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72.孤児育成計画

 2千人近い移民を受け入れたことで、てんやわんやの俺たちだったが、そんな中であえて孤児の育成を提案してみた。

 するとウンケイから、前向きなコメントが出た。


「なるほど、それはやってみる価値がありそうですね」

「うん、そうでしょ。移住者の中にも、親がいなくて厄介者扱いされてる子が、けっこういるみたいなんだよね。そんな孤児を引き取って、集団生活をさせたい。それで彼らに読み書きや計算を教えて、才能のある子を登用していこうと思うんだ」


 するとササミが、不満そうに反論した。


「えーっ、でもみんながみんな、勉強できる訳じゃないですぅ。私みたいに頭の悪い子は、どうするんですかぁ?」

「もちろん得手不得手はあると思うよ。勉強が苦手な子は、狩りとか農業みたいに、体を使う方向で伸ばしてやればいい」

「そうですね。種族で分けずに集団生活をさせれば、偏見も少なくなるだろうし、国に育てられれば恩義を感じて、より懸命に働いてくれるかもしれない」


 ウンケイが1人で納得しながら、うんうんと頷いている。


「ぶっちゃけて言えば、そういう狙いもあるかな。まあ、孤児対策が必要なのは事実だから、上手くいけばラッキーぐらいのものだけどね。もちろん、ちゃんと同族が育てるっていう子供は、そのままでいいし」

「でもそんなに上手くいくんですかぁ? 苦労ばかり多くて、実りは少ないような気がするのですぅ」

「たしかに手間は増えるけど、将来への投資だと思えば安いもんだよ。その分、生産力が落ちるけど、それはよそで稼げばいい」

「その稼ぎ頭が迷宮探索ですよね。そろそろ体制が整ってきたので、大々的にやりますか」

「ああ、やろう」


 すでに体力に優れた者を選抜して、迷宮探索のための訓練を始めている。

 特に見込みのあるメンバーを15人選抜し、ヨシツネの指導でアリガ迷宮に潜っているのだ。

 早くも1層を突破し、コボルドと戦い始めているって話だ。


 2層を突破したら、別の初心者と組ませ、さらに探索要員を育成する予定だ。

 最終的には100人以上の要員を確保したいと思っている。

 まだまだ、やることはいくらでもあるな。





 翌日から孤児の確保に動いた。

 まず兎人族をまとめるヨサクに話をしてみた。


「孤児を集めるんだかに?」

「うん、親を亡くしてあぶれてる子供って、けっこういるでしょ? そういう子を全部、引き取りたいんだ。もちろん、ちゃんとした親代わりがいるなら、無理は言わないけど」

「はあ……たしかにそういう子はおりますが、なんでまた国主様が?」

「そういう子を教育して、将来の役人に育てたいんだ。孤児なら後ろ盾が無い分、一生懸命勉強してくれるかもしれないでしょ」

「うーむ、なるほど……しかしそれだと、孤児の方が優遇されていて、不公平だと思う者が出るかもしれないだに」

「うーん、やっぱりそうなるかな……それなら、親のいる子も希望すれば、勉強できるようにすればいい。最終的には全ての子供に、ある程度の勉強を義務付けるようにしたいけど、それはもうちょっと先かな~」


 それを聞いたヨサクが、困ったような顔をする。


「……さすがに全ての子供を取られたら、儂ら食っていけないだに」

「いや、そんなにがっつりやらせるつもりはないから。せいぜい読み書き、計算の勉強なら、1日に1刻ぐらいで済むと思うよ」

「そんなことして、なんの意味があるだに? 儂ら大人でさえ、読み書きできるもんは、ほんの一部だに?」

「学問は生活を豊かにするんですよ。まあ、どうせすぐじゃないから、今のうちに覚悟しといて。それで、まずは孤児を集めたいんだけど、面倒を見る人も確保したいな。遠出のできない老人とかで、いい人いないかな?」

