その様子が、レイにはスローモーションのように見えた。

 爆弾が落ちていくのがわかる。

 あと1秒もない。

 そのときだった。

「バカやろ! 突っ立てるな!!」

 不意に後ろで怒鳴り声が聞こえた。

 同時に、体を掴まれて、路地に乱暴に引き倒された。尻餅をつく。

 直後に、爆音が鳴り、爆風が目の前を通り過ぎていった。

 あと一瞬遅ければ、爆風に巻き込まれていただろう。

「おい小僧。ここに、なにしに来やがった」

 野太い声がして、レイは我に返った。


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