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93.建国3年目

 国を作ってから2回目の冬が過ぎ、3年目に入ろうとしていた。

 冬の間に手の空いた者の多くはオワリ国の迷宮に潜り、資金を稼ぐと同時に戦力強化に勤しんでいる。

 おかげで急激に膨張した我が国の財政にも余裕が生まれ、その資金で奴隷を買い集めることができた。


 最初はハンゾウ配下の忍者が密かに動いていたのだが、やがて他の商人も巻き込むようになる。

 オワリ国のテッシンや、ミカワ国のリョウマの伝手を使い、各国で密かに異種族奴隷を買い集めている。

 その対象は、やはり価格の安い奴隷を中心にした。


 その方がより多くの人を助けられるし、安い奴隷は扱いもひどいので、救い出す意味も大きい。

 おかげでこの春までに、5千人近い奴隷を解放することができた。

 解放された人の中にはひどいケガや病気を持っている者も多かったが、我が国の手厚い治療を受け、快方に向かっている。

 慣れない大臣職を交替して喜んでいたササミだが、その後も激務が続いたおかげで最近も不満気味だ。


 これとは別にハンゾウの情報網に、新たな集落も引っ掛かってきた。

 まず彼から進言してきたイガ国だが、ここのホビット族と連絡がついた。

 彼らはやはり先祖代々、忍者として生計を立ててきたが、忍の扱いなど、どこでもひどいものだ。


 それこそ奴隷のような扱いを受けていた彼らを引き抜くのは簡単で、3千人近いホビット族が仲間に加わった。

 クニトモ村と同じように村ごと引っ越しさせたので、これまた怪現象として噂になったらしい。

 今頃、イガの忍者を使えなくなった貴族どもが、泡を食っていることだろう。


 その他にもけっこう秘境はあるもので、あちこちで獣人種や妖精種の隠れ里が見つかっている。

 それらの多くがシナノ国に興味を示しており、さらに移住者は増える予定だ。


 そうなるとまた受け入れ側は大忙しなのだが、最近は行政府の設置でだいぶマシになっている。

 この冬のうちに新たに司法省、農林水産省なども発足し、どんどん国家としての体裁が整ってきた。

 おかげでウンケイ以外は大臣職を外れ、それぞれの得意分野で活躍している。


 そしてそのウンケイだが、彼は今、宰相となって俺を支えてくれている。

 ぶっちゃけ、彼がいなかったら国政は回ってないだろうな。

 国が崩壊するとまでは言わないが、かなり混沌とした状態になってたと思う。

 俺も激務で体を壊していたかもしれないと考えると、彼に足を向けては寝られない。





 そんなシナノ国で、製鉄業が新たな段階に入ろうとしていた。

 連続的なたたら製鉄炉の運用だ。

 昨年のたたら吹きの試験以降、何回か鉄の生産には成功していた。


 しかし、たたら吹きは炉壁の粘土が溶けて薄くなるので、3~4日で作業は終了してしまう。

 その後は炉を叩き壊して、またいちから作り直さなきゃならない。

 そんなたたら吹きの現実の生産量は、年に30~40トンだったらしい。


 そのような業態では、明治維新後の急激な鉄需要の増加には、到底応えることができなかった。

 そこで関係者は耐火レンガで”角炉”ってのを作り、連続的な製鉄にも取り組んだらしい。

 これで日産3トンを実現し、最終的には日産13トンぐらいまで行ったそうだ。

 年にして4700トン超だから、ざっと120倍近い能力アップだ。


 しかし、当時でも西洋式の製鉄法はその何倍もの能力があったし、その後もどんどん向上していった。

 結局、そんな近代製鉄には敵わず、伝統的なたたら製鉄は大正時代に途絶えちまった。

 唯一、角炉による製鉄だけは、昭和40年まで続いてたって話だけどな。


 今回実現しようとしてるのが、その角炉による製鉄だ。

 まずこの炉を実現するため、いろいろと試行錯誤して耐火レンガを作り上げた。

 そしてレンガで組んだ角炉に、水車を動力とした送風装置を付ける。


 さすがにいつまでも四神に頼りっぱなしってわけには、いられないからな。

