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34.ダークウルフ退治

 この町に来て初めて受けた依頼は、薬草5束の採取というものだった。

 すでに鋼鉄スチール級となった冒険者がやるような仕事ではないが、どうやら群生地に闇狼ダークウルフがいて、受ける人がいないらしい。

 今回はダークウルフの魔石も倍額で買ってくれることになったので、俺たちは意気揚々と薬草の群生地へ向かった。


 半刻ちょっと歩くと、群生地らしき場所が見えてきた。

 森の中に川が流れている場所で、街道からもちょっと離れている。

 そんな中でホシカゲに探してもらったら、すぐに大量の薬草が見つかった。

 ダークウルフのおかげで採りにくる人が少ないってのは、事実のようだ。


 俺たちは手分けして薬草を採り始め、次々に袋をいっぱいにしていった。

 緊急依頼の5束はすぐに集まり、さらに追加で渡されていた袋にも薬草を詰めていく。

 やがて、もうじき正午になろうかという頃、異変が起きた。


(わふ、ダークウルフが集まってくるです)


 ホシカゲの警告で作業を中断して周囲を警戒していると、チラホラと黒い影が見えてきた。

 やがてじりじりとその輪が狭まり、一際大きなダークウルフが姿を現す。


(あれが群れのリーダーみたいです)

「そのようだな。ホシカゲは同族を攻撃したくはないか?」

(必要以上の攻撃はしたくないです。僕がリーダーを倒すので、見てて欲しいです)

「分かった。気をつけろよ」


 ホシカゲは腰に差した双頭剣を口にくわえると、リーダーに向かっていった。

 彼よりふた回りはでかいリーダーが、それを認めると唸り声を上げて対峙する。


 しばらく睨み合っていた両者が、ふいに動きだした。

 先にリーダーが飛びかかると、ホシカゲが斜め前に跳んで逃げる。

 さらにホシカゲが即座に姿勢を転換して、リーダーの後ろ足に斬りつけようとした。

 しかしすんでのところで、その攻撃も避けられる。


 あのリーダーもなかなかやるもんだ。

 ただでかいだけではなく、戦闘経験が豊富なのだろう。


 しばらくそんな追いかけっこが繰り返されるのを、俺たちは見守っていた。

 面白いことに、ダークウルフの群れもそれをおとなしく見ている。


 やがて、互角だった戦闘がホシカゲに傾いてきた。

 リーダーは体のあちこちを傷つけられ、血を流す一方で、ホシカゲに傷はほとんど無い。

 そして動きが鈍ったところで足を大きく斬られ、最後は喉元への1撃で息絶えた。


 相手の絶命を確認したホシカゲが双頭剣を鞘に戻し、空に向かって勝どきの声を上げる。


「アオーーーーン!」


 すると他のダークウルフがホシカゲの前に、ぞろぞろと集合した。

 全部で20匹以上はいるだろう。

 これはホシカゲがリーダーとして認められたってことだろうか?


 それからしばらくガウガウと会話を交わした後、ダークウルフが数頭ずつに分かれて散っていった。

 あっけに取られて見ていたら、ホシカゲが胸を張って戻ってきた。


(わふ、勝ったのです、ご主人様)

「あ、ああ、ご苦労さん。それで、お前は群れのリーダーになったのか?」

(それは断ったのです。あいつらには、この辺にはあまり近付くなと言っておいたです)

「そうか……群れを束ねていたリーダーがいなくなって力が弱まれば、この辺は安全になるだろうな。うん、本当によくやった」


 ご褒美に両手でワシャワシャと撫で回してやったら、ホシカゲはだらしなく笑み崩れた。

 まあ、必要以上に殺生をしなくて済んだのだから、これでよかったのだろう。



 それから昼食を取り、残りの袋も薬草で一杯にすると、カザキの町へ戻った。

 ギルドの納付窓口で薬草を10袋出したら、係員が大喜びしていた。

 依頼票に納付した量を書いてもらい、受付けに行くとコユキが見える。

 迷わず彼女に依頼票を出したら、嬉しそうに対応してくれた。


「あら、早かったのね。ふんふん、10束納入に……ダークウルフのリーダーを討伐したのね。やるじゃない」

「ええ、20匹ぐらい従えてるリーダーを退治したら、群れは散り散りになりました。たぶんあの辺も安全になるでしょう」

「それは朗報ね……それじゃあ、報酬を持ってくるから待ってて」


 ササッと報酬を計算したコユキが、一旦奥に引っ込む。

 すぐに大銀貨3枚と銀貨4枚を持って戻ってきた。


「それじゃあこれ、薬草の分とダークウルフの魔石の報酬よ。今回は助かったわ。この町にはしばらくいるの?」

「ええ、すでに家を借りてますし、迷宮にも潜るつもりです」

「そう。腕が良くて礼儀正しい冒険者は大歓迎よ。迷宮なんかの情報は階段を上った所の資料室にあるから、見ていってね」

「ありがとうございます。さっそく見ていきます」


 礼を言ってカウンターを離れると、コユキはにこやかに見送ってくれた。

 俺が来た時はよく笑ってるんだけど、けっこう気に入られたのかね?

