89.忍者隊の増強
拙作がHJネット小説大賞の1次選考を通過しました。
2次の壁は高いと思いますが、今後も頑張ります。
農業生産と並行して戦力の拡充も進めていた。
他国の紛争に参加し、改めて人族の軍隊の手強さと強大さを実感したためだ。
そこでまずは新たな移住者を募ることにした。
ミカワ国以外の魔境外縁部に残る各集落を訪問し、改めて勧誘をしまくった。
しかしやはりというか、難民化していない種族の反応は鈍い。
多少、人族から圧迫されていても、なんとかなるだろうと楽観しているからだ。
住み慣れた故郷に住んでいれば、そう考えたくなるのも仕方ないだろう。
しかし、実際に襲われてから後悔しても遅いのだ。
俺はそれを少しでも実感してもらうため、熊人族と虎人族の生き残りを連れていった。
「実際に襲われてからでは遅いのです。人族に村を焼かれたため、私は住み慣れた家も思い出の品も全て失いました」
「そうです。幸い我らはタツマ様に救われましたが、失った人と物は戻ってきません。今もあの時の悪夢を見るほどです」
生き残った証人が涙ながらに語る話には、さすがに人々の心を揺さぶるものがあった。
しかし、それでも完全に故郷を捨てさせるには至らず、限定的に移住希望者を募って様子を見るという、消極的な対応が多かった。
結局、この勧誘による人口増加は、新たに引っ越してきた獅子人を入れても千人に満たなかった。
これに対し、エルフ、ダークエルフ族の反応は意外に良好だった。
精霊との契約をエサに積極的に勧誘を掛けたところ、千人を超える移住者が集まった。
すでにミカワ国の住人は全て移住しつつあるので、エルフ系の人口は2千人を超えることになる。
これは望外の成果だった。
そしてこれはドワーフにもあてはまった。
やはり精霊との契約をエサに、オウミ国で勧誘をしまくったのだ。
さすがに村ごとなんてことはなかったが、小口の移住者が集まり、500人ほど新たに仲間入りしている。
しかもその中には製鉄、造船、紡織、酒造などの職人が混じっていた。
これを機に、国内の産業振興をさらに進めていこうと考えている。
そんな、続々と人材が集まる中、待望の人物をハンゾウが連れてきた。
「本日はお招きいただきまして、恐悦至極。拙者、フウマ庄のコタロウと申します」
「わざわざの来訪、感謝します。俺がシナノ国主 タツマです」
彼はイズ国に住んでいるホビット族の長だ。
新たなホビット族を仲間に加えたかったので、ハンゾウに連絡を取ってもらったのだ。
「ハンゾウ殿からお話を伺った時は、なんの冗談かと思いましたが、本当にあるのですな、このような国が」
「ええ、まだまだ小さくて危なっかしい国ですが、もっと力を付けたいと思ってます。そしてそれには、コタロウ殿の力が必要なんです」
「それがしのような下賤の者を雇って、何をさせるおつもりで?」
「もちろんあなたたちの特性を活かして、探索、諜報、連絡に活躍してもらいますよ。俺はホビット族の能力を高く買ってるんです」
それを聞いたコタロウが、俺の考えを探るように言う。
「さすが、亜人の国を作ろうとするお方だけはありますな。しかし、そのお言葉、どこまで信じられましょうか?」
「話が美味すぎて、逆に信じられませんか? まあ、それも無理はありません。人族はホビット族を都合よく使い倒しているようですからね」
「おっしゃるとおり。我らがどんなに成果を上げても、わずかな報酬だけで、なんの名誉も与えられません。まるで虫けらのような扱いです」
話してるうちに気分が昂ぶってきたのか、冷静だったコタロウの顔に怒りがにじむ。
「それでは、俺があなたたちを重く用い、安住の地を与えるとでも書けば、信用できますか?」
「いいえ、残念ながら過去、そのような約束は何度も反故にされてきました。それよりはむしろ、タツマ様の力の象徴を見せていただきたく」
「ああ、四神ですね。それならば、外に出ましょう」
俺はゲンブとセイリュウを両手で拾い上げると、コタロウを外に誘った。
スザクはいつもどおり肩の上だし、ビャッコは猫の恰好でついてくる。
「それじゃあみんな、頼むね。出でよ、四神!」
俺の掛け声に合わせ、四神が真の姿を現した。
炎の霊鳥、風の霊獣、水の巨龍、土の大亀が、その威容を露わにする。
「おおっ、これが伝説の四神……まさにタツマ様は英雄であらせられる」
コタロウが心底感動した様子で、四神に見入っている。
英雄とか言われると、ちょっとこそばゆいな。
