表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/116

65.湖畔の家

 四神全てを従えた日の翌日、俺たちは魔境に中央にある湖へ移動した。


「うわー、すっごい大きいですね、ご主人様。まるで海みたいですぅ」

「ああ、そうだな。ササミは海を見たことあるんだっけ?」

「はい、前のご主人の行商でいろんな所に行きましたから」


 湖を眺めながらササミと話してたら、アヤメが加わってきた。


「海ってなんですか?」

「うーんと、このヒノモトの大地を囲む、水の領域のことだよ。塩の混じった水が、遥か彼方まで続いてるんだ……あれっ、この世界の海も塩水でいいんだよな? スザク」

「そうですよ~」

「へー、そんなのがあるんですね。私は村から出たこと、ほとんどないから……」

「それなら今度、見せてやるよ。スザクに乗れば、ひとっ飛びだからな」

「はい、お願いします」


 俺の言葉に、アヤメが表情を輝かせながら頷く。

 しかし、これで収まらないのがササミだ。


「あーっ、私も連れてってくださいぃ。2人っきりとか無しですぅ」

「いいじゃない、あなた海を見たことあるんでしょ」

「駄目ですぅ、あたしも行くんですぅ」


 ささいなことからケンカが始まった。

 アヤメはそれほどでもないが、ササミの対抗意識にはけっこうなものがある。

 2人ともかわいいんだから、もっと仲良くしてくれればいいだが。


 そんなやり取りを横目に、ベンケイが話しかけてきた。


「ハハハ、ところで、この湖はなんと呼ぶのですかな?」

「うん、実はもう決めてあるんだ。俺の前世の記憶から、”スワの海”にしようと思う」

「”スワの海”。なるほど、まさに海のような湖ですからな。よいのではありませんかな」


 他からも異論は出なかったので、この湖の名前は”スワの海”に決まった。


「それで、これからこの地を、どのように開発するのですかな?」

「う~ん、そうなんだよね。まずは湖の外周をひと回りしてから、拠点を定めようと思う。またひとっ飛び頼むよ、スザク」

「了解で~す」


 それからまたスザクの吊ったカゴに乗り、湖の周辺を調べて回った。

 ひととおり見た感じだと、湖の北側が広々としていて、住みやすそうだった。

 そこでまずは、北側湖畔の適当な場所に、俺たちの家を建てることにした。


 まず土魔法の使い手である俺、アヤメ、ベンケイ、ニカ、ゲンブが手を取り合い、使役リンクで家のイメージを共有する。

 今から建てる家のイメージは、カザキで借りてる家を参考にする。

 ゲンブは知らないが、他のメンバーは実際に住んでいたので、イメージがしやすい。


 1階には大きなリビングとキッチン、部屋がもう1つあって、トイレとお風呂も設置する。

 そして2階には4つの部屋があり、地下にも部屋を追加しておこう。

 そんなイメージが固まったところで、土魔法を発動する。


 まず基礎部分を頑丈な石材で固め、そこに地下室と階段を構築する。

 その上に白い石壁を作り出し、1階部分を形成した。

 さらに2階部分の壁と屋根を追加することで、白亜の邸宅が完成だ。


 ただし、あくまで建物だけで、窓とかはまだ無い。

 玄関もまだドアが無く、ただの穴だ。

 しかし、ほんの3分ほどで家が建ってしまうなんて、常識では考えられないことだ。


「フウッ、なんとかできたな。ゲンブのおかげで、凄く作りやすかったような気がする」

「フォッフォッフォ、たしかに儂の力が役立っておるようですが、それだけではないですじゃ。主殿の構想力、アヤメの魔力、ベンケイの製造センスあっての魔法ですじゃ。まこと面白き仲間たちですわい」

「たしかに。ベンケイのセンスは当然として、アヤメの魔力も大したもんだよね。凄く助かった」

「えっ、そうですか……お役に立てたなら、嬉しいです。エヘヘ」


 アヤメが照れながら笑う。

 そんな笑顔が、実にかわいらしい。


 するとスザクもそれを肯定する。


「たしかにアヤメの魔力はずば抜けて高いですね~。今はまだ扱いきれてませんが、努力すれば稀代の魔法使いになるかもしれませんよ~」

「本当、ですか? なんか私、信じられない、です……」

「もっと自信持ちなよ、アヤメ。君は地水火風の4大属性に加えて、闇属性まで使えるんだ。たぶん相性の良し悪しとかあると思うけど、練習すればもっともっと凄い魔法が使えるようになるって」

