表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/116

74.開拓始動

「タツマ様、当面の開発計画をまとめてみました」


 クニトモ村から帰還した翌日、ウンケイが開発計画を持ってきた。

 彼がスワの海周辺の地図を広げ、いくつかの書類を使って説明を始める。


「まず、国主邸の周辺を行政区、商業区として確保します。そして他の湖畔地域には、適度に分散させながら居住区、工業区、商業区、漁業区を作ります。そのうえで、農地と居住地を郊外へ伸ばしていく形になります」

「うん、俺の希望どおりだね。さすがウンケイ、十分に拡張性を考慮した、見事な計画だ」

「はい、わざわざ分散させても効率が落ちないよう、配慮しました。それにしても、本当にこれでよろしいのですか?」


 ウンケイが心配そうに聞いてくる。

 ここまでやる必要があるのかって顔だ。

 なんといってもこのスワの海は、日本の琵琶湖に匹敵するほどの巨大湖だ。


 その周辺には広大な平原が広がり、いくらでも開発の余地がある。

 逆にあまりに広いので、開発拠点を分散させると非効率なのではないか、と彼は懸念しているのだ。

 その懸念はもっともだが、俺はこの国を中途半端なものにするつもりはない。


 スワの海の北には松本盆地に相当する平野が、南には伊那盆地に相当する平野が、それぞれ広がっている。

 ぶっちゃけいくらでも開発余地があるのだが、それだけに中枢はしっかりさせたい。

 そのため、現状では非常識なほど拡張余地を取るよう、ウンケイにお願いしておいたのだ。


 そして彼はその期待に見事に応えてくれた。

 さすがはクニトモ村の神童。

 しかし、優秀すぎるがゆえに、計画の非効率さが目につくのかもしれない。


「まあ、現状は非効率に見えるかもしれないけど、そこは上手くやっていこうよ。よりよい国を作るためにね」

「……うーん、私とは見ているモノが違うのでしょうか。分かりました、よりよい国を作るために、ですね」

「別に俺が優れてるんじゃなくて、前世の記憶のおかげさ。まあ、騙されたと思ってやってみてよ」


 そこまで言うと、ようやくウンケイも納得がいったようだ。

 これでいよいよ、本格的な国作りに取りかかれる。





 翌日から各区画の縄張りと、農地開発に取りかかった。

 居住区、工業区、商業区、漁業区の範囲を決めてから、それ以外の土地を農地として開墾するのだ。


 開墾のやり方は、まず予定地の草を刈るのだが、ここで活躍したのが風神ビャッコだ。

 彼の風魔法で無数のカマイタチを発生させ、草や木を刈り取ってしまう。

 これを2,3日放置して乾燥させた後、火を着けて焼き尽くした。


 もちろん延焼しないよう、ゲンブに防火帯を作ってもらったり、風で飛んだ火の粉をセイリュウに消してもらうなど、山火事防止にも配慮している。

 必要以上に燃やして自然を壊すなんて、もったいないからね。

 そして灰燼に帰した平原を、俺とアヤメ、ニカ、ゲンブが土魔法で掘り返す。

 ズバズバズバーッって感じで土を掘り返し、灰や草木の根をかき混ぜ、農耕に向いた土壌に変えるのだ。


 ここでいよいよ移民の農耕班が投入される。

 農業経験者を中心に人員を募り、全体で300人ほどを採用した。

 獣人種は本来、狩りや採取を中心に生計を立てるものだが、意外に農業経験者もいるのだ。

 つい10年ほど前までは、人族との関係もそれほど悪くなかったので、一緒に農業やってた人もいるらしい。


 で、その人たちが改めて農地を耕したり、石を取り除いたりしたところに種をまく。

 あいにくと、すでに6月に入っているので、米や小麦を植えるには少し遅かった。

 そこで、わりと収穫の早いきびあわをメインに育て、野菜も植えることにした。

 これで秋には、いくらかの食料が確保できるだろう。

 とはいえ、これぐらいで食料が自給できるはずもなく、当面は外から買う必要がある。


 来年にはもっと農地を増やし、水田で稲を栽培したいものだ。

 なぜ米にこだわるかというと、水稲栽培ってのは都合の良い農業だからだ。

 連作障害になりにくいし、労力のわりに収穫量が多い。

 地球で人口の多い国がアジアに集中してるのは、稲作による人口扶養能力が高いからだって話だからな。


 ちなみにこの世界の農業は、それなりに進んでいる。

 日本の室町時代よりは進んでいて、鉄の農具も普及しつつある。

 まあ、この世界にはドワーフとかエルフ、さらには魔法だってあるんだから、いろいろと異なるけどね。


 ただし、やはり島国のせいか、サツマイモとかジャガイモ、玉ねぎなんてのはまだ無い。

 ジャガイモとかあれば、飛躍的に食料生産能力が上がりそうなんだけどなぁ。

 まあ、この肥沃なシナノの大地があれば、それほど必要ではないのかもしれない。




 農地開発と並行して、工業生産にも取り組んだ。

 まず金属製品を自給するべく、鉱物資源の調査をしている。

 その調査の尖兵となるのが、ホシカゲ配下の闇狼ダークウルフたちだ。


 新たに10匹のダークウルフと使役契約を結んだら、またまた全て聖獣になった。

 こいつらには順にヒカゲ、フカゲ、ミカゲ、ヨカゲ、イツカゲ、ムカゲ、ナナカゲ、ヤカゲ、コカゲ、トウカゲと名付けた。

