59.遺跡の試練
アヤメの母親から魔境遺跡の調査を依頼された俺たちは、その翌日に旅立った。
「あーっ、見てください、ご主人様ぁ。リョコウバトの群れですよ~。あれってけっこう美味しいんですぅ」
「ん? ああ、そうなのか。俺は食ったことないけど」
「それなら撃っちゃいましょうよ。パンターなら1発ですよ~。こう、バーンッと」
「あ、ああ、機会があったらな」
旅に出たら、ササミが終始ハイテンションだった。
俺と一緒に旅をできるのが嬉しいらしい。
拾った時のササミはガリガリだったが、最近は腹いっぱい食っていて成長が著しい。
ちょっと筋肉質ではあるが、ナイスなプロポーションになってきてる。
ちなみに武術の方も毎日ヨシツネにしごかれ、グングン上達中だ。
彼女は剣などを使うよりも肉体を使うのが得意で、すでに格闘戦では俺より強い。
ベンケイが軽くて丈夫な防具を作ってやったので、その出で立ちもけっこう様になっている。
スタイルで言えば、戦闘僧侶系だな。
遺跡への経路は山あり谷ありの難路だったが、そこそこ順調に進んだ。
俺たちが迷宮で鍛えられてるってのもあるが、土精霊のニカの存在も大きかった。
うっとうしい下藪を土魔法で通りやすくしてくれたり、川を渡るのに足場を作ってくれたりと大活躍だ。
進む方角は常にスザクが空から確認してくれたので、迷う心配もない。
かくして、1週間は掛かると言われた行程を、5日で踏破した。
そうしてたどり着いた先は、巨大なピラミッドだった。
険しい森が急に開けたと思ったら、高さ20メートルはありそうな石のピラミッドが現れたのだ。
ひととおり外周を回ってみると、入り口らしき場所が見つかる。
しかし、その扉は固く閉ざされており、どうにかして開ける必要があった。
「ふーむ、押しても引いても開きませんな」
「うーん、ここに何か文字みたいなのが書いてあるけど、誰か読めないかな?」
周りを見回しても、誰もが首を横に振っている。
しかし、俺の肩の上の存在は違っていた。
「オッホン。それは古代妖精語なのですよ~。大昔のエルフやドワーフの言葉ですね~」
「なるほど、今は使う人がいないんだな。でもスザクには読めるんだよね?」
「キャハハハハハッ、これでも一応、神の使徒ですからね~。ここにはこう書いてあります。”聖獣をすべる者、その証を示せ。ただし、試練に命を懸ける覚悟のない者は入るべからず”と」
「聖獣を統べる者ってことは、俺も当てはまりそうだな。そしてその証といえば、これか」
俺は左手の使役紋を見ながら呟いた。
扉の真ん中に同じぐらいの大きさの丸印があったので、ここに手を当てるのではなかろうか。
そう思って、恐る恐る手を当ててみたのだが、何も起こらない。
「あれっ、違うのかな」
「魔力を流してみてはどうですか~、主様」
「ああ、そういうことね…………おっ、スザクの言ったとおりだ」
軽く魔力を流してやったら、扉がゴゴゴッと下にスライドしていき、やがて歩いて入れるようになった。
中は真っ暗で、階段が下へ続いている。
そこで、まずは松明を用意することにした。
一応、俺の火魔法も灯りになるけど、別に灯りがあった方がいいだろう。
そういえば、火魔法って生活以外に使ってないな。
野営時の焚き火に重宝してるけど、いずれ強化できないもんかね。
そんなことを考えてるうちに準備が整い、仲間に声を掛ける。
「今から中へ入るけど、油断しないように。無事に試練をくぐり抜けて戻ってこよう」
「「はいっ!」」
最初にヨシツネが松明を持って階段に踏み込んだ。
それに俺、ササミ、アヤメ、ホシカゲ、トモエが続き、最後にベンケイが松明を持って入る。
らせん状の階段をどんどん下り、10階分くらい降りたところで、ようやく階段が尽きる。
その先にあったのは広大な空間らしく、松明の光では先が見通せなかった。
