42.火力不足
剛力竜へのリベンジを果たした俺たちは、2層の探索を再開した。
そして手頃な行き止まりの通路を見つけると、昼食を食べながら反省会をする。
「それにしてもマイティドラゴンはタフだったな~」
「まったくです。しかも皮が固いので、なかなかダメージが入りません」
「それでも、後半はけっこう切れるようになってたんじゃない?」
そう言うと、ベンケイが説明してくれた。
「いやいや、本来の聖銀武器の威力はあんなものではありませんぞ。きちんと魔力を使えば、もっと深く切れるはずなのです」
「そうなの? だったらもっと修行してから挑んだ方がいいのかな」
「そうですなぁ……しかしいずれは実戦で使わねばなりませんし、肉体強化による恩恵もあります」
「まあ、そうだよね。それにしてもドラゴンて、見た目以上に力が強かったり硬かったりするけど、あれってどうなってんの?」
誰にともなく尋ねると、スザクが答えてくれた。
「そうですね~、もきゅもきゅ。ドラゴンというのは魔力で肉体を強化してますから、この世の物理法則を超える存在になるんですね~、もきゅもきゅ」
「うん、よく聞く話だよね。見た目は似てても、トモエのような亜竜とは大きく違うって」
すると、それを聞いたトモエが念話で謝罪してきた。
(お役に立てず申し訳ありません。私がもっと強ければ、あんなに苦労はしなかったでしょうに……)
「そんなことないって。トモエはよくやってくれてるよ。でも、たしかにトモエにも魔力が使えたら、もっと楽になるのにね」
「使えるようになりますよ~、もきゅもきゅ」
「「え?」」
スザクの予想外の発言に、みんなが反応した。
「本当に、トモエにも使えるようになるの? スザク」
「もちろんですよ~。すでにホシカゲだって魔力を使っているではありませんか~、もきゅもきゅ」
(わふ? でもまだ上手く使えないのです)
「「あっ!」」
そういえば、俺たちはすでにホシカゲに魔力制御を教えていたのだ。
おかげで彼は拙いながらも、ミスリル武器を使えるようになっている。
そういえばスザクは、聖獣クラスの魔物にならできると言っていたような気もする。
トモエに武器を持たせるつもりがなかったから、気がつかなかった。
「そうか。トモエも聖獣だから、魔力の感触を覚えさせれば使えるんだ。でもミスリル武器を使わないで、意味あるのかな?」
「必ずしも刃物を使う必要はないんですよ~、主様。頭部に魔力を込めて頭突きするだけでも、ドラゴンへのダメージは増すでしょ~」
「へーっ、そうだったんだ。魔力が敵の防御を打ち砕くような感じ?」
「そのようなものですね~。さらに魔物であれば、筋肉や腱なども強化できますよ~」
「魔物であればってことは、俺たちにはできない?」
「そうですね~。人族や妖精族は、あまり骨格が強くないので難しいようで~す。ヨシツネのような獣人族であれば、多少はできるみたいですよ~」
この話に、ヨシツネたちが食いついた。
「俺なら魔力による肉体強化が可能なんですね。ぜひやり方を教えてください」
(私も魔力強化を覚えます、主様)
(わふ、僕も強化できるです?)
