63.ゲンブ降臨
空から雹を降らせる青龍に手を焼いた俺たちだったが、俺とアヤメの火球攻撃で地に落とし、倒すことができた。
そして息絶えた青龍が光に包まれると、新たなセイリュウがそこに現れた。
「お初にお目に掛かる。我が名はセイリュウ。以後は四神の1柱として主の矛とならん」
「……あ、ああ、よろしくな、セイリュウ。なんか、スザクやビャッコとは雰囲気違うな」
「かーっ、相変わらずかてえ野郎だな。もっと気楽にやれよ」
ぶち猫の姿で近付いてきたビャッコが、馬鹿にしたように話しかける。
しかしセイリュウは全く気にした様子を見せず、逆にビャッコを鼻で笑った。
「ふふん、貴様が荒っぽすぎるのだ。また主に迷惑を掛けているのではなかろうな?」
「いや、俺はそういうの気にしないから、セイリュウも気楽に接してよ」
「そういうわけにはいかぬ。我らは主あってこその存在」
「あー……そうなんだ……ところで地上に戻ろうと思うんだけど、セイリュウは小さくなれる?」
「もちろんだ」
そう言うと、再び光に包まれたセイリュウが、一瞬で小さな蛇に変わった。
全長が1メートルぐらいの、青く輝く美しい蛇だ。
なんとなく左手を出してみたら、シュルシュルと巻きついてきて、肩の上に頭を出した。
「かたじけない」
「うん。それじゃあ、地上へ戻ろうか」
セイリュウを伴って地上へ戻ると、また野営の準備に入った。
やがて日が暮れ、夕食を取りながら明日のことを話す。
「いよいよ明日は、最後の四神に挑戦だな」
「そうですね~。しかし、玄武は四神で最強と言われてますから、注意してくださいね~」
「最強なの? たしか玄武の属性は土だよな。攻撃能力が高いのかな?」
「攻撃力というよりも、防御力がハンパじゃないですね~」
「マジかよ……気が重いなぁ」
あまり聞きたくない情報だったが、それを知ってもやることは変わらない。
なんとしても生き残り、四神を従えるのだ。
翌日も半日ほど掛けて北の遺跡へ移動した。
遺跡の位置は、日本でいうと野沢温泉の近くだろうか。
千曲川に相当するであろう川が、遠くに見える。
「さて、今から踏み込むぞ」
「「はいっ」」
みんなに声を掛けてから扉に手を当てると、ゴゴゴッと扉が下にスライドした。
松明を持ったヨシツネから順に入り、階段を降りていく。
下の空間に着くと、いつものように扉が閉まって明るくなった。
そして中央部分には黒っぽいもやが発生し、それが徐々に形を取っていく。
やがてそこに現れたのは巨大な陸亀だった。
地球の生物でいえば、ガラパゴスゾウガメに近い外観だ。
しかし小山のような甲羅からゴツゴツとした首と足が生えており、まるで怪獣のようだ。
甲羅の大きさは高さと幅が5メートル、長さ10メートルといったところか。
緑系のメタリックな甲羅が鈍い光を放っていて、首や足は茶色系。
甲羅以外の部分もビッシリと硬そうなウロコに覆われている。
その口にはズラリと牙が並び、足にも凶悪な爪が生えている。
こいつは想像以上の難敵だ。
俺はさっそく腹ばいになり、ティーガーを構える。
即座に装填された弾丸を、玄武の頭に向けて撃ち放った。
しかし、無敵を誇った鋼鉄弾はあっさりと弾かれてしまった。
玄武に当たる直前、何かバリアーのような物が発生したのだ。
「なんだあれ? インチキじゃねーか」
「とんでもないですね……しかし倒せないはずはありません。俺たちが隙を作るので、タツマ様はどんどん攻撃してください」
俺の愚痴にヨシツネが答えつつ、玄武に向かって走りだした。
他の前衛陣もそれに続く。
「火弾!」
アヤメが放った火球は玄武の首に当たったものの、ほとんどダメージになってない。
奴はうっとうしそうに頭を振っただけだ。
そこに真っ先に突っ込んだホシカゲが、双聖剣を振るう。
