27.ホシカゲの武具
4層中盤でホシカゲがケガをしたので、彼用に防具を作ることにした。
ついでに口にくわえる武器も作り、攻撃力も強化するつもりだ。
まず武具屋に寄って、使えそうな部品や革素材、そして手頃な短剣を2本買った。
さらになじみの鍛冶屋に寄り、翌日に作業場を使わせてもらえるよう話をつける。
そして家に帰ると、俺の部屋で革細工を始めた。
作業はベンケイ任せだが、鎧の形状をみんなで相談しながら作った。
基本的にホシカゲの肩から背中、腰までを覆う革鎧とし、腹側をベルトで固定する形だ。
なるべく動作を邪魔しないよう、ホシカゲの意見を聞きながら形を整えていく。
ベンケイの鍛冶魔法は革細工にも応用できるらしく、手品のように革の形状が変わっていく。
普通だったら何日も掛かるような細工が、半日足らずで終わってしまった。
翌日は鍛冶屋に行って、金物の細工だ。
まず鉄の板を加工して兜を作る。
ホシカゲの頭をすっぽりと覆う兜にして、目や耳の部分には穴を開けておく。
例のごとくベンケイの鍛冶魔法で細かい造形をするので、サイズはピッタリだ。
これを革のベルトで頭部に固定すれば、戦闘にも耐えるだろう。
続いて武器だが、買ってきた短剣の柄を突き合わせ、ホシカゲの口にくわえられるような形状に加工した。
くわえやすい形状に加工して布を巻いてやれば、彼も使いやすいだろう。
短剣の刃は後ろに湾曲していて、前から後ろへ斬り付ける武器になる。
今までは噛みつきが彼の最大の武器だったので、その時点で動きが止まりやすかった。
しかしこれならすれ違いざまに斬りつけられるので、より素早さが活きるだろう。
名付けて”双頭剣”だ。
いろいろ調整しながらやっていたので、結局1日近く掛かってしまった。
しかし、鎧と兜を着けたホシカゲは、だいぶ勇ましくなった。
双頭剣の収納具も作成して腰に固定してある。
これで双頭剣を、彼が自由に取り出せるようになった。
(わふ、ちょっと邪魔くさいけど、なんか強くなった気がするです)
「ああ、カッコいいぞ、ホシカゲ。これでケガもしにくくなるし、攻撃力も上がるだろう」
「そうですね。しかし、これだけの細工を1日半で済ませるなんて、ベンケイの腕は大したものです」
「いやいや、これも鍛冶魔法を使えるようにしてくれたタツマ様のおかげです。少しでもお役に立てれば幸いですわい」
そんな話をしながら家に帰ったら、予想外の客が待っていた。
「奴隷商人の方、ですか?」
「はい、初めまして。私、アリマ商会のタカトラと申します」
来客は痩身で髪をオールバックにしたおっさんで、人当たりの良さそうな人だった。
しかし、その目には油断のない光があり、歴戦の商人を感じさせる。
「はあ、はじめまして。俺がタツマですが、どのようなご用件ですか?」
「実は、そちらのヨシツネさんについて、苦情が入っておりまして」
「なんですか、それ? ヨシツネはいつも俺と行動してるから、変なことはしてないはずですが」
「いえ、そういうわけではないのです……以前、ヨシツネさんを購入してから手放したお客様が、その~。詐欺だと騒いでおりまして」
それを聞いて、3層で守護者に挑む前に絡んできた冒険者が思い浮かんだ。
「ああ、あの人ですか。俺も迷宮の中で絡まれました。自分がヨシツネを買った時は手を抜いていたんだから、賠償金を払えとか言ってきて」
「そう、その方ですよ。当店にも怒鳴り込んできまして、詐欺だから賠償しろと仰るんです」
タカトラが手ぬぐいで汗を拭きながら事情を話す。
「あまりしつこいものですから、一度調べることになりまして、こうやってお邪魔した次第です」
「はあ、何を調べるんですか?」
