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52.冤罪

 兎人族のササミを拾ったその晩は町で過ごし、また一路北を目指した。

 ちょくちょく魔物には出くわしたが、順調に進み続け、とうとう魔境の外縁部にたどり着く。

 ここから先は馬車が使えないので、徒歩で進むことにした。


 道から外れた所に馬車を隠し、さらにアヤメの闇魔法で隠蔽処理をしてもらう。

 これは対象が目に映っても意識には残らないという魔法で、よほど勘のいい人でなければ誤魔化せるらしい。

 地味だけど、けっこう便利だね、闇魔法。


 大きな荷物をトモエの背に積み換え、俺たちは魔境に分け入った。

 まず向かうのは、ヨシツネの故郷である獅子人族の村だ。

 そこはここから歩いて半日ぐらいの所で、ササミの村はもっと奥になるらしい。

 アヤメの故郷はさらに奥なので、まずはヨシツネの濡れ衣を晴らし、奴隷紋を解除しようという話になった。


 その日のうちには着かなかったので、森の中で野営をする。

 普通ならとても危険な魔境だが、迷宮で鍛えた俺たちにとってはさほどでもない。

 すでに鋼殻竜スチールドラゴンさえ倒す俺達の強化度は、最新で27にも達していた。

 さらに知性を持つメンバーが10人もいれば、夜の見張りにも困らない。


 おかげでたっぷりと眠ることができたが、ササミに懐かれたのにはちょっと困った。

 美少女が目をうるうるさせ、一緒に寝たいと言ってきたら断りにくいよね。

 しかも、アヤメまで張り合おうとするんだから、ややこしい。

 結局、俺は2人の美少女に挟まれ、少し窮屈な状態で寝ることになった。


 2人ともかわいいから悪い気はしないんだが、元が35歳の俺にとっては妹みたいな感覚だ。

 なので、せっかくのモテ期到来なのに、ちょっと戸惑っている。

 決して俺が、ヘタレだからじゃないぞ。





 そして翌日の昼頃、ヨシツネの故郷を遠目に臨む場所へたどり着いた。


「とりあえず目的地には着いたけど、これからどうしようかね?」

「そんなの正面から行って、邪魔者をバンバン倒しちまえばいいじゃねーか」


 何も考えずに脳筋な発言をするゴクウ。

 それを主人のアヤメがたしなめる。


「だから、それじゃヨシツネさんの無実は証明できないって言ってるじゃないの、ゴクウ」

「そうそう。まずは情報を集めるためにも、敵と味方を見極めないと」

「ご迷惑をお掛けします、タツマ様」


 ヨシツネは3年前に濡れ衣で奴隷に落とされたんだが、その時に奴隷紋を刻んだ呪術師がこの村にいる。

 しかし話を聞く限り、正式な手続きを経て奴隷にされたのだから、正面から行っても解除なんかしてくれないだろう。

 だから村の中に協力者を作り、その手引きで濡れ衣を晴らしたいと考えている。

 問題は、どうやって協力者を見つけるかだ。


「それで、この人なら絶対大丈夫って人はいる?」

「……そうですね。確実に信用できるのは、私のお祖母ばあさまぐらいでしょうか」

「ふーん、その祖母さんはどんな立場なの?」

「先代村長の妻でしたが、先代はすでに亡く、独りで隠居生活をしているはずです。お世辞にも影響力があるとは言えませんが、その深い知恵をもって先代を支えていたので、力にはなってくれるでしょう」

