表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/116

84.第3次移民

 カイ国で焼け出された兎人族を勧誘に行ったら、即行で移住が決まってしまった。

 彼らは200人弱と小所帯だったので、わりと早く引っ越しは終わり、すでに仮住居に入っている。

 明日をも知れぬ状態から、安定した環境を手に入れた彼らは、とても喜び感謝していた。




 その後も困窮した集落に声を掛けて回ったが、やはりとんとん拍子で話が進む。

 2日間で第2次移民の受け入れ限度2千人を超えたので、当面の移住はそこで打ち止めにした。


 問題は、その枠から漏れた人たちだった。


「どうしても今、受け入れてはもらえませんか?」


 カイ国側の魔境外縁部に住む狼人族の長が、必死に訴える。

 すでに彼には俺たちの素性と目的を明かし、秋以降の移住を申し出たところだ。

 しかし、彼らは想像以上に追い詰められていた。


「ですから、今すぐ受け入れる余裕は俺たちにもないんですよ。すでに2千人を超える人たちを新たに迎え入れました。これ以上の住民を受け入れられるほど、食料が無いんです」

「それは我らも一緒です。今のままでは我らも、遠からず干上がる。なんとか、なんとか受け入れてもらうことはできませんか?」


 狼人の長が見捨てられてはならじと、グイグイと食い下がってくる。


「ちょ、ちょっと落ち着いてください。何もこのまま放りだすとは言ってませんから。皆さんには武器や道具を支援します。当面はそれでしのぎながら、秋の実りを待ってください。食用になる木の実などを溜め込んでから、俺の国へ移ってもらいます」

「それは、本当ですか? それなら、それならなんとかなるかもしれない……ウウッ、ありがとうございます、ありがとうございますっ!」


 希望が見えて気の緩んだ長が、とうとう泣きだす。

 なんかこのカイ国に住む人たちの状況は、他よりもいっそう悲惨なようだ。

 どんな経緯で故郷を追い出されたのだろうか。


「そういえば、皆さんはどうして故郷を追い出されたんですか?」

「ウウッ……よくぞ聞いてくれました。10年ほど前まで我々は、もっと人里近い所に住んでいたんです。しかし国主が変わった途端、迫害が始まりました。頻繁に食料や人員を徴発されるようになり、やがて村を焼かれたのです。それで魔境の方へ逃げてきて、ようやく落ち着いたと思ったら、また襲われて。我々も必死に抵抗しましたが、大勢が殺されたり、奴隷にされました。ようやくここまで逃げてきたはいいが、ひもじいわ、道具も無いわで、途方に暮れていたのです。そこへあなたが……クウッ」