「なんか、ずいぶん広い所みたいだな」
そう呟いた途端、壁のあちこちに灯りが点って明るくなった。
同時に入ってきた入り口がドスンと閉まり、閉じ込められてしまう。
そんな俺たちの前には、東京ドームほどの広大な空間が広がっていた。
そしてその真ん中で、何かが生まれつつあった。
「なんだ、あれ?」
「まるで炎のようですな」
ベンケイの言うとおり、ごうごうと燃え盛る炎のようなものが空中に現れ、急速に大きくなっていく。
やがてそれは形を取り、高さ10メートルほどの赤とオレンジの巨鳥が現れた。
その外見は、地球のヘビクイワシにクジャクの尻尾を付けたようなイメージだ。
「うわっ、あれはヤバい。弾くれ、ニカ」
俺はその存在に危険なものを感じ、すかさずティーガーと鋼鉄塊を取り出して射撃準備に入った。
ニカも俺の横に座り、給弾の態勢に入る。
「ケェェーーーーーンッ!」
完全に実体化が終わった巨鳥が、羽を広げながら声を上げた。
その翼長は軽く20メートルを超えるだろう。
俺はその頭部に向け、躊躇なく鋼鉄の弾を発射した。
しかし、通常なら必中の弾丸は楽々と躱されてしまう。
しかも次の瞬間、お返しとばかりに敵の口から紅蓮の炎が吐き出された。
「タツマ様、あぶないっ!」
腹ばい姿勢で動けなかった俺を、ヨシツネが引っ張り上げてくれたおかげで、辛うじて難を逃れる。
「ウヒーッ、危なかったぁ。ちくしょ~、弾くれ、ニカ」
「うん、いくよ」
命拾いしたばかりだが、すかさず俺は射撃姿勢に入り、今度は胴体めがけてぶっ放した。
さすがにこれは当たるだろうと思ったら、今度は翼のひと振りで薙ぎ払われてしまう。
「なんじゃ、ありゃ~っ!」
「超高速の弾も、しっかり見えているようですね~」
「うそーん……うわ、また来た」
今度はトリ野郎が両翼をはためかせると、そこから無数の火の玉が飛び出した。
広範囲の攻撃に被弾を覚悟したところ、ベンケイとヨシツネがとっさに盾で守ってくれた。
ただし彼らは無傷では済まず、所々に火傷を負っている。
「ありがとう、みんな。だけど、これからどうする?」
「とりあえず俺が斬りこんで隙を作りますから、タツマ様はどんどん撃ってください」
「それしかないか……気を付け、うわ、逃げろ!」
今度はトリ野郎がふわりと舞い上がり、脚を突き出しながら舞い降りてきた。
ヘビクイワシのように長いその脚には、鋭い爪が光っている。
1撃でも食らったら致命傷のその攻撃を、俺は必死で逃げ回る。
しかし逃げ回るだけの俺と違い、ヨシツネは盾と剣で応戦していた。
さすがに正面から当ってはいないが、持ち前の素早い動きでなんとか対抗している。
するとそれに勇気づけられたホシカゲも参戦した。
口にくわえた双聖剣で、トリ野郎の足に斬りつける。
もちろん大したダメージにはなっていないが、多少は敵の気を引けたようだ。
うっとうしそうにホシカゲを攻撃しようとするところを、今度はヨシツネが斬りつける。
一方の俺は少し離れた所に陣取って、またティーガーを構えた。
すると地面の中からニカが現れ、また給弾態勢に入る。
ちゃんと鋼鉄塊も持ってきてるんだから、大助かりだ。
ニカちゃん、地味に有能~。
「ニカ、弾くれ」
「うん、いくよ」
すかさず装填された弾を、トリ野郎めがけてぶっ放した。
ちょうどヨシツネの攻撃を受けたところで、意識が逸れていたのだろう。
今度は見事に巨鳥の胴体を捉えた。
「クエーーーーーッ」
炎のような血をまき散らし、トリ野郎が苦鳴を上げる。
しかし、もちろんそれは致命的なダメージとはならず、逆にぞっとするような目を向けてきた。
そして奴が何かをするように首を反らす。
それを見た瞬間、俺の中で特大の警報が鳴り響いた。
「ヤバいのが来るぞ。逃げろっ!」