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56.生贄

「やべえよ、タツマ。あのババア、とんでもないこと考えてる!」

「ふぁ?……なんだ、ゴクウか。何をそんなに慌ててんだよ?」

「そんな悠長なこと言ってられる状況じゃないんだ。目を覚ましてくれよ」


 気持ちよく寝てたら、アヤメの故郷の様子を探りにいっていたゴクウに叩き起こされた。

 何やらひどく慌てているので、とりあえず体を起こして眠気を振り払う。

 周りの奴らも叩き起こして、話を聞くことにした。


「ファ~、ムニャムニャ……それで、何が起こったんだ?」

「それが聞いてくれよ。あのババア――」


 ゴクウの話はちょっと衝撃的なものだった。

 まず彼は村の中に忍び込み、アヤメの叔母であるカエデという女性を探した。

 予想していたとおり、カエデはアヤメの家を占拠し、この村を牛耳っているそうだ。


 しばらく彼女を見張っていると、数人の村人が集まってきて会議が始まった。

 最初は村の状況報告やらなんやらだったが、やがて明後日に儀式を行うという話になる。

 どうやらその儀式で新たな守護精霊を呼び出そうとしているらしいのだが、その精霊と代償が問題だった。


「アヤメの母さんを生贄にするだってぇ?」

「そうなんだよ。しかも呼び出そうとしてるのが、シュテンらしいんだ。あいつは精霊というよりも死神に近い存在だ。そんな奴を呼び出したら、間違いなく血の雨が降る」

「なんだ、そのシュテンってのは?」

「なんていうか、闇の上位精霊みたいな奴で、鬼神とも呼ばれる存在だ。だけどそいつ、生贄を要するだけあってメチャクチャ血の気が多いんだ。そんなの召喚したら、絶対に戦争が起きるぞ」

「そいつはまずいな……だけど、その召喚のために、アヤメの母さんが生かされてるってのは朗報だ。なんとか彼女を取り返して、反乱軍を打倒する方法を考えよう」


 ここで改めて敵の戦力を確認すると、戦士団は軒並み押さえられてることが判明した。

 自分の意志でカエデに協力している者もいれば、人質を取られて仕方なく従っている者もいるようだ。

 そしてそのトップに立つのが、カエデの旦那であるマサカドだ。


 ダークエルフにしては大柄な、剣と弓に優れる強者つわものらしい。

 反乱軍はこいつの武力に頼ってる部分が大きいので、逆にこれを倒せば収拾をつけやすいだろう。

 しかし、マサカドの相手はヨシツネに任せるとして、その他を押さえる戦力が足りないという話になった。


(わふ、それなら僕が仲間を集めてくるです)

「ん? ホシカゲの仲間ってことは闇狼ダークウルフだよな。あまり時間ないけど、大丈夫か?」

(今まで通ってきた途中で、いくつか群れの痕跡があったのです。それを従えれば10や20は揃うです)

「うーん、わりと現実的な話か。迷宮で鍛えたホシカゲに敵うボスがいるとも思えないし……よし、さっそく仲間集めに行ってくれるか?」

(お任せなのです)


