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30.襲撃

 頭突竜ヘディングサウルスのトモエを仲間に加えた俺たちは、迷宮攻略用に彼女の装備を整えた。

 トモエの全身は硬い鱗に包まれているので、並みの革鎧よりは防御力が高い。

 なので動きを阻害しないよう胴体にベルトをくくりつけ、荷物を載せられるようにした。

 こうしておけば使役獣だと分かるし、移動時に重い武器や盾を運んでもらえる。



 そのうえで3層に潜って、連携の練習をした。

 トモエも野生時に魔物との戦ったことはあるらしいので、まずはどれぐらい戦えるか見てみる。

 幻影狐ファントムフォックスはほとんど無視して中盤に進み、2匹の狂暴猪マッドボアと対峙した。


 一応、俺が後ろで3連射トリプルを準備していたんだが、トモエはあっさりと敵を倒してしまった。

 意外に俊敏な動きで1匹目に突撃すると、頭突き1発で撃沈してしまう。

 さらにもう1匹のボアを尻尾しっぽではたき、よろけたところを頭突きで終了。


「……おいおい、ほとんど瞬殺じゃん。凄いな」

「クルルルルーッ(いかがでしょうか、主様)」

「あー、うん、トモエが強いのはよく分かった。次は深部に行こか」




 深部に到達すると、ホシカゲに風狼ウインドウルフを探してもらう。

 ホシカゲのケガはだいぶ治ったが、今回は索敵に徹する予定だ。


 やがて見つかった5匹のウインドウルフと戦闘に入ると、最初は苦戦した。

 身軽な敵とトモエの相性が悪いせいだが、使役リンクで支援してやると、それが好転する。

 頭突きはなかなか当たらないが、尻尾ではたくことで動きに対応できるようになってきた。

 何回か戦っているうちに、トモエも昔の勘を取り戻してきたみたいだ。



 ウインドウルフを20匹ほど片付けると苦戦もしなくなったので、守護者部屋を抜けて4層へ下りた。

 うっとうしい赤血山猫ブラッドリンクスは俺の散弾銃ショットガンで片付け、やってきました4層中盤。

 剣角鹿ソードディアを相手に、改めてトモエの実力を見せてもらった。


 いやー、トモエ強いわ。

 ソードディアの角を頭突きで砕いちゃうんだもの。

 正面からぶつかったら、あっさりと勝っちゃった。

 ホシカゲ抜きでも、余裕で殲滅できた。


 中盤で20匹ほどソードディアを倒して帰還すると、換金額は金貨2枚を超えた。

 この調子ならトモエの購入額もすぐに回収できそうだ。



「いやー、トモエ強かったな」

「そのとおりですな。さすがタツマ様、お目が高いですわい」

「これなら、4層突破も夢ではありませんね」


 そんな話をしながら迷宮前を歩いていたら、俺達の前に立ち塞がる奴らがいた。


「おい、インチキ野郎。ずいぶんと羽振りがいいみたいじゃねーか。それなら、その奴隷の賠償金払えるよな?」


 うわ、嫌な奴が出てきた。

 そいつは、3層守護者部屋の前で絡んできた冒険者ばかだった。

 赤髪で180センチぐらいあるにーちゃんで、歳は20代前半って感じだろうか。


「また、あなたですか。その件は奴隷商も確認しにきて、異常ないって言って帰りましたよ」

「うるせー。そんなこたどうでもいいんだよ。問題はそいつが俺達に損害を与えたってことだ」


 赤髪がヨシツネを指差して、えらそうに言う。


「損害? どうせあんたも金貨1枚かそこらで買ったんでしょ。呪い付きだってのを承知で。それが使えないからって売り飛ばしたなら、全てあんたの責任だ」

「じゃあ、なんでお前はそいつを使ってんだよ。役立たずのままじゃ、3層は突破できないはずだ」

「さあ、俺にも分かりませんね。ちゃんと飯を食わせて大事にしてたら、それなりに働けるようになりましたよ。愛情を注ぐと、呪いが解ける仕組みでもあったんじゃないのかなぁ」

「ふざけんなっ!」


 適当に相手していたら、とうとう赤髪が殴りかかってきやがった。

 警戒してたので避けるのは簡単だったが、その前にヨシツネが割って入り、奴の拳を後ろ手にねじりあげた。


「いだだだっ。何しやがる!」

「暴力を振るってきたのはそっちだ。タツマ様には指1本触れさせない」


 すると、後ろで見ていた赤髪野郎の仲間もケンカの構えを見せた。

 一触即発の空気が盛り上がる中、遅まきながら迷宮前の衛兵が介入してきた。


「こらこら、こんなとこで騒ぎを起こすんじゃない。それ以上やるなら、牢屋にぶち込むぞ」

「チッ……このままじゃ済ませねえからな」


 典型的な捨て台詞ぜりふを残し、赤髪野郎が引き下がった。

 しかしおそらく、このままでは済まないだろう。

 一度、どこかでぶちのめしてやろうか。





 2日ほど4層中盤までで肩慣らしをしていると、ようやくホシカゲも本調子になってきた。

 そこでいよいよ深部に挑もうかと思っていた矢先、トラブルが発生した。


(わふ、人間が近づいてくるのです)


