37.ムラマサ武具店
俺たちはウトウ迷宮の第1層を探索し、たった3日で守護者を打倒した。
倒した守護者はやがて霞のように消え去り、魔石と素材が残される。
「素材もけっこう残ったな。えーと、ラプトルの爪が4つに、鎧竜の尻尾がひとつか」
魔石の他に親指ほどの爪が4つと、トゲトゲ付きの尻尾があった。
武具屋に売れば、いくらかの金になるだろう。
それらを回収してから奥の水晶で攻略の証を獲得し、一旦2層に下りてから地上へ帰還した。
外はもう暗くなっていたが、とりあえず魔石を換金してもらう。
今回はアーマラスを2日で40匹以上倒していたので、金貨3枚を余裕で超えた。
アーマラスの魔石は1匹で銀貨8枚だ。
仲間の所に戻ると野営の準備が整い、ベンケイが料理をしていた。
さすがに自宅へ帰るには遅いので、もう1泊してカザキから来た馬車に乗る予定なのだ。
やがてできてきた料理を食べながら、今日の話をする。
「予想以上に早く1層を突破できたね」
「ええ、これもタツマ様の作戦が良かったからでしょう」
「いやいや、みんなが頑張ったおかげさ。今日はスザクも活躍したしな」
「オッホン、今日のような混戦なら、私の管制指示が有効ですからね~」
「そうですな。しかし、それも全てタツマ様の使役リンクあってのものでしょう」
そんな風に和気あいあいと歓談していたのだが、ふいにヨシツネが懸念を口にした。
「しかしタツマ様。このウトウ迷宮は2層から格段に難しくなると聞きます。今のままでは、通用しないのではありませんか?」
「うーん、どうやらそうらしいね。2層以降に出てくるドラゴンこそが本当の竜種だって」
ひと口に竜と言っても、ピンキリだ。
ここの1層に出るのは亜竜と呼ばれる存在で、名前にラプトルとかサウルスみたいなのが付く。
トモエもこの類だが、これらは魔力で強化されていないため、攻撃力も防御力もほぼ物理法則の範疇に収まる。
しかし名前にドラゴンと付く奴は、その骨格、筋肉、鱗など全てが魔力で強化されるため、格段に能力が高くなるのだ。
さらに上位の竜になると強烈なブレスを吐いたり、人語すら解する古竜種なんてのもいる。
そしてそんな強敵が出てくるのが、ここの2層以降なのだ。
「2層では剛力竜と鋼殻竜が出るんですよね」
「どちらもガチガチの竜種。今の武器ではほとんど通用しないでしょうな」
「やっぱそうだよね。武器もそうだけど、俺の魔法も通じないだろうなぁ」
そう考えると、気が重くなる。
しかしそんな雰囲気を笑い飛ばす存在があった。
「キャハハハハハッ、攻撃が通じないなら、強化すればいいではありませんか~」
「強化するって簡単に言うけど、どうやるんだよ?」
「武器はベンケイがなんとかできるでしょうね~。それと主様の魔法には、まだまだ改善の余地があると思いますよ~」
気楽に言うと思ったが、うなずける部分もあった。
「改善の余地、か……たしかに強化度も上がってきてるから、見直す余地はあるかもしれないな」
「そうですよ~。まずはできることからやっていきましょ~」
それを聞いていたヨシツネも、苦笑しつつ賛同する。
「スザクの言うように、やれることはまだありますね。実は、俺にも戦闘力を上げる心当たりがあります。明日から挑戦してみましょう」
「ハハハッ、ヨシツネ殿にそう言われては、儂も頑張らねばなりませんな。武器の強化はお任せください」
(わふー、僕も頑張るのです)
さらにベンケイやホシカゲもやる気になってきた。
たぶんホシカゲは根拠ないけどな。
「よ~し。それじゃ、みんなで戦闘力を上げて、ドラゴンを倒しますか」
「「おーっ!」」
こうして、俺達はハイテンションのまま、心地よい眠りに就いたのだった。
翌朝はカザキから冒険者を乗せてきた馬車に乗り、町へ戻った。
とりあえずポイントの精算のためギルドに寄ると、コユキが相手をしてくれる。
「あらタツマ君、しばらく見なかったけど、どこに行ってたの?」
