表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/116

32.新拠点

「今回の旅の英雄たちに乾杯!」

「「かんぱ~い」」


 オワリ国からミカワ国への商隊護衛の途中、大規模な山賊に襲われた。

 先制攻撃を食らって苦戦はしたが、なんとか山賊の撃退に成功した。

 その後は大したトラブルも無く、翌日には目的地のカザキにたどり着き、今こうしてそれを祝っていた。


「くはーっ、困難な旅の後の酒は美味いな~」

「ええ、格別ですね」

「そんな遠慮せずに、ジャンジャン飲み食いしてよ。これは俺からのささやかなお礼だから」

「はぁ、ごちそうになります」


 商隊を率いていたリョウマが俺たちの活躍にいたく感激し、護衛料アップのうえに酒宴まで開いてくれているのだ。


「なんだい、ヨシテルさんたちのことを考えてるのかい? 彼らだって分け前をもらえたんだ。君には感謝しているよ」


 正規の護衛だったヨシテルのパーティは、3人が死んで残り3人も負傷という惨状だった。

 リョウマは彼らも誘ったのだが、仲間が死んだ状況では楽しめないと辞退してきた。

 俺はそんな彼らのためにせめてもと、山賊の懸賞金の半分を渡してやった。


「それにしても、賞金が金貨12枚とは残念だったね。あの規模の山賊なら、その倍はしてもおかしくないんだが」

「ええ、それは衛兵にも言われました。どうやら、まだ名前が売れる前だったようですね」

「そうだろう。事前に察知していたにもかかわらず、ヨシテルさんたちが半壊したんだ。あれはかなり厄介な奴らだった。しかし、それを全滅させてしまうんだから、君たちは本当に凄いよ」

「いえ、それほどでもないですよ。まあ、しいて言えば仲間が優秀なんです」


 ヨシツネとベンケイを持ち上げてやったら、照れくさそうにしていた。

 ちなみにホシカゲとトモエは、宿の厩舎でお留守番だ。

 一応、美味い食事は与えてある。


「うむ、ヨシツネさんもベンケイさんも強いからね。本気で専属の護衛になってもらいたいほどだ」

「すみません。せっかくなんで、いろんな仕事をしたいんですよ。迷宮に潜って修行もしたいし」

「そうかい? 残念だなぁ……気が変わったらいつでも雇うから、言っておくれ」

「はい、ありがとうございます」


 昨日からしきりに専属で護衛にならないかと誘われているが、丁重にお断りしている。

 まだこの国に来たばかりだし、お金にも困ってないからしばらくのんびりしたいのだ。


「そういえば、住む所はどうするんだい?」

「当面は宿暮らしで、そのうち家を借りようと思ってます」


 それを聞いたリョウマが、ニヤリと笑う。


「そうか! それならいい家があるぞ。実は幽霊か何かが出ると言われる物件があってな、全然借り手が付かんのだ。君たちなら住めるんじゃないか?」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。いくらなんでも、そんな物騒な家は嫌ですよ」

「心配ないよ~。ただ何か妙な気配がするってだけで、実害は無いんだから……しかし原因が分からんのだよなあ。おはらいとかもしてもらったのに……」


 リョウマが困ったという顔で、酒をあおる。

 するとスザクが念話を送ってきた。


(主様、その家を調べてみましょ~。もし原因を突き止めて排除できれば、格安で借りられるかもしれませんよ~)

(何か心当たりがあるの?)

(はい~、たぶん解決できると思いますよ~)


