表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/116

94.鬼人族の受け入れ

 3年目も順調に発展を続けるシナノ国だが、夏を目前にして事件が発生した。


「鬼人族が襲われたって?」

「うむ、そうなのじゃ。村のひとつが焼かれて、難民が発生したらしい」


 その情報は、竜神の巫女サクヤからもたらされた。

 彼女はムツ国の少数民族を我が子のように心配しており、かの地に残る鬼人族とも連絡を取っていたのだ。

 そんな彼女に、鬼人族が泣きついてきたらしい。


「なるほど……それで、どうしたいって言うんですか?」

「うむ、いまさらなのじゃが、奴らをこの国に迎え入れてはくれんじゃろうか? それなりに奴らも反省しておるゆえ」

「本当に反省してるんですか?」

「も、もちろんじゃ」


 そう言いながら目を逸らすのは、やめてもらえませんかね、サクヤさん。

 不安になるじゃないですか。


 だいたい鬼人族ってのは獣人種の中でも特に血の気の多い奴らで、昨年も移住の勧誘を断っている。

 しかも妙に上から目線で、自分たちは最強だとか、人族の世話にはなりたくない、などと偉そうなことを言いやがる。


 別に無理に勧誘する必要はないので放置しておいたのが、今になって泣きついてくるとは。

 こちらも心情的に面白くないし、どうにもトラブルの臭いがしてならない。

 とはいえ、弱者の救済を掲げるシナノ国が、それを断るのも問題だ。


「はあっ……分かりました。とりあえず話だけでも聞いてみましょう」

「うむ、助かる」


 それからサクヤの取次ぎで、鬼人の使者に会うことにした。

 コウズケ国側の獣人集落に来ていた使者を、ゲンブの通路で呼び寄せて話を聞く。

 するとそいつは挨拶もそこそこに人族の蛮行を非難し、鬼人族の窮状を訴えた。

 そしてすぐにでも移住を進めるべく、計画を進めて欲しいと言う。

 まるで移住が既定路線であるかのようだ。


 俺は少し席を外し、サクヤと話し合った。


「なんですか、あれ? 移住させてもらうのが当然みたいな言い方してますけど」

「いや、そのう……おぬしらのことを、少々誤解しておるようじゃな」

「誤解って、どんな風に?」

「頼んでもいないのに移住を進めるのは、人口を増やすためだと、そう思っておるのじゃろう」

「つまり、俺たちがそれを望んでいるんだから、向こうはありがたがる必要もないと?」

「ありていに言えば、そうじゃな」


 たしかに我が国の人口が増えるのはいいことだし、特に恩を着せようとは思わない。

 しかし、こうまで上から目線で話をされると面白くないし、秩序維持の面でも良くないような気がする。

 ぶっちゃけ、問題を起こしそうに見えて仕方ないんだよな、あいつら。

 その辺の懸念をサクヤに伝えたら、彼女も渋々それを認めた。


「まあ、その可能性は高いのう。あやつらは血の気が多いから、他の種族と軋轢あつれきを生むかもしれん」

「ですよね。かといって見捨てるつもりもないけど……」


 何かいい手がないものかと悩んでいたら、ジュウベエが助け舟を出してくれた。


「それであれば、彼らの好きな決闘で決着をつけるのはいかがでしょうか? 彼らが勝てば軍の重役に抜擢し、負ければ支配を受け入れさせるという条件で」

「そんな約束して大丈夫ですか? 勝負に絶対はないですよね」

「たしかに鬼人はそこそこ強いですが、あまり技能は高くありません。ちなみに私は彼らに恐れられてますから、こちらの代表は誰か他の方にお願いします。ヨシツネ殿なら申し分ないでしょう」

「うむ、それは良い手じゃな。妾もそれがよいと思うぞ」

「そんなもんですか?……ヨシツネはやれそう?」


 ここでヨシツネに話を振ると、彼は嬉しそうに応じた。


「俺と対等に闘えるジュウベエ殿が恐れられてるなら、大丈夫でしょう。任せてください」


 たしか竜人族って、メチャクチャ強いんじゃなかったっけ。

 その中でも最強のジュウベエと対等とは、ヨシツネ恐るべし。



 結局、ヨシツネとの決闘で立場を認識させることで、意見が一致した。

 使者も快く賛成したので、彼を伴ってムツ国へ飛ぶ。

 まず竜人族の元集落に置いてあったゲンブの甲羅で通路を開き、俺とスザクが移動する。

 そして鬼人族の集落まで行ってから、通路で関係者を呼び寄せた。


「おお、これはサクヤ様。お久しぶりです。相変わらずお美しいですな」

「そんな世辞などいらぬわ。ところでランドウ、おぬしらもとうとう移住を決めたようじゃな」

「まあ、そうですな。人族が少々うるさくなってきましたので、静かな所に移ってもよいと考えております」

「なんじゃ、その偉そうな物言いは? 素直に助けてくれと言えんのか!」

「これは異なことを。我ら鬼人族の戦士は一騎当千。その戦力を望むからこそ、移住を勧めておられたのでありましょう? ならば、我らには然るべき権力が与えられてもよいはずです」

