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38.ミスリル武器

 聖銀ミスリル武器を探し、ムラマサ武具店という店へ行ったら、俺たちの武器を見た店主がベンケイを問い詰め始めた。


「なんじゃ、これは? お前は鍛冶魔法を使うのか?」

「は、はあ。稚拙ながら、鍛冶魔法を使います……」

「なぜそのような者が、冒険者などをやっておるっ?」

「いや、これにはいろいろと事情が……」


 店主の爺さんが物凄い形相で詰め寄るもんだから、ベンケイが委縮している。

 一体、何が問題だってんだ。


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。冒険者の何が悪いってんですか?」

「鍛冶魔法を使えるというのは素晴らしい才能の証であり、ドワーフの憧れじゃ。それが鍛冶師にならずに冒険者をやるなど、才能の無駄遣いもいいところだ。こんなことが許せるものかっ!」


 爺さんが目ん玉ひんむいて、怒りの声を上げる。

 鍛冶師の端くれとして、それはたしかに許しがたいことなのかもしれない。

 だけど、それは不当な糾弾だ。

 今までのベンケイの苦労も知らないで。


 そう考えたら急にムカムカしてきて、俺も怒鳴っていた。


「だからこっちの話も聞けよーーっ! ベンケイにだって事情があるんだっ!」


 大声で怒鳴ってやったら、爺さんが静かになった。

 鳩が豆鉄砲をくらったような顔をして、口をパクパクさせている。

 さすがにちょっと大人げなかったと思い直し、呼吸を整えた。


「……すみません、急に怒鳴って。でも、あなたも一方的すぎると思います」

「む、むうう……たしかにそちらの事情も聞かずに、カッとなってしまったようじゃ。悪かったな」

「いいえ、分かってもらえたならけっこうです。とりあえず、彼の話を聞いてやってください」


 それからベンケイの話が始まった。

 まずベンケイが20年も修業したのに、精霊召喚の儀式に失敗したこと。

 それに絶望して冒険者として放浪し、俺たちと出会って一緒に行動し始めたこと。

 そして一緒に迷宮探索をするうちに、精霊との契約に成功したことまでを説明した。

 ただし俺の能力については伏せてある。


「うーむ、そんなことがあったのか……しかし、なぜおぬしは土精霊ノーミー火精霊サラマンデスの両方と契約できたのじゃ? そんな者は歴代の鍛冶師でも、ごくわずかしかおらんはずじゃぞ」

