表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/116

77.ミカワ軍侵攻

 エルフ、ダークエルフ族からそれなりの移住者があり、俺の国も活気づいてきた。

 彼らは教育レベルが高いので文官として雇いやすく、さらに魔道具の生産もできる。

 おかげで多くの事務仕事を任せられるようにもなり、そっちの負荷がだいぶ減った。


 さらに彼らに精霊との契約を支援したところ、小さな子供を除いてほぼ全てが成功した。

 おかげで150人以上の精霊術師が新たに生まれ、今後の戦力として期待できるようにもなっている。




 エルフ系移民の増加に触発され、ドワーフたちも気合いが入ってきた。

 彼らは家を始め、いろいろな物を生産しているが、中でも力を入れているのが製鉄事業の確立だ。

 あいつら、鍛冶仕事が大好きだからな。

 自分たちで鉄を生産できるようになれば、より鍛冶仕事ができるって算段だ。


 しかし製鉄業を始めるにあたって、それに応じた資源の開発が必要になる。

 鉄鉱石に木炭、炉を作るための粘土などが必要なんだが、木炭以外は鉱脈を見つけねばならない。

 そんな資源の探索者として、俺は闇狼ダークウルフのヤミカゲ隊を組織した。

 ちなみに彼らの個性はこんな感じだ。


ヒカゲ:「ワオン(わが命は主のために)」

フカゲ:「ウオーン(ご主人様の眷属になって嬉しい~)」

ミカゲ:「グルオゥッ(主の敵は全てぶっ殺す)」

ヨカゲ:「ワフン(愛しています、主様)」

イツカゲ:「クウーン(腹減った、主)」

ムカゲ:「アオーン(主様サイコーッ)」

ナナカゲ:「ウォン(我は忍び)」

ヤカゲ:「キャイン(もっと踏んでください、ご主人様)」

コカゲ:「ワウッ(なんでもやります)」

トウカゲ:「バウッ(常に全力疾走~)」


 ちょっと変なのも混じっているが、基本的に俺に忠実な奴らだ。

 こいつらにそれぞれ3~4匹のダークウルフを組ませ、鉱石や粘土のサンプルの臭いや味を覚えさせた。

 そのうえで適当に割り当てたエリアを調査させると、続々と鉱石や粘土が見つかった。


 見つけた資源はそれに詳しいドワーフが赴いて、改めて調査をする。

 土精霊ノーミーのニカやゲンブにも協力してもらい、鉱石の埋蔵量を見積もっているところだ。

 今後、有望な鉱山を開発し、製鉄を始めることになるだろう。


 しかし製鉄炉なんてのはノウハウの塊だから、ちょっとやそっとでできるわけがない。

 まずはたたら吹きから始め、いずれは耐火レンガを使った恒久的な炉を作りたいものだ。

 とはいえ、燃料の木炭だって莫大な量が必要になるから、まだまだ先は長いだろうな。





 そんな仕事に忙殺されていた夏のある日、緊急事態が発生した。


「獣人の集落が襲われただって?」

「うむ、今日になって熊人族と虎人族の一部が、逃げてきたと言っておりますじゃ」


 ヨシツネの故郷からゲンブに、緊急通信が入ったらしい。

 あこそにはゲンブの甲羅を預けてあるから、それを介して通信が可能になっているのだ。

 俺はすぐにゲンブに手を当てると、通信を試みた。


(こちらタツマ、こちらタツマ。ヨシトモさんはいますか?)

(ああ、タツマ殿。ヨシトモです。どうやらミカワ国の軍隊が他の集落を襲ったらしくて、うちもヤバいかもしれないんだ。相談に乗ってもらえませんか?)

(分かりました。すぐにそちらへ行くので、周囲を空けてください。ゲンブ、頼む)

(了解ですじゃ)


 すぐにゲンブの甲羅が1枚浮き上がり、黒い円柱が形成された。

 ヨシツネを伴ってその通路をくぐると、村の中の広場に出る。


「おお、タツマ殿。急にお呼び立てをして申し訳ない」

「いえ、緊急事態なのでお気にせず。それで、何が起こったんですか?」

「それが、今日になって熊人族と虎人族の難民が、助けを求めてきたんです。ここ数日の間にミカワ国の軍隊に村を襲撃され、命からがら逃げてきたとか」


 そう言われて辺りを見回すと、熊と虎の特徴を持った獣人が何人もいることに気がついた。

 誰もがすっかり疲弊しており、ケガ人も多い。


「軍隊に襲われたって、何かミカワ国とあったんですか? 小競り合いとか……」

「いや、それはないはずです。今までは少人数の部隊が来ても、税金代わりに何か納めて帰していました。今さら、無用に事を荒立てるはずがない」

「あいつら、とんでもない要求を吹っ掛けてきたんだ」


 ふいに熊人の老人が、俺たちの会話に割り込んできた。


「とんでもないって、どんな要求ですか?」

「住民1人につき大銀貨1枚の税を納めろってんだ。そんな金ねえって言ったら、奴隷を差し出せと来やがった。それで若いもんが激発して、戦いになったんだ。だけど多勢に無勢で……」


