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51.ササミ

 貴族に絡まれてカザキの町にいられなくなった俺たちは、ヨシツネとアヤメの故郷を目指し、魔境へ向かっていた。

 そしてその途中で虐待されていた兎人族の少女を助けたら、庇護を求められた。

 虐待してた奴らを追い払ってから、気を失った少女にポーションを飲ませてやると、やがて息を吹き返した。


「……ん、うーん。あれ、私どうしたんだろ?」

「気づいたか。君が子供たちにいじめられてたんで、俺が助けた。そしたら君が庇護を求めたんだけど、覚えてる?」


 そう言うと、しばらく目をしばたいていた少女が、ガバッと起き上がった。


「は、そうだ。私、子供たちにやられてて……それで誰かの足にすがって庇護をお願いしたような……」

「そう、それが俺だ。俺の名はタツマ」

「あ、あなた様が助けてくださったのでしゅか。わ、わらひはチャチャミでしゅ」


 噛み噛みだ。

 一時的にパニックに陥ってる。


「落ち着け。本当にチャチャミなのか?」

「ち、違います……フーッ、フーッ……さ、ササミと申しますぅ」

「ササミね。それで、なんでこんなことになってたの?」

「それが実は~っ!」


 その後、ササミが泣く泣く語った話はこうだ。

 彼女は1年ほど前、森の中で人族の奴隷狩りに遭い、奴隷として売られてしまった。

 幸いなことに買い主はわりと優しい商人だったので、それほどひどいことはされなかったそうだ。


 しかしそのご主人様と一緒に行商をしていたら、山賊に襲われてしまう。

 商隊には護衛も付いていて対抗したものの、健闘むなしくご主人様もろとも殺された。

 それを見たササミはパニックになり、森の中に駆け込んで山賊の追撃を躱したらしい。

 しかしあまりに夢中だったため川に落ち、気がついたら知らない所に打ち上げられてたそうだ。

 それからなんとか道を見つけ、2日歩いてここまでたどり着いたら、さっきの悪ガキどもに見つかったという話だった。


「そうか、大変な目に遭ったんだな」

「グスッ、でもこんなに優しい人に助けてもらって、幸運だったのですぅ。貴重なポーションを分けていただいたご恩は、一生かけてでもお返ししますぅ」

「ああ、そんなに気にしなくていいから。俺は人種差別する奴とか、大嫌いだからね。それで、ササミはこれからどうしたい?」


 そう聞くと、ササミが不思議そうな顔で返してきた。


「どうって、私はこれからご主人様にお仕えするつもりですが?」

「いや、今のところ君を雇う必要はないから、奴隷契約は解除するよ。どうせ借金奴隷として売られたんだろ?」


 奴隷ってのは大まかにいって、借金奴隷と犯罪奴隷の2種類だ。

 ヨシツネのような犯罪奴隷は無断で解放はできないが、借金奴隷なら主人の意向で解除も可能だ。

 しかし、それを聞いてササミはひどく動揺した。


「ええっ、そんなぁ。私はこのまま捨てられるんですか? こんな所で捨てられたら、また奴隷狩りに捕まってしまいますぅ」

「ちょ、落ち着けって。見捨てたりはしないから。必要なら故郷の村まで送ってやるよ」

「ええーっ、そんな話、聞いたことないのです。やっぱり私は捨てられちゃうんですね~。ビエ~ン」


 ただでさえボロボロの顔を、クシャクシャにしてササミが泣きだした。

 駄目だ、手に負えん。


 周囲に助けを求めたら、ヨシツネが近寄ってササミの肩を掴んだ。


「落ち着けっ、娘!」

「ハウッ……」

「いいか。タツマ様は弱い者を放り出すようなお方ではない。同じ奴隷としてそれは保証しよう。信じられないような申し出かもしれないが、そのご厚意に甘えればよい」

「ふぇぇ、そんなことってあるんですか?」

「あるのだ。世の中も悪人ばかりではない」


 ヨシツネが力強く断言すると、ようやくササミも落ち着いたようだ。

 するとヨシツネが俺の方を向いて言う。


「タツマ様。ササミを保護するのは結構ですが、すぐに奴隷から解放するのはやめた方がいいと思います。当面は奴隷のままで庇護下に置くのがよいでしょう」

「なんで? そこの町にも奴隷商ぐらいあるだろ?」

「目立ちすぎるのです。手に入ったばかりの奴隷をすぐに手放すなど、正気を疑われます。そうすれば、またいらぬ騒動を引き起こすやもしれません」

「なるほどね……まあ、それもそうか。とりあえず今は、俺に所有権を移すだけにしとこうか」

「はい、それがいいでしょう」

「私もその方がいいです。いえ、一生ついていきますぅ」


 なんかササミがどさくさに紛れてとんでもないことを言ってやがる。

 しかし彼女も落ち着いたようなので町に入ろうかと思っていたら、見知らぬ人の群れが近づいてきた。

 その中にはさっきの悪ガキどもの姿も見える。

 あいつら、大人に言いつけて抗議に来やがったのか?


