5.初めての魔法
スザクに教えてもらうことで、とりあえず自分の体内に魔力を感じ取ることはできた。
次はそれを魔法に応用する番だ。
「それでは、左手のひらを前にかざしてくださ~い。そして使役紋から炎を噴き出すようにイメージしてみましょ~」
「おっ、いかにも魔法っぽいな。よ~し、出でよ炎!」
俺は手をかざしながら炎をイメージし、声を上げてみた。
しかしいくら声を上げてみたところで、一向に火が出る気配は見られない。
「……上手くいかないんだけど」
「やはり、いきなりは無理でしたか~。おそらく魔力が薄すぎるんでしょうね~。それでは~、体内の魔力を左手に集めるようにイメージしてみましょ~」
「うーん、できるかな?」
再び目を閉じ、体内の魔力に意識を向ける。
体の中にうっすらと分布している魔力を、まずは左肩に集めてみる。
全身の魔力を左肩に吸い寄せるようなイメージだ。
最初は何も起こらなかったが、やがて魔力の流れが感じられるようになった。
徐々に徐々に左肩に魔力が集まり、密度が高まったような気がする。
そこで、今度は肩から左手のひらに魔力を移動させてみる。
のろのろと魔力が移動するのが感じられ、やがて手のひらがじんわりと温かくなってきた。
ここで俺は目を開き、使役紋から火を出すイメージを思い描く。
最初はなんか抵抗が感じられたものの、やがてそれを突き破るような感覚があった。
すると、ようやく手のひらから、ライターみたいな炎が噴き出たのだ。
「こっ、これが魔法か。俺にも魔法が使えたんだっ! ウヒョーッ」
手のひらから火を出すとか、とんでもない異世界体験をした俺は、興奮して飛び上がってしまった。
するとあっさりと火が消え、代わりに予想外の疲労感が押し寄せる。
「うえっ、なんだこれ?」
俺は強い眩暈を感じて、その場にへたり込んでしまった。
「大丈夫ですか~、主様。魔力は無限ではないのですよ~。いい時間なので昼食にされてはどうですか~?」
そう言われて空を見上げると、太陽が真上に来ていた。
どうやら俺は熱中するあまり、2刻近くも練習していたらしい。
そこでシズクにもらったオニギリを取り出し、竹筒に入った水をひと口飲んでから食べ始める。
「この魔法ってさ、どういう原理になってんの?」
ふと気になってスザクに聞くと、彼女も俺のオニギリの一部をついばみながら答える。
「もきゅもきゅ……属性魔法に関しては、自身の魔力と引き換えに精霊界から元素を取り出すので~す。もきゅもきゅ……この元素を取り出す時に、自分で精霊界の窓口を開く場合は魔術に、精霊を窓口とする場合は精霊術になりますね~。もきゅもきゅ……主様の場合は私を窓口としたので、精霊術に近いですね~。もきゅもきゅ」
「へー、そういう仕組みなんだ。さっきの炎はスザクを介して取り出したんだな……こういうのって、呪文とか必要ないの?」
「主様と私の間には、強い絆が結ばれているので必要ありません。もきゅもきゅ……今はこうして話していますが、思念だけでも意志が伝えられるんですよ~。もきゅもきゅ……今回は私が主様の意志を読み取って、炎を取り出した形になりますね~。もきゅもきゅ……フーッ、ごちそうさま」
「水飲む?」
「いただきま~す」
スザクがご飯に満足したようなので、手のひらに水を垂らして飲ませてやった。
彼女についばまれた所がくすぐったい。
「ただし呪文というか、キーワードを設けると魔法のイメージがより固まって、効率が良いですね~」
「それって、どういうこと?」
「例えば、さっきの魔法に”ファイヤ”という名前を付けて、私とそのイメージを共有しておくのです。火の大きさによって、”ファイヤ1”とか”ファイヤ2”とか分けるのも手ですね~。そのような呪文を繰り返して体になじませると、少ない魔力ですばやく出せるようになるのですよ~」
「なるほど、それはいい手だな……もっとも、今の俺の魔力量じゃあ、そんなにポンポン使えないのが問題だ」
「それについては毎日寝る前に瞑想をすれば、魔力は増えるはずですよ~。すぐにそれなりに使えるようになるでしょ~」
「ふーん、瞑想ね。よし、これからは寝る前に、それをやる癖をつけよう。楽しみだなあ」
その後、薬草を採取してから、町へ帰った。
午前中を魔法の修行に費やしたため、今日は規定量の2回分しか取れていない。
帰る途中も、スザクにいろいろ魔法のことを聞いた。
魔力ってのは、空気中に漂う魔素を体内に取り込むことで作り出され、それを体内に貯めておくことができるらしい。
そして魔素を取り込むにも正しい呼吸法ってのがあって、それを可能にするのが瞑想なんだそうだ。
その瞑想とか魔力の貯め込み方にもいろいろとコツがあって、熟練すればけっこう速く魔素を取り込んだり、大量に魔力を貯めこむことも可能らしい。
ただし、そこまで行くには相当な鍛錬が必要で、どうやら先は長そうだ。
それと魔法を使うのに左手のひらをかざしたのは、俺の使役紋が魔法の出力に有利だからだ。
魔法は手足のような末端から出力しやすくなってるが、使役紋はさらに輪を掛けて出力しやすいんだって。
つまり、使役紋は魔法抵抗の低いポートみたいな役割を果たすらしい。
この使役紋と、火属性を持つスザクの力で、俺は1日で魔法が使えるようになったって寸法だ。
普通なら、何年も修業が必要なんだって。
今はまだライターみたいなもんだけど、いずれは爆炎の魔法使いになれる、のかなあ?