そしたら、近隣の住民が四神を見つけて集まってきた。
四神が全て同時に正体を現すことはめったにないから、珍しいんだろう。
みんな手を合わせて拝んでるよ。
結局、コタロウは移住を了承し、同族を説得するために故郷へ帰っていった。
そして翌日にはフウマ庄の視察団が湖畔を訪れ、全面移住が決定した。
それから3日後には、新たなホビット族500人余りが、俺たちの仲間に加わった。
以後、彼らはハットリ庄と同様に、湖畔の一角に居住することとなる。
それが落ち着くと、俺はハンゾウとコタロウを我が家に呼び出した。
「住民は落ち着いた?」
「はい、ようやく興奮も冷め、落ち着いてきております」
「それはよかった。何か不都合があったら、遠慮なく言ってね……それで、今日は今後の仕事について話したいんだ」
「は、我らフウマ庄、命を懸けてお仕えいたします」
コタロウが改めて居住まいを正し、決意を表明した。
あまりに待遇がいいから、ひどいことを命令されるとでも思っているのかね。
「まあまあ、もっと力を抜いて。多少は危険もあるけど、そんなにムチャを言うつもりはないから。基本的に君ら忍者隊には、他国での情報収集と移住者の探索をしてもらう」
「それでは、今までと変わらぬのではありませんか?」
今までと変わらぬというハンゾウの指摘には、ウンケイが答えた。
「いいえ、人員が増えたので、規模と範囲を大きく広げます。我が国の近くだけでなく、遠方にも手を広げようと考えています」
「そこまでして、何を目指すのでしょう?」
「うん、まずは他国の動向を探りたい。ひょっとして、この国に侵攻しようという動きがあるかもしれないからね」
「自然の要害に囲まれたこの国に、攻め込む勢力があるとも思えませんが。例の鬼神がらみですか?」
「うん、そのとおり。あいつは何かやると思う」
「鬼神?」
俺とハンゾウの話にコタロウがついてこれなかったので、改めて鬼神シュテンについて説明した。
それを聞いたコタロウの表情が硬くなる。
「なるほど、戦乱を招く鬼神ですか。四神がいるのですから、そのような存在もあるのでしょうな」
「うむ、実は昨年のミカワ国の魔境侵攻も、シュテンらしき影が見え隠れしていたのだ」
ハンゾウも鬼神の存在を肯定する。
「というわけで、情報収集は怠れない。それにこの国でなくても、魔境外縁部の集落が襲われる可能性は高いから、それも含めて動向を探って欲しいんだ」
「了解しました」
「承りました」
その先をウンケイが続ける。
「それから、各国で奴隷にされている同胞も、徐々に受け入れたいと思います。幸い昨年のオワリ戦役で得た資金があるので、それで奴隷を買い集めてください。なるべく多く集めたいので、値段の安い者を優先しましょう。ケガや病を持っていても構いません」
「しかし、それではせっかく迎え入れても、役に立たないのではありませんか?」
「いえ、我が国には治癒魔法を使えるササミさんがいますし、腕の良い呪術師や薬師もいます。それに手足が無い者には義手や義足を与えるので、それなりに働けるでしょう」
「は、はあ、本当に変わっているのですね、この国は」
コタロウが戸惑うのも当然だ。
しかし我が国の医療技術はよそより進んでいるし、義手や義足を作れる職人もたくさんいる。
それに安い奴隷ほど扱いがひどいから、救出する意味も大きいだろう。
全ての奴隷を解放できないのは歯がゆい限りだが、できもしないことを悩んでも仕方ない。
まずはできることからやっていくと決めたのだ。
「それと、この魔境外縁部以外の少数民族にも、勧誘を掛けて欲しい。けっこう人族の圧迫を受けている所は多いと思うから、積極的に誘ってみて」
その言葉に、ハンゾウが反応した。
「それなんですが、イガ国の同胞に声を掛けてもよろしいでしょうか?」
「イガにもホビットがいるんだ? どれぐらい、いるのかな?」
「まだ詳しく分かりませんが、2千人は下らないかと」
やはりこの世界でも、イガは忍びの里なのね。
まあ、2千人くらいなら全然平気だけど、単純には対応できない。
「接触するのは構わないけど、気をつけてね。この国の情報を他国に知られたくない」
「はい、その辺は慎重を期します。しかし我らはどこでも奴隷のように扱われていますので、この国のことを知れば、飛びついてくる可能性は高いかと」
「それでも油断はしないでね」
国の規模が大きくなるほど、周囲からの注目が集まる。
この先は慎重にやらないとな。