「ちょっとウトウ迷宮に行ってました。実績ポイント精算してもらえますか?」
そう言って俺達のカードを差し出すと、彼女が苦笑しながら話す。
「ウトウ迷宮なんて魔物が強すぎて攻略できないでしょ。1層の深部ぐらいは行けた?」
「フッフッフ、あまり甘く見てもらっては困りますね。すでに1層を突破してますよ」
胸を張って言ったら、コユキの表情が変わった。
すぐに俺のカードを確認して、呆れたような言葉を漏らす。
「うそ……本当だわ。攻略したことになってる。ウトウ迷宮って、白銀級以上推奨なのに……」
「あ、そうだったんですか? 道理で強いはずだ。ということは、俺らもシルバーかな? なんちゃって」
「……ええ、そのとおりよ。けっこう魔物倒してるから、シルバーに昇級できるわ。この間の盗賊討伐も評価されてるわね」
「え、マジですか?」
冗談で言ったのに、本当にシルバーになってしまったらしい。
知らないうちに、この間の盗賊討伐も評価されてたみたいだ。
まあ、俺たちが頑張ったってことだよな。
「おまけに強化度が22になってるわよ。ずいぶんとたくさん倒しているのね」
「ええ、俺らは迷宮の中をくまなく探索する主義ですから」
「そんな人、めったにいないんだけど。でも結果的に強化度が上がって、守護者も突破できたってことよね。ほんと、いろいろと変わってるわ」
「あー、まあそんな感じです……ところで、武器を新調したいんですけど、いい武具屋ってありませんかね?」
そう聞いたら、ちょっと考えてから教えてくれた。
「もしウトウの2層に潜るのなら、最低でも聖銀装備が必要よね。そうすると……ここのムラマサ武具店がいいんだけど、けっこう高いし、店主さんの癖が強いのよね」
彼女が地図で店の場所を示しながら教えてくれたが、難しい顔をしていた。
癖が強いってことは、客を選ぶ店ってことかね。
まあ、それぐらいの方が良い武器を買えるかもしれない。
手続きが終わると、彼女に礼を言って件の武具店へ向かった。
その店は、表通りから少し離れた職人街にあった。
遠くから金属を打つ音が聞こえてくるので、工房も近くにあるのだろう。
ようやく見つけた店の扉を開き、中へ入る。
「こんにちは~、武器を見にきたんですが」
「なんじゃ、初めて見る顔じゃのう?」
「うわっ、びっくりしたぁ」
人が見当たらなかったので声を掛けたら、奥のカウンターの陰からドワーフが顔を出した。
かなり年配のドワーフらしく、気難しそうな顔をしている。
「失礼な奴じゃな。冷やかしなら帰れ」
「いやいや、冷やかしじゃないですよ。冒険者ギルドで紹介してもらって来ました」
「なんじゃと。誰の紹介じゃ?」
「受付嬢のコユキさんです」
「あの娘か……それなら少しは見どころがあるかもしれんな。それで、なんの用じゃ?」
コユキの名前を出したら、少し見直されたようだ。
あの人ってけっこう凄いのかね?
「ええっと、ミスリルの武器を見せてもらえますか?」
「ミスリルじゃと。お前らにそれを使う資格があるのか?」
「これでもウトウ迷宮の1層を突破したばかりですよ。そうだ、守護者の形見があるから見てください」
俺はヨシツネに頼んで、トモエに持たせていた形見を取ってきてもらった。
すぐにラプトルの爪とアーマラスの尻尾を持って、彼が戻る。
それをカウンターの上に並べると、爺さんが物を確認する。
「ふーむ、たしかにシーフラプトルとアーマラスの物じゃな。とりあえず1層を突破する実力はあるということか。そして2層に挑むのに、良い武器が欲しいんだな?」
「ええ、そうなんですよ。2層からはかなり厳しくなるって聞きますから」
「ふむ、お前らの武器を見せてみい」
そう言われて武器をカウンターの上に置くと、爺さんがそれを調べ始めた。
今の武器を参考に、上位の武器をオススメしてくれるんだろうか。
しかし、爺さんはすぐに血相を変え、ベンケイを睨みつけて怒鳴った。
「なんじゃ、これは? お前は鍛冶魔法を使うのか?」
なんだ、何が起こった?