 ふむ、それが本当なら美味しそうな話だな。


「リョウマさん。もし、その幽霊とやらの正体を突き止めて排除できれば、格安で貸してもらえますか?」

「おっ、乗ってきたね。そうだな……相場なら月に金貨2枚のところを、銀貨50枚でどうだい?」

「そんなに安くていいんですか?」

「なにせ、借り手が付かずに困ってるくらいだからね。原因を突き止めてもらえるのなら、謝礼を払ってもいいぐらいだよ」

「分かりました。それじゃあ明日、そこを見てから相談させてください。まだ解決できると決まったわけでもありませんから」


 上手くいけば、格安で家に住めるかもしれないな。

 一軒家なら、ホシカゲやトモエも一緒に住めて都合がいい。

 その後はしばらく歓談を楽しんでから、宿へ帰った。





 翌日にリョウマの所へ赴くと、準備万端で待っていた。

 すぐに彼の案内で問題の家に向かったのだが、それは想像以上に良いな家だった。

 外観は木造モルタルの2階建てって感じだが、けっこう大きい。

 ちょっとしたお屋敷といえるほどで、しかも大通りに面していて便がいい。


 中に入ってみても、やはり広かった。

 1階には大きなリビングとキッチン、部屋が1つにトイレとお風呂が備えられていた。


 そう、お風呂があるのだ。

 この世界でもお風呂は人気だが、庶民は共同浴場に行くしかない。

 個人でお風呂があるのは貴族とか、相当なお金持ちってのが相場だ。


 さらに2階には部屋が4つもあって、全員が個室で寝られる。

 これは金貨2枚でも安いぐらいだ。

 問題は、怪現象の正体を突き止められるかどうかだが……


「凄いですね、この家。怪異の正体を突き止めるために、何日か泊まってみてもいいですか?」

「もちろんだよ。この鍵を渡しておくから、自由に使ってくれたまえ。問題が解決するよう祈ってるよ」


 そう言って、リョウマは帰っていった。



 俺たちはリビングに残されていたテーブルで休憩することにした。

 ちなみに、ホシカゲとトモエも中に招き入れた。


「主様、お茶でも飲みませんか~?」

「そうだな。ここの魔導コンロは使えるかな?」


 キッチンの魔導コンロをチェックしたら、まだ魔石が残っていた。

 魔導コンロってのは魔石の魔力を燃料にして、物を加熱する魔道具だ。

 それに野営用の鍋を掛けて、お湯を沸かした。

 水はお風呂の近くに井戸があった。

 みんなでバケツリレーをすれば、お風呂の水を溜めるのにも、それほど掛からないだろう。


 お湯が沸いたところでお茶っ葉を入れ、適当な器に注いでお茶を楽しむ。

 これからどうしようか、などとお喋りをしていたら、何かキッチンの方に気配を感じた。

 おかしいと思ってキッチンの方を見ていると、ふいに視界に色が付いた。

 スザクが魔力視界を共有してくれたのだ。


 すると、さっきまで誰もいなかったキッチンの柱の陰から、顔を出して覗く女性が見えた。

 その人は真っ白なエプロンドレスを着た金髪の女性で、歳は20歳ぐらいに見える。

 派手さは無いが、優しそうな感じのきれいな人だ。


 その女性と目が合ってしばらく見つめ合っていたら、自分が見られていることに気がついた彼女が柱の陰に隠れる。

 彼女はその後もちょこちょこ顔を出しては、こちらを窺っている。

 どうやら事情が分かっているらしいスザクに、彼女のことを聞いてみた。


「なあ、スザク。あれってなんなの?」

「あれは絹服妖精シルキーですよ~、主様。おそらく、この館の怪異の正体でしょうね~」


 その声に気づいたみんながキッチンの方を見ると、彼女がまた驚いて隠れた。

 そしてまたそーっと顔を出して、こちらを窺う。


 そんな彼女に、手招きをしてみた。

 すると、シルキーはおどおどしつつも、こっちへ寄ってきた。

 少々時間が掛かったが、ようやく俺の目の前に彼女がたどり着く。


 そんな彼女に椅子を勧めると、ちょっと離れて座ってくれた。

 そこで冷めかけたお茶を勧めてみたら、恐る恐るそれを口に含み、そして彼女が嬉しそうに笑った。

 それはまるで、花が咲いたような笑顔だった。


 しかし、すぐに状況を思い出して視線を落とし、ポツリと呟いた。


「なんで、私のこと見えるの?」

「ああ、それはこのスザクのおかげだよ」


 そう言いながらスザクに説明を求めると、彼女の解説が始まった。


「私には妖精とか精霊が見えるのですよ~。さらにここにいる仲間内でなら、感覚を共有することができるんで~す」

「……そんなの、普通じゃない」

「そうですよ~。主様は偉大な使役師ですからね~」


 珍しくスザクに持ち上げられたりすると、ちょっと照れくさいな。

 しかしそれよりも、目の前のシルキーと話をつけなきゃ。


「オホン……それじゃあ、こっちから質問だ。なんでこの屋敷で怪異を起こしてるの?」


 そう質問すると、彼女はバツが悪そうに語り始めた。


 聞けば、この屋敷の最初の主人と目の前のシルキーは相性が良く、けっこう親しくしていたそうだ。

 普通ならシルキーは見えないから、人知れず掃除をする程度のところを、その主人とは家族のような付き合いをしてたとか。

 しかし、その主人が5年前に世を去り、屋敷は他人の手に渡った。


 当然、それ以後入居してくる人たちにシルキーは見えない。

 見えないのだが、この彼女は昔の家族付き合いが懐かしくて、しばしば接触を試みてしまう。

 すると、その無駄な努力が人々に怪異として受け止められ、入居してもすぐに出ていってしまうという悪循環に陥ったらしい。


「なるほどなぁ。それは不幸な状況だったね。たとえ彼女に害意が無いとしても、一般人には分かんないからな」

「そうですね~。でも、私達となら一緒に暮らせますよ~」


 スザクがそう言うと、シルキーが驚いた顔をする。


「い、いいの? 私なんかと」

「なんの問題もないよ。何しろこっちには、すでにスザクとニカがいる。むしろ、家事を手伝ってくれるんなら、大歓迎だ」

「本当? 私、なんでも、するよ」

「よし、交渉成立だ。これからよろしくな……えーと、名前はなんだっけ?」

「シルキー」


 彼女は当然のことのようにそう言う。


「あー、そうか……それじゃあ、俺から名前を贈ろう。シズカってのはどうだ?」


 またまた源義経がらみの人物から、シズカと名づけてみた。

 おとなしそうな顔をしているから、ピッタリだろう。


 彼女はシズカ、シズカと呟いてから、嬉しそうに微笑んだ。

 どうやら気に入ってもらえたようだ。


 こうして俺たちは、新たな拠点と仲間を手に入れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作始めました。

エウレンディア王国再興記 ~無能と呼ばれた俺が実は最強の召喚士?~

亡国の王子が試練に打ち勝ち、仲間と共に祖国を再興するお話。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