「なるほど。それなら助けにはなるか。なんとかつなぎを付けて、直接会ってみたいね」

「はあ、しかし村から出ることは、ほとんどないのが問題です」


 難しい顔で考え込むヨシツネに、スザクが助け舟を出した。


「それなら私が連絡役になりましょうか~? お祖母さんの居場所と、あなたの使いだと分かるようなエピソードを教えてくださ~い」

「大丈夫か? スザク」

「おそらく大丈夫ですよ~。それに言葉が喋れて、空を飛べるのは私しかいませんからね~」


 たしかに彼女以上にうってつけのメッセンジャーはいない。

 ヨシツネから祖母さんのいる場所と、彼の使いであることを証明するエピソードを聞くと、スザクは飛び立っていった。




 それからしばらく森の中で待機していると、スザクが戻ってきた。


「無事にシノブさんと会えましたよ~、主様」

「お、さすがスザク。ちゃんと話は聞いてもらえた?」

「はい~、ヨシツネの無事を聞いて、大喜びでしたよ~」


 シノブってのはヨシツネの祖母さんなわけだが、無事に接触できたようだ。

 今晩、忍んでいけば、家に招き入れてくれる手はずになっている。

 そうと決まれば、夜に備えて仮眠を取るとしよう。


 俺たちは人目につかない所で食事や仮眠を取り、夜を待った。




 その晩の10刻、つまり夜8時頃に俺達は獅子人族の村に忍び込んだ。

 さすがに全員では目立つので、俺とヨシツネ、アヤメ、ゴクウ、スザクだけでの潜入だ。

 村の周りは高い防壁で囲まれているので、ニカにトンネルを掘ってもらった。

 上位精霊相当のニカにかかれば、俺達が侵入するぐらいのトンネルなど朝飯前だ。

 トンネルを出てから彼女に礼を言うと、最近教えてやったサムズアップで見送ってくれた。


 村に入ると、アヤメが俺たちの周辺に闇魔法による偽装を施した。

 これで誰にも見つかることなく、堂々と祖母さんの家まで行けるって寸法だ。

 しばらく歩いて目標の家を見つけると、裏口に回って扉を特定のリズムでノックする。

 少し待つと中から扉が開き、獅子人の老女が顔を出した。


「ヨシツネかい?」

「はい、お祖母さま。お久しぶりです」

「その声は本物だねえ。生きて再び会えるとは……まずはお入り」


 彼女に招き入れられ、囲炉裏いろりのある部屋に案内された。

 薄暗い部屋の中で、改めて祖母さんとヨシツネが対面する。


「よく戻ってきたね、ヨシツネ」

「はい、お祖母さま。しかしこれも全て、こちらのタツマ様のおかげです」

「ああ、あんたがタツマさんかい? スザクさんに話を聞いたよ」

「初めまして、シノブさん。一応、俺はヨシツネの主人ってことになってますが、義兄弟みたいな関係だと思ってます」

「噂どおりの人みたいだねぇ。ヨシツネを救い出してくれたこと、本当に感謝するよ」

「いえ、俺の方こそ助けられてばかりですよ。それより、彼の濡れ衣を晴らす相談をさせてもらえませんか」

「ああ、そうだったね。ついつい嬉しくって。まずは座っておくれよ」


 そう促され、俺たちは囲炉裏の周りに座った。


「まず、ヨシツネがはめられた時の状況を、詳しく教えておくれ」

「はい、まず最初におかしいと思ったのは――」


 それからしばらく、ヨシツネが濡れ衣を着せられた時の状況が語られた。

 濡れ衣の内容を簡単に言えば、彼が父親と兄を暗殺して村長の地位を奪おうと計画していた、というものだ。

 もちろん、ヨシツネにはこれっぽっちも心当たりのない話だが、3年前にいきなり兄から告発された。

 そしてその後の調査で、彼の部屋からいろいろとまずい手紙やら毒やらが発見されてしまう。

 おそらく兄、もしくはその協力者が仕込んだものだろう。


 これによってヨシツネは、反乱を企てた大罪人として裁かれてしまった。

 本来ならその場で処刑だが、未遂だったこともあってなんとか奴隷落ちで済んだらしい。

 ただし兄の強い要望により、衰弱の呪いが付加された。

 おかげで彼は3年もの間、地獄の苦しみを味わったのだが、俺と出会ったことでその苦しみは終わった。


「そうかい。これでいろいろと合点がいくよ。あの時の仕打ちは、私もおかしいと思っていたんだ。でもなんの力にもなれず、申し訳なかったね、ヨシツネ」

「いえ、お祖母さま。私が隙だらけだったのです。それは自業自得とも言えますし、今はこうして無二の主君を得ることができました。誰を責めるつもりもありません」

「そうかい……それにしてもヨリトモはなぜそんなことをしたのかねぇ? たしかに武人としての評価はヨシツネの方が高かったけど、そんなことをする理由が分からない」


 シノブが、どうにも分からないという顔で首を振る。

 ちなみにヨリトモってのはヨシツネの兄さんの名前。

 なんかこの世界、地球の影響をけっこう受けてるよね。


「それなんですけど、可能性はいろいろ考えられますよね。例えばヨリトモさんがヨシツネの勇名に嫉妬したとか、次期村長の襲名に危機感を覚えたとか。下手すると、女性の取り合いで罠にはめられた可能性だってあります」

「ハハハッ、それはありそうだねぇ。ヨシツネは本当にいい男だけど、鈍いから」

「やっぱり昔からそうだったんですか?」

「タツマ様っ!」


 ちょっとからかったら、ヨシツネが顔を赤くして怒りだした。

 いろいろ聞きたいことはあるが、それはまた別の機会にしておこう。


「ゴホン。現状、思い当たることがないのであれば、情報を集めるしかありませんね。お手数ですが、当時の状況やその後の変化について、調べてもらえませんか? 今日の話を聞いたうえであれば、何か分かることもあるでしょう」

「ふむ、そのとおりだね。言われてみれば怪しい点がいくつかあるから、改めて調べてみるよ。1日では厳しいから、2日後の夜にまた来てくれるかい?」

「承知しました。また同じ時間にお邪魔します。それでは今日はこれで」

「ああ、気をつけてね」


 それからすぐに来た道を戻り、無事に村の外に出た。

 さらにベンケイたちとも合流し、森の中で1夜を明かす。





 それから2日間は森の中で鍛錬をしたり、魔物を狩ったりして暇を潰していた。

 その間の成果として、ササミに武術の才があることが判明した。

 彼女は思いのほか筋が良く、鍛えれば強くなるとヨシツネが言っていた。


 それを聞いたササミが、俺の役に立ちたいからと、猛特訓を始めた。

 そういうのが嫌いじゃないヨシツネも、手取り足取り教えている。

 おかげでササミはめきめきと、格闘術の腕を上げている。


 そうこうするうちに、シノブを再訪するときがきた。

 何か手がかりが見つかっているといいのだが。

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エウレンディア王国再興記 ~無能と呼ばれた俺が実は最強の召喚士?~

亡国の王子が試練に打ち勝ち、仲間と共に祖国を再興するお話。

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