 序盤で遭遇したブラッドリンクスを片付けたところで、ホシカゲの警告が入った。

 迷宮内で他のパーティと会ってもろくなことはないので、すぐにその場を去ろうとしたのだが、ちょっと遅かった。

 ドヤドヤと追いついてきたのは、例の赤髪野郎だった。


「ヘヘヘッ、ようやく捕まえたぜ」

「またあんたらかよ? まさか俺達を襲うつもりじゃないよな?」

「そのまさかさ。やれっ!」

「我が魔力持て、激甚なる炎の一撃を放て。火弾ファイヤーボール!」


 赤髪が指示するや否や、その仲間の魔術師が火の玉を放った。

 ひと抱えもあるような火の玉を初めて見て、思わず体がすくんじまった。

 全く動けずに火球を食らう寸前、俺の前に何かが飛びだした。


 バーンッという音を立てて火の玉が弾け、周囲に火の粉が飛び散る。

 身を挺して俺をかばってくれたのは、トモエだった。

 おかげで俺はほぼ無傷だが、もろに火の玉を浴びたトモエはその場に倒れ、苦しそうにあえいでいる。


「トモエ!」

「チッ、防がれたか。みんな、やっちまえ!」

「「おうっ!」」


 俺がトモエに駆け寄るのと同時に、敵が襲いかかってきた。

 すかさずヨシツネとベンケイ、ホシカゲが迎撃したが、人数が少ないので分が悪い。

 すると、苦しそうにトモエが話しかけてくる。


「クルッ、クルルルー(主様、戦ってください)」

「くっ、分かった。ちょっと待ってろ。3連射トリプル!」


 俺はまたもや魔法を放とうとしていた魔術師に石英弾をぶち込んで黙らせた。

 ほとんど紙装甲の魔術師は、その3連射で息絶えた。

 続いて赤髪野郎の顔面にもぶち込むと、血しぶきを上げて後ろに倒れた。


 さらにもう1人を3連射トリプルで倒すと、あとはヨシツネたちが敵を無力化した。

 1人はホシカゲに足を斬られて倒れ、残りの2人はヨシツネとベンケイに殴られて昏倒こんとうする。


 そいつらの処置はヨシツネたちに任せ、俺はトモエの治療をした。

 彼女は右半身に大きな火傷やけどを負っていたが、ポーションを使うと歩けるぐらいには回復した。

 少々傷は残るかもしれないが、大事はなさそうだ。



 襲撃者どもは、赤髪野郎と魔術師が死んで、残り4人が生き残った。

 最低限の治療を施し、死者の装備をはぎ取ってから地上へ帰還する。

 それにしても俺は2人も殺してしまったというのに、不思議とショックは少なかった。

 元のタツマの価値観からすれば返り討ちなんて当たり前のことだし、なによりトモエを傷付けられた怒りが大きかったのだろう。


 地上に戻ると、すぐに罪人を衛兵に突き出した。

 ヨシツネのことで以前から絡まれていたことと、迷宮の中で襲ってきたので返り討ちにしたことを説明し、奴らのギルドカードを提出する。

 ギルドカードには持ち主の犯罪歴が刻まれるため、奴らの殺人未遂が立証できるはずだ。

 ついでに俺達のカードも見せて、正当防衛であることも証明した。


 無事に犯罪が認定されたため、奴らは犯罪奴隷に落とされ、その売却益を俺が受け取ることになった。

 死者の装備も俺の物となったので、これも売り払うことにする。



 ひととおりの手続きが終わってから、ギルドへ赴いた。

 今回のような事件はちゃんと届け出ておかないと、面倒なことになるのだ。

 しかし、個室でコトハに事情を話すと、思わぬことを指摘された。


「それはまずいことになったわね、タツマ君」

「何か問題ありましたか? ちゃんと衛兵にも正当防衛と認められましたけど」

「それはいいんだけど、殺した相手が問題なのよ。この魔術師の人は、たしかこの町の領主の甥だったはずよ」

「領主の甥だからって、罪は免れないでしょ?」

「それはそうなんだけど、あなたは確実に目を付けられるわよ。そのうち難癖を付けて、逮捕されてもおかしくないわ」

「マジかよ……どうにかなりませんかね?」

「……この町に留まる限り、難しいと思う」

「……俺にこの町を出ろってことですか」


 どうやら俺は被害者であるにもかかわらず、町を出なければいけなくなったようだ。

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エウレンディア王国再興記 ~無能と呼ばれた俺が実は最強の召喚士?~

亡国の王子が試練に打ち勝ち、仲間と共に祖国を再興するお話。

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