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80.国栄えれど・・・

 ホビット族を受け入れて数日後、俺は魔境外縁を飛んでいた。

 正確に言うと、ハンゾウと一緒にスザクに乗り、魔境外縁の地形を確認して回っているのだ。

 シナノ大魔境はミカワ国だけでなく、ミノ、ヒダ、エッチュウ、エチゴ、コウズケ、ムサシ、カイ、スルガ、トオトウミの、実に10ヶ国に接している。


 その国境のほとんどが険しい山々や森林に隔てられているとはいえ、警戒しておくに越したことはない。

 さらに言えば、ミカワ国以外の外縁部にも、獣人種や妖精種の集落が点在している。

 中にはササミの家族のように、故郷を焼け出されて困っているような人たちがいるかもしれない。

 そこで俺は忍者部隊を外縁部に派遣し、情報を集めることを考えた。

 その前段階として、忍者を率いるハンゾウに、外縁部の地形を把握させているのだ。



 そんな調査飛行を3日続け、今はカイ国との境界で休憩していた。


「どう、ハンゾウ。外縁部の地形は頭に入った?」

「はい、とても参考になりました。やはり地図だけで見るのとは大違いですね」


 そう言いながら彼は、今も地図に文字を書き込んでいる。

 この辺を偵察する時の参考にするのだろう。


「後は各国に忍者を派遣して、地道に情報を集めるしかないね。凄く広いから、大変だと思うけど」

「そうですね。しかし、我々もこの日のために鍛えていますし、ヤミカゲ隊も貸していただけるのですから、それほど時間は掛からないでしょう」

「うん、頼むよ……それにしても、やっぱりこのカイ側が一番危険だよなぁ」

「そうですね。距離の近さといい、地形的な難易度といい、もっとも侵入しやすいのは間違いありません」


 俺たちが住むスワの海近辺は、わりとカイ国に近い。

 おまけに日本でいう小淵沢こぶちざわの辺りは、あまり険しい山が無いのだ。

 他の国境がずいぶんと遠かったり、峻険な山脈に隔てられているのに比べると、雲泥の差だ。


 もし我が国が侵攻を受けるとしたら、それはカイ側からの可能性が高い。

 というか、ここしか無いような気がする。

 もっとも、このカイ側だってそれなりに鬱蒼とした森林が広がっているので、そう簡単に侵攻できるわけでもない。


 結局、他国の情勢しだいなので、国境調査と並行して、各国の情勢も調べる予定だ。

 軍備状況や国主の性格、同盟関係などの情報を集め、事態に備えねばならない。





 そんな不安を抱えつつも、我が国の発展は順調だ。

 まず人口だが、エルフ系種族と熊人、虎人、ホビット族の移住で3千人を超えた。

 さらにエルフ系の残りと獅子人族も、準備が整いしだい移住してくるので、来年は4千人台半ばに近づくだろう。


 これだけの人口を養う源泉は、迷宮探索による資金稼ぎ、周辺での狩猟・採取、そしてスワの海での漁業だ。

 まず迷宮には今、常時60人ほどの戦士が潜っている。

 人材はローテーションしているので実力はマチマチだが、アリガ迷宮の3層で戦えるぐらいの人材が増えてきた。


 彼らはオワリ国でいくつかの迷宮に分散して潜り、魔物から採れた魔石を売る。

 6人パーティで1日潜ればだいたい銀貨50枚程度は稼げ、それが10倍で金貨5枚になる計算だ。


 この稼ぎの多くを使って、食料を買い込んでいる。

 米だけでなく雑穀も買いあさっているが、さすがにオワリだけでは目立つので、ミカワやミノでも買う。

 この辺の流通網構築は、テッシンに助けられている。



 湖畔周辺での採取活動も軌道に乗ってきた。

 有用な野草とか木の実が、どこにあるか分かってきたので、効率的に採取できるようになっている。


 それと並行して周辺の魔物を狩り、肉の貯蔵も進めている。

 普通なら塩漬けにするか、燻製にするしかないんだが、俺たちは冷蔵倉庫を作った。

 まず土魔法で地下に大きな倉庫を作り、その中をセイリュウが定期的に氷で冷やす形だ。


 いや~、四神の力は偉大だ。

 え、神獣を冷蔵庫代わりにするなって?

