表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/116

61.ビャッコ降臨

 スザクの本体を取り戻した翌朝、俺たちはカゴに乗って飛び立った。

 昨日作っておいたカゴを、スザクが吊りさげながら静かに舞い上がる。

 鳥だからバッサバッサと羽ばたくのかと思っていたが、スザクは驚くほどスムーズに浮き上がった。


「なんで羽ばたかなくても飛べるんだ?」

「私は火を自由に操れるので、上昇気流を作り出してるんですよ~」

「ああ、そういうこと……」


 呆れるほどの特殊能力である。

 上昇後もけっこうな速さで飛んだが、風当たりがきつかったので少し緩めてもらった。

 体感的には時速60キロぐらいか。


 俺たちがまず目指したのは、アヤメの故郷だった。

 一応、鬼神を封印する手がかりを探しにいった形なので、その報告のためだ。

 想像以上に早く戻った俺たちを見て、ハスノが驚いていた。

 彼女には、南の遺跡で鬼神に対抗する力を手に入れたことを話し、引き続き他の遺跡を調査することを伝えた。

 あまり詳細を話さなかったので訝しそうにはしていたが、結局俺たちを信じて送り出してくれた。




 こうして報告を済ませた俺たちは、次に西の遺跡を目指した。

 そこは南の遺跡から北へ300キロ以上も行ったところだ。

 南の遺跡が日本でいう茶臼山辺りだとすると、西の遺跡は乗鞍岳の辺りになるだろうか。



 ほぼ半日も飛び続けると、ようやく新たなピラミッドが見えてきた。

 ピラミッドのすぐ近くに着陸して、体をほぐす。


「あー、やっと地面に降りられた。スザクには悪いけど、揺られっぱなしってのもけっこう辛いんだよな」

「お疲れさまで~す、主様」

「スザクの方こそお疲れ。ところで、ビャッコ戦には参加できるんだっけ?」

「残念ながら、四神相手に本来の力は使えないのですよ~。なのでいつもどおり、上空から管制しますね~」

「そっか。よろしく頼むよ。ところで、スザクの力が増したのなら、アヤメは変わってないのかな?」


 ついでに気になっていたことを聞いてみた。


「そうですね~。アヤメの能力しだいですが、それなりに火魔法が使えるかもしれませんね~」

「えっ、どういうことですか?」

「だからさ、スザクの本来の力が解放されたことで俺やアヤメにも、強力な火魔法が使えるようになってるはずなんだ。俺は魔導銃を使うから別として、アヤメには火魔法を習得してもらいたいな」

「え……私にできるかな?」

「そんなに心配するなって。とりあえず昼飯を食ってから練習してみよう」


 ちょうど昼時だったので、まずは飯を食いながらビャッコ戦の相談をした。

 その後、スザクがアヤメに火魔法を指導する横で、俺たちもめいめいに鍛錬をする。




「さて、いよいよ遺跡に入るから、気を引き締めてな」

「「はいっ」」


 ある程度、アヤメの魔法に目途がついたところで、いよいよ遺跡に挑むことにした。

 昨日と同じように扉に魔力を流し込んでやると入り口が開き、順番に足を踏み入れる。

 ちなみに、今回俺が持っていく銃は”パンター”だ。

 ビャッコは素早さが身上の猛獣タイプらしいので、”ティーガー”は使いにくいだろうと考えてのことだ。


 やがてらせん階段を下りきると、また広大な空間にたどり着いた。

 全員が入ると扉が閉まり、部屋が明るくなる。

 すると目の前に現れた広大な空間の中央に白っぽいもやが発生し、それが徐々に何かの形を取り始めた。

 やがてそれは、牛ほどの大きさの白い虎になる。


「ゴウワァァーーーッ」


 腹に響くような豪吼によって、戦いの火ぶたが切られた。

 それを合図に、前衛陣が白虎に向けて駆けだす。

 俺の方もパンターを構える横で、アヤメは火魔法を行使する。


火弾ファイヤーボール!」


 わずかな集中の後、頭上に掲げた右手の上にバレーボール大の火球が発生すると、それが白虎に向けて放たれる。

 とはいえ、それほど速くないので、躱される前に俺が銃で牽制した。

 しかし立射姿勢で放たれた石英弾は、白虎に当たる直前で何かに弾かれた。

 さらに遅れて到達した火球も、見えない壁のようなものに阻まれてしまう。


 ここでようやく白虎に接近したホシカゲが双聖剣で斬りつける。

 しかし白虎はこれを余裕で躱してみせ、攻撃が空を切った。

 続くヨシツネ、トモエ、ベンケイも攻撃を開始するが、なかなか当たらない。

 白虎の動きが素早いのと、見えない何かに攻撃が弾かれているせいだ。


 なかなか攻撃が通じずに焦りを感じ始めた頃、スザクから念話が入った。


(どうやら白虎は風の鎧と、先読みの力を使っているようですね~。今から私が指示するとおりに動いてもらえますか~)

(先読みなんか使われたら、どうしようもないんじゃね?)

