表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/116

7.ホシカゲ

 薬草採取の途中で闇狼ダークウルフに襲われてしまったが、覚えたての無属性魔法で撃退することができた。

 しかも、ダークウルフの1匹を使役獣にするというおまけ付きだ。


 町へ戻りながら、その闇狼について話し合う。


「ところで主様、その子の名前はどうするのですか~?」

「名前? そういや、そうだな。お前、名前とか無いのか?」

(わふ、あるわけないです。ご主人様に付けて欲しいのです)


 そりゃあ、野生の魔物に名前なんてあるわけないか。


 俺は隣を歩く狼を、改めて見直してみた。

 口を開けて嬉しそうに俺を見上げてくる様子がかわいらしい。

 狼ってのは、噛む力が強いから目がつり上がって見えるんだけど、この子には愛嬌がある。

 耳はピンと立っていて凛々しいけど、たまにピコピコ動くのがまたかわいい。


 そんな中で、額の傷がよく目立っていた。

 俺の魔法でえぐられた部分が、白っぽい星形の傷になっているのだ。

 それは傷というよりもむしろ、まるでシンボルのようだ。


「なあ、この額の傷ってさあ?」

「そうですよ~、主様。この傷が契約の証になったみたいですね~」

「やっぱりそうか……よし、星型の傷だから、お前の名前は星影ホシカゲでどうだ?」

(わふっ、カッコいいのです。我が名はホシカゲ。ご主人様の第2の眷属なのです)

「そうですよ~、1番は私ですからね~、ホシカゲ」

(スザクさんもよろしくなのです)


 ちゃんとスザクを立てるなんて、意外に気遣い上手だ。

 狼の社会は上下関係が厳しいとも聞くから、そのせいだろうか。


「それにしても、ホシカゲと話ができるのは便利だな。これなら、魔物の討伐にも行けるんじゃない?」

(わふ、僕がご主人様を守るです)

「そうですね~。ホシカゲが前衛で主様が後衛なら、多少は戦えるかもしれませんね~」

「だろ? 無属性魔法のコツも、なんとなく分かったしな」


 さっきのダークウルフ戦で、急に無属性魔法が上手くなっていた。

 以前は豆腐をニュルンと出すような感触だったが、今はゴルフボールを手で投げるぐらいの威力に変わっている。

 極度の緊張状態で、何かを突き破ったってことだろうか。


「主様、それなら武器を買うべきではありませんか~?」

「それもそうだな。帰りに武具屋を覗いてみよう」


 小ぶりなナイフしか持ってないので、討伐に行くならもっとマシな物を買わねばならない。

 連日の薬草採取でお金も貯まってきてるので、なんとかなるだろう。




 こうして町に戻ってきたのだが、入る時にホシカゲの存在が問題になった。

 そりゃあ、見た目はただの魔物なんだから、素通りってわけにもいかないよな。

 ホシカゲが使役獣であることを門番に説明し、完璧に操ってみせることで、ようやく許してもらえた。

 ただし使役獣であることが分かるようにしとけと言われたので、とりあえず布を首に巻いてある。


 そのままギルドへ行き、薬草の納付と同時にホシカゲの登録も済ませておいた。

 ギルドカードに記載することで、俺の使役獣として公認されるのだ。


 ちなみに、まだ幼さの残るホシカゲに、コトハがメロメロだったのはまた別の話。




 その後は武具屋に寄ってみた。

 年配のおじさんがやってる店で、最初に来た時に親切にしてくれた覚えがある。


「あのー、銀貨30枚ぐらいで良い武器ってないですかね?」

「あん? 兄ちゃんは冒険者か……それぐらいだと、短剣か戦棍メイスしかないなあ」

「魔物と戦うなら、どれがいいですかね?」

「うーん、どうせ剣術とかの心得は無いんだよな? なら、メイスがいいだろう……この辺がお勧めだ」


 おじさんはそう言って、いくつかメイスを見せてくれた。

 どれも鉄製で、握り部分に革が巻かれ、打撃部分にゴツイ突起が付いている。

 これならダークウルフにだって、ダメージを与えられるだろう。

 それぞれを手に取ってみて、振りやすいメイスを選んだ。


「これください」

「あいよ、銀貨25枚だね」

「はい、これで」

「毎度……防具はいいのかい?」

「うーん、革鎧が欲しいとこなんだけど、高いですよね?」

「まあ、安くても銀貨50枚くらいはするな」

「それじゃあ、また今度にします」


 それから帰る途中、革細工を扱っている店でホシカゲ用の首輪を買う。

 ちょうどいいのが銀貨3枚であったので、購入してホシカゲに付けた。


「ワフン(ありがとうなのです。ご主人様)」

「ああ、よく似合ってるぞ」


 これで使役獣らしくなったので、帰りに井戸水で体を洗ってやった。

 森に住んでただけあって、それなりに汚れてるのだ。

 ダニとかも付いてるしな。


 そんなホシカゲを家に連れ帰ったら、最初は驚かれた。

 しかし事情を話すとなんとか受け入れてもらえ、シズクなどは喜んでいた。

 彼は知性がある分、普通以上にかわいく見えるのだ。


「しかし、タツマが使役術を使えるだなんて、知らなかったな。どこで習ったんだい?」


 夕食の席でテッシンが聞いてくる。


「いや、俺も今日初めてやったんですよ。今までに会った使役師テイマーから話だけは聞いてたんです。それで、ケガをしてたホシカゲを治療してやったら、なんとなく使役できるような気がして」

