44.快進撃
重魔導銃ティーガーの完成後、俺とベンケイは魔闘術の習熟に取り組んだ。
幸い2人とも魔力制御の基礎ができていたので、2日間でそれなりの練度に達した。
そこでいよいよ、ウトウ迷宮の探索を再開することにした。
また馬車で迷宮へ赴き、さっそく2層に潜る。
ちなみに2層に潜るにあたっては、地図を買っていない。
迷宮の構造が単純なのもあって、ベンケイが地図を描くことにしたからだ。
彼は手先が器用だし、空間認識能力も優れているからね。
以前、逃げ帰った場所へたどり着くと、剛力竜はそこにいた。
「よーし、さっそくティーガーの威力を試してみようかね」
「期待してますよ、タツマ様。いっそのこと倒してもらって構いませんから」
「アハハ、さすがにそれはないんじゃない」
そう言いながら俺は通路上でドラゴンが見える位置に陣取り、ティーガーを構えた。
その横には鋼鉄塊が置かれ、ニカが俺と鉄塊の両方に触れている。
「タツマ、いくよ」
「ああ、頼む、ニカ」
すぐにティーガーの銃身内に弾が形成されたので、弾尻に疑似火薬を生成する。
マイティドラゴンの眉間を狙って発射すると、ドンッという音と共に右肩に強い衝撃が来た。
そして30メートル近い距離を一瞬で飛び抜けた有翼弾が、ドラゴンの頭部に命中する。
「グギャアァァァァーーッ!」
ドラゴンが血しぶきと苦鳴を上げながら暴れる。
しかしその動きはすでに弱々しく、消える寸前のロウソクの炎のようだ。
「ニカ、もう1発くれ」
「うん、いいよ」
すぐに装填された弾を再び発射すると、またまた頭部に命中した。
そしてそれは最後の駄目押しとなり、ドラゴンが地響きを上げて倒れ伏す。
「凄い……本当にティーガーだけで倒してしまいましたね」
「いやはや、なんという威力。これは一種の革命ですな」
「キャハハッ、さすがは主様ですね~」
(わふ、カッコいいです)
(さすがは主様。これで探索も進みますね)
まさかのドラゴン秒殺に、俺の株が絶賛上昇中だ。
「ありがとう、みんな。これもベンケイとニカのおかげだよ」
「アハッ、ニカのおかげ~」
褒められた3頭身幼女が、跳びはねて喜ぶ。
「それにしても、これほどの武器があれば、もう前衛はいりませんね」
「そんなことないって。今はこっち向いてたから簡単だったけど、向きが悪い場合なんかはヨシツネたちの出番だと思うよ。次は足でも撃ってから、前衛だけで倒してみる?」
「それは名案ですね。腕が鳴ります」
そう言って彼が腕を振り回し、不敵に笑う。
さすがはヨシツネ。
ドラゴンと戦うのが楽しみとか、ほとんど病気だよね。
次に見つけたマイティドラゴンは、ティーガーで足を撃って弱らせた。
後は前衛に任せて見ていたんだが、やはり彼らも強くなっていた。
まず俊足を活かしてホシカゲが突っ込み、後ろ足に斬りつける。
続くヨシツネとベンケイが上手く連携しながら、前足を攻撃してさらに動きを奪う。
仕上げでトモエが頭突きと尻尾攻撃を繰り出すと、面白いように攻撃がきまっていた。
結果、ほとんど俺が援護するまでもなく、10分足らずでドラゴンが沈んだ。
いかに傷を負っていたとはいえ、以前はほとんど歯の立たなかったドラゴンが形無しである。
「うん、確実にみんな強くなってるね」
「はい、これならタツマ様の援護なしでもやれるかもしれません」
「それじゃあ、今度は前衛だけでやってみる? もちろん、いざという時は援護するから」
「ええ、やってみましょう」
「ハハハッ、ヨシツネ殿も好きですなあ」
やれやれといった感じで、ベンケイがぼやく。
そうは言いながら、彼もまんざらではなさそうに見えるのは気のせいか。
次のドラゴンを見つけると、ヨシツネが嬉々として襲いかかっていった。
さすがに”ヒャッハー”とかは言ってないが、それに近い勢いで敵に駆け寄る。
ベンケイが苦笑しながらそれに付き合い、ホシカゲは敵の周囲を駆け回る。