 まあ、別に嫌がってないし、いいんじゃないかな。



 それから漁業の方も、ホビット族の参入で本格的になってきた。

 彼らは海辺で漁をしていたので、即戦力として活躍している。

 舟や網などの漁具も増えてるので、漁獲量はうなぎ上りだ。


 毎日、新鮮な魚介類が食べられるようになり、余った分は加工して保存食料にしている。

 さらにホビットの中には船大工もいたので、今後は小舟の製造やメンテもできるようになった。

 今後もスワの海での漁業は発展していくだろう。



 そしてホビット族と言えば、塩の生産が始まった。

 彼らに伝わる製塩法とは、揚げ浜式塩田で濃い塩水を作り、それを煮詰めて塩を作るものだった。

 しかし、揚げ浜式だと大きな労力が掛かるので、ベンケイとウンケイを呼んで改善を図った。


 最終的に採用したのは、流下式塩田だ。

 これは流下盤と枝条架しじょうかという設備に海水を流し、太陽熱と風で水分を蒸発させる方式だ。

 流下盤ってのは緩斜面に海水を流し、太陽熱で水分を飛ばすやつだな。


 もうひとつの枝条架ってのは竹の枝を組んだ設備で、この枝に沿って薄膜状に海水を落とすと風で水分が飛ぶ。

 この流下盤と枝条架による蒸発を何度か繰り返すと、濃い塩水が生成できるって寸法だ。

 これを煮詰めれば、より少ない燃料で塩が取り出せる。


 しかし流下式塩田にしても海水のくみ上げが手間なので、手押しポンプを採用した。

 うろ覚えだが、簡単な原理を絵に描いて説明したら、瞬く間にウンケイが構造を理解し、それをベンケイが作り上げたのだ。

 普通はピストンとシリンダーの間の精度とか、逆流を防止する弁などが厄介なのだが、ベンケイのチートな加工能力であっさり解決してしまう。

 能力的には申し分のない手押しポンプができたので、今後は井戸への配置も予定している。


 そしてこの流下式塩田を、ハットリ庄近くの海岸に建設した。

 そこは周囲を崖に囲まれた場所で、まず人は来ない。

 ここを定期的にゲンブの通路で行き来し、濃い塩水を生産して湖畔へ送る。


 塩を煮詰める燃料は魔境の方が豊富だからな。

 ちなみに海水を煮詰めるとにがりが出てくるが、これで豆腐も作れるようになった。


 必要な量の塩水を確保したら、ポンプなど重要な部品を回収して戻る。

 一応、何かの拍子に設備が見つからないよう、アヤメに認識阻害の魔法を掛けてもらってある。

 かくして俺たちは塩を自給できるようになり、支出が減って万々歳。


 ちなみにホビット族は真珠養殖にも取り組んでいるが、これには時間が掛かるので、今はお楽しみといったところだ。





 こうして生活基盤が整い、時間に余裕ができてきたので、本格的な集落の建設も始まった。

 仮住居に住んでいた住人が、種族ごとに村を作っていくのだ。


 まずウンケイが中心になって決めた区画割りに従い、各種族に土地が割り振られる。

 その土地に対して村の建設計画を提出させ、場合によってはアドバイスをしつつ承認。

 その後は土魔法で基礎作りだけ手伝って、家造りは住民に任せている。

 家は個人の資産だからな。


 ちなみに家の基礎作りとか道路建設などの土木工事は、アヤメを中心としたエルフ系術師に丸投げだ。

 だって俺、忙しいからな。

 もう、ちょー多忙だ。


 国主としての書類仕事に始まって、各種会議への出席、住民の陳情を聞いたりと仕事てんこ盛り。

 おかげで最近、とみに睡眠時間が減った気がする。


 誰だよ、国を作ろうなんて言いだしたの。

 俺ですが、何か?

 ぐあ~っ、ブーメランじゃねーか!


 しかし忙しいのは俺だけじゃない。

 ヨシツネは軍隊の練成に忙しいし、ベンケイは生産活動を統括している。

 みんな、俺の夢の実現に向けて頑張ってくれてるのだ。


 あのササミですら、病院の立ち上げに走り回っている。

 とりあえず俺んちの近くにドーンと3階建てのビルを造り、医療関係者が常駐するようになった。

 ここで治療をするだけでなく、医療知識を共有したり、新たな研究を始めたりもしている。


 おかげで俺の仕事が、また増えたんだけどね。

 あっ、なんか涙で視界がかすんで、書類が読めない。

 やっぱ、やめときゃよかったかなぁ、トホホ。

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エウレンディア王国再興記 ~無能と呼ばれた俺が実は最強の召喚士?~

亡国の王子が試練に打ち勝ち、仲間と共に祖国を再興するお話。

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