 火力強化やレンガの耐火性アップの魔法なんかも、エルフたちの精霊術でカバーしている。

 これで四神に頼らず、いつでも製鉄ができるようになった。



 そして今、ウンケイの指示で、新型角炉に火が入る。


「着火せよ」

「着火、完了」

「送風開始」

「送風始めます」


 水車の動力がふいごに連結されると、ビュウビュウと空気が炉に送られる。

 その風にあおられて、炉内の炭がゴウゴウと燃え盛った。


「炉内、火力安定しました」

「砂鉄を投入せよ」

「砂鉄、投入します」


 カゴに盛られていた砂鉄を、作業者が炉の中に注ぐ。

 さらに追加の木炭も投入された。


 しばらくそのような作業が続いた後、報告が入る。


ずくが溜まってきたようです」

「了解。湯口を開け」

「湯口開きます」


 角炉の下部に設けられている湯口を塞いでいたフタが取り除かれると、オレンジ色に光る銑鉄が流れ出してきた。

 成功だ。

 俺たちは連続的に鉄を作る、新たなたたら製鉄の実現に成功したのだ。


「やったな! ウンケイ」

「はい、タツマ様」


 俺とウンケイが向かい合い、ハイタッチを交わした。

 この表現も俺が広めたもので、地味に広がりつつある。

 国造りなんかしてると、ハイタッチしたくなる場面が、いくらでも出てくるからな。


「これも全てタツマ様のおかげです。この世界には無い知識を、いろいろと教えていただきました」

「いやいや、それは前世の知識であって、俺独自のもんじゃないから」


 こんなにも早く角炉を実現できたのは、俺がプータロー時代に仕入れた知識のおかげなのは事実だ。

 図書館でたたら製鉄に関する本を見つけ、何冊か読みふけった覚えがある。

 優れた玉鋼たまはがねを生み出す技術が、西洋式製鉄に駆逐されてしまった現実に、悲哀を感じたもんだ。


 しかしそのおかげで、この世界では画期的な製鉄能力を手に入れることができた。

 さすがに高炉法には及ばないが、このヒノモトの大地では圧倒的に優位な技術だ。

 この世界で鉄は貴重品だから、強力な売り物になる。

 売り方については、テッシンにでも相談してみよう。


 もっとも、たくさん作ろうとすればそれだけ木炭も必要になるので、無制限にできるわけでもない。

 今後は森林資源の管理と合わせて、計画的にやっていこうと思っている。

 製鉄関係の技術開発も継続して、いずれは高炉や転炉も実現したいもんだ。

 もっとも、素材とか周辺技術も伴わなければ無理なので、あまり焦るつもりはない。




 売り物といえば、真珠がものになってきた。

 ホビット族に伝わる秘伝を元に、真珠の養殖に取り組んでいたのだ。

 真珠養殖といえば海棲の”アコヤガイ”が有名だが、淡水の”イケチョウガイ”ってのでもいけるらしい。


 そこでハンゾウたちと一緒にスワの海を探索したら、なんかそれっぽい貝が見つかった。

 しかも魔境補正が掛かっているのか、通常より大型だ。

 俺たちはこれを”スワチョウガイ”と名付け、真珠の製作に取り組んだ。


 真珠を作るには、貝の体内に切れ目を入れて、核を埋め込む必要がある。

 この核は似たような貝の殻を球状に加工したものだ。

 これを埋め込む時に別の貝の細胞も移植してやることで、真珠袋ってのを形成することができる。


 あとは貝が死なないように育て、2年以上経てば真珠ができてくる。

 最近、その試作品を切り開いてみたら、ちゃーんと真珠ができつつあった。

 この調子なら、来年から真珠も特産品にできるだろう。


 我が国の経済力が、さらに強化されそうだな。

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エウレンディア王国再興記 ~無能と呼ばれた俺が実は最強の召喚士?~

亡国の王子が試練に打ち勝ち、仲間と共に祖国を再興するお話。

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