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31.ミカワ国へ

2017/8/8

3章を改稿しました。

 迷宮の中で襲いかかってきた冒険者ばかを返り討ちにしたら、その一味の中にこの町の領主の甥が混ざっていた。

 このままでは確実に目を付けられるとギルドから忠告され、暗に町を出ることを勧められる。

 納得のいかない話だったが、テッシンに相談しても、答えは似たようなものだった。


「そんなことがあったのか……しかし、それはその人の言うとおりだな。間違いなく目の仇にされて、何か罪を着せられるだろう」

「やっぱりそうですか……ハァ、自分の身を守っただけなのに、ついてないな」

「まあ、こんな世の中だからな…………実は、知り合いの商隊がミカワから来る頃なんだが、お前、それに付いていったらどうだ?」

「ミカワ国にですか? うーん、そうですね。それはいいかもしれないですね」


 ミカワ国はこのオワリ国の東に位置する隣国だ。

 この国の貴族に目を付けられたからには、隣国に行くってのは現実的な話だ。


「そうか、それなら私が話をしてみよう。鋼鉄スチール級の冒険者なら、護衛として雇ってくれるだろう」

「よろしくお願いします」





 その2日後に到着した商隊にテッシンが話を通すと、なんとか雇ってもらえることになった。

 すでに護衛はいたので報酬は安かったが、集団で移動できるのは心強い。


 ちなみに他の国に行くにあたって、この辺の地理を改めてスザクに確認してみた。

 すると、俺達の住むこのヒノモトの大地は、日本をデフォルメして面積を10倍くらい大きくしたものだということが分かった。

 そこにはオワリやミカワなどの国が存在し、それぞれを国主が治めている。

 もちろんこの世界でも戦争は存在するので、多少は国境が変動しているようだが、その形は戦国時代の日本の国割りに近いそうだ。


 つまりオワリ・ミカワといえば、昔の愛知県である尾張と三河を思い浮かべればよい。

 面積は10倍だから、かなり広いけどね。

 ちなみにオウミやミノの国もあるが、シナノ国だけは無いそうだ。

 なぜかその部分には濃密な魔素が滞留し、危険な魔物が跋扈ばっこする魔境になっているんだとか。



 商隊が旅立つ3日後までに、俺たちは旅の準備を整えた。

 野営道具や食料などを買い込み、トモエに積めるようにする。

 さらに俺達を襲った犯罪奴隷と装備などを売り払い、金貨70枚ほどの臨時収入を得た。


 今までに見たこともないような大金を手に入れ、ちょっと興奮してしまう。

 何か買おうかとも思ったが、特に欲しい物も無かったので貯めておくことにした。

 一応、テッシンには今までのお礼として金貨5枚を渡してある。

 またいずれ戻ってくるつもりだしね。





 いよいよ出発当日の早朝、俺たちは商隊に合流した。

 これから4日間かけて、ミカワの首都カザキへ向かうことになる。

 とりあえず、テッシンの知り合いの隊長さんにあいさつをした。


「おはようございます、リョウマさん。カザキまでよろしくお願いします」

「やあ、タツマ君、おはよう。こちらこそ護衛を頼むよ。魔物とか山賊とか、けっこう物騒だからね」

「はい、しっかり働きます」


 やがて商隊が出発すると、俺たちは6台の馬車の最後尾について歩きだした。

 普通の馬車なんて歩く速度と変わらないから、のんびりしたもんだ。

 幸い俺たちにはトモエがいるから、身軽で歩けるのもいい。

 天気もいいから、のんびり行こう。



 結局その日は何事も無く夕暮れまで移動し、野営に入った。

 適当な所にテントを張り、食事の準備をする。

 火を起こしてご飯を炊き、簡単な汁物も作った。

 俺も前世でキャンプとかしてたし、ベンケイも料理が作れるからお手のものだ。

 やっぱり焚き火をしながら、仲間と食う飯は美味いね。


 その後は適当にお喋りをして、交代で眠りに就いた。

 護衛として誰か1人は人間が起きてなきゃいけないんで、3交代シフトにした。

 俺はスザクと一緒だったので、退屈せずにすんだよ。





 そんな旅程が2日続き、とうとう3日目。

 明日の夕刻にはミカワ国の首都カザキに着くだろうと話をしていたら、異変が起こった。

 鬱蒼とした森の中を進んでいる時に、ホシカゲから警告が発せられたのだ。


(わふ、周囲にいっぱい人間がいるです)

「なんだって? 人間ってことは、山賊か?」

「こんな森の中に潜んでるような奴は、ろくな者ではないでしょう」

「だろうね。もう囲まれてるのか? ホシカゲ」

(商隊の前後から接近してくるのです)