 ただちにホシカゲが森の中に消えていった。


「さて、俺たちは作戦を考えよう。ゴクウとアヤメは村の中の地形や、建物の配置を教えてくれ」


 それから村の中の状況を把握して、作戦を立てていった。

 儀式が行われる明後日の夜、まず俺たちが忍び込んで、ダークウルフを招き入れる手はずを整える。

 そして人質を救い出してから、儀式の場を占拠するという作戦になった。


 また、抵抗勢力にも協力してもらうため、村人とつなぎを取ることにした。

 信頼できそうな人をアヤメに教えてもらい、スザクを送り込んで呼び出すのだ。

 とりあえずそこまで決めてから、また眠りに就いた。





 翌日、ゴクウとスザクを偵察に送り出すと、残りは鍛錬をしながら協力者を待っていた。

 やがて、スザクがダークエルフの男性を伴って戻る。


「アヤメ! 本当に生きていたのか」

「お父さん!」


 アヤメと父親が抱き合って再会を喜ぶ。

 彼はアヤメに似て、顔立ちの整ったイケメンだった。


 しばらく待っていると、ようやく落ち着いた2人と話ができるようになった。


「私はカエデの父親で、ヒデサトと言います。この度は娘を救ってもらい、本当にありがとうございます」

「あ、どうも。俺がタツマです。アヤメのことはお気にせず。それにしてもヒデサトさん、よく出てこれましたね」

「実は、さほど拘束されていないのです。妻を人質に取られているので、何もできないと思っているのでしょう」

「ああ、やっぱり。ところで、明日の晩に奥さんが生贄にされそうだって、知ってます?」

「ハスノが生贄にっ! くそっ、カエデめ、何をするつもりだ」


 ハスノってのは、アヤメのかあちゃんだろう。

 そこで俺がゴクウから聞いたことを教えてやったら、彼の顔が恐怖に染まった。


「馬鹿な……シュテンを召喚するだなんて、正気か? いや、しかしそれなら奴らの行動も説明がつくのか……」

「奴らの行動とは?」

「闇精霊をアヤメに封じて逃がしたために、カエデはその力を得られていません。このままではいずれ、村を守る結界も維持できなくなるはずなのです。それなのに、のうのうと村に居座っているのは、別の当てがあるからでしょう。しかし、いくらなんでも鬼神を使うなんて……」


 その鬼神ってのは、やはり精霊なんてかわいいものじゃないらしい。

 過去、いくつもの集落を破滅に追いやった、破壊の権化とも言える存在だとか。


 俺は生贄の儀式を阻止するため、改めてヒデサトに協力を申し入れた。

 当然、全面的な協力を得られることになり、翌日の段どりを話し合う。



 夕刻前に彼は村へ戻り、夜遅くになってゴクウも戻ってきた。


「どうだった? ゴクウ」

「ああ、だいたい敵の状況は掴めた。アヤメの母ちゃんの場所も分かってる」

「そうか。事前に救い出せそうか?」

「いや、見張りが厳しいし、他にも何人か捕まってるから、難しいだろうな。儀式の直前を狙うしかないと思う」

「そうか……こっちはアヤメの親父さんと連絡がついたから、少しはマシになるだろう。中の状況を聞かせてくれ」


 それからゴクウの報告を聞き、さらに作戦を練った。

 アヤメの母親を救うためにも、失敗は許されない。





 そして翌日の昼前になると、20匹以上ものダークウルフを従えたホシカゲが戻ってきた。


(戻ったのです、ご主人様)

「お、おう。こんなに連れてくるとは、頑張ったみたいだな」

(わふ、頑張ったのです)


 彼が、誇らしげに胸を張り、尻尾をブンブン振っている。

 ご褒美にワシャワシャと撫でまわしてやったら、だらしなく崩れ落ちそうになる。

 しかし、さすがに多くの配下を従える手前、ギリギリで思いとどまって俺に願い事をしてきた。


(ご主人様、こいつらにエサを与えて欲しいです)

「エサ? ああ、そうだな。協力してもらうんだから、対価が必要か。よし、獲物を捕まえにいこう」


 それからしばらく、ホシカゲが見つけた魔物を俺がパンターで仕留めて回った。

 仕留めた獲物にはただちにダークウルフが群がり、お食事会の始まりだ。

 そうして何匹か食わせてやると、ダークウルフたちも満足したようだ。

 一応、俺のことも少しは認めてくれたらしい。




 暗くなってから、アヤメの故郷に忍び寄った。

 村から少し離れた所にホシカゲ、トモエとダークウルフを待機させたうえで、俺たちはニカの掘ったトンネルで内部に忍び込む。

 村の中に入ると、門のかんぬきを外していつでも開けられるようにしておいた。

 しかし狼たちを入れるにはまだ早いので、ベンケイとニカに後を任せて俺たちは進む。


 またもやアヤメの闇魔法で身を隠しながら、ヒデサトとの待ち合わせ場所へ向かう。

 たどり着くと、彼が待ち受けていた。


「タツマ殿、こちらです」

「ヒデサトさん、こんばんは。仲間はどれぐらい集まりましたか?」

「私も入れて5人です。信頼できる者となると、これが精一杯でした」

「十分ですよ。それでは行きましょう」


 ヒデサトの案内で村の中を進み、とある家の陰で立ち止まった。


「あれが本来の私の家で、カエデが占拠している場所です」


 示された方向を物陰から窺うと、少し大きめな家があり、警備らしき男たちがうろついていた。


「それでは我々が裏手に回りますので、表で騒ぎを起こしてもらえますか。その隙に――」


 ヒデサトが手順を話し始めた矢先、ふいに周囲が明るくなった。


「それには及ばないよ。あんたらはここで死ぬのさ!」


 どうやら、敵の方が1枚上手だったらしい。

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エウレンディア王国再興記 ~無能と呼ばれた俺が実は最強の召喚士?~

亡国の王子が試練に打ち勝ち、仲間と共に祖国を再興するお話。

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