「ありがとう、ございます。私、今までそんなに期待されたこと、なかったから……グスッ」


 アヤメが感極まって、とうとう泣きだした。

 しかし、すぐに彼女は気を取り直し、覚悟の顔で言う。


「私、頑張ります。魔法の練習をいっぱいして、タツマさんの役に立ちます!」

「ああ、期待してるぞ」


 アヤメの肩を軽く叩き、いい雰囲気を醸し出してたら、ササミが負けじと割り込んできた。


「ムキーッ、私も負けないんですぅ。私だって治癒魔法いっぱい練習して、ご主人様のお役に立ちますぅ。あと、魔闘術も練習して強くなるんですぅ」

「あ、ああ、そうだな。治癒魔法は大事だ。また人体のこととか教えてやるから、頑張れよ」

「はいっ、がんばりまっしゅ! むふー」


 軽く頭を撫でてやったら、すぐにご機嫌になった。

 長いうさ耳がピクピク動くのが、また可愛らしい。


 しばらくそんなやり取りを微笑ましく眺めていたベンケイが、作業の続きを促した。


「ところで、窓はどうしますかな?」

「えっ? ああ、そうだね…………とりあえず、窓が欲しい場所に穴を開けて、そこに水晶をはめ込むってのはどう?」

「はめ殺しですか。それだと空気が流れませんが、夏は暑いのではないですかな?」

「適当な所に空気入れ用の窓も設けようよ。今はちょうどいい季節だから、とりあえず閉めきりでもいいでしょ。材料や道具を揃えて、徐々にやっていこうよ」

「それもそうですな。それでは、窓を入れていきますか」



 それから各部屋を歩き回り、窓の位置を決めていった。

 位置が決まればそこに穴を開け、透明な水晶を生成してはめ込む。

 これで家の中が、一気に明るくなった。


 その後も2階の部屋にベッドを設置したり、1階にキッチンやお風呂、トイレなどを設置していく。

 もちろんベッドは台座だけで、お風呂は大きなバスタブを作っただけだ。

 ベッドには寝具を追加するし、お風呂は魔法でお湯を作ることになるだろう。


 問題はトイレなのだが、これは魔道具を買ってくることにした。

 この世界で庶民のトイレはくみ取り式なのだが、金持ちはし尿を乾燥処理して肥料にする魔道具を使っているらしい。

 しかも消臭機能も付いた便利器具だとか。


 ついでに下水道も作っておいた。

 まあ、現状はただ湖に垂れ流してるだけだ。

 いずれ人口が増えたら、浄化機能とかも付け加えよう。



 そんなことをやっていたら、あっという間に日が暮れた。

 なのでリビングの暖炉で焚き火をしながら、夕食を取ることにした。

 この暖炉は途中で思いついて追加したもので、家の中央近くに設置されていて、煙突が屋根の上まで伸びている。

 土魔法で自在に構造をいじれるがゆえの、追加装備だ。


 パチパチと燃える焚き火を眺めるのは、なかなかに風情ふぜいがあっていい。


「家の中で焚き火できるなんて、凄いですぅ、ご主人様」

「そうか? ヨシツネの家にも、囲炉裏とかあったじゃん」

「囲炉裏はけむいんですよ。この暖炉はその辺がよくできてますぅ」


 ササミが暖炉を褒めると、ベンケイもそれに同調する。


「うむ、よくできておりますな。これだと家の中が温まりますし、風雨対策もしっかりされております」

「うん、一応、前世の知識を応用しているからね。まあ、俺もうろ覚えだから、改良は必要だと思うけど」

「そうですな。徐々に手を加えていけばよいでしょう。まずは明日、カザキへ行って、いろいろ仕入れねばなりませんな」

「そうだね。ところで、ベンケイに作って欲しいものがあるんだけど」

「ほう、一体なんですかな?」


 そこで紙とペンを取り出して、ゴーグルの絵を描いた。

 眼鏡みたいに左右が分かれたタイプだ。


「ゴーグルっていって、目を保護する物なんだ。これを付けてれば、強い風の中でも目を開けていられるだろ。つまり、もっと速くスザクが飛べるようにしたいんだ」

「これを人数分作るのは、時間が掛かりそうですな……」

「いや、とりあえず俺の分だけでいいよ。ゲンブをカザキへ連れていって、向こうから通路をつなげようと思うんだ。甲羅をこのリビングに置いていけば、行き来できるようになるだろ?」

「なるほど……たしかにそれが一番効率的ですな。分かりました。さっそく作りましょう」


 すぐにベンケイがゴーグル製作に入る

 木材からフレームを削り出して、そこに水晶の板をはめたものだが、普通ならそれなりに面倒な作業だ。

 しかし生来の器用さに加え、鍛冶魔法も応用したベンケイが、どんどん形を作っていく。


 それを見ていたら、ヨシツネが話しかけてきた。


「カザキに通路がつながれば、この家の整備もすぐ終わりますよね。その後はどうしますか?」

「そうだな……まずはドワーフの移住者を募集しようと思うんだ。ベンケイの故郷に、案内してもらえる?」

「もちろんですぞ。以前の儂なら顔出しできないところでしたが、今なら大喜びで歓迎してくれるでしょう」


 ベンケイが作業を続けながら、愉快そうに言う。

 すると、事情を知らないササミが聞いてきた。


「なぜ今ならいいんですかぁ?」

「ああ、ササミやアヤメは知らなかったな。ベンケイは鍛冶魔法が使えなかったから、実家を追い出されたんだよ。そしてその原因を作ったのが、このニカなんだ」

「……ん、わかげの、いたり。ベンケイ、ごめん」


 話を振られたニカが、頭をかきながら舌を出して謝る。

 あまり申し訳なさそうに見えないテヘペロだが、精霊なんてこんなもんだろう。

 さらに詳しく聞きたがったササミたちに真相を教えると、彼女たちも呆れていた。


 しかし、当のベンケイは全く気にする素振りも見せず、朗らかに笑い飛ばす。


「ハハハッ、儂は全く気にしておりませんぞ。苦労はしましたが、こうして鍛冶魔法を会得したばかりか、無二の主君まで得られました。このうえは、儂同様に鍛冶魔法を得られずに苦悩している同胞を勧誘し、救ってやりましょう。ワハハハハッ」


 うん、モノ作りが得意なドワーフを、いっぱい勧誘できるといいな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作始めました。

エウレンディア王国再興記 ~無能と呼ばれた俺が実は最強の召喚士?~

亡国の王子が試練に打ち勝ち、仲間と共に祖国を再興するお話。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