 うーん、聞いた感じでは、ミカワ国よりもさらに迫害が過酷なようだ。

 食物を栽培しない亜人なんか、攻め滅ぼしてしまえって意図が感じられるな。

 これはもっと、難民の移住を急いだ方がいいのかもしれない。


 その後も必要な物資の要望などを聞き、村を後にした。


 残りの難民集落も全て回ったが、どこも似たり寄ったりだった。

 皆一様に疲れ、怯えながら暮らしていた。

 しかし、そんな中で俺の申し出が干天の慈雨となり、彼らに希望を与えられたのは幸いだ。

 彼らの期待を裏切らないよう、もっと頑張らないと。





 それから2ヶ月ほどの間は、国内の整備と難民の支援に忙殺された。

 相変わらず俺は過労気味だが、主に孤児や妖精種の助けを受け、なんとか仕事をこなしている。

 孤児たちは彼らの仕事と勉強をしながら、俺たちの手足となって雑務を手伝ってくれる。

 まだ実務がやれる者は少ないが、ちょっとした伝令とか確認に走ってくれるだけでも助かる。


 幸いなことに、ドワーフ族が他種族向けにもバンバン家を建てており、入植は順調だ。

 もちろん鍛冶をやらせろという突き上げも激しいが、そこはローテーションを組んで対応している。

 ちなみに難民に渡すための武器や道具が必要だったため、鍛冶仕事も大忙しだ。


 エルフ、ダークエルフ族は多くの者が精霊と契約し、主に土木工事で活躍している。

 当然、彼らの頭脳を活かすべく、事務仕事もお願いしている。

 森の中への彼らの村の建設も順調だ。


 さらにホビット族は情報収集、製塩、漁業にと大活躍だ。

 ぶっちゃけ人が足りなくて困ってるので、新たなホビット族を勧誘しようと考えている。





 そしてとうとう実りの秋が来た。

 まず畑で育てていたきびあわが穂を垂れたので、それを収穫して保存する。

 ここへ来て初めての農業だったので、いろいろ失敗もあったが、それなりの蓄えはできた。


 それと並行して山野の実りも採りまくった。

 まず保存しやすいクリ、ドングリ、クルミなどの木の実を集め、溜め込んだ。

 さらに野草やキノコ、果物も採取する。


 野菜や野草、キノコ類はそのまま食べるだけでなく、塩漬けにして保存食にもしている。

 ここでホビット印の海塩が大いに役立った。

 普通に買うと、けっこう高いからな。


 そして果物は貴重な甘味として楽しみつつ、お酒としても加工されている。

 従来、酒は外から買っていたので、どうしても不足気味だった。

 そんな状況に不満を抱いている男どもが、ヤマブドウやノイチゴで酒を造ったのだ。

 飲めるようになるまで3ヶ月くらい掛かるのだが、みんな楽しそうにしている。

 いずれ余裕ができたら、日本酒とか焼酎も作りたいもんだ。




 こうして湖畔が秋の実りを享受している頃、魔境外縁部でもその恵みを刈り取っている者たちがいた。

 まだ移住できていない難民の人々だ。

 カイ、エチゴ、ミノに接する魔境外縁に分散する彼らは、なんとか生き残っていた。

 俺たちが支給した武器や道具が役立ったのは言うまでもない。


 そして彼らは冬ごもりに備え、周辺の山野の幸を採り尽くす勢いで溜め込んだ。

 木の実、野草、キノコ、果物をできるだけ集めると同時に、競合する魔物や動物を狩る。

 魔物や動物も秋の実りを当てにしているんだから、それとかち合うのは当然だ。


 しかし難民の獣人たちは支給された武器を使い、それらに対抗する。

 ドワーフ謹製の剣、槍、弓は強力だ。

 その性能のおかげもあって、難民たちは競争に勝ち残り、狩った獲物も食料として備蓄していた。


 冷静に考えると、ひどい環境破壊なんだが、今回は仕方ない。

 難民が住んでいた辺りの生態系が一時的に混乱するだろうが、彼らは俺の国に移住するので、じきに回復するだろう。

 問題はそこに隣接するエルフやら獣人の集落なのだが、そちらへも挨拶がてら話を通してある。

 もちろんシナノ国への移住も勧めているが、今のところ反応は薄い。


 いずれにしろ、魔境外縁の資源も取り込むことで、必要な食料を溜め込むことができた。

 そして雪が降る前に、難民の残りが移住してきた。

 第3次移民だ。


 3千人近い獣人が新たに加わり、我が国の人口は8千人を超えた。

 その内訳は大体こんな感じだ。


兎人    2000人

狐人    1800人

猫人    1600人

狼人    1500人

熊人     200人  

虎人     200人

獅子人     50人

ドワーフ   600人

ホビット   400人

エルフ    100人

ダークエルフ 100人


 獅子人とエルフ、ダークエルフは先遣隊のみで、残りは来年移住してくる予定だ。

 それが加われば、1万人を優に超えることになる。

 さらに他の集落からも移住者を募っているので、もっと増えるだろう。





 第3次移民の混乱が治まる間もなく、冬ごもりの態勢に入る。

 しかし俺たちはただ引き籠っているつもりはない。

 その時間を、翌年春からさらに成長するための準備期間に充てるのだ。


 まず力自慢の獣人がたくさん手空きになったので、迷宮探索と土木工事に振り分けた。

 大量に冒険者登録をさせて、常時200人近いメンバーが迷宮に潜っている。

 戦闘訓練ができて、さらに魔石でお金稼ぎもできるんだから一石二鳥だ。

 ちなみにオワリ国での魔石産出量が跳ね上がり、あっちの景気も良くなってるらしい。

 オワリは異種族を差別しない貴重な国だから、これは俺たちにとっても朗報だ。


 そして土木工事は主に道路作りと、農業用の水路作りだ。

 集落間の道路をしっかり整備することで、輸送能力を向上させる。

 さらに来年はガッツリと水田を増やすので、事前に水路も作っておく。

 これで食料生産力がさらに高まるだろう。


 ドワーフ族には、鍛冶仕事と家作りをガンガン進めてもらってる。

 相変わらず家不足なので建築が主だが、農具作りも大事な仕事だ。

 当然鉄が足りなくなるので、その後もたたら吹きをちょくちょくやっている。

 だいぶデータが集まってきたので、四神に頼らない鉄作りにも取り組むつもりだ。

 ちなみに膨大な量の木炭が必要なので、冬の間に木炭の貯蔵も進めている。


 エルフ系住民は自分たちの村作りに邁進しているが、行政組織の編制や孤児の教育にも手を貸してもらっている。

 すでに8千人を超える国民を統治していくには、それにふさわしい行政組織やルールが必要だ。

 そのたたき台作りを、エルフ・ダークエルフの知識人にお願いしている。


 さらに新たな移民で孤児も300人近くまで膨れ上がった。

 この子供たちに教育を授けるのも彼らの仕事だ。

 もちろん、孤児以外にも希望者には勉強をさせている。


 農業関係も遊んでいない。

 来年の水稲栽培に向け、オワリ国へ情報収集に送り出している。

 書籍の収集とか、農家への聞き取りが主だな。

 聞くとやるのとでは違うこともあるだろうが、ゼロからやるよりはマシだろう。



 そんな国の根幹固めに忙しく立ち回っていたある日、思わぬ報告がもたらされた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作始めました。

エウレンディア王国再興記 ~無能と呼ばれた俺が実は最強の召喚士?~

亡国の王子が試練に打ち勝ち、仲間と共に祖国を再興するお話。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