 ダークウルフの精鋭部隊、ヤミカゲ隊の誕生だ。


 彼ら1匹に3~4匹のダークウルフを組ませ、ひとつの調査ユニットを形成した。

 そしてオウミから持ってきた鉱石のサンプルを見せ、その臭いや味を覚えさせる。

 あとは適当に割り当てたエリアに彼らを送り出し、サンプルと同じ鉱石を探してもらうって寸法だ。


 彼らの足の速さと探知能力に期待した処置だが、すでに成果が出つつある。

 採掘に詳しい者を派遣して調査する必要はあるが、遠からず鉱石の産出も実現するだろう。





 次に取り組んだのは漁業だ。

 オウミから買ってきた手こぎ舟3隻を孤児グループに貸し出し、魚を取らせてみた。

 さすがに漁業に詳しい獣人族はいなかったので、孤児たちに一任することにしたのだ。


 しかし、これは想像以上に難しかった。

 なんのノウハウも無い子供たちに、そう簡単にできるはずがない。

 さすがにこれではいかんと、ウンケイが動いてくれた。


 彼は持ち前の知識を伝授するだけに留まらず、少年たちを率いてオウミの漁村へ技術を学びにいったのだ。

 金を払ってオウミのプロ漁師に弟子入りし、彼らは漁業の厳しさを学んだ。

 ほんの1週間ほどの研修で、たくましくなって帰ってきたのには驚いたものだ。


 もちろん、船に乗れるのは少数なので、大多数は湖岸で貝を採ったり、釣りをしている。

 しかし、こちらもウンケイが技術指導したおかげで、徐々に採取量が増えている。

 さらにそれは孤児だけにとどまらず、他の国民にも広まりつつあった。

 体力のない老人や子供たちが、比較的身近な湖岸での採取に参加し始めたのだ。


 今までは邪魔者扱いされがちだった孤児が、採取のノウハウを惜しげもなく伝えることで、周りの見る目が変わってきている。

 これはもちろん、俺が彼らの後ろ盾になっているのも大きいだろう。

 さらに彼らは、自分たちでもやればできるんだという自信を、取り戻したようにも見える。

 そんな彼らを見て、他の移住者も発奮してくれればと思う。





 いろいろな産業が回り始めると、それなりの輸送能力が必要になる。

 そこで俺は、駄獣として頭突竜ヘディングサウルスの調達に乗り出した。

 人族もたまに利用している魔物だが、この魔境の中にもけっこう生息しているのだ。


 まず俺はスザクの運ぶカゴにトモエを乗せ、頭突竜の捜索に出た。

 チクマ平野と名付けた北側の地域を、低速で北上していくと、やがて頭突竜の群れを発見する。

 そこで群れから少し離れた所にトモエを下ろすと、彼女が単独で仲間に接近した。


 俺の方はまたスザクに乗って、上から見物させてもらう。

 やがてトモエの接近に気がついた頭突竜の群れが、彼女を警戒して声を上げた。

 それに応えて出てきたのが、群れのボスだった。


 頭突竜ってのは1匹の強いオスが、複数のメスを率いて群れを作る。

 この群れには7匹のメスと、数匹の子供がいた。

 その中から、一際体の大きな頭突竜が現れ、トモエに近寄ったのだ。


 なかなか強そうなボスだが、トモエが群れに加わりたがっているとでも思ったのだろう。

 いきなりトモエの体を嗅ぎ回し、セクハラを始めやがった。

 これに怒ったトモエが、尻尾でビンタをくらわせると、ボスが大きくよろめく。


「グロロロローーーッ!」


 当然、相手は大激怒だ。

 ボスが顔を真っ赤にして、トモエに突っかかっていった。

 しかし、相手は迷宮で鍛えられたトモエだ。


 彼女は魔力で肉体を強化できるうえに、ヨシツネに武術の訓練まで受けている。

 いかに屈強なボスの攻撃といえど、当たるはずがない。

 ヒョイっと避けて、たたらを踏んだボスにまたまた尻尾ビンタだ。


 やがて何発もビンタをもらい、ボロボロになったボスに、最後は頭突きでとどめを刺した。

 もちろん殺してはいないが。


「クルルルルルーーッ」


 誇らしげに勝鬨かちどきを上げるトモエの横に、スザクが舞い降りた。

 おかげで最初は逃げ散った頭突竜だが、ボスを打倒したトモエが呼び戻すと、恐る恐る戻ってくる。

 ここで俺は叩きのめされたボスに近寄り、使役術を行使した。


契約コントラクト

「グルゥ(なんだ、何が起きた?)」


 すでに抗う気力もないボスとの契約があっさりと成立し、例のごとく聖獣化した。


「俺の名はタツマ。今日からお前の主だ」

(むう、俺はお前に負けたのではないぞ)

「俺の眷属のトモエに負けたんだから一緒だって。悪いけど、群れごと俺の傘下に入ってもらうよ」

(敗者に選択の余地などなかろう。しかし、メスや子供たちにひどいことはしないでくれ)

「もちろん。多少は働いてもらうけど、食料と安全は保証するぜ」

(それならば是非もない)


 こうして俺は、新たに頭突竜の群れを手に入れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作始めました。

エウレンディア王国再興記 ~無能と呼ばれた俺が実は最強の召喚士?~

亡国の王子が試練に打ち勝ち、仲間と共に祖国を再興するお話。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