「失礼ですが、ヨシツネさんの奴隷紋を確認させてもらえないでしょうか?」
「構いませんよ。ヨシツネ、見せてやって」
「はい」
ヨシツネはチュニックのような服を脱ぎ、背中の奴隷紋をタカトラに見せた。
タカトラは奴隷紋を細かく見たり、さわったりして調べている。
一応、呪いを解いただけで、外見は変わらないはずなんだが、少しドキドキしながらそれを見守る。
やがて、タカトラが納得がいったかのように顔を上げた。
「どうもありがとうございました。特に異常はありませんね」
「それは良かった」
「しかし、ヨシツネさんには衰弱の呪いが掛かっていたはずなのですが、今は平気そうですね。しかも、タツマさんは3層を突破するほどお強いパーティだとか」
「さあ。俺は彼が苦しそうだったので、しっかり飯を食わせて休ませただけですよ。迷宮で鍛えてるから、強くなるのも早いんじゃないですか」
「ふーむ、衰弱の呪いはそんな甘いものではないんですけどねえ」
「それじゃあ、何か呪いが有効な期間とか条件があったんじゃないですか? そもそも奴隷に呪いを掛けるのがおかしいと思うんですけど」
「それは何か事情がおありだったのでしょう。いずれにしろ、奴隷紋がそのままで呪いが解けたというなら、そういう条件だったのかもしれません。どうもお手数をお掛けしました」
「いえいえ、ご苦労さまです」
こうして奴隷商との会談は終わったのだが、去り際に意味ありげな視線を向けてきた。
何か面白いものを見つけたというような顔だった。
これ以上ボロを出さないよう、気をつけた方がいいな。
翌日はさっそくホシカゲの武具を試すため、4層へ潜った。
中盤まで一気に進んでから、剣角鹿を探す。
やがて5匹の群れに遭遇したので、3連射の先制で1匹潰した。
怒りの声を上げて突進してくる鹿の群れに、黒い影が突っ込む。
その影が敵に重なった途端、前足を切り裂かれたソードディアが転倒した。
さっそくホシカゲが双頭剣の威力を示したのだ。
すかさず転んだ鹿にトリプルを叩き込むと、そいつは動かなくなった。
さらにこっちに突進してきた3匹をヨシツネとベンケイが足止めしていると、またもやホシカゲが背後から迫って後ろ足を切り裂いた。
動きの鈍った敵に、またもやトリプルでとどめを刺す。
残りの2匹も同様にホシカゲが斬りつけた後、ヨシツネとベンケイが仕留めていた。
今までよりもずっと効率的に倒せるようになっている。
最後の1匹が倒されると、ホシカゲが誇らしそうに歩いてきた。
(わふー、今までよりも凄く戦いやすいです)
「ああ、俺達もずいぶんと楽だったぞ。よくやったな、ホシカゲ」
「まことに良い仕事でしたな」
「これもベンケイの作った武具の出来が良いからでしょう」
「本当にそうだ。ベンケイもいい仕事したよ」
「いやいや、この武具を考えたのはタツマ様ですからな、ハハハッ」
ベンケイが照れくさそうに頭をかくと、ニカも加わってきた。
「すごいよ、ベンケイ。ホシカゲが、すごく、つよくなった」
(そうなのです、凄い武器をありがとうです)
「ホシカゲが強化されたので、この先の攻略が楽になりそうですね~」
「そうだな。だけどホシカゲ、防具があるからって、あまり無茶はするなよ」
(分かったのです~)
ホシカゲが調子に乗らないよう釘を刺しつつ、その後も中盤の探索を続けた。
未踏地域もあったので、探索できたのは中盤の半分強といったところだ。
あいにくとお宝は出なかったが、30匹を超えるソードディアを仕留め、収入は金貨2枚に迫るほどだった。
その翌日も4層中盤を探索し、ソードディアを順調に狩り続けた。
またもや金貨2枚以上を稼ぎ出し、いよいよ深部に踏み入る準備が整った。
しかし、この先の強敵に対抗するには、少し準備が必要だ。