 間近まで来ると、衛兵らしき男が話しかけてきた。


「俺の名はモリヒト。この町で衛兵をやっている。この子供たちが、あんたらに奴隷を取られたと言うんだが、本当か?」

「それは言いがかりですね。俺の名はタツマ。たまたまここを通りかかったら、その子たちがこの兎人の娘を虐待してたので、止めに入りました。そしたらこの子が俺に庇護を求めたので、それを受け入れたまでです。な、ササミ?」

「はい、ご主人様の言うとおりです。私はこの方に庇護を求めました」


 するとガキどもが騒ぐ。


「そんなの嘘だ。そのはぐれ奴隷は俺たちが先に見つけたんだぞ。俺たちのもんだ!」

「そうだ。そいつがおいらたちを脅して奪い取ったんだぞ!」


 うわ、あったま悪い奴ら。

 衛兵とグルでもない限り、そんな理屈が通るはずないのに。


 案の定、衛兵がため息をついて言う。


「このはぐれ奴隷がはっきりと庇護を求めているのだから、所有権はあなたにありますね」


 しかし、これでも納得しない奴はいた。

 悪ガキの父親らしき男がしゃしゃり出てきたのだ。


「しかし、私の息子はこの男に殴られたんだぞ。暴力で奪い取ったのなら所有権は主張できないはずだ」

「ほー、俺がその子供たちに暴力を振るったと? 俺はただ止めに入っただけで、逆に蹴られたんですがね。それなら、俺もこの奴隷を虐待していた子供たちを訴えなければいけないなぁ。今は治癒ポーションを与えて持ち直していますが、ほとんど死にかけていたんですよ、この子は」

「な、なんだと、そんなの嘘だ。デタラメだ!」

「嘘じゃありません! 私、その子たちに、もう少しで殺されるところでした」


 俺を嘘つき呼ばわりする男に、ササミが強く反論する。

 その男はなおも反論しようとしたが、衛兵に止められた。


「まあまあ、治癒ポーションで治してなおこれだけの傷では、傷害罪に問われても仕方ありませんよ。しかしまあ、本当に訴えるつもりはないんでしょう?」

「そっちがおとなしく引いてくれるなら、治癒ポーションの代金で示談に応じましょう」

「それぐらいは当然でしょうね。奴隷は国家の財産なんだから、それを損なうような行いは厳に慎むべきです。よろしいですね、ゲンドウさん」

「グッ……分かった。どうせ大銀貨1枚ぐらいだろう」

「いいえ、金貨1枚です」

「「ハァ?」」


 その場にいた者のほとんどが固まった。

 奴隷に金貨1枚の高級ポーションを使うなど、常識外れもいいとこだからだ。

 しかし、俺が空けたばかりのビンを見せると納得し、しぶしぶながら払ってくれた。

 おそらくこれだけの出費を招いたからには、父親もあとでガキに説教ぐらいするだろう。

 しっかり教育しとけ、おっさん。




 その後、町の中で奴隷商を見つけ、正式に俺がササミの主人となる手続きをした。

 なんだかんだで時間を取ってしまったので、その日はその町の宿に泊まることにした。

 ついでに夕食の席で、ササミの歓迎会をすることにもなった。


「それじゃあ、ササミの仲間入りに乾杯!」

「「かんぱーい!」」


 乾杯した仲間たちが、酒やジュースをあおる。


「プハーッ、美味しいですぅ。本当に一緒に食べていいんですか~?」


 目をうるうるさせながら、ササミが俺に聞いてくる。


「もちろん。俺は奴隷でもしっかり食わせて、しっかり働かせる主義だからな。早く体を治すためにも、どんどん食え」

「はいっ、いただきますぅ。ハグハグハグ……」


 さっき食堂に入った時は、彼女が床に座ろうとするので、少々慌てた。

 そういえば、ヨシツネも最初はそんな感じだったっけ。

 俺は床に座ってたら話もしにくいからと、ムリヤリ椅子に座らせる。

 最初はオドオドしていたが、ようやく俺たちの雰囲気にも慣れてきた感じだ。


 一心不乱に料理を食べるササミは、改めて見るとかわいい女の子だ。

 いまだに青アザだらけだが、顔を洗ったらだいぶきれいになった。

 フワフワの白いショートヘアと白い肌に、パッチリとした黒目が映える。

 ピョコピョコと動くウサギ耳がコミカルで、これまた可愛らしい。

 こんなにかわいい存在を袋叩きにするなんて、信じられん奴らだ。


 しかし、ササミは意外に肉食系だった。

 ウサギ系なんだから野菜を食うのかと思ったら、ガッツリ肉を食っている。

 しかも、この体のどこに入るかってぐらいの量が消えていくのだ。


「ずいぶんと腹が減ってたんだな?」

「ハウッ、私、食べすぎですか?」

「いや、大丈夫。これでもけっこう稼いでるから、気にしなくていいぞ。それにしても、兎人ってのは肉を食うんだな?」


 何気なく聞いたら、ヨシツネが教えてくれた。


「獣人というのは全て雑食ですよ。それに兎人族は見た目以上に身体能力が高いから、意外に大食いなんです」

「モグモグ……そんなこと言われると恥ずかしいですぅ。だけど、ちゃんと体力を回復したら、ご主人様のお役に立ちますからね!」

「ハハハッ、そうか。でも無理しなくていいからな。まずは体を治せ」

「はいっ、ハグハグ……おいひ~」


 無心に食べる彼女のフワフワの頭を撫でてやると、本当に嬉しそうに笑った。

 その笑顔をずっと守ってやりたいと思うほどに。

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エウレンディア王国再興記 ~無能と呼ばれた俺が実は最強の召喚士?~

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