(せいぜい2人ぐらいしか読めないので、協力すれば倒せますよ~)

(そういうことか。よし、これからはスザクの指示に従って攻撃だ)

((了解))


 それからスザクの指示で全員が連携する、完全管制攻撃が始まった。

 俺とアヤメはちょこちょこと位置を変えながら、銃と魔法を撃つ。

 ヨシツネたち前衛陣も連携して、複数の方向から同時に攻撃する。

 最初はタイミングがずれがちだった連携も、徐々に精度が上がり、白虎に通じるようになってきた。


 やがて俺の弾丸が白虎の右目を潰すと、一気に趨勢すうせいが傾いた。

 前衛4人が連携して、白虎の足を1本1本奪っていく。

 最後はほとんど動けなくなった白虎にヨシツネがとどめを刺し、勝敗が決した。


「やったぜ、ヨシツネ!」

「ハッ、ハッ、ハッ……ようやく、終わり、ました」

「ブハーッ……スザク殿の、指示どおりに、動くのは、しんどかった、ですな」


 それまで動きっぱなしだった前衛陣が、その場にへたり込む。

 そんな彼らをなぎらう俺の肩に、スザクが下りてきた。


「キャハハッ、ご苦労さまで~す。なんとか白虎も倒せましたね~」

「うん、みんな頑張ってくれたからな……それにしても、スザクの管制能力、前より凄くなってないか?」

「はい~、主様。直接戦闘には関われなくても、能力が上昇しているようですね~」

「やっぱりね。本当によくやってくれたよ、スザク」


 そんな話をしていたら、ふいに白虎の遺体が光に包まれた。

 やがて光が治まると無傷の白虎が現れ、おもむろに立ち上がる。

 ちょっとだけ警戒したが、白虎は敵対するでもなく、ただ自分の体を確認しているようだった。

 やがて気が済んだのか、俺に顔を向けて喋りだす。


「あんたが新しい主人か? なんか頼りなさそうだなぁ、スザク」

「相変わらず口が悪いですね~、ビャッコ。しかし、あなたも仕えるうちに主様の偉大さが分かると思いますよ~」

「アハハッ、俺が主人になるタツマだ。少し頼りなく見えるかもしれないけど、これからよろしくな」

「ケッ、別に使役されてるからって、心まで売るつもりはねえからな。覚えとけよ、タツマ」

「貴様、無礼ではないか!」


 荒っぽい口調で話すビャッコに、ヨシツネが激昂した。

 俺は気にならなかったので、彼を制止する。


「まあまあ、ヨシツネ。俺は気にしないから。むしろ気安く接してもらった方がいいよ」

「ヘッ、ちったあ話が分かるようじゃねーか。ちょっと神に選ばれたからって、あまり調子に乗るんじゃねーぞ」

「貴様ぁ、まだ言うか!」


 さらなる減らず口に、ヨシツネがまた怒る。

 しかし俺は、ビャッコの尻尾が嬉しそうに揺れているのを見逃さなかった。

 使役リンクからも、彼の機嫌が悪くない雰囲気が伝わってくる。

 長い間封印されてたもんだから、久しぶりのやり取りを楽しんでいるのかもしれないな。




 ビャッコを従えて外へ出ると、もう夕暮れ前だったので、その場で野営することにした。

 俺はビャッコに肉を食いたいとせがまれたので、ホシカゲと一緒に魔物を狩ってきた。

 マッドボアを丸々1匹与えてやると、凄い勢いで食い始める。


「ゴアアッ、バリボリバリボリ……クハーッ、久しぶりの肉はうめーな。ハグッハグッ」

「ハハハッ、いい食いっぷりだな。それにしても、ビャッコはどれくらい封印されてたんだ?」

「ん? 知らねーな、スザクは分かるか?」

「そうですね~。だいたい2千年ぐらいじゃないですか~」

「2千年か……そういえば、なんでスザクたちは封印されてたんだっけ?」

「神々がこの地を去る際、この魔境を守るための封印として残されたのですよ~」

「魔境を守るって、どういうこと?」

「遺跡に囲まれた地域の魔素が濃くなるようにして、魔物以外は立ち入れないようにしたんですね~」

「それは、人系の種族をこの地から遠ざけたってことかな?」

「そうですね~。しかし、このまま四神を全て解放すれば、この魔境にも人が住めるようになりますよ~」


 詳しく聞くと、四神が解放されればこの魔境の中央部分の魔素が薄まり、強力な魔物は外縁部や山岳地帯へ移動するらしい。

 つまり、四方を天然の要害と魔物に囲まれた、豊かな大地が生まれることになる。

 そして四神を従える者は、その地を自由にすることができるそうだ。


 それはまるで、俺に国を作れと言ってるようにも聞こえる。

 しかし、仮に国を作ったとして、俺は一体何をすればいいのだろうか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作始めました。

エウレンディア王国再興記 ~無能と呼ばれた俺が実は最強の召喚士?~

亡国の王子が試練に打ち勝ち、仲間と共に祖国を再興するお話。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