「……国主様の指示に従いたいのはやまやまだども、それじゃあ儂ら、食っていけないだに。孤児や老人だって、貴重な労働力だに」

「ああ、ごめんごめん。それについては不足した分だけ、穀物を支給するよ。ウンケイの方に申し出てくれる?」


 現状、移住者にはなるべく自給自足を奨励しているため、ほとんどの者が採集活動や狩りに出ているのだ。

 その働き手を奪うからには、それを補てんする必要がある。

 その辺をさらに説明して、ようやく孤児を集めることに賛成してくれた。


 その後、猫人族、狐人族、狼人族の集落を回って同様に説得し、孤児の育成計画が動きだすことになる。





 翌日になって続々と集まってきた孤児は、全部で100人近くになった。

 さらに各種族から、世話役の老人を1人ずつ出してもらった。


「はいはーい、ちゅうもーく。俺が国主のタツマで~す」


 まず挨拶をしてみたが、反応が薄い。

 なんのために集められたのか、さっぱり分からない、といった雰囲気だ。

 そんな空気に負けずに、説明を続ける。


「ゴホン……えー、今日からみんなには、ここで一緒に住んでもらいます。そして働きながら勉強をして、将来はこの国のために働いて欲しいと思ってま~す」


 それを聞いた者のほとんどが、ポカーンという顔をしていた。


 やがて狼人の少年が、質問のために手を挙げた。

 俺より少し年下っぽい、灰色の髪と青い目を持った子供だ。

 体は痩せぎすで、ちょっと目つきが悪い。


「あのさ、俺たち孤児を集めて、どうするつもりなの? ひょっとして、奴隷として売ろうとか考えてる?」

「おいおい、信用ねーなぁ。ところで君の名前は?」

「カンベエ」

「じゃあ、カンベエ。実は俺も孤児だ。親はだいぶ前に魔物に殺された。幸い、親切な人に育てられたけど、後ろ盾が無いのはみんなと一緒だ」

「だから、なんだってんだよ?」

「うん、後ろ盾が無いからには、自分でなんとかしないといけないよな? 学問を身に着けるとか、手に職を付けるとかしないと、食っていけない。そうだろ?」


 ここで改めてみんなの顔を見回す。

 一応、興味は引いているようなので、ここはぐいぐい行こう。


「だからな、俺はみんなに何か得意なことを見つけて欲しいんだ。それを磨いて、この国のために役立てて欲しい。もちろん独りだけじゃできないから、みんなで協力してくれ。俺もそれを助ける。そして、何か自慢できるモノが身に着いたら、もうただの孤児じゃない。それは一人前の人間だ……どうだ、そうなりたくないか?」


 そう言って、またみんなの目を覗き込むと、何人かが食いついてきていた。

 やがて、カンベエが周りに促されるように発言する。


「俺たちにそんなことできるなんて、本気で思ってんのかよ?」

「おいおい、何もしないうちから弱音か? それこそなんにもできないぞ」

「ち、ちげーよ。今まで期待されたことなんてねーから、戸惑ってるだけだっつーの……ま、まあ、国主様がそんなに困ってるんなら、助けてやってもいいぜ」


 顔を赤くしながらカンベエがそう言うと、周りの年長組もそれに同調した。

 10歳未満のチビどもは、まだポカンとしてるのが多い。

 しかし、やる気は盛り上がってきた感じだ。


 ここで世話役の爺さんが、口を挟んできた。


「フォッフォッフォ、国主様は変わったことを考えられる。しかし、もっと国を大きくするなら、必要なことでしょうな。それで、儂らはこの子らに、知識を教えればいいのですかな?」

「ええ、読み書き算術はもちろん、生活の知恵なんかもお願いします。彼らにはもちろん仕事もしてもらうけど、勉強や訓練の時間を多めに取ります。それと、なるべく種族ごとに分かれず、みんなの連帯意識が高まるようにして欲しいですね」

