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91.竜神の巫女

 接触を図ってきた竜人の使者を迎え入れたら、いきなり物騒な雰囲気になった。


「なぜ人族がここにいるっ? ここは亜人の国ではなかったのか!」


 竜人の偉丈夫が、今にも斬りかかりそうな勢いで問い詰める。

 今までいろんな種族と会ったけど、こんなにピリピリしてるのは初めてだ。


 するとヨシツネがスッと前に出て、竜人を制した。


「落ち着かれよ、使者殿。こちらは我が国の国主 タツマ様だ。タツマ様は四神を統べる英雄にして、異種族をも救おうとしている高潔なお方。いきなりのその態度、無礼ではないか?」


 そこまで言われ、ようやく自分がいかに非礼なことをしているか思い至ったのだろう。

 すぐに居住まいを正して、詫びてきた。


「こ、これはまことに失礼を。私は竜人族の使者 ジュウベエと申します。ご無礼の段、平にご容赦を……」

「謝罪を受け入れます。はるばるムツの国からようこそいらっしゃいました。まずはお座りください」


 俺はいつものようにリビングの敷物の上に座り、ジュウベエにも着座を促した。

 すぐにシズカがお茶を出してくれ、少し雰囲気が軽くなる。


「それで、ジュウベエさん。なんであんなにピリピリしてたんですか?」

「はあ、実に面目ないのですが、こちらに来る間に散々、人族に追い回されまして……」

「あー、なるほど。そういう状況でしたか」


 聞けばジュウベエは、ムツからコウズケを抜けて魔境外縁にたどり着くまで、ずっと人族に追われ続けていたらしい。

 なるべくフードで顔を隠したりしていたが、ちょっとした偶然で額の角と金色の瞳を、人族に見とがめられてしまった。

 竜人なんて伝説に近い種族だから、すぐに大騒ぎになり、アホみたいに追手が掛かったとか。

 魔境外縁に入るまでずっと追われていたため、神経がたかぶっていたようだ。


「それは大変でしたね。しかしここは大魔境のど真ん中です。俺以外の人族はいないので安心してください。それで、来訪の目的は?」

「はい。それはもちろん、貴国への移住をお願いするためです」


 ジュウベエがまっすぐに俺の目を見て言う。


「ふむ、お困りでしたら、受け入れるのもやぶさかではありませんが、ここへ来るまでの経緯を聞かせてもらえますか? たしか、巫女殿が神託を受けたとか」

「はい、竜神の巫女 サクヤ様から貴国の情報がもたらされました。この魔境に新たな国が興ったとのおおせです」

「へー、遠いムツからこの地の異変を感じ取ったんですか?」

「はい、そのように聞いております。我ら竜人族は代々、竜神様を祀っておりまして、その加護のおかげで夢を見たそうです。それは魔境の魔素が薄れ、多くの民がそこで笑い暮らすイメージだったとか」


 なるほど、どっかの神様が巫女を介して、この国の情報を伝えでもしたのかね?

 それは魔境の遺跡と関係あるのかもしれないな。

 まあ、それを調べるためにも、竜人の里を訪問しましょう。


「なるほど、ぜひそのサクヤさんにはお会いしたいですね。ところで、竜人族は今、何人ほどいるのですか?」

「はぁ……我々は300人ほどしかおりません。しかし……」


 なぜかジュウベエが言いにくそうにしている。

 我々はってことは、他にも移住希望者がいるってこと?


