3.冒険者ギルド
町に戻ると、その足で冒険者ギルドに寄った。
納品窓口に薬草を出して、その内容を書き付けた紙をもらう。
その紙を受付け窓口に提出すれば、仕事の完了だ。
「あら、タツマ君。また薬草を採ってきてくれたのね」
そう声を掛けてくれたのは、受付嬢のコトハだ。
少し茶色味の掛かった黒髪に、はしばみ色の瞳が優し気なお姉さんだ。
俺みたいな新人にも優しくて、嫁さんにしたい受付嬢ナンバー1と言われている。
「ええ、俺みたいな新人にはこれくらいしかできないから」
「そんなことないわよ。タツマ君はたくさん納入してくれるし、品質もいいって言われてるのよ。薬草採取だって大事な仕事なんだから」
「アハハッ、ありがとうございます。でも、俺だっていずれは迷宮に潜りますけどね」
「そうね。ところで、その肩の鳥はどうしたの? 凄く綺麗な色ね」
緑とオレンジの鳥を肩に乗せてりゃ、そりゃあ目立つわな。
「ああ、これ、森の中で拾ったんですよ。なんか懐いちゃって」
「コンニチハー、ワタシ、スザク」
適当に説明したら、自己紹介しやがった。
それを聞いたコトハが黄色い声を上げる。
「キャー、鳥さんが喋ったー。見た目だけじゃなくて、中身も凄いんじゃないの? ひょっとして聖獣?」
この世界では、人間と意思の疎通ができる動物や魔物を、”聖獣”と呼んで大切にする。
さすがにそんなの、めったにいないんだけどね。
「あー、そんなんじゃないですよ。簡単な言葉しか喋れなくて、挨拶とかそんなのだけ。しょせん鳥ですよ、鳥」
「そんなことないわよ。片言だけでも凄いわ。でもおかしな人に目を付けられるかもしれないから、気を付けてね」
「ええ、せいぜい気を付けます」
あんたが騒いだからすでに目立ってるよ、とは言わないでおいた。
言ってもしょうがないし、結局は俺が対処しないといけないからな。
俺は薬草の代金を受け取ると、そそくさと家へ帰った。
ちなみに今回は、通常依頼の3回分を納入して600ゴルの収入だ。
この世界で流通してる通貨は、金貨=大銀貨10枚=銀貨100枚=銅貨1000枚=鉄貨1万枚となってて、鉄貨1枚を1ゴルと呼ぶ。
ちなみに金貨100枚に相当する白金貨ってのもあるらしいが、俺は見たことがない。
それで、1ゴルの価値は物にもよるが、だいたい日本の10円ぐらいに相当しそうだ。
つまり俺は今日1日働いて、6千円ほどの収入を得たことになる。
たかが薬草採取としては悪くない数字だが、余裕のある数字でもない。
宿の個室に泊まるだけで銀貨3,4枚は掛かるから、2日ももたない。
しかし俺は幸いなことに、世話になってた商人の家に、引き続き住まわせてもらってる。
家族だからタダでいいとは言われてるが、さすがにそれじゃあ情けないので、成人してからは月に銀貨30枚払っている。
飯まで食わせてもらってこれだから、いずれもっと稼いでお礼をしたいとは思ってる。
「ただいま~」
「おう、タツマ。今日も無事だったか?」
俺を出迎えてくれたのは、ここの家主のテッシンだ。
親父の知り合いだったってだけで、俺の面倒を見てくれた大恩人だ。
「ちょうど夕食にするところだったのよ。荷物を置いていらっしゃい」
そう言ってるのは奥さんのシズク。
ほっそりとした優しそうな感じのおばさんで、いつもお世話になっている。
すぐに荷物を部屋に置いて食卓に座ると、スザクに注目が集まった。
「ほー、珍しい鳥を連れてるな。たしか、インコとかいう鳥だ」
テッシンはあちこち旅してるだけあって、さすがに物知りだ。
ていうか、この世界にもインコっているんだな。
「コンニチハー、ワタシ、スザク」
また自己紹介しやがった。
目立つからやめろっつーの。
「まあ、喋ったわ。珍しいわね、こんな鳥を手に入れるなんて」
「え、ええ、薬草を取りに森に行ったら、偶然見つけたんですよ。ちょっとエサをあげたら、懐いちゃって」
ちなみにこのオワリって国は日本によく似た所で、米が主食だ。
いろいろと異世界補正は入ってるが、和風な食事がとれるのはありがたい。
人種も基本的に黒髪黒目のモンゴロイド系なので、外観的にも違和感が無い。
食事中に戸惑うこともあったが、元のタツマの記憶のおかげで、テッシンたちとの会話も乗り切れた。
夕食後は自分の部屋にこもって、スザクと話をする。
「ふうっ、ようやく1人になれた。慣れない環境だから緊張するな」
「お疲れさまで~す、主様。明日はどうされるのですか~?」
「うーん、どうしようかな? とりあえず元のタツマの望みである迷宮に潜りたいんだけど、今の俺じゃ、無理だよな?」
「そうですね~、今の主様では秒殺だと思いますよ~、キャハハハハハッ」
秒殺ってなんだよ?
イラッときたので、軽くデコピンしてやった。
ギャー、死ぬーとか言って騒いでやがる。
「まあ、俺が弱いのは事実だ。とりあえずギルドで剣術でも習おうかな……」
「それならば、魔法を習得されてはどうですか~? 主様」
えっ、やっぱ魔法ってあるの?