 どうやらミカワ国は最初から戦争をするつもりだったらしく、千人近い軍勢が差し向けられたそうだ。

 いかに屈強な熊人族といえど、数の暴力には抗せず、多くが殺されたり捕まったりしたらしい。

 そこで比較的近い虎人族の村に助けを求めたものの、翌々日にはまたもや軍隊が押し寄せ、やはり蹂躙されてしまった。

 困ったことに、その軍隊は明日にもここを襲う可能性があるらしい。


「ヨシトモさん、ただちに老人や女子供、ケガ人を俺の国に避難させましょう。同時に獅子人族の戦士には、周辺の警戒と難民の救助をお願いします」

「それは構わないが、どうするんです? いくら我々だって、とても千人の軍隊とは戦えませんよ」

「最悪の場合、俺の国にみんなで引き籠りましょう。だけど、その前に夜襲を掛けて敵を追っ払おうと思います」

「夜襲か……たしかに我々は夜目が利くが、まずは敵の動向を掴まないといけないな」

「それは俺に任せてください。空と陸からあぶりだしてやりますよ。そのうえでゲンブの通路を使えば、適切に兵力を配置できます。俺の国からも義勇兵を募りましょう」

「なるほど。それならば、かなり戦えそうですね」


 方針が決まると、即座に避難が始まった。

 獅子人族の弱者と熊人、虎人の難民が、身の回りの品だけ持ってゲンブの通路に消えていく。

 シナノ国側では、また臨時の宿舎を建設し、難民を受け入れた。

 さらに仕事で散っていた住民に緊急招集を掛け、義勇兵の編成も始める。




 夕暮れまでには避難が完了し、獅子人族の村に戦士が集結した。

 戦力としては獅子人が200人に、猫人、兎人、狐人、狼人がそれぞれ50人程度、ドワーフとエルフが20人ずつといったところだ。

 熊人と虎人もわずかながら、参加している。

 俺は各部隊の責任者を集め、大雑把な地図を見せながら作戦を説明した。


「どうやら敵は、ここから半日ほどの位置に到達しています。この辺りに野営するようなので、これを夜襲して追い払いましょう」


 そう言うと、狼人の男が不安そうに聞いてきた。


「倍以上の敵に挑むのは、いくらなんでも無謀じゃないか?」

「正面から当たるなら、そのとおりです。しかし、今回は敵を追い返すのが目的なので、なんとかなるでしょう。方針を簡単に言えば、”こっそり闇討ちして、お帰りはあちら”ってとこですね」

「こっそり闇討ち、ですか?」


 俺の方針を聞いたヨシトモの顔が、ちょっと引きつっていた。

 そんな彼を見ながら、俺は不敵に笑う。


「フフフッ、名誉を重んじる獣人種には受け入れがたいですか? でもね、大勢で弱者をいたぶるような奴らに、そんな理屈は通じないでしょう。むしろ、ふさわしい対応だと思いますがね」


 その言葉に、熊人と虎人の戦士たちが反応した。

 いきなり無茶な要求を押し付け、女子供でさえ虐殺したミカワ軍への怒りに、火がついたのだろう。

 彼らの熱気に当てられ、他の戦士たちも気勢を上げ始める。


「た、たしかに卑劣な敵に正々堂々と対応するのも、おかしな話ですね……分かりました、やりましょう」

「その意気です。すでに連中の周囲には、この甲羅を配置してあります。奴らが寝静まった頃に通路を開くので、あとは部隊ごとに移動して襲撃してください」

「引き際はどう見極めますか?」

「そうですね……俺の方で派手な花火を打ち上げるので、それを見たら甲羅の所に戻ってください。あまり深追いはしないように」





 その日の深夜、敵の周りに配置したゲンブの甲羅が突如浮き上がり、黒柱が発生した。

 この甲羅は事前にヤミカゲ部隊に持たせ、事前にミカワ軍の周りにいくつか配置しておいたものだ。

 通路からは続々と獣人の戦士が湧きだし、戦闘態勢を整える。


 そして、全ての部隊が移動すると黒柱は消え失せ、甲羅が地面に落ちた。

 準備が整うと、獣人部隊がミカワ軍に襲いかかった。

 敵も見張りは立てていたが、多くの者が寝静まっている状況だ。


 そこに獣人たちが音も無く忍び寄り、見張りの首をかき切っていく。

 やがて敵の中にも異常に気づくものが現れ、騒ぎが湧き起こった。

 そんな、徐々に騒がしくなっていく中で、とうとう複数の天幕が燃え上がった。


 至近まで忍び寄った獣人たちが火を放ったのだ。

 これにより、パニックに陥った兵士が入り乱れ、逃げ惑う。

 後はもう、あっけないものだった。


 取る物も取らず逃げ惑う兵士たちが、押し合いへし合いしながら逃げていく。

 あらかじめ獣人たちには、敵を包囲せず、ある方向に誘導するよう指示してあった。

 多少は暴走する者もいたが、概ねその指示は守られ、ミカワ軍はある方向へ逃れていく。

 その方向に、急斜面や崖が待ち受けているとも知らず。



 それらの一部始終を、上空で滞空するスザクの上から眺めていた俺が、最後の指示を出した。


「スザク、花火を上げてくれ」

「了解で~す、主様」


 スザクが口を上に向け、火球を3発撃ちあげた。

 それは派手な音と光を撒き散らしながら、獣人部隊に撤退を促す。


「とりあえず、これで終わりだな。今日のところは」

「そうですね~。しかし、これで主様もお尋ね者ですね~」

「ああ、そうだな。いずれは国の存在も知られるだろうからな。戦争になるかもしれないから、準備が必要だ」


 こうして体制側に敵対したからには、もう後戻りはできない。

 いよいよ覚悟を決める時がきたか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作始めました。

エウレンディア王国再興記 ~無能と呼ばれた俺が実は最強の召喚士?~

亡国の王子が試練に打ち勝ち、仲間と共に祖国を再興するお話。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