「なるほど。種族意識をとっぱらうのですな。これはますます興味深い。フォッフォッフォ」

「それじゃあ、今からみんなの宿舎を作るから、こっち来て」


 俺はそのまま適当な場所に移動すると、その場で石造りの宿舎を2棟、土魔法で建設した。

 だいぶ慣れたので、これくらいなら俺とゲンブだけでやれる。

 目の前で宿舎をおっ建ててやったら、孤児たちがおったまげてたぜ。

 ハッハー、俺の株が急上昇だ~。


 できたばかりの建物に、また水晶窓やら扉を取り付けると、宿舎の完成だ。

 片方を男子用、もう片方を女子用に決めると、それぞれ入居していった。


 そしてある程度落ち着いてから、リーダーを決めるよう指示を出す。


「リーダーって、何やるんだよ?」

「みんなのまとめ役だ。仕事を割り振ったり、悪さをしたら叱るとか、いろいろだな」

「めんどくせーな。誰がやるんだよ、そんなの?」


 カンベエがそうぼやいてる後ろで、周りの男子の視線は彼に集まっていた。

 すでにカンベエに押しつけることで、一致したようだ。


「じゃあ、男子はカンベエで決まりな。女子は誰がやる?」

「ちょ、待てよっ! 誰もやるなんて言ってないだろうが!」


 カンベエの抗議は無視して、女子に目をやると、みんなモジモジするばかりで候補が出てこない。


「んー、それじゃ一番年上なのは、誰?」


 するとしばらく女子の視線がさまよっていたが、やがて1人の少女に集まった。

 カンベエと同じ狼人族で、肩に掛かるかどうかの茶色の髪に、青い目がかわいい娘だ。

 やがて自分に視線が集まっていることに気がついた彼女が、諦めたように手を挙げた。


「う……たぶん私です」

「そうみたいだね。名前は?」

「サユリです」

「そうか。じゃあサユリちゃん、女子の方をまとめてくれるかな。困ったことがあれば、世話役か俺たちに相談すればいい。アヤメとササミも面倒を見てやってくれ」


 サユリは自信がなさそうだったが、アヤメたちにフォローを頼んだのでなんとかなるだろう。



 こうしてリーダーを決めてから、屋外で食事をすることにした。

 キャンプファイヤーばりの大きな焚き火を作り、それをみんなで囲む。

 食事はご飯だけでなく、ビャッコが捕ってきたマッドボアを、丸焼きにして出してやった。


 めったに食べられないごちそうに、子供たちが夢中でかぶりついている。

 そんな彼らを眺めながら酒を飲んでいたら、カンベエが近寄ってきて隣に座った。


「なあ、あんた。なんで人族のあんたが、こんなことしてんの?」

「ん?……まあいろいろあってな。大きな力を手に入れたから、役に立てようと思ったんだ」

「ふーん……たしかにあんたはすげーみたいだな。だけどさ、なんで亜人を助けてくれるんだ? 普通の人族は俺たちのこと、家畜みたいにしか思ってねーんだぜ」

「それがムカつくから、こうしてるのさ。それとな、自分のことを亜人て言うのはやめろ。なんか獣人種や妖精種が、劣ってるみたいに聞こえるからな」

「な、なんだよ、うるせーな…………本当に変な奴だな、あんた。俺たちのこと、本気で対等に見てるみたいだし」

「当たり前だろ、そんなの。ちょっと考えれば、誰にでも分かることだ。ただまあ、それぞれに得手不得手があるからな。今は人族がのさばってるだけさ」


 それを聞いたカンベエが、静かに笑いだした。


「アハハハハハ……本当に変な人だ……だけど、面白そうだから、手伝ってやるよ。いずれ高給で雇ってくれるんだろ?」

「それはお前の能力次第だな。せいぜい頑張れ」

「チェッ、そこはもうちょっと、おだてるとこじゃねえ? だけどいいさ、やってやるよ。絶対に認めさせてみせる」


 そう言うとカンベエは、孤児たちの輪に戻っていった。


 うん、頑張れ頑張れ。

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