「それが、儂にもよく分からんのです。なんとなく契約できるような気がした、としか。まあ、仲間と一緒に迷宮で鍛えたせいかもしれませんな」

「そんな馬鹿な……」


 この辺の話は強引だったが、大昔に自力でダブル契約をした人もいるらしいから、嘘だとは言いきれないはずだ。


「それで、契約できたのに、なぜまだ冒険者をやっておる?」

「それは、ひとつには自分で工房を構えるための資金稼ぎです。それと、世話になったタツマ様に恩を返しつつ、自身を鍛えて魔力を高めるという狙いもありますな」

「むう、そうか……おぬしさえその気なら、儂の工房で働いてもらってもよいのじゃが。恩返しをしたいと言われては、どうしようもないな」

「そのお気持ちだけ、ありがたくいただきます。して、店主殿。そろそろミスリルの武器を……」

「……おう、そうだったな。少し待っておれ」


 ようやく俺たちがミスリル武器を求めてここへ来たことを思い出し、爺さんが店の奥に引っ込んだ。

 しばらく待っていると、いくつかの武器を持って現れた。


「今この店にあるのは、こんなところじゃ。好きなのを選べ」


 カウンターにミスリルの剣と戦斧、槍が並べられた。

 それぞれ2,3種類ずつあるので、手に取ってよく見てみる。

 俺は3本ある中で一番軽い槍を選ぼうとしたら、ベンケイに注意された。


「タツマ様、それよりもこちらの方が良いですぞ」

「え、何が違うの?」

「そちらの槍のつかは、魔力の伝達効率があまり良くないのです。その点、この魔境樫まきょうがしの柄ならバッチリですぞ」

「槍に魔力を通してどうするのさ?」


 俺がそんな質問をしたら、爺さんが馬鹿にするように言い放った。


「ふんっ、魔闘術まとうじゅつも知らずにミスリル武器を買いにきたか。さすがにベンケイ殿は知っておるようじゃがな」

「当然ではありませんか、店主殿。わざわざ魔力の通りの悪い槍を出すとは、試しましたな?」

「ミスリル武器の真価も知らんようなら、せいぜい高く売りつけてやろうと思ったんじゃがのう、ガハハハハハッ」

「それはひどい。油断も隙もありませんな。ワハハハハハッ」


 なんか勝手に盛り上がってるので理由を教えてもらったら、ミスリル武器に魔力を通すと威力が増すんだそうだ。

 特に魔力で肉体を強化してるような魔物には、これを使わないと傷を付けられないらしい。

 そうやって魔力を通しながら戦う技術が”魔闘術まとうじゅつ”。

 店主曰く、”たまに魔闘術も知らずにミスリル武器を買っておいて、後で文句を言う馬鹿がいて困る”そうだ。


 やがて俺たちは、それぞれが使いやすそうな武器を選び出した。

 ヨシツネは140センチくらいの片手半剣バスタードソード、ベンケイは80センチくらいの両刃の戦斧、そして俺は身の丈ほどの槍だ。

 もちろん俺の槍もベンケイの戦斧も、柄は魔境樫だ。


 これで締めて金貨38枚が飛んでいった。

 一番高かったのがヨシツネの剣で、これがだいたい金貨20枚。

 そして戦斧は金貨10枚で、槍は金貨8枚といったところだ。

 ミスリル武器、めっちゃ高い。


 しかし、高い金を払っただけあって、性能は期待できるだろう。

 それと、店主のムラマサとも仲良くなれた。

 今度、武器の整備に工房を使わせてもらえるよう、ちゃっかり約束を取りつけたベンケイはさすがだ。



 3日ぶりに家へ帰ると、シズカがにこやかに迎えてくれた。

 ひとっ風呂浴びてから、みんなで美味しい夕食を楽しむ。

 やっぱり帰る家があるってのは、いいものだ。





 翌日は薬草採取のかたわら、森で新しい武器の練習をした。

 いざ練習という時になって、ヨシツネから魔力のことを相談される。


「タツマ様、魔力の使い方を教えてください」

「えっ……ああ、魔闘術を使うのに魔力制御が必要なのか。これって、スザクにやってもらったのと同じことをやればいいんだよね?」

「そうですよ~。私がやったように、ヨシツネにも魔力を流してあげてくださ~い」

「やっぱそうか。よし、それじゃあ目を瞑って体内に集中して。今から俺が魔力を流すから、それを感じ取ってね」


 目を閉じたヨシツネの胸に手を当てながら、そろそろと魔力を流し込んでみる。


「どう? 俺の手から流れ込む何かを感じない?」

「うーん、よく分かりませんね………………あっ、なんとなく分かりました」

「よし。それじゃあ、次はヨシツネの中の魔力を、右手に集めるようにしてみて。最初は右肩に集めてから手に送るといいよ……こんなイメージで」

「……はい、やってみます。ありがとうございました」


 使役リンクで魔力操作のイメージを伝えると、あとは自主練にした。


 今度は俺の練習のためにベンケイと話をする。


「ベンケイはもう魔力を使えるんだよね。武器に魔力を通すって、どんな感じなの?」

「はあ、儂もまだできていないのですが、刃の部分に魔力を集中するほど威力が高まるそうですな」

「ふーん、刃の部分にねえ」


 俺は買ったばかりのミスリル槍を持ち直し、魔力を流し込んでみた。

 しかし、特に手応えを感じることもなく、できているのかどうかさえ分からない。

 するとスザクが話しかけてきた。


「それでは駄目なのですよ~、主様。もっと細く魔力を流して、穂先に集中させるんで~す」

「スザクには見えるの?」

「もちろんですよ~。主様にも見せてあげましょうか~」


 すると、俺の視界に変な色が付いた。

 まるでニカを始めて見た時のような感覚だ。

 またスザクが魔力視界を共有してくれたのだろう。


 そこで槍に魔力を流してみると、俺の手から何かが流れていくのが見えた。

 しかしそれは槍に留まることなく、周囲に拡散している。


「なんか、せっかく魔力を流しても拡散しちゃうみたい」

「そうですよ~。ちゃんと魔力に指向性を持たせないと、ただの無駄遣いになるのですよ~」

「指向性を持たせるって、どうやって?」

「まずは明確なイメージを持ってくださ~い。主様の手から糸のように魔力を流し、穂先の先端に魔力を留めるのですよ~」

「へー、なるほど」


 スザクに言われたことをイメージしながら、再び魔力を流した。

 まず左手から槍の柄に魔力を通し、それを糸のように穂先に伸ばそうとする。

 最初は上手くいかなかったが、やがて柄の真ん中に魔力の経路ができたような気がした。


 次にその魔力を穂先の先端に集中させる。

 最初はダバダバと穂先から垂れ流されていた魔力が、やがて穂先を包み込んでほとんど漏れなくなった。


「さすが主様、よくできましたね~。思ったより早かったですよ~」

「ありがとう。スザクがいなかったら、かなり苦労しただろうね」

「これも臣下の務めですからね~」


 とりあえず魔闘術の基礎は身についたので、次は実戦で使えるようにしないとな。

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新作始めました。

エウレンディア王国再興記 ~無能と呼ばれた俺が実は最強の召喚士?~

亡国の王子が試練に打ち勝ち、仲間と共に祖国を再興するお話。

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