「ひょっとして、他にも困ってる種族がいるんですか?」

「はい、実はムツ国周辺にはいくつもの種族が住んでおりまして、我らはその盟主的な存在なのです。そうなると、我らだけ移住するわけにもいかず……」

「この国は広いですから、それほど遠慮はいりませんよ。何人いるんですか?」

「はあ、それが……1万人ほどおりまして」

「「1万っ!」」


 さすがにちょっと驚いたが、受け入れられない数でもない。

 たしかムツ国ってメチャクチャ広いから、それくらいいてもおかしくないよな。


 俺は気を取り直すと、にこやかに対応した。


「ま、まあ、1万人くらい、どうってことないですよ。しかし移住したくないって人もいるでしょうから、まずは話をしてみましょう」

「ははっ、寛大なお言葉、ありがとうございます。それでは私が故郷へ戻り、要人を連れてくるという手順でよろしいでしょうか?」

「いえいえ、俺も一緒に行ってお話をしましょう。ところでジュウベエさんは、空を飛んだこと、ありますか?」

「はぁ? 空、ですか?」


 俺が上を指差しながら聞くと、ジュウベエが怪訝な顔をする。

 すぐに自分が空の旅人になるとも知らず。




 そのしばらく後、俺はスザクに乗ってムツ国へ旅立った。

 今回はジュウベエを伴っての旅だったので、飛行用の箱に乗っている。


 これは長さ3メートル、幅1.8メートル、高さ1メートルほどの箱で、前面形状が鋭角で空気抵抗を受けにくいようになってる。

 中は3人が寝転べるぐらいの広さで、外を覗く水晶窓も付いている。

 その上部には頑丈な取っ手が付いており、これをスザクが抱えて飛ぶ形だ。



 箱に乗って飛び上がった当初、ジュウベエはうろたえていたが、すぐに慣れたようだ。

 そして4時間ほど飛び続けると、ようやく竜人の里が見えてきた。

 スザクが優雅に里の近くに舞い降り、俺たちを下ろしてくれる。

 すると、異変を察知した竜人たちが集まってきた。


「静まれ、皆の者。こちらにおわすお方は敵ではない。まずはサクヤ様に会わせてくれ」


 さすがジュウベエ、竜人が騒ぎだす前に機先を制した。

 竜人たちに疑われながらも、俺はスムーズに竜神の巫女と会わせてもらえることになった。



 そして案内された先には、妖艶な美女が待ち受けていた。

 巫女というからには、清楚な女性をイメージしていたのだが、ちょっとエロくてはすっぱな感じである。

 青味の掛かった黒髪に金色の瞳、額に生えた丸い角が、竜人であることを表している。


「サクヤ様、例の勢力と接触できました。こちらが魔境に国を作っておられるタツマ殿です」

「ほほう、ずいぶんと派手な登場をしたから、どんな御仁かと思えば、存外普通じゃのう」


 サクヤと呼ばれた女性が、舌なめずりしながら俺をめ回す。

 巫女のくせに、肉食系なのね。

 雰囲気が怖いっす。


「初めまして、サクヤ様。シナノ国主 タツマです。突然の訪問をお許しください」

「竜神の巫女 サクヤじゃ。貴殿は国主なのだから、敬称など不要じゃ。もっと気楽に話してくれ」

「それでは、サクヤさんと呼ばせてもらいます。俺も平民出身なので、気楽に話せるのは嬉しいですね」

「うむ、こちらもじゃ。それにしても、魔境に国を作ろうという者が、人族の若者だったとはのう。何がおぬしをそうさせたんじゃ?」


 サクヤが愉快そうに問うてくる。

 俺もそれに朗らかに応じた。


「アハハッ、そんな大したもんじゃありませんよ。縁あって四神を統べることになったので、その力を人助けに使おうと思っただけです」

「ほほう、四神をのう…………やはり伝承が実現しておったか」

「伝承って、なんですか?」


 サクヤが気になることを言ったので、思わず聞き返す。

 すると彼女はおもむろに煙管きせるを取り出すと、火を着けて吸いだした。


「フーーーッ……我ら竜人族に伝わる伝承によれば、”ヒノモトの大地に戦雲垂れこめし時、四神を解放せし者現れん。その者、国を作り、弱き者を守る英雄とならん” とある。まさに貴殿がやろうとしていることよ」


 英雄かどうかは別として、まんま俺のことだな。

 しかし、そうすると大きな戦の気配があるということか。

 これはますます、のんびりしてられないな。


「なるほど。実に興味深い伝承です……俺は大魔境の遺跡を攻略して四神を解放したんですが、竜人族はあれと何か関係があるんですか?」

「ふむ、あれはそういうことか。たしかに伝承にそれらしき記述があるので、何か関係があるようじゃのう。しかし、詳しいことは妾にもよく分からんのじゃ」

「そうですか……後ほど、その伝承を見せてはもらえませんか?」

「構わんぞ……ところで、国主殿自らお越しいただいたということは、我らの移住に前向きと考えてよいのか?」

「ええ、俺たちは大歓迎ですよ。ただし受け入れ能力の問題もあるので、困っている集落から順次、という形になりますが」


 それを聞いたサクヤが、嬉しそうに応じる。


「うむうむ、それこそ我らの願いよ。実は最近、人族からの圧迫がひどくてのう。いくつか焼け出された種族があるので、そちらを優先してもらいたいのじゃ。ほんに人族には困ったものよ」

「そんなにひどいんですか?」


 広大なムツ国のあちこちに散在する獣人種、妖精種だが、やはり人族の勢力増大で圧迫されつつある。

 最近は軍隊を出して焼き討ちまでする始末で、難民化する人たちが増えているそうだ。

 そして竜人族は彼らの盟主として、行動を求められているという。

 つまり、人族との対決だ。


「下手に戦争なんかしても、勝てませんよね?」

「もちろんじゃ。いかに我らが先頭に立ったとて、人族ほどうまくまとまるはずがない。数的にも大きく負けておるしのう。つまり、タツマ殿に見捨てられたら、我らは滅亡まっしぐらじゃ」

「ふむ、そういうことなら、全部引き受けますよ。我が国は天然の要害に守られてますから、よほど安心できるでしょう。ただし、絶対に危険が無いとも言えませんがね」

「うむうむ。我ら竜人族も全力で支援するので、よろしく頼む」

「ええ、頑張りましょう」


 これでまたしばらく、忙しくなりそうだ。

全体のストーリーができたので、序盤を改稿しつつあります。

現在、2章まで改稿済み。

ちょっとした表現や会話文をいじる程度の修正ですが、もっと読みやすくなればよいなと。

ホント、推敲に終わりはないですね。

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