 まあ、冒険者なんて荒っぽい奴が多いから、俺はマシな方なのだろうけど。



 ヨシツネとベンケイを伴って階段を上がると、突き当たりに資料室と書かれた部屋があった。

 ちなみにトモエとホシカゲはギルドの前で待っているが、スザクは肩の上だ。

 資料室に入って見回すと、このカザキ周辺の地図が壁に貼ってあって、いろいろ情報が書き込まれていた。

 いろんな魔物の目撃情報とか、迷宮の情報なんかが目につく。


「へー、本当にこの町の周辺には4つも迷宮があるんだ」

「そうですね。迷宮が多いからここに人が集まって、自然に首都になったということでしょう」


 地図にはムツナ、ミアイ、ウトウ、ダイモンの4迷宮が記されており、このカザキはその中心辺りになる。

 それぞれの迷宮へは半日程度で行けるため、このカザキには自然に多くの冒険者が集まる。

 そして迷宮からは魔石が産出されるため、経済が活性化されやすい。

 魔石は魔道具の燃料や魔法の触媒などとして、けっこうな需要があるからだ。

 さらに迷宮周辺には魔物が発生しやすいので、それに対処する軍隊も必要になり、この町はミカワ国の首都になったのだろう。


「明日からはどうしますかな? さっそく迷宮に潜ってみましょうか?」

「うーん、それもいいけど、もう少しこの周辺を歩き回ってみたいかな。迷宮はもう少し後でいいや」

「それでは、帰る前に手頃な依頼が無いか確認していきましょう。直接、現場に行ければ都合がいいですからな」

「うん、そうしよう」


 それからしばらく、この辺に出る魔物の種類やその分布などを調べた。

 だいたい調べ終わると1階に戻り、掲示板を確認する。

 夕刻前だったので受付けは混んでいたが、掲示板の前はまばらで人気も無かった。


 しかし、暇な奴はいた。


「おいおい、今頃ここを見てるってことは依頼に失敗したのか? だから言ったじゃねーか。俺が面倒見てやるって」


 今朝、絡んできたツンツン頭だ。

 また馴れ馴れしく俺の肩に手を回してきやがった。

 どんだけ暇なんだ、お前。


 この手の奴は、キッパリと拒否の姿勢を見せないとしつこそうだ。

 ただし、荒くれ者の集まるギルド内はケンカ厳禁だから、下手なこともできない。

 俺はスルリと身をかわし、向き直りながら声を上げた。


「あいにくと依頼は完了しました。俺たちは少々の魔物にも負けないので、お世話になる必要はありません」

「なにぃ、生意気なこと言うじゃねえか。この剛力のリュウガ様が、せっかく声を掛けてやってるってのによ」


 ツンツン頭がそう言った途端、ギルド内のあちこちで失笑が湧き起こった。

 ”剛力のリュウガ”とかいう大層なふたつ名を笑ったのか、初心者を食い物にするチンピラっぷりを笑ったのかは分からない。

 しかし目の前のこいつが、冒険者から嫌われているのは確実なようだ。


 笑われて面目を失ったリュウガが、いきなり俺に手を突き出してきた。

 そこで俺はその手の動きに合わせ、後ろに転んでみせた。

 わざとらしい声を上げながら。


「うわ、やめてくださいよぉ」


 大根役者もいいところだったが、周りからは奴が俺を突き飛ばしたようにしか見えないだろう。

 はい、リュウガ君、アウト~!


 それを見ていた冒険者から非難の声が上がり、すぐにギルドの職員が駆けつけた。

 状況を見た職員が、即座にリュウガの腕を取って連行しようとする。


「おい、ちょっと待てよ。俺は軽く肩を掴もうとしただけだ! あのガキが芝居してんだよ」


 すると周りの冒険者からさらに非難の声が上がり、リュウガは弁解も空しく連れ去られた。

 これで奴は罰金か、数日間の出入り禁止などの罰を受けるだろう。

 周りから”よくやったぞ、兄ちゃん”とか声を掛けられるんだから、よほど嫌われてるんだろうな、あいつ。


 その後、掲示板の中から適当な依頼票を見つけ、受け付けに持っていったらコユキに忠告を受けた。


「見事な手際だったけど、確実に恨みを買ったわね。暗い夜道にはお気をつけなさい」

「アハハ、ちょっと調子に乗りすぎましたかね。まあ、優秀な護衛もいるから、なんとかなるでしょう」

「フフッ、自分で返り討ちにするとは言わないのね……はい、明日も頑張って」


 またもやコユキが笑顔を見せたため、周りがざわめいた。

 普段は愛想も化粧っ気も無いから、人気が無いんだろうね。

 けっこう美人なのに。


 今日はちょっとやっちゃったけど、忠告は肝に銘じておきましょうかね。

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