「挟み撃ちか。リョウマさんに伝えてくる」


 俺はすぐに駆けだして、先頭にいるリョウマに会いにいった。


「リョウマさん、商隊の前後に集団がいるようです。山賊かもしれません」

「なんだって? どうして分かるんだい?」

「俺の使役獣が教えてくれました」

「ああ、あの狼か。ならあり得るな。それにしても、すでに囲まれてるんじゃ、どうしたものか……」

「とりあえず停止して防御を固めましょう。不意を突かれるよりはいいですよ」

「そ、そうだな。おい、馬車を止めろ、止めるんだ~!」


 異変を感じて、護衛リーダーのヨシテルがやってきた。


「なんか異常がありましたか? リョウマさん」

「山賊らしき奴が前後から迫っているらしい。彼の使役獣が嗅ぎつけたそうだ」

「チッ、やっぱり出やがったか。この辺はたまに出るんですよ。すぐに防衛態勢を整えましょう。後ろはタツマ君にお願いできるか?」

「もちろんです」


 護衛隊が慌ただしく動き始めたので、俺は最後尾に戻った。

 すると、ちょうど仲間に合流したところで、弓矢による攻撃が始まった。

 ベンケイの盾の陰に隠れながら後方を窺うと、5人ほどが矢を射る横で、同数の男たちが剣や槍をかざして走りだすのが見えた。

 見るからに山賊って感じだ。


 俺はベンケイの陰から3連射トリプルを撃ちまくった。

 少々動いてる的だろうが、迷宮の魔物に比べればかわいいもんだ。

 走ってた山賊どもは俺たちの10メートル以上手前で全滅した。


 すると弓を持った山賊が、俺に狙いを絞って攻撃してくる。

 俺も撃ち返したが、茂みに隠れてるので上手く当たらない。

 そんな俺を見て、ヨシツネが山賊に向かって駆け出した。

 山賊が今度はヨシツネを狙うが、彼は矢を剣で斬り払いながら進む。

 さすがヨシツネ、カッコいー。


 彼の突進に動揺して隠れるのがおろそかになった山賊を、トリプルで仕留めた。

 さらにヨシツネが山賊の中に乱入し、残っていた奴らを殲滅する。

 これで後方の山賊は片付いた。


「ホシカゲ、もう後ろにはいないな?」

(全滅なのです)

「よし、それじゃあ前の方を加勢するぞ。ヨシツネも来てくれ」


 そう言いながら、俺たちは商隊の前に向かった。

 前方には6人の護衛がいたにもかかわらず、苦戦しているようだ。

 やはり弓で先制攻撃されたのが大きく、護衛の多くが負傷していた。

 さらに敵の弓隊も白兵戦に参入しつつあり、パーティは壊滅寸前だ。


 そこに俺がトリプルを撃ち込むと、山賊が動揺した。

 さすがに混戦なので有効打は出なかったが、多少は怯ませることができた。

 さらに、そこへうちの前衛が突っ込んでいく。


 ヨシツネ、ベンケイ、ホシカゲが山賊の中に突っ込み、次々と相手をほふってゆく。

 乱戦なので簡単ではないが、俺もトリプルで援護した。

 ヨシツネの剣が華麗に舞い、ベンケイの戦斧が豪快に唸る。

 ホシカゲは双頭剣で山賊の足を斬って回り、トモエはこちらに向かってくる山賊を頭突きと尻尾で叩き伏せていた。


 不利を悟った山賊が逃げ始めた時は、もう遅い。

 俺たちに背を向けて逃げだした山賊にホシカゲが追いすがり、双頭剣で斬りつける。

 その他の山賊も全て斬り伏せられ、戦闘が終結した。


「た、助かったのか?」


 馬車の中で震えていたリョウマが、信じられないといった顔でつぶやいた。


「はい、後ろの奴らも全滅させましたから、もう大丈夫ですよ」

「20人近い山賊を倒すなんて、君たちは何者なんだ?」

「いやいや、ヨシテルさんたちもいましたから。ちょっと様子を見てきますね」


 前を守っていた護衛パーティを確認しにいったら、ひどい有様だった。

 6人中3人が殺され、残りもけっこうなケガを負っている。


「大丈夫ですか? ヨシテルさん」

「グウッ、な、なんとかな……だけど、仲間が3人もられちまった。ちくしょうっ!」


 ヨシテルは右肩に矢をくらっていた。

 早いうちに利き手をやられて苦戦したのだろう。


 俺が生き残りの手当てをしている横で、ヨシツネが山賊の首を集めている。

 ベンケイも後方に行って、首を回収していた。

 山賊ってのは捕まったら即死刑なので、生け捕りになんかしないのがこの世界の常識だ。

 一応、賞金が懸かってるかもしれないので、首だけ取って都市の衛兵に持ち込む。

 体は森の中に放り込んでおけば、野獣の餌になるという世界だ。


 手当てと首狩りが終わると、商隊は急いで出発した。

 危険な場所から1刻でも早く立ち去りたいのだ。


 せいぜい護衛の予備ぐらいのつもりだったのに、とんでもない旅になったな。

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