「凄いじゃないか。普通は何年も修業するって話だから、タツマには才能があるんだろう」

「アハハ、どうなんでしょう……でも、これで魔物と戦う目処もついたので、討伐依頼もやってみようと思うんです」


 そう言うと、シズクが心配そうに口を挟んできた。


「魔物の討伐なんて危ないわよ。別に無理しなくてもいいじゃない」

「いえ、俺は強くなりたいんです。だから迷宮に潜るためにも、頑張らなきゃ」

「そう……でもあまり無理はしないでね」

「はい、気をつけます」





 翌日は緑小鬼ゴブリン討伐のため、いつもと違う森へ出かけた。

 ゴブリンってのは、ファンタジーで定番の魔物だな。


 奴らは俺より頭ひとつ低いくらいの背丈で、緑色の肌をした人型の魔物だ。

 頭にはほとんど毛が無くて、乱杭歯をむき出しにしたぶっさいくなツラをしている。

 身に着けてる衣類は粗末な腰布だけで、さらにこん棒で武装しているが、知能は大したことない。


 だから1匹ぐらいならそれほど脅威でもないんだが、こいつらは繁殖するのが早い。

 そして集団で人を襲ったり田畑を荒らしたりするから、常に討伐対象になっているのだ。

 討伐って言うより、駆除だな。

 それでゴブリンを1匹倒してその右耳と魔石を持ち帰れば、ギルドで銀貨1枚もらえる。


 うん、安いな。

 ゴブリン、安すぎだ。

 しかしまあ、それだけに俺の討伐初体験には、ちょうどいいと思うのだ。


 よくゴブリンが出ると言われる森に着くと、ホシカゲたちに話しかけた。


「それじゃあ、この辺でゴブリンを探してみよう。ホシカゲはゴブリンって分かるか?」

(わふ、もちろんです。あっちの方から臭いがするのです)

「へー、やっぱり鼻がいいんだな。それじゃあ、案内してくれるか?」

(こっちなのです)


 上機嫌で尻尾を振りながら先導するホシカゲに付いていくと、ゴブリンが見えてきた。

 どうやら3匹の群れで、森の中で食い物を探していた。


 俺はリュックに差していたメイスを引き抜き、ホシカゲに念話を送る。


(ホシカゲはあいつらに突っ込んで気を逸らしてくれ。ケガには気を付けてな)

(わふっ、お任せなのです)


 そう言うやいなや、ホシカゲが駆けだして、ゴブリンの中に突っ込んでいった。

 それに動揺したゴブリンが、こん棒を構えて戦闘態勢に入る。

 もちろん、ホシカゲがそんなものに当たるはずもなく、奴らの周りを走り回ってかき回す。


 完全に注意がそちらへいってる間に、俺は1匹の背後に忍び寄り、後頭部にメイスを叩き込んだ。

 ガスッという鈍い音がしてメイスが食い込んだが、1発では倒れい。

 思った以上にゴブリンがタフなのか、俺の力が弱いかのどちらかだろう。


 殴られたゴブリンが血走った目で振り返ったので、思わずちびりそうになった。

 しかしさすがに攻撃は効いていたらしく、敵の動きは鈍い。

 俺は夢中でメイスを振り回し、3発目でようやくゴブリンを倒すことができた。


 人型の魔物を殺すなんて初めてだし、ゴブリンが想像以上にタフで凶暴そうだったから、すげえ怖かった。

 もうそれだけで俺の息は上がり、手も震えてる。


 しかし、そんな俺をゴブリンは放っておいてくれない。

 仲間を倒した俺を敵と認識して、別のゴブリンが殴りかかってきた。

 なのに俺の体はすくんでしまい、すぐに動けなかった。


 このままじゃられる。

 そう思った瞬間、黒い何かが突っ込んできた。

 もちろんホシカゲだ。


 彼がゴブリンの首に食いつき、狂ったように奴を振り回す。

 すぐにそいつが動かなくなると、もう1匹のゴブリンにも襲いかかって、すぐに仕留めてしまった。

 誇らしそうに近寄ってきたホシカゲを撫でてやったが、彼の口元はベットリと血で汚れていた。


 初めて魔物を殺した感触と、そして逆に殺されかけた経験。

 俺は、改めてこの世界の残酷さを噛みしめていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作始めました。

エウレンディア王国再興記 ~無能と呼ばれた俺が実は最強の召喚士?~

亡国の王子が試練に打ち勝ち、仲間と共に祖国を再興するお話。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