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幕間.シナノ国包囲網

<カイ国主タケダ邸>


 今日ここに、ミカワ国主モトヤス・マツダイラの使いを名乗る1組の男女が訪れていた。

 モトヤスの腹心であるマサノブ・ホンダと、ダークエルフの裏切り者カエデ、すなわち鬼神シュテンである。


「お待たせした。カイ国主シンゲン・タケダである」

「本日は突然の訪問にもかかわらずお目通りいただき、恐悦至極。拙者、マツダイラ公の臣マサノブ・ホンダと申します」

「ほほう、マツダイラ公の腹心と名高いホンダ卿であるか。して、そちらの女人にょにんは?」


 シンゲンに問われ、マサノブの後ろに控えていたカエデが挨拶をする。


「お初にお目に掛かります。私はカエデと申しまして、マツダイラ公のお世話になっている者です」

「ふむ、美しい女性だが、マツダイラ公が亜人を重用しているとは知らなんだ。何か訳ありかな?」


 シンゲンがカエデを舐め回すように見ながら、問いかける。

 それを聞いたマサノブが、慌てて言い訳をする。


「い、いえ、殿は特に亜人を重用してはおりませんが、この者は有用な情報を持っているため、特別に連れて参った次第です」

「ほほう、美しいだけでなく、役に立つのなら、それも納得ですな」


 シンゲンの嫌味に、マサノブが冷や汗を流す。

 1国の主たる者が亜人を重用しているなどと噂が立てば、決して良いことにはならない。

 今回の訪問にカエデを伴うことは、大きな危険をはらんでいるのだ。


 しかしカエデは、昨年のミカワ国の獣人集落侵攻の後、光輪教の伝手を使ってモトヤスに取り入っていた。

 本来なら敗戦の責任を取らされてもおかしくないのに、鬼神の影響力でまんまと窮地を脱している。

 そして彼女は何人もの奴隷を買い、諜報員に仕立て上げると、シナノ国の情報を集め始めた。


 すでに難民の中に諜報員を紛れ込ませ、シナノ国に定住している者がいるほどだ。

 さらに彼女はその情報をミカワ国にリークし、侵攻する計画を持ちかけた。

 そしてマサノブが嫌がるのも構わず、今回の交渉に加わったのだ。


「して、貴殿らがわざわざ参られた用件は?」

「はい、実はシナノ大魔境の中心部に、亜人が集落を作っているらしいのです」

「はあ? 貴殿は夢か何か見ておるのかな? たとえ亜人といえど、あのような場所に住めるはずがなかろう」


 マサノブの言葉に、シンゲンは呆れた。

 大魔境の中に集落など、作れるはずがないからだ。

 しかしそれぐらいではマサノブも怯まない。


「いいえ、嘘や冗談を言っているのではありません。恐れながら、カイ国の魔境外縁でも、亜人が姿を消しておりませんでしょうか?」

「むう……そういえば今年は亜人の奴隷が少ないと聞いた覚えがある。我が国でもということは、ミカワ国でもそれが起こっていると?」

「そうなのです。我が国側の魔境外縁には、すでに亜人は住んでおりません。その情報を、このカエデが持って参ったのです」

「ほほう、つまりカエデ殿は、優秀な忍者であるか?」

「ええまあ、そのようなものです」


 シンゲンの舐めるような視線をものともせず、カエデが余裕で答える。


「ふむ……しかし、それが本当なら、実にけしからん話であるな。我が国の住民が、何者かにさらわれたのだから」

「ええ、そうなのです。そしてその亜人集落に、最も距離が近いのが貴国になるのです」

「なるほど、このカイからなら攻め込みやすいと。しかし、いくら近いと言っても、魔境に踏み込むのはためらわれますな。凶悪な魔物の跋扈する魔境ですぞ」

「それについては、私に考えがあります。魔物除けの秘法を提供しましょう」


 シンゲンの指摘に対し、カエデがなんでもないように対策を提案する。

 さすがに驚いたシンゲンが、訝しそうに聞く。


「魔物除けの秘法じゃと……そのようなもの、小物にしか効かぬのではないか?」

「いいえ、けっこうな大物でも避けますよ。それを利用しながら、侵攻路を作ればいい。後は大軍で押し潰せば、大量の奴隷と、新たな土地が手に入りますよ」


 カエデの提案に危険なものを感じながらも、シンゲンはその話にかれた。

 魔境への侵攻は危険が大きいが、その見返りも大きいだろう。


「ふむ、仮にそれが事実として、マツダイラ公は手伝っていただけるのですかな?」

「もちろんです。奪われた国民を取り返すため、我が国からも出兵したいと考えております」

「しかし、我らの間にはトオトウミとスルガがある。おとなしく兵を通すとも思えんな」


 その指摘に、マサノブがニヤリと笑う。


「仰るとおりです。ならばこの際、イマガワ公も巻き込んではいかがでしょうか?」


 トオトウミとスルガはヨシモト・イマガワが統べる地だ。

 マサノブは、かの国も巻き込めと言うのだ。


「しかし、イマガワ公がそう簡単に納得するか……」

「かの国でも亜人が消えておりまする。それを伝えれば、我ら同様に兵を上げるのをためらいますまい」

「ふむ、そういうことか……」


 シンゲンは必死で考えを巡らす。


「しかし、仮にイマガワ公が同意したとしても、領地の防衛上、それほどの兵は受け入れられぬ。せいぜい1万ずつ、といったところか」

「それは当然でありましょう。しかし、その辺は敵の戦力を確認してから、改めて協議するということでいかがでしょうか?」

「うむ、そうであるな。まずは当方も敵の状況を確認したいので、カエデ殿には案内をしていただけるかな?」

「ええ、私の部下に先導させましょう」

「かたじけない」


 ここにシナノ国侵攻の方針が決まり、場にいる者全てが笑みを浮かべた。

 それぞれの思惑を抱いて。





<カイ国 某所>


「カエデ様、配下の者がタケダ公の忍びを連れて出発しました」

「そうかい、ご苦労だったね。今後もあの国の情報は、定期的に上げておくれ」

「はい、すでに手の者を送り込んでおりますので、問題ありません」

「そうだね。それじゃあ、あたしはちょっと北に行ってくるよ」

「北というと、どちらへ?」

「ムツ国にいろいろと亜人が住んでいるのさ。ちょっと仕込みをしておこうと思ってね」

「なるほど、かの国に呼ばれる可能性は高いですからな」

「ああ、そうだろう?」


 この後、カエデはムツ国に飛び、陰謀の種をまいた。





 それと並行してマサノブはヨシモト・イマガワと接触し、ミカワ・カイ同盟へ引き込むことに成功する。

 ただし、ヨシモトはスルガ・トオトウミからそれぞれ1万ずつ派兵すると主張した。

 その後の協議でヨシモトの意向は認められ、より多くの兵が動くこととなる。


 こうして新たな戦乱の渦が、シナノ国を中心に巻き起ころうとしていた。

6章はこれで終了となり、次章からクライマックス編です。

改稿の方も4章まで終えましたが、以降は更新に力を入れるのでしばらく改稿は控えます。

明日から連日更新で完結まで持っていく予定ですので、よろしくお願いします。

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