トモエも敵の側面に回り、頭突きや尻尾攻撃で牽制していた。
4人に囲まれたドラゴンが唸り声を上げ、前足を振り回す。
しかしヨシツネはそれをやすやすと躱したうえで、剣戟を叩き込んだ。
その威力は、明らかに以前より増しているようだ。
さらにトモエがドラゴンの横腹に頭突きをぶちかます。
「グルォウッ!」
いかにも苦しそうなドラゴンの悲鳴から察するに、頭突きの威力もだいぶ増しているんだろう。
スザク曰く、魔力を込めた打撃は、より内部に浸透するらしい。
トモエもかなり巧みに、魔力を制御できるようになったようだ。
ホシカゲも、いくらか動きが機敏になっているような気がする。
彼も魔力による肉体強化の初歩を覚えたと言うから、その効果だろう。
さらに魔闘術で双聖剣の切れ味も増し、その相乗効果で攻撃力が高まっている。
今もマイティドラゴンの後ろ足に、ダメージを与えたところだ。
その攻撃で態勢が崩れたところを、今度はベンケイが攻撃する。
彼の戦斧に前足をえぐられたドラゴンが、ベンケイに牙を向けた。
しかし彼はそれを盾でしのぎ、逆に低くなったドラゴンの頭部をヨシツネが攻撃する、といった具合だ。
そんな攻撃を交互に受けているうちに、とうとうドラゴンの体が崩れ落ちた。
最後はヨシツネがとどめを刺し、俺たちの勝利が確定する。
とうとう俺はティーガーを撃たずじまいだったが。
みんなに近寄りながら声を掛ける。
「凄いね。本当に前衛だけで倒しちゃった」
「ハッ、ハッ、ハッ……はい、魔闘術に、加えて、筋力強化も、覚えたので、だいぶ、楽に、なりました」
「ブハーッ、さすが、ヨシツネ殿、ですな。儂は、魔闘術だけで、精一杯、ですわい」
「いや、みんな、凄い進歩だと思うよ。ホシカゲやトモエも強くなってるしね」
(わふ、前より体が軽いです)
(私も強くなったかな~)
みんな肩で息をしながらも、やりきった満足感に顔を輝かせている。
「うん、本当に強くなった。でもあまり無理はしないようにね。やり過ぎると、筋肉痛とかになるらしいよ」
これはスザク情報だが、魔力による筋力強化の多用は、しばしば筋肉痛となってはね返るらしい。
下手をすると筋肉や腱を傷めることもあるので、注意が必要だ。
すると上で戦闘を管制していたスザクが下りてきた。
「そうですよ~、皆さん。少し余裕を持っておかないと、いざというときに動けなくなりますからね~」
「ウッ、自重します」
(気をつけるです)
(あまり調子に乗らないようにしないと)
その後の戦闘では、ティーガーでの支援も織り交ぜながら敵を倒していった。
おかげで探索も順調に進み、その日のうちに序盤を踏破する。
ちょうどよい時間になったので、手頃な行き止まり部屋を見つけて野営した。
温かい料理を食べながら、今日を振り返る。
「今日は絶好調だったな」
「ええ、数日前に逃げ帰ったのが、嘘のようです」
「まったくですな。こうもやすやすと、ドラゴンを狩れるようになるとは」
「でも明日は鋼殻竜が相手ですからね~。今日ほど簡単にはいきませんよ~」
「そうだよな。スチールドラゴンを倒せるようになれば、黄金級も視野に入ってくるって話だし」
俺たちはすでにシルバー級であり、1流冒険者と言ってもよいが、ゴールド級ともなると別格だ。
準貴族みたいな立場になってどこでも歓迎されるし、税金の優遇もあるらしい。
まさに選ばれた存在だ。
「ゴールド級なぞ、以前の儂にとっては夢のような話でした。しかし今の我々であれば、決して夢ではありませんな」
「ええ、これも全てタツマ様のおかげですよ」
「そんなことないよ。俺の方こそみんなには感謝している。でもまあ、まずはスチールドラゴンを倒してからだ。目の前の敵を片付けてから、次へ行こう」
「ハハハッ、そのとおりですな。目の前をおろそかにすると、足元をすくわれかねません」
「そうですね。明日はまた頑張りましょう」
こうして、迷宮の夜は更けていくのであった。