「なんともはや、清々しいほどに傲慢じゃのう。これはやはり、身の程を思い知らせてやる必要があるか」

「ほほう、どのように思い知らせるので?」


 ランドウが挑発するように言うと、ヨシツネが進み出た。


「知れたこと。互いの力の差を見せつけるのよ」

「貴様はたしか、ヨシツネといったか? ふん、たかが獅子人の分際で、我らに敵うわけがなかろう。ジュウベエ殿に泣きついた方がよいのではないか? もっとも、その場合は3番勝負を申し入れるがな」


 どうやら、奴らも決闘を考えていたらしい。

 もしジュウベエが出てきても1戦は捨て、残り2勝を取る作戦か。

 ジュウベエ以上の戦士がいるなんて、考えてないんだろうな。


「1回きりの決闘で十分だ。もし俺に勝てたら、シナノ国の将軍職を授けよう」

「ほう……大した自信だな。本当にそれでよいのか? 国主殿」

「ん? ああ、ヨシツネは我が国最強の戦士だからな。もし勝てたら、将軍にしてやろうじゃないか。ただし、ヨシツネが勝ったら、鬼人族はその指揮下に入ってもらうぞ」

「フハハッ、その言葉、後で後悔してもしらんぞ。おい、準備しろ」


 条件が決まると、ランドウの指示で決闘の準備が整えられた。

 村の広場が片付けられ、刃をつぶした剣と盾がヨシツネとランドウに渡される。

 やがて衆人が見守る中、両人が広場の中央で向かい合った。


 見届け役を買って出たジュウベエが、開始を宣言する。


「それでは、これから決闘を始める。双方とも正々堂々、戦うこと。始めっ!」


 合図と共にヨシツネとランドウが動きだす。

 2人は2メートルほどの距離を保ち、ゆるゆると時計回りに回っていた。

 やがてランドウが軽く振った剣をヨシツネが盾で弾くと、激しい斬り合いが始まる。


 キン、カン、キン、コンと、2人の剣と盾が舞い踊る。

 さすがランドウも鬼人族最強を名乗るだけあって、なかなかの動きだ。

 そのあり余る膂力で大きな剣を振り回し、打ち込んでくる。

 体のキレも悪くない。


 おかげで一見すると、ランドウが一方的に攻めているようにも見えた。

 しかし、その攻撃を受けるヨシツネの表情には余裕があり、戦闘を楽しんでいるようにすら見える。

 やがてそんな剣舞にも飽きたのか、ヨシツネが積極的に攻め始めた。


 ドン、ドン、ドンとランドウの盾に、ヨシツネの剣が叩きつけられる。

 最初は余裕をこいていたランドウだが、やがて冷や汗を流しながら防戦一方となる。

 とうとう腕が上がらなくなった彼の体に、ヨシツネが容赦なく剣を打ち込んだ。


「グハッ、ゲベッ」


 胴体に2発くらったランドウが、その場に昏倒する。


「あーあ、骨折れてるだろ、あれ。悪いけど治療してやってくれるか? ササミ」

「は~い、やな奴だけど、仲間になるんですからね~」


 地面でピクピクしてるランドウにササミが駆け寄り、ケガの状況を調べる。

 そして患部にかざした手から治癒魔法が発動し、ランドウの呼吸が穏やかになった。


 さて、これで一件落着かと思ったのに、まだごねる馬鹿がいた。


「貴様ぁ、1回勝ったぐらいでいい気になるなよ! 今度は俺が相手だ」


 おいおい、1回限りの決闘じゃなかったのかよ?


 しかし、これはさすがにジュウベエが黙らせた。


「たわけ! 鬼人族の誇りを懸けての決闘であろうが。これ以上ごねるなら、儂が相手になるぞ」

「い、いや、そういうわけじゃ、ないんだ……」


 脳筋の鬼人も、さすがにジュウベエを相手にする気概はないらしい。

 結局、鬼人族が全面的に軍の傘下に入ることで、移住が決定した。


 これ以上、面倒を掛けないでいてくれるといいのだが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作始めました。

エウレンディア王国再興記 ~無能と呼ばれた俺が実は最強の召喚士?~

亡国の王子が試練に打ち勝ち、仲間と共に祖国を再興するお話。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