「焦らない焦らない~。とりあえずトモエは後で主様から魔力制御を習っておいてくださいね~。徐々に指導してあげますよ~」
とりあえずスザクが面倒を見てくれるらしい。
実際に3人の体力が強化されれば、実に心強いな。
「了解。後でトモエに魔力制御を覚えさせるよ。でもすぐには使えないなら、今ある戦力を有効に使う相談をしよう」
それからしばらく、さっきの戦闘の問題点と改善方法を話し合った。
やがて作戦が煮詰まってきたので、いよいよ実戦で試すことにした。
再び探索を開始すると、すぐに新たなマイティドラゴンが見つかった。
「それじゃ、また奴の目を潰すから、みんなで突っ込んで」
「「了解です」」
俺は再びドーム外の通路に伏せ、魔導銃でドラゴンに狙いを付けた。
ここでスザクがパタパタとドームの上部へ舞い上がると、使役リンクに情報が流れ込んでくる。
位置情報の補完で精度の高まった魔導銃から、ドラゴンの左目へ向けて弾が放たれた。
「グギャーーッ!」
次の瞬間、血しぶきと苦鳴を上げながら、ドラゴンが立ち上がった。
不意打ちに殺意をみなぎらせるドラゴンに向け、前衛陣が駆けだした。
今回はトモエを真ん中に据え、他の者は横に回り込んだ。
囲まれたドラゴンが、トモエに向けて右前足を振り上げた。
そうはさせじと喉元に1発当ててやると、敵の攻撃はキャンセルされる。
もっともドラゴンにとって、有翼弾は大きなダメージになっていないようだ。
今の石英の弾では、質量が足りないのかもしれない。
それでも敵の気を逸らしたり、動きを止める役には立っているので、今はこれでいい。
俺に邪魔をされるたびにドラゴンの動きが止まり、前衛陣が攻撃を入れる。
トモエの頭突きがドラゴンの体を痛打すれば、ホシカゲは後ろ足を斬りつける。
その横でヨシツネの剣が右足をえぐれば、ベンケイの戦斧が左足を削る。
そんな5人からの攻撃を食らい続けたドラゴンが、ふいに右前足を大きく振りかぶった。
しかし支えにしていた左前足にトモエの頭突きが炸裂すると、ドラゴンが大きくバランスを崩した。
その瞬間を逃さず、ヨシツネが剣を首筋に突き込み、ベンケイが戦斧を頭部に叩き込んだ。
それらが致命傷となり、ドラゴンはやがて息絶えた。
「フウッ、ようやく終わったな」
「アハ、さっきより、はやく、なった」
「ああ、さっきよりはだいぶ早くなったな」
ニカの言うとおり、さっきより短時間で決着がついた。
おそらく半分ぐらいにはなってるだろう。
俺は立ち上がりながら魔導銃を肩に掛け、仲間たちに合流した。
「お疲れさ~ん。だいぶ早く倒せるようになったね」
「ハアッ、ハアッ……そう、ですね。さっきよりは、楽に、倒せました」
「フウッ……まだまだ、苦労しますが、多少は、慣れましたかな」
とはいえ、ヨシツネもベンケイも肩で息をしており、激戦だったのは間違いない。
するとスザクが俺の肩に下りてきた。
「上から見ていても、皆さんの連携が上達していましたよ~。反省会は無駄ではありませんでしたね~」
「ああ、スザクもよくやってくれたよ」
「キャハハッ、どうせ私は戦っていませんけどね~」
「いやいや、観測者だって重要な仕事だって」
「お褒めにあずかり光栄で~す。ああ、主様の愛を感じますよ~」
「それはちょっと違うな」
おかしなことを言いだしたので、またデコピンしておいた。
その後、もう1匹だけマイティドラゴンを狩ってから、地上へ戻った。
魔石を精算すると、3匹分で銀貨60枚にもなる。
あの強さでアーマラスの2.5倍ってのは、どうなんだろうか。
ちょっと納得いかない気もするが、幸い3回とも形見が残ったので、売ればそれなりの収入になるだろう。
その晩は広場にテントを張って野営した。
夕飯を食いながら、また反省会をする。
「今日はそれなりに戦えたけど、魔導銃はちょっと火力不足だと思うんだ」
「そうですか? ドラゴンに傷を与える飛び道具なんて、凄いと思いますけど」
「そうですぞ。よほど強力な魔法か、魔法を付与した弓矢でもなければ、遠くからドラゴンにダメージを与えるなどできませんからな」
「う~ん、そうかもしれないけど……このままじゃすぐに行き詰まると思うんだ。鋼殻竜はさらに硬いって話だし」
「ふーむ、それはたしかにそうですが……何か腹案があるのですかな?」
「うん、もっと強力な弾を撃てる銃を作りたいんだ。ベンケイには手間を掛けるけど、また頼みたい」
「ハハハッ、儂のことはお気にせず。むしろ未知の武器を作ることに、ワクワクしますわい」
ベンケイが朗らかに、俺の気遣いを笑い飛ばした。
「そっか。それじゃあ、もう1日ぐらい潜ってから、カザキに帰って武器を作ろう」
「それなら、俺たちは魔闘術をもっと磨きますよ。以前、スザクが言っていた武器への属性付与も試してみたいですね」
ヨシツネもやりたいことを提案してきた。
「うん、そうだね。それくらいしないと、もっと先には進めないだろうから」
とりあえず、みんなやる気みたいなのでひと安心だ。
また明日からがんばらなきゃ。