右足を狙ったその一撃はしかし、簡単に弾かれて傷ひとつ付かない。
さらにヨシツネがバスタードソードを叩きつけるも、これまた表面で弾かれた。
スチールドラゴンも真っ青のチート装甲だ。
その後もベンケイが戦斧を振るい、トモエが頭突きをお見舞いする。
どちらかといえば、彼らの攻撃の方が効いているようだが、それでも気休め程度にしか見えない。
やがて彼らの攻撃を振り払うように、玄武が頭と足を振り回して暴れだした。
それほど速さはないが重そうな攻撃は、一撃でもくらったら大ダメージだ。
おかげで前衛陣が慎重になり、乏しい攻撃がさらに鈍ってしまう。
これではいかんと、ティーガーをバシバシ撃つものの、相変わらずバリアーみたいなのに阻まれた。
そんな無力感漂う攻撃を続けていたら、やがて玄武が頭を引くモーションを見せた。
「ヤバい。壁を作ってくれ、ニカ」
すると、俺の目の前に、高さ50センチほどの壁がボコッとせり上がった。
その壁に隠れた瞬間、周囲に砂のブレスが吹き荒れた。
壁が無かったら、大ダメージを食らっていただろう。
この壁は、対玄武戦に備えて考えたものだ。
”いざという時に隠れられる障害物とか欲しいな~”と呟いたら、ニカがサクッと作ってくれた。
ニカちゃん、地味に有能~。
その後も土壁で防御しつつ、玄武の弱点を探っていった。
普通に頭や足を狙ってもバリアーで弾かれるので、いろんな部位を狙ってみる。
しかし、甲羅はバリアー無しでもメチャクチャ硬いし、首や足の付け根を狙ってもバリアーが出てくる。
それでも俺は諦めず、玄武の横や後ろに回って弱点を探し続けた。
そして、やはり弱点は無いのかと諦めかけた頃、異変が生じた。
「グオオォォォーッ!」
尻尾の付け根を狙撃したら、初めてバリアーに弾かれず、玄武の体に弾が通ったのだ。
ビリビリと空気が震えるほどの苦鳴を上げた玄武が、憎悪の目を俺に向ける。
その殺意のこもった目に、かつてない危険を感じた俺は、また叫んでいた。
「ニカ、壁2つ!」
ボコン、ボコンと2枚の土壁が立ち上がったところに、凄まじいブレスが押し寄せた。
壁のほとんどが吹っ飛ぶほど強烈なブレスに、地面に這いつくばってなんとか耐えた。
ようやくブレスが治まった途端に立ち上がり、逃げながら叫ぶ。
「ヨシツネ、尻尾の付け根に弱点がある。そこが狙い目だ!」
「分かりました、タツマ様」
ヨシツネたちが尻尾の方に殺到すると、玄武が動揺した。
明らかに奴は尻尾への攻撃を嫌がっている。
おかげで前衛陣が尻尾に近寄れないが、それも狙いどおり。
俺は前衛とは逆方向に陣取り、ティーガーに2倍弾を装填してチャンスを待った。
静かに銃を構える俺に、スザクが上から俯瞰する位置情報と、ヨシツネが予測する動作情報が流れ込んでくる。
やがて使役リンクで連携した前衛に追い込まれた玄武が、俺の前にケツをさらけ出した。
その瞬間、ミスリル銃身から通常の2倍の質量を持った有翼弾が飛びだす。
弾は狙い過たず尻尾の付け根に命中し、深々と突き刺さった。
「グボアァァァーッ!」
この一撃により、玄武の防御力が一気に低下したような気がした。
その証拠に尻尾の付け根以外でもバリアーが発生しない。
こうなればもう、こっちのものだ。
前衛陣と連携して攻撃し続けた俺たちの前で、とうとう玄武が膝を折る。
そして地響きを立てて崩れ落ちたその体は、もう2度と動かなかった。
しばしの後、広大な地下空間に歓声が響き渡る。
「「やったーっ!」」
近くで魔法を撃っていたアヤメが抱き着いてきた。
隅っこで戦いを見守っていたササミも、それに負けじと駆け寄ってくる。
ヨシツネとベンケイは肩を叩き合いながら喜び、ホシカゲとトモエは勝利の雄叫びを上げていた。
こうして